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【第三次案】第1部 破産手続: 第3 保全処分

1 強制執行手続等の中止命令
ア 発令の要件
裁判所は、破産手続開始の申立てがあった場合において、必要があると認めるときは、利害関係人の申立てにより又は職権で、破産手続開始の申立てにつき決定があるまでの間、次に掲げる手続の中止を命ずることができるものとする。ただし、(i)に掲げる手続については、その手続の申立人である債権者に不当な損害を及ぼすおそれがない場合に限るものとする。
(i) 債務者について破産手続開始の決定がされたとすれば破産債権又は財団債権となるもの(以下「破産債権等」という。)に基づく強制執行、仮差押え若しくは仮処分又は破産債権等を被担保債権とする一般の先取特権[若しくは留置権(商法の規定によるものを除く。)]による競売(以下「強制執行等」という。)の手続で、債務者の財産に対して既にされているもの
(ii) 債務者の財産に対して既にされている破産債権等に基づく企業担保権の実行手続
(iii)債務者の財産関係の訴訟手続
(iv)債務者の財産関係の事件で行政庁に係属しているものの手続
(v)債務者の責任制限手続(船舶の所有者等の責任の制限に関する法律又は油濁損害賠償保障法に規定する責任制限手続をいう。)(破産法第155条ノ2参照)

イ 強制執行等の手続の取消し
裁判所は、5(1)<1>による保全管理命令が発せられた場合において、債務者の財産の管理又は処分をするために特に必要があると認めるときは、保全管理人の申立てにより、担保を立てさせて、ア(i)により中止した(i)に規定する手続の取消しを命ずることができるものとする。
(民事再生法第26条、会社更生法第24条参照)。

(注)
1 アによる中止の命令の変更、取消し、アによる中止の命令等に対する即時抗告、送達等について、所要の規定を整備するものとする。
2 部会資料28(第3・1参照)では、破産手続において強制執行等の取消しの制度を設けるか否かについては、検討を要するものとされていた、この点について、第21回会議では、例えば、短期間のうちに減価が見込まれる財産や破産手続開始の決定により価値が無くなるものについては、保全手続の段階で早期に処分することが必要となる場合もあることからすると、取消しの制度は設けるべきであるとの意見が述べられた。そこで、このような意見を踏まえて、今回の資料では、破産手続においても、再生手続や更生手続と同様に(民事再生法第26条第3項、会社更生法第24条第5項参照)、強制執行等の取消しの制度を設けるものとしている。もっとも、このような制度を設ける場合には、換価代金が破産財団に確実に組み込まれることが制度上保障されることが必要であることから、本文では、保全管理人が選任されている場合において、当該保全管理人が債務者の財産の管理又は処分をするために特に必要があると認めるときに限定して、中止した強制執行等の手続の取消しを命ずることができるものとしている。
3 部会資料34(第3部第2・3(4)参照)では、(i)破産手続においては、財団債権の全額を支払えない事態は希有なこととはいえないこと、(ii)財団債権には、全破産債権者の共益的な費用としての性質を有するものだけでなく、政策的に財団債権とされているものも含まれており、破産手続を円滑に進行させるためには、財団債権に基づく強制執行等を否定する必要性が高いこと等を理由として、破産手続開始の決定後における財団債権に基づく強制執行等を認めないものとする考え方が示され、第25回会議の審議では、これが支持された。上記のような理由は、財団債権者間の平等を図るとともに、破産手続を円滑に進行させるという観点からすると、保全段階についても同様に当てはまると考えられる。そこで、本文では、破産手続開始の決定前においても、財団債権となるべき債権(中間試案第3部第2・1(1)、同第2・2(1)参照)に基づく強制執行等を中止命令の対象に含めるものとする考え方を示している。

2 包括的禁止命令
(1)発令の要件
裁判所は、破産手続開始の申立てがあった場合において、1アの規定による中止の命令によっては債権者の間の平等を害するおそれその他破産手続の目的を十分に達成することができないおそれがあると認めるべき特別の事情があるときは、利害関係人の申立てにより又は職権で、破産手続開始の申立てにつき決定があるまでの間、すべての債権者に対し、強制執行等及び国税滞納処分(国税滞納処分の例による処分を含む。以下同じ。)の禁止を命ずることができるものとする。ただし、事前に又は同時に、破産財団に属すべき財産で主要なものに関し破産手続開始の決定前の保全処分(破産法第156条参照)をした場合又は5(1)<1>による保全管理命令をした場合に限るものとする。

(2)一定の範囲に属する債権等の除外
(1)の規定による禁止の命令(以下「包括的禁止命令」という。)を発する場合において、裁判所は、相当と認めるときは、一定の範囲に属する強制執行等又は国税滞納処分を包括的禁止命令の対象から除外することができるものとする。

(3)係属中の強制執行等に対する効力
包括的禁止命令が発せられた場合には、債務者の財産に対して既にされている強制執行等の手続は、中止するものとする。

(4)強制執行等の手続の取消し
裁判所は、5(1)<1>による保全管理命令が発せられた場合において、債務者の財産の管理又は処分をするために特に必要があると認めるときは、保全管理人の申立てにより、担保を立てきせて、(3)により中止した強制執行等の手続の取消しを命ずることができるものとする。

(5)租税債権の取扱い
国税徴収法又は国税徴収の例により徴収することのできる請求権につき、財団債権の基準となる「一定期間」の計算(部会資料34第2・1(1)参照)については、(1)により国税滞納処分をすることができない期間は、「一定期間」から除外するものとする。

(注)
1 包括的禁止命令の変更・取消し、包括的禁止命令等に対する即時抗告、公告及び送達、解除等について、所要の規定を整備するものとする。
2(4)については、強制執行手続等の中止命令(前記1(1)(注)1参照)における強制執行等の取消しの制度と取扱いを区別する理由は認められないことから、同様の制度を設けるものとしている。

3 弁済禁止の保全処分に違反してされた弁済等の効力
裁判所が債務者が債権者に対して弁済その他の債務を消滅させる行為をすることを禁止する旨の保全処分を命じた場合には、債権者は、破産手続の関係においては、当該保全処分に反してされた弁済その他の債務を消滅させる行為の効力を主張することができないものとする。ただし、債権者が、その行為の当時、当該保全処分がされたことを知っていたときに限るものとする。
(民事再生法第30条第6項、会社更生法第28条第6項参照)

4 否認権のための保全処分
A案】
(1)保全処分の発令
<1> 裁判所は、破産手続開始の申立てがあった場合において、破産手続開始の決定があるまでの間に否認権を保全するため必要があると認めるときは、利害関係人(保全管理人が選任されている場合にあっては、保全管理人に限る。)の申立てにより又は職権で、第三者が所有し、又は占有する財産に関し、処分禁止の仮処分その他の必要な保全処分を命ずることができるものとする。
<2> <1>による保全処分は、担保を立てさせて、又は立てさせないで命ずることができるものとする。
<3> 裁判所は、[申立てにより又は職権で、]<1>による保全処分を変更し、又は取り消すことができるものとする。
<4> <1>による保全処分及び<3>の規定による決定[並びに<3>の申立てを却下する決定]に対しては、即時抗告をすることができるものとする。
<5> <4>の即時抗告は、執行停止の効力を有しないものとする。
<6> <4>に規定する裁判及び<4>の即時抗告についての裁判があった場合には、その裁判書を当事者に送達しなければならないものとする。この場合においては、送達代用公告の規定は、適用しないものとする。

(注)
1 【A案】は、従前の案を踏襲するもので、否認権を被保全権利とする保全処分を破産法上の特殊保全処分として位置付けるものである。このような位置付けから、職権による発令、職権による保全命令の変更又は取消しを認めるものとし、否認権の実効性を確保する一方で、保全処分の相手方の保護を柔軟に図るものとしている。
2 部会資料28では、利害関係人の申立てにより又は職権で保全処分をすることができるものとしていた。この点については、すでに債務者に対し保全管理命令が発せられているときは、保全管理人が債務者の財産の管理処分権を有することから、申立権は保全管理人のみが有し、債権者等の他の利害関係人はこれを有しないことになるとすべきであると考えられる。
3 <3>については、保全処分の相手方の保護を図るという観点から、保全処分の相手方にも申立権を認めるべきであるとの考え方もあるが、どのように考えるか。

(2)破産管財人による手続の続行と担保の取扱い
<1>(1)<1>による保全処分が命じられた場合において、破産手続開始の決定があったときは、当該決定後1月以内に限り、破産管財人は、当該保全処分に係る手続を続行することができるものとする。
<2> 破産管財人が<1>による当該保全処分に係る手続の続行をしないときは、当該保全処分は、効力を失うものとする。
<3> 破産管財人は、(1)<1>の保全処分が担保を立てさせて命ぜられている場合(担保が破産財団に属する財産をもって立てられている場合を除く。)において、<1>により当該保全処分に係る手続を続行しようとするときは、民事訴訟法第80条本文の規定にかかわらず、担保を破産財団の負担に帰せしめるため、裁判所に対し、担保の変換を申し立てなければならないものとする。この場合においては、裁判所は、同条本文の規定にかかわらず、その担保の変換を命ずることができるものとする。

(注)
【A案】では、特殊保全処分の相手方の保護をどのように図るかを検討する必要がある。本文では、保全処分の相手方の保護の方策を充実させるという観点から、破産管財人に当該保全処分を続行するか否かを判断させるものとする考え方を示している。具体的には、(1)<1>による保全処分が命じられた場合において、破産手続開始の決定があったときは、当該決定後1月以内に限り、破産管財人は、当該保全処分に係る手続を続行することができるものとし、破産管財人が<1>による当該保全処分に係る手続の続行をしないときは、当該保全処分は、失効するものとして、【B案】とは異なる規律を設けている。また.破産管財人は、破産手続開始の決定後にあっては、否認権を被保全権利として民事保全の申立てをすることができることからすると、さらに、(2)<1>により続行された保全処分について、破産手続開始の決定後発令された民事保全処分についての取扱いとの均衡を図る観点から、破産手続開始の決定後においては、民事保全法の規定を準用する(これにより破産管財人が保全処分を続行したときは、保全取消しによって相手方の保護を図ることが可能となる。)ことが考えられるが、どのように考えるか。

【B案】
(1)保全処分の発令
裁判所は、破産手続開始の申立てがあった場合において、破産手続開始の決定があるまでの間に否認権を保全するため必要があると認めるときは、利害関係人(保全管理人が選任されている場合にあっては、保全管理人に限る。)の申立てにより、民事保全法に定める仮差押命令又は仮処分命令を発することができるものとする。

(注) [B案]の考え方は、否認権のための保全処分の基本的な性質を通常の民事保全処分とする立場をとるものである。すなわち、民事保全の特例として、被保全権利が破産手続開始の決定後に生ずる否認権である場合であっても、利害関係人の申立てにより、破産手続開始の申立てのされた裁判所が民事保全処分をすることができるとするものである。したがって、保全処分の相手方の保護は、民事保全法上の制度によることになる。もっとも、破産手続開始の決定前には、本案の訴えを提起する権限を有する者がいないことから、民事保全法第37条に相当する本案の訴えの不提起等による保全取消しの制度については適用されないことになる。

(2)破産管財人が本案の訴えを提起したときの担保の取扱い
破産管財人は、(1)の仮差押命令又は仮処分命令について担保が提供されている場合(担保が破産財団に属する財産をもって立てられている場合を除く。)において、本案の訴えを提起するときは、民事訴訟法第80条本文の規定にかかわらず、担保を破産財団の負担に帰せしめるため、裁判所に対し、担保の変換を申し立てなければならないものとする。この場合においてには、裁判所は、同条本文の規定にかかわらず、その担保の変換を命することができるものとする。

(注)担保の引継ぎの方法については、前記[A案](2)のように、一旦破産管財人に保全処分に係る手続の続行をさせてその際に担保の変換を行うのではなく、端的に、保全処分の効力を前提として、破産管財人が本案の訴えを提起する際に担保の変換を行うこととしている。

(否認権のための保全処分関係後注)
1 更生手続においても、同様の手当てを行うものとする。
2 再生手続においては、再生手続開始の決定によって否認権の行使権者が選任されないことから、再生手続における否認権の保全の必要性があると判断され、保全処分が発令されたにもかかわらず、再生手続開始の決定があった場合でも本案の訴えを提起し得る者が選任されないときは、保全処分がそのまま続くことになるが、このような結果は、保全処分の相手方の保護の観点から適切ではないと考えられる。そこで、 A案をとるかB案をとるかの問題とは別に、再生手続開始の決定後一定期間(例えば、2週間)内に否認権を行使する権限を有する者が選任されないときは、保全命令は効力を失うものとすることで、どうか。

5 保全管理命令
(1) 発令の要件
<1> 裁判所は、破産手続開始の申立てがあった場合において、債務者(法人である場合に限る。以下<1>において同じ。)の財産の管理又は処分が失当であるときその他債務者の財産の確保のために特に必要があると認めるときは、利害関係人の申立てにより又は職権で、破産手続開始の申立てにつき決定があるまでの間、債務者の財産に関し、保全管理人による管理を命ずる処分(以下「保全管理命令」という。)をすることができるものとする。
<2> 裁判所は、保全管理命令をする場合には、当該命令において、-人又は数人の保全管理人を選任しなければならないものとする。
(民事再生法第79条、会社更生法第30条参照)

(注)
1 保全管理命令の変更・取消し、保全管理命令等に対する即時抗告、公告及び送達、保全管理人代理等について、所要の規定を整備するものとする。
2 部会資料28では、債務者が個人である場合には、管理の対象となる財産と自由財産に相当する財産とを合理的に区別することが困難であるとの理由から、債務者が法人である場合に限って、保全管理命令を認めるものとする考え方を示していた。この点につき、第21回会議の審議では、同様の理由から、これに賛成する意見が述べられたほか、債務者が個人である場合に保全管理命令を発する必要性が認められるときは、一般の保全処分の解釈で運用上は対処しうると考えられるとの理由から賛成する意見が述べられた。そこで、本文では、このような意見を踏まえて、部会資料28で示した考え方を維持するものとしている。これに対し、保全管理人に自由財産に関する判断を委ねるものとし、自由財産に相当するものについては、扶助料として債務者に与えるべきではないかとの意見も述べられた。このような制度を設ける場合には、具体的には、保全管理人が扶助料に相当するものを算定し、裁判所の許可を得てこれを債務者に支給する(なお、扶助料の制度自体は廃止が予定されている。)ものとする方法のほか、差押禁止財産は保全管理人の管理の対象とせず、併せて差押禁止財産の拡張の裁判に相当する制度を設け、これにより対応すること等が考えられる。このような制度を設けてまで、個人の債務者について保全管理命令を発する必要性がある場合としては、どのような場合が考えられるか。

(2)保全管理人の権限
<1> 保全管理命令が発せられたときは 債務者の財産(日本国内にあるかどうかを問わない。)の管理及び処分をする権利は、保全管理人に専属するものとする。ただし、保全管理人が債務者の常務に属しない行為をするには、裁判所の許可を得なければならないものとする。
<2> <1>ただし書の許可を得ないでした行為は、無効とするものとする。ただし、これをもって善意の第三者に対抗することができないものとする。
<3> 裁判所の許可を要する事項及び許可を得ないでした行為の効力等の規定は、保全管理人について準用するものとする。
(民事再生法第81条、会社更生法第32条参照)

(3)任務終了の場合の報告義務等
<1> 保全管理人の任務が終了した場合には、当該保全管理人は、遅滞なく、裁判所に計算の報告をしなければならないものとする。
<2> <1>の規定にかかわらず、<1>に規定する[任務が終了した]保全管理人がいない場合には、<1>の計算の報告は、後任の保全管理人又は破産管財人がしなければならないものとする。
<3> 保全管理人の任務が終了した場合において、急迫の事情があるときは、保全管理人又はその承継人は、後任の保全管理人、破産管財人又は債務者が財産を管理することができるに至るまで必要な処分をしなければならないものとする。
(民事再生法第83条第1項において準用する同法第77条、会社更生法第34条第1頃において準用する第82条参照)

(4)保全管理人の権限に基づく行為によって生じた請求権
保全管理人が債務者の財産に関し権限に基づいてした処分その他の行為によって生じた請求権は、財団債権とするものとする。
(民事再生法第120条第1項。会社更生法第128条第1項参照)

(注)
この考え方は、保全管理人の権限に基づく行為によって生じた請求権は、その行為について裁判所の許可がなくても財団債権とするものである(部会資料36第1(倒産処理手続相互の関係前注1)参照)。この点につき、更生手続では、( i)保全管理人は、その職務を行うにつき善管注意義務を負っていること、(ii)債務者の常務に属しない行為や重要な財産的行為をするには、裁判所の許可を得なければならないことがらすると、保全管理人が更生会社の事業の継続に不必要な行為をすることは容易に想定し難いと考えられることから、保全段階における事業の継続を円滑にするため、保全管理人の行為によって生じた請求権は、裁判所の許可がなくても共益債権とするものとしている。(i)(ii)については、破産手続でも同様であり、破産手続においても、更生手続と同様に、保全管理人が債務者の財産の管理又は処分に不必要な行為をすることは容易に想定し難いと考えられる。そこで、本文では、保全段階における債務者の財産の管理又は処分を円滑にするため、破産手続においても、保全管理人の権限に基づく行為によって生じた請求権は、裁判所の許可がなくても財団債権とする考え方を示している。なお、上記の請求権は、現行の破産法第47条第8号及び第4号に規定する財団債権に相当すると認められるところ、このうち、同条第3号に相当する財団債権については、他の財団債権に優先するものとする(部会資料34第2・3(3)参照)ことで、どうか。

6 保全処分の申立ての濫用の防止
破産手続開始の申立てをした者は、破産手続開始の決定前に限り、当該申立てを取り下げることができるものとする。この場合において、強制執行手続等の中止命令、包括的禁止命令、破産手続開始の決定前の保全処分(破産法第155条参照)又は保全管理命令がされた後は、裁判所の許可を得なければならないものとする。
(民事再生法第32条、会社更生法第23条参照)

目次

○トップページ

■第一次案

第1部 破産手続

第2部 個人の破産手続の特則及び免責手続等

第3部 倒産実体法

第4部 その他

■第二次案

第1部 破産手続

第2部 個人の破産手続の特則及び免責手続等

第3部 倒産実体法

第4部 その他

■第三次案

第1部 破産手続

第2部 個人の破産手続の特則及び免責手続等

第3部 倒産実体法

第4部 その他

■残された課題

第1部 破産手続

第2部 個人の破産手続の特則及び免責手続等

第3部 倒産実体法