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【第一次案】第3部 倒産実体法

第1 法律行為に関する倒産手続の効力

1 賃貸借契約等
(1) 賃借人の破産
賃貸人の解約の申入れ等を定めた民法第621条の規定は、削除するものとする。
(注)
民法第621条の規定の削除についてはに意見照会の結果、反対意見もあったものの、これに賛成する意見が多数を占めた。また、反対する意見には約定の解約申入権に基づく解約の効力が否定されかねないことへの懸念を基礎とするものが見受けられるが、倒産解除特約の効力自体については、なお解釈に委ねられ、これによりその効力を否定することになるものではないと考えられる。そこで、中間試案のとおり、民法第621条の規定は削除するものとしている。

(2)地上権者又は永小作権者の破産
民法第276条(同法第266条において準用する場合を含む。)の規定中、永小作権者(地上権者)が破産宣告を受けた場合の消滅請求に関する部分(「又ハ破産ノ宣告ヲ受ケ」)を削除するものとする。

(注)
意見照会の結果、地上権者又は永小作権者が破産した場合における土地所有者からの消滅請求を認めない。ものとすることについては、寄せられた意見のすべてが賛成意見であった。そこで、字間試案では(注)であったものを本文として掲げている。

(3)賃貸人の破産
ア 破産管財人の解除権
<1> 破産法第59条の規定は、賃借権その他の使用及び収益を目的とする権利を設定する契約については、相手方が当該権利について登記、登録その他の第三者に対抗することができる要件を備えているときは、適用しないものとする。

<2> <1>の場合において相手方が有する請求権は、財団債権とするものとする(破産法第47条第7号参照)。
(注)
1 再生手続及び更生手続においても、同様の手当てを行うものとする。

2 <1>及び<2>の考え方は、特許権についての通常実施権(特許法第99条参照)、商標権についての通常使用権(商標法第31条第4項参照)等第三者に対抗することができる権利を目的とするライセンス契約におけるライセンサーの破産についても適用されることになる。

3 意見照会の結果では、中間試案に賛成する意見がほとんどであったが、対抗要件を備えていない場合についても保護を図るべきであり、とりわけライセンス契約の場合には対抗要件の具備にかかわらず破産管財人の解除権を制約すべきである等の意見があった。しかし、知的財産等についても換価を前提とする破産手続において、双務契約の相手方の権利が譲受人に対抗できないものである場合にまで、一般原則である破産管財人の解除権を制限し、例外的に相手方の保護を図ることを基礎付ける事情を見出すのは困難であると考えられる。また、対抗力を備えない権利についても保護を図るとすると、実体法上の裏付けがないまま、破産手続において保護に値する権利を画することにごなるが、そのような画定の基準を見出すのは困難であって、これらの権利のこの場面での保護は、やはり、対抗要件制度・対抗力付与制度の整備・充実等にまたざるをえないと考えられるが、どうか。

4 意見照会の結果では、<2>に関し、敷金返還請求権の取扱いについて明らかにすべきであるとの意見があったが、具体的な処遇については、財団債権とならないことを明示すべきであるという意見と財団債権とすべきであるとの意見とがあり、正面から見解が対立している。この点については、(a) 「賃貸借契約における敷金契約は、授受された敷金をもって、賃料債権、賃貸借終了後の目的物の明渡しまでに生ずる賃料相当の損害金債権、その他賃貸借契約により賃貸人が賃借人に対して取得することとなるべき一切の債権を担保することを目的とする賃貸借契約に附随する契約」であるとされており(最判昭和48年2月2日民集27巻1号80頁、最判平成14年3月28日民集56巻3号689頁参照)、賃貸借契約に従たる契約ではあるが賃貸借契約とは別個の契約であるというのが、判例・通説の見解であること、(b)現行法において、一般に、破産管財人が賃貸借契約の履行を選択した場合に第47条第7号により財団債権となる相手方力有スル請求権」に敷金返還請求権は含まれないと解されていること、(c)<2>は、<1>の場合の法律関係を破産管財人が第59条による履行請求を選択したのと同様の扱いとする趣旨であり、第47条第7号に即したものであること、(d)この点について、「敷金返還請求権を除く。」等の明文を設けると、創設的な規定と取られかねないおそれがあり、他の場面への波及効果も懸念されることからすると、この点については、現行法と同様、解釈に委ねることが適切ではないかと考えられるが、どうか。

5 意見照会の結果では、抵当権の登記後に設定された期限の定めのない賃貸借のように、抵当権者等に対抗できない賃借権の場合にまで、破産管財人による解除が制限きれると、任意売却による不動産の換価に支障が生ずるとして、このような場合には一般原則に戻すべきだとの意見が、複数示されている。しかし、(a)一般に、抵当権者等に対抗できない賃借権が消滅するのは、抵当権の実行等強制的な換価手続を経る場合に限られ、任意売却の場面を想定して破産管財人の契約解除による賃借権の消滅を導くのは困難であること、(b)抵当不動産等の任意売却には担保権付きでの売却もあり得るところ、そのような場合にも、破産管財人からの解除によって事前に賃借権を消滅させることには十分な理由付けが困難であること、(c)任意売却に伴う担保権の消滅制度において用益権についても消滅を図るとなれば、物件の現況調査等を要し、結局競売の手続を履践するのと変わりがなくなることからすると、このような考え方を採用するのは困難であると考えられるが、どうか。

イ 賃料債権の処分等の取扱い
<1> 資料債権の譲渡等の破産手続における効力の制約を定めた破産法第63条の規定には削除するものとする。再生手続及び更生手続においても、同様の手当てを行うものとする。

<2> 賃料債権を受働債権とする相殺の制限を定めた破産法第103条等の規定の取扱いについては、次のいずれかの考え方によるものとする。
【A案】 破産法第103条の規定は、削除するものとするとの考え方<2> 賃料債権を受働債権とする相殺の制限を定めた破産法第103条の規定は、削除するものとする。再生手続及び更生手続においても、同様の手当てを行うものとする。
【B1案】 破産手続においては、賃料債権の場合に特別の制約を設けないが、再建型手続においては、現行法を維持するものとするとの考え方<2> 賃料債権を受働債権とする相殺の制限を定めた破産法第103条の規定は、削除するものとする。再建型手続における敷金返還請求権をめぐる取扱いについては、なお検討するものとする。
【B2案】 相殺については、現行法を維持するものとするとの考え方<2> 破産法第103条第1項後段の規定を削除し、賃借人が敷金返還請求権を有する場合における賃料債務の弁済額の寄託請求制度を設けるものとする。「賃借人が敷金返還請求権を有する場合において、賃料債務を弁済するときは、賃借人は、敷金返還請求権の〔評価〕額の限度において、弁済額を自正のために寄託することを請求することができるものとする。」再建型手続における破産法第103条第1項後段に相当する規律については、敷金返還請求権をめぐる取扱いとの関係で、なお検討するものとする。

(注)
1 意見照会の結果では、賛否拮抗しているものの、破産法第63条の規定の削除についてはこれに賛成する意見が多数を占め、これに対し、同法第103条の規定の削除については賛否文字どおり拮抗する状況にあり、なかでも、再建型手続において賃料収入が大きな比重を占める事業の場合に再建を著しく困難にしかねないことへの懸念が強く示されている。すなわち、破産法第63条の規定の削除については、(a)民法及び民事執行法における現行の取扱いとの整合性、(b)流動化ないし証券化にとっての障害の除去による資金調達の容易化、(c)詐害的な処分等に対しては否認権によって対処すべきこと、(d)所有と収益の分離に伴う問題は公示によって解決すべきごと等を理由に、これに賛成する考え方が多数ではあったが、他方、(a)破産管財事務に際し、財団は負担だけを負うことになり、目的財産の換価が困難になり、目的財産の所有権等を放棄せざるを得ず、破産管財事務への支障が生ずること、(b)賃借人にとっても保守サービスを受けられない、等の問題を生ずること、(c)ひいては社会的な損失が生ずるとと、(d)倒産時の非常時と民法及び民事執行法の適用場面である平常時とでは利益状況が異なること等を理由として、、これに反対する考え方も相当数示された。-方、破産法第103条の規定の削除については、相殺の場合につき賃料を受働債権とする場合にのみ特別にて相殺を制約する合理的な理由はないこと等を理由に、第63条の規定とあわせて削除することに賛成する意見が相当数を占めたが、第63条の規定の削除には賛成しながらも第103条の規定の削除には反対する意見があり、また、中間試案の本文(第63条及び第1 0 3条の規定の削除)に賛成するとしながらも、賃貸業を主たる事業とする企業の再建の途を事実上閉ざすことになるとの懸念から、相殺についてその制約をはずすことへの反対を表明する意見もあった。資産の流動化ないし証券化の観点からも、賃料債権を受働債権とする相殺が無制限に認められることとなると、不動産の流動化における賃料収入が不明確となり悪影響が大きいと指摘する意見があり、また、より一般に、賃料債権の譲渡や賃料前払の場合はすでに破産財団を構成していない資産の取扱いの問題であるのに対し、相殺の場合は、破産財団を構成している資産の問題であり、異なる取扱いを定めることは不合理ではないとの指摘があった。また、賃借人は、将来の使用収益に対応する賃料債務全部と現在の破産債権との相殺についてまで、保護に値する合理的相殺期待を有しているものとはいえないとの指摘もあった。以上の意見照会の結果を踏まえると、破産法第63条の規定についてはその削除がなお適切であるが、同法第103条の規定については別異に解する余地があると考えられる。


2 破産法第63条については、同条の規定の削除によって、破産管財事務にもたらされる支障は反対意見の指摘するとおりであるとしても、将来にわたる賃料債権の譲渡や賃料の前払が民法及び民事執行法上広く認められている以上、破産宣告時に破産財団に帰属する財産は、そのような譲渡等によって当該賃料債権が流出した財産であり、負担のみが財団に帰すこともやむを得ないと考えられる。半面、同条の規定の削除によって、賃料債権の譲渡等の法的安定性が高められ、賃貸目的財産の所有者に資金調達方法の多様化がもたらされるという効用があり、また、そのような資金調達によって破産者がすでに利益を受けている以上、その効力を倒産処理手続においてのみ当然に制約することは合理的とはいえないと考えられる。また、賃料債権の処分と貸料の前払とは、第三者による「買取り」か賃借人による「買取り」かの違いであり、両者の間で取扱いを異にすべき合理的な理由は見出し難いと考えられる。以上からすると、破産法第63条については、規定を削除し、破産手続における特別の制約を設けないものとするとともに、再生手続及び更生手続においても同様の取扱いをするものとする(新会社更生法第63条及び民事再生法第51条から「破産法第63条」の準用部分を削除する。)のが適切であると考えられるが、どうか。


(1)破産法第103条についても、中間試案では、賃料の前払と賃料債権を受働債権とする相殺とは、その経済実質において共通すること、また、一般に期限付債権、停止条件付債権及び将来の請求権を受働債権とする相殺も広く認められるなか、賃料債権の場合にのみ特別の制約を設ける理由はないと考えられることから、第63条と同様に、規定を削除し、特別の制約を設けないものとするとの考え方を掲げており、意見照会の結果においても、これに賛成する意見が相当数寄せられている。そこで、[A案]として、中間試案と同様の考え方を掲げている。

(2)これに対しては、賃料の前払は、破産宣告の時点ですでに破産財団から賃料債権は流出しているのに対し、相殺の場合はそうではなく、両者の法律構成上の違いは、法律関係上の帰結の違いをもたらし得ること、また、、実体法との関係では、そもそも相殺に関する倒産処理手続における規律は実体法における相殺の規律とは異なっており、また、倒産処理手続内部においても、相殺の規律は清算型手続と再建型手続とで異なっていることを勘案すると、賃料債権を受働債権とする相殺についてには、賃料の前払の取扱いとの統一よりも、むしろ、それぞれの倒産処理手続の性質に照らして、相殺権の行使をどの範囲で認めるのが適切かという観点から検討すべき問題であるとも考えられる。【B案】は。このような観点から、現行法の賃料債権を受働債権とする相殺の取扱いを維持するものである。このうち、【B1案】は、以下の考慮から、再建型手続においてのみ現行法の取扱いを維持するものである。すなわち、(a)意見照会の結果によれば、とりわけ懸念されているのは、再建型手続において、将来の賃料収入が確保されないことにより生じかねない再建への支障である。(b)法制度としても、清算型手続である破産手続においては、第104条の制限を除き、広く相殺が認められ、相殺の担保的機能が最大限発揮されることを保障する仕組みが採用されている。このような相殺の担保的機能の尊重の点において、賃料債権の場合のみ区別し、実体法における以上に相殺を制約すべき理由はないと考えられる。これに対し、再建型手続においては、事業の継続及び再生の観点から、相殺は債権届出期間の満了までの間に限定されており、同様の観点から、賃料債権について特段の取扱いをすることも許容されると考えられる。一方、【B2案】は、再建型手続のみならず、清算型手続においても、現行法の取扱いを維持するものである。現行法の取扱いの基礎には、賃料債権は、倒産財団に属する財産の収益価値を実現するものであり、賃料債務の弁済によって実現される収益価値については、倒産財団に確実に帰属させるとの政策判断が存在すると考えられるが、そのような資料債権が倒産手続開始決定時に倒産財団に属している以上は、この政策判断を基本的に維持するとの考え方に出るものである。以上のように。破産法第103条等の取扱いについては、複数の考え方があり得るが、これについてどのように考えるか。

(3)【B案】による場合には、相殺が認められる賃料債権の範囲を「当期及び次期」で画することが適切かについて検討する必要がある。一般に、「当期及び次期」は契約内容にてよって定まり、年払であれば、破産宣告時を含む当該年度と翌年度の2年分となり、月払であれば、当月分と翌月分の2月分となると解されている。このように 相殺の認められる範囲が契約による賃料支払の定め方に大きく左右されるのが適切ではないとすれば、一律に範囲を画するものとすることも考えられる。


(1) 賃借人の有する敷金返還請求権については、破産手続においては、寄託請求制度(破産法第100条参照)を通じて保護を図ることで足りると考えられる。したがって、破産法第103条の規定を削除する場合(【A案】及び【 B1案】)には、敷金返還請求権について特段の手当てを要しないが、同条の規定を維持する場合(【B2案】)には、この点への配慮が問題となる。現行の破産法第103条第1項後段の規定は、その内容について理解が分かれ、また、合理的ではないと批判されている規定であり、【B2案】のように、現行の破産法第103条の規定を維持し、受働債権となる賃料債権の範囲を制約するときは 、同項後段の合理化を図り、敷金返還請求権の保護の規定として純化することが考えられる。そこで、【 B2案】では、敷金がある場合に、賃借人が賃料債務を弁済するときの弁済金について、寄託請求をすることができるものとして、端的にこ敷金返還請求権について保護を図る規律としている。

(2)再建型手続においては、中間試案では、(a)破産の場合ほどには資力不安が深刻ではないこと、(b)手元流動性の確保がきわめて重要であること、(c)破産法第103条に相当する規律の廃止にこよって現行法と同程度の保護を図り得ることから、敷金返還請求権について特段の手当てを設けないこととする考え方を掲げていた。【A案】は、この点でも、中間試案と同様の考え方を掲げている。これに対し、【B案】により、現行法と同様の制約を維持するものとするときは、敷金返還請求権をめぐる手当てが問題となる。この点については、次に述べるとおり、いくつかの方策が考えられるものの、いずれについても問題点が存する。すなわち、(ア)破産手続におけると同様の寄託請求制度では、実質上賃料収入が凍結されることになり、事業の再建に大きな支障となりかねない。(イ)中間試案に寄せられた意見の中には、賃貸借契約継続中の敷金返還請求権との相殺を認めるべきであるとの意見があるが、これにも(ア)と同様の問題があるほか、賃貸借契約継続中に賃借人側から敷金を賃料の支払に充当することはできないとされていること(大判昭和5年3月10日民集9巻253頁参照)との整合性の問題もある。また、(ウ)共益債権としてその 保護を図るべきだとの意見もある(なお.(ア)の実質を実現すべく、その範囲を賃料債務の弁済額に限定して、共益債権となることを認めるとする考え方もあり得る。)。しかし、敷金は、「担保目的での預り金」としての性質を有するとはいえ、分別管理等がされないままただ預り金というだけでは特別の保護を基礎付ける十分な法的性質を有するとは言い難く、その共益債権化は、特別の政策的配慮に基礎付けるほかないが、実体法上なんら優先性も認められていない中で、倒産処理手続においてのみそのような政策的配慮を基礎に共益債権とすることは困難であると考えられる。以上のように、再建型手続においては、敷金返還請求権について、現行法におけるのと同程度の保護を維持しつつ、合理化を図る適切な方法を見出し難いとすると、次善の策として、(エ)再建型手続においては、破産法第103条第1項後段と同様の規律(賃借人が現実化している自働債権を有するときは、敷金返還請求権の範囲まで、賃料債権を受働債権とする相殺を認めるとの規律)を、自働債権等その内容を明確にした上で存続させることも考えられる。以上の、破産法第103条第1項後段及び再建型手続におけるそれに相当する規定の取扱い、敷金返還請求権をめぐる取扱いについて、どのように考えるか。

2 請負契約
(1) 注文者の破産
民法第642条第1項の規定により破産管財人が契約の解除をしたときは、請負人は、同条第2項に規定する損害の賠償につき破産債権者としてその権利を行うことができるものとする。

(注)
1 意見照会の結果では、寄せられた意見のすべてが中間試案に掲げた考え方に賛成する意見であったが、さらに、(a)破産管財人が契約の解除をした場合の「既二為シタル仕事ノ報酬」の取扱いについて、これを破産法第60条第2頃の取扱いと均衡させ、財団債権とすべきであるとの意見、(b)請負人による契約の解除の場合にも請負人からの損害賠償請求を認めるべきであるとの意見が、それぞれ複数示されている。

2 民法第642条第1項後段は、仕事が未完成の状態にある場合、請負人は報酬の支払を請求できないことになりかねない(民法第633条、第632条参照)ことから、この点の不都合を解消し、具体的な報酬請求権の発生の有無を問わず、既にした仕事に相当する部分の報酬及びその報酬中に包含されない費用につき破産債権者としての権利行使を認めるもので、その半面、既にされた仕事の結果は破産財団に帰属し(最判昭和53年6月23日金融法務事情875号29頁参照)、請負人は当該目的物を破産管財人に引き渡すべきことになるといわれている。これに対し、破産法第60条第2項は、破産者が受けた反対給付の相手方による取戻しを基本とするもので、それによれば、(仮に、仕事の目的物の引渡し前にあっても破産者が「反対給付を受けた」と評価し得るとしても.)出来高部分は、相手方が取得すべきことになる。したがって、請負人が既にした仕事に対応する報酬部分を財団債権とすること((a))は、破産法第60条第2項との均衡から導かれるものではなく、この点については、より端的に、当該仕事の部分を破産財団にご帰属させる場合にその反対給付がどう扱われるべきか、民法第642条第1項後段の取扱いを見直すべきかを問うべきであると考えられる。
(i)一般に、請負人が既にした仕事に対応する部分は、それが先履行である以上請負人による信用供与的性格を有し、その部分の信用リスクは請負人がとるべきものであると考えられることからすれば、請負人が既にした仕事の部分に係る報酬債権等は、破産債権となるべき性質のものであると考えられる。問題は、既にした仕事の結果の取扱いであるが、(ii)民法第642条第1項後段を経て、既にした仕事の結果が破産財団に帰属することになるのは、一種の代償請求(民法第536条第2項ただし書参照)の結果と解され、そうだとすれば、既にした仕事の結果について、常に請負人が、それを破産財団に帰属させて報酬等を請求することを余儀なくされるわけではなく、請負人は、仕事の結果を保持し、その分の報酬を請求しないとすることも可能であると解される(建物等の土地の工作物の工事請負契約において、工事内容が可分であり、しかも当事者が既施工部分の給付に関し、利益を有するときは、特段の事情がない限り、既施工部分については契約を解除することができず、ただ未施工部分について契約の一部解除をすることができるにすぎないとするのが判例である(最判昭和56年2月17日判例時報996号61頁、大判昭和7年4月30日民集 11巻780頁参照)が、これらの判例は民法第641条や請負人の債務不履行を理由に民法第541条により、注文者が契約を解除する場合の判示であり、請負人が民法第642条により解除する場合に当然に当てはまるものではないと解されるし、また、請負人もまた全都解除を求めている場合には別異に解する余地があると考えられる。)。さらに、(iii)仕事の完成後引渡し前に注文者が破産した場合にも、同様に請負人が仕事の結果の引渡しを余儀なくされるわけではないと解されるし、また、この場合に、破産管財人が、請負人の既にした仕事の報酬を支払って、仕事の結果の引渡しを求めるならば、それは請負契約の履行請求にほかならず、その場合には、破産法第59条、第47条第7号に照らし、請負人の報酬債権は財団債権として扱われるものと解される(東京地判平成12年2月24日金融・商事判例1092号22頁参照)。(ii)(iii)からすれば、民法第642条第1項後段の取扱いによっても、請負人の利益を不当に損ねることにはならないものと考えられる。かえって、(iv)この場合の請負人の報酬債権を財団債権とすることは、破産財団に「中途半端な仕事」を新たに買い取らせることになって他の破産債権者の利益を害し、適切ではないと考えられる。以上からすれば、請負契約が解除されたときの既にした仕事の報酬部分については、現行法どおり、破産債権としての行使を認めるのが適切であると考えられるが、どうか。

3(b)については、中間試案では、(i)請負人に、既にした仕事の報酬及びそれに包含されない費用の請求が認められること、(ii)破産手続の開始自体は注文者の債務不履行に該当しないこと、(iii)請負人の解除権は不安の抗弁権に基礎を置く防御的なものと捉えられることからすると、請負人が契約を解除したときにいわゆる履行利益の賠償を求めることまでを認める理由はないとして、これを否定する考え方を取っていたが、この考え方を維持することでよいか。

(2) 請負人の破産
請負人の仕事完成義務に関する破産管財人の権限等を定めた破産法第64条の規定は、削除するものとする。

3 相場がある商品の取引(一括清算ネッティング条項)
破産法第61条については、次のとおりとするものとする。

<1> 取引所の相場その他の市場の相場がある商品の取引、に係る契約であって、一定の日時又は一定の期間内に履行をしなければ契約をした目的を達することができないものについて、その時期が破産宣告後に到来すべきときは、当該契約は、解除されたものとみなすものとする。

<2> <1>の場合において、損害賠償の額は、履行地又はその地の相場の標準となるべき地における同種の取引であって同一の時期に履行すべきものの相場と当該契約における商品の価格との差額によって定めるものとする。

<3> 破産法第60条第1項の規定は、<2>の損害賠償について準用するものとする。

<4> <1>又は<2>に定める事項につき、当該取引1所又は市場における別段の定めがあるときには その定めに従うものとする。

<5> <1>の取引を継続して行うためにその当事者間で締結された基本契約において、その基本契約に基づいて行われるすべての<1>の取引に係る契約につき生ずる<2>の損害賠償債権又は債務を差引1計算して決済する定めをしたときは、請求することができる損害賠償の額の算定については、その定めに従うものとする。

(注)
1 再生手続及び更生手続においても、<1>から<5>までと同様の手当てを行うものとする。

2 意見照会の結果では、一括精算ネッティング条項の有効性を破産法上明定することについては疑問を呈する意見があったものの、その他の点については、寄せられた意見のすべてが、基本的には、中間試案に賛成する意見であった。

3 <1>、<2>及び<5>に関し、中間試案の表現では、実際のデリバティブ取引等を十分に把握しきれていないとして、取引の実際に対応すべく、(a)「市場の相場」の概念のみに依拠しない形で対象取引を画すること、(b)金利、為替レード、株価指数等特定の資産ではなく抽象的な指標や一定の社会的事実に基づく計算上の数値を原資産とするものを捕捉できるように、「商品の取引に係る契約」という基準を見直すこと、(c)基本契約と一体として締結される担保取引を含み得るものとすること、(d)定期行為性の要件を緩和ないし廃止すること、(e)損害賠償額の算定方法につき、相場との差額による以外の方法(例えば、「市場における相場又は指標を用いて合理的な手法により算出した評価額」)を認めること、(f)損害賠償額算定の基準時を、破産宣告時ではなく、申立て時ないし基本契約において合理的な基準時として定められている時点とすること、(g)<5>について上記(3)から(f)までを反映させた形に改めることが必要であるとの指摘が、複数示されている。しかし、中間試案の考え方は、破産法第61条を出発点として、実際に行われている取引の拡大という現実を踏まえ、「取引所と遜色ないほどに取引が集中し、公正な価格形成機能が実証されている市場の相場がある商品の取引については、取引所の相場がある商品の確定売買と同様の規律を及ぼすのが相当であるとして、この観点から同条の対象となる取引を拡大し、あわせて、その範囲で、デリバティブ取引等における一括清算ネッティング条項の破産手続における有効性を確認する規定を設けるとするものであり、端的に、デリバティブ取引等をとらえ、それを対象とする規律を設けることを企図するものではない。日々刻々新たな取引、類型が開発されるこの分野において、一括清算ネッティング条項に関して正確に対象となるデリバティブ取引等を捉えて、その効力を明らかにする作業は、主体や取引を限定する特別法に委ねるのが相当であり、また、破産法の性格から、そうせざるを得ないと考えられる。このような中間試案の考え方をなお基本として維持する限りは、<1>のように「取引所の相場」に代表され、それと同等の公正な価格形成機能の発現といえる「市場の相場」によって画さざるを得ず、定期行為性についてもこれを維持しつつ解釈に委ねることとせざるを得ないと考えられる。また、損害賠償額の算定についても、同様に、「市場の相場」を概準とせざるを得ないと考えられる。その基準時に関しても、第61条を出発点とする限りは、破産宣告時を基準とすることになるが、破産宣告時を基準とする解除擬制及び損害賠償が明文化されることによって、倒産申立てによる解除及び損害賠償を定める約定の有効性がより確認されやすくなるものと考えられる。また、損害賠償の額の算定方法や基準時に関する別段の定めについては、一括清算ネッティング条項の発動 する場面に限らず、より一般的に、<4>により、「市場」において標準となるべき取扱い、がルール化されているときはそれによることとなる。「商品の取引」についても、「商品は、取引所において取り扱われる「商品」全般を指し、したかがって、有体物に限られるわけではなく、いわゆる金融商品をも含むものと解される。デリバティブ取引等との関係における、以上の<1>、<2>及び<5>の要件について、どのように考えるか。

4 <1>の対象取引の画し方については、他方で、中古車や不動産など本来の趣旨と異なる種類の取引を含みかねないとの指摘がある。この点については、「市場の相場」は「取引所の相場」に代表されるようなものを意味することから、一般の中古車や不動産等の市場における価格では、この基準をみたさないものと解される。仮にこの点について疑義が残るとすれば、(ア)「取引所の相場又はこれに準ずる市場の相場」として、この点を明確にすること、(イ)むしろ、法文上は「取引所の相場」のある場合のみとし、取引所の開設する市場によらない取引については、これを解釈に委ねること等が考えられる。この点について、どのように考えるか。

5 上記<4>では、別段の定めの対象となる事項の明確化を図るため、中間試案において「<1>に規定する場合において」としていたところを「<1>又は<2>に定める事項につき」と表現を改めている。<4>に関して、意見照会の結果では、「市場における別段の定め」の適用につき問題が生ずることが予想されるとの指摘(ただし、解釈に委ねざるを得ないとする。)や、常に「別段の定め」を優先させるのが適切かは疑問があるとの意見が出されている。この点、その定めを優先させるべき「市場における別段の定め」の内容やそれにより変えることが可能となる規律の範囲については、それを法文上的確に画するのは困難であり、解釈に委ねざるを得ないと考えられるが、どうか。

4 継続的給付を目的とする双務契約
継続的給付を目的とする双務契約において、給付を受ける者が破産した場合の取扱いについては、次のとおりとするものとする(新会社更生法第62条、民事再生法第50条参照)。

<1> 破産者に対して継続的給付の義務を負う双務契約の相手方には 破産の申立て前の給付に係る請求権について弁済がないことを理由としては、破産宣告後は、その義務の履行を拒むことができないものとする。

<2> <1>の双務契約の相手方が破産の申立て後破産宣告前にした給付に係る請求権(一定期間ごとにて債権額を算定すべき継続的給付については、申立ての曰の属する期間内の給付に係る請求権を含むものとする。)は、財団債権とするものとする。

<3> <1>及び<2>は、労働契約には、適用しないものとする。

(注)
1 意見照会の結果では、寄せられた意見のほとんどが賛成意見であったが、再建型手続と清算型手続とでは事業継続の必要に格段の差があること、破産手続においては財団債権であっても完全な満足を得られる保障はないことから、<1>について反対する意見(さらに、管財事務継続の必要性から継続給付を義務付けるのであれば、申立て前の給付に係る請求権を含め、破産管財人の報酬と同等の位置付けを与えるべきであるとする。)があった。この点については、(a)管財事務の遂行ひいては破産手続の進行に必要であるという点で、一定の継続的給付の確保の必要性の程度は、再建型手続におけるのと変わりはないと言い得ること、(b)破産宣告後の給付に係る部分についての弁済がないときにその後の給付について履行を拒むことが否定されるわけではないこと、(c)少なくとも申立て後破産宣告までの給付に係る部分についての弁済がされない限りは、履行を拒絶することができること、(d)財団債権としての弁済が現実にも確保される場合において、破産宣告前の信用取引の性質を持つ、申立て前の給付に係る部分についても優先的な満足を得られることとなるとすれば、他の破産債権者との衡平を害し、相当ではないことからすると、なお中間試案の考え方を維持すべきではないかと考えられるが、どうか。

2 また、対象となる契約の範囲について、再建型手続では、いわゆるライフラインに関わる給付や継続的なメンテナンス契約などのほかに、営業継続を前提にした継続的な製作物供給契約や継続的運送契約等もその対象となっているが、これらは、破産手続の進行にとって必要不可欠とは言えず、相手方保護の観点から除外すべきであるとして、その対象を「破産手続を進めるにつき必要不可欠な継続的給付を目的とする双務契約」に限定すべきであるとの意見が複教示されている。この点については、申立て後宣告までに係る部分の取扱い(<2>)は、元来、供給約款により供給停止につき厳格な要件が定められているという公益事業の特殊性に配慮した取扱いであり、そのような事情のない供給者については、この部分を財団債権とすべき理由に乏しいとも考えられる。とりわけ、事業の継続が当然の前提ではない破産手続においては、破産管財人が契約を解除することが少なくないと想定されるにもかかわらず、契約を解除した場合にもその部分が財団債権となることは合理的とは言い難いとも考えられ、「相手方保護の観点」のみならず、破産債権者のための破産財団の確保の観点からも、一定の契約に限定することが考えられなくはない。仮に、適用場面を限定するとすれば、(ア)管財事務ないし手続の進行に必要(不可欠)な継続的給付に限定する、(イ)いわゆるライフラインに関わる給付に限定する(民事執行法第 67条第5項参照)、(ウ)事業を継続する場合に限定する、(エ)これらを組み合わせる等が考えられる。もっとも、(ア)については必要(不可欠)な給付をどう画するか(例えば、事業を継続する場合にはそれ以降は継続的な製作物供給契約等もこれに該当することになるのか。)等の問題があり、また(イ)(ウ)については管財事務に必要な給付を拾いきれないおそれ等があり、(エ)については実効的な限定となり得るか等の疑問がある。一方、この点については、(i)管財事務の遂行や破産手続の進行に必要不可欠でない給付を目的とする契約については、破産管財人が適時に契約を解除するものと想定され、また、相手方はその法律関係の確定については催告権の行使が認められること、履行の請求による契約の継続には裁判所の許可を要すること、(ii)上記<1>及び<2>によっても、破産宣告前に相手方の債務不履行を理由として契約を解除することは妨げられず、いわゆるライフラインに関わる給付の契約以外の契約の場合、破産宣告前に、不履行があるときは直ちに給付を停止して、催告解除ができること、さらには、約定による対処も一般に可能であることからすると、中間試案どおりとして、その対象となる取引は、事案に応じた破産管財人及び裁判所の判断に委ねることとしても、相手方の保護に欠けることはなく財団の確保の点でも問題はないとも考えられる。以上の適用場面の限定に関し、その必要性、限定するとしたときのそのあり方について、どのように考えるか。

第2 各種債権の優先順位

1 租税債権
(1)破産宣告前の原因に基づいて生じた租税債権
<1> 破産宣告前の原因に基づいて生じた国税徴収法又は国税徴収の例により徴収することのできる請求権(以下、「租税債権」という。)であって、破産宣告の日以後又はその前の「一定期間」内に納期限が到来するものは、財団債権とするものとする。

<2> <1>以外のものについては、優先的破産債権とするものとする。

(注)
1 <1>の「一定期間」については、意見照会においても、(a)3月、(b)6月、(c)1年、(d)2年と様々な意見が寄せられた。また、「一定期間」を決めるに当たって考慮すべき要素についても、「破産宣告前の原因に基づいて生じた租税債権は、本来的には優先的破産債権となるべきものであるから、この期間はできるだけ短期間とすべきである。」といった意見が複数寄せられたが、他方、「この期間を短期間とすると、徴税当局が租税債権に基づく滞納処分を早期に行うことにより、倒産を早期化させるおそれがある。」といった指摘も複数寄せられている。また、「破産宣告前の「一定期間」より前に具体的納期限が到来した租税債権を一律に優先的破産債権とするとすれば、徴収職員は、基本的には具体的納期限から「一定期間」内に滞納事案を処理せざるを得なくなることを考慮すると、この「一定の期間」については、限られた徴収職員で大量反復的に発生する滞納事案を効率的に処理することを前提に、一般的に滞納整理に要する期間を考慮して定める必要がある。」との指摘もされている。これらの点についてどのように考えるか。

2 <1>の「納期限」は、いわゆる具体的納期限(国税通則法第35条第2項等参照)を意味するものである。これは、例えば、申告納税方式をとる租税の場合には、法定納期限の経過後に期限後申告書や修正申告書が提出され、又は更正処分等がされることによって納付すべき税額が確定する場合が考えられるが、これらの場合には、徴税当局は、法定納期限の時点では納付すべき税額を把握することができず、租税債権を優先的破産債権として取り扱う根拠(破産法分科会資料8第2・1(1)(理由)1参照)に欠けると考えられる点等を考慮したものである。特に破産者に申告漏れがあったような場合には、徴税当局が申告漏れの事実を把握した時点では既に法定納期限から「一定期間」を徒過しているといった事態が生じ得ることになるが、このような場合に申告漏れに係る租税を優先的破産債権とするのは相当でないと考えられる。もっとも、意見照会においては、具体的納期限を基準とすると、本来であれば、より早期に納税の告知(国税通則法第36条等参照)等を行い、具体的納期限を定めるべき事実であったにもかかわらず、徴税当局が業務を懈怠し、破産宣告の直前になって納税の告知等期したというような場合にも、当該租税債権が財団債権とされることになって不都合であるとの問題点が指摘されているが、どのように考えるか。この点については、租税債権については自力執行力が付されており、ことさらに納税告知を遅らせることは想定しにくいと考えられること、新会社更生法第129条についても類似の問題が生じ得るが、判例(最判昭和49年7月22日民集28巻第5号1008頁)は、その理由中において「納税告知の遅延が徴税当局の恣恣意によるような場合には、信義則等により共益債権としての請求を制限することも考慮できないわけではな」いと判示しており、仮に上記のような事態が生じた場合には、同様の解釈をすることによりその不都合を解消することが可能であること等から、特段の問題は生じないとの指摘もあるが、どのように考えるか。

(2)(1)の租税債権の破産宣告後に生ずる附帯税
(1)により財団債権となる租税債権につき破産宣告後に生ずる延滞税、利子税又は延滞金は財団債権とし、(1)により優先的破産債権となる租税債権につき破産宣告後に生ずる延滞税、利子税又は延滞金は劣後的破産債権とするものとする。

(注)
中間試案では、「破産宣告後に生ずる附帯税」としていたが、(2)では、「附帯税」の内容を具体的に示している。このうち、「延滞税」は、国税の全部又は一部を法定納期限内に納付しない場合に、未納税額を課税標準として課される附帯税で(通則法60条1項)、私法上の遅延利息に相当するものであり、「利子税」は、所得税、法人税、相続税及び贈与税について延納又は納税申告書の提出期限の延長が認められた場合に、それが認められた期間の約定利息の性質を持つものである。また、「延滞金」は、地方税や各種の社会保険料において生ずるものであり、国税における「延滞税」に相当するものである(なお、地方税や各種の社会保険料においては、国税の「利子税」に相当するものはない。)。私債権については、財団債権につき破産宣告後に生ずる利息及び遅延損害金は財団債権とされ(破産法第47条第4号参照)、破産債権につき破産宣告後に生ずる利息及び遅延損害金は劣後的破産債権とされている(破産法第46条第1号及び第2号)ことからすると、租税債権についても、これと同様の取扱いをすることが相当であると考えられるので。「附帯税」のうち、「延滞税、利子税及び延滞金」については、中間試案を維持するものとすることで、どうか。附帯税」には、ここに掲げた「延滞税、利子説又は延滞金」のほか、各種加算税(過少申告加算税、無申告加算税、不納付加算税又は重加算税)がある(国税通則法第2条第4号参照)。各種加算税は、申告納税制度及び源泉徴収による納付制度の定着と発展を図るため、申告義務又は源泉徴収による税の納付義務が週更に履行されない場合に課される附帯税であるが、この取扱いについて検討する必要がある。この点については、(i)各種加算税は、私法上の違約金(破産法第46条第2号参照)に相当するものとして延滞税等と同様の取扱いをする考え方のほか、(ii)加算税が制裁金としての性格を有する こと(最判昭和33年4月30日民集12巻6号938頁参照)にかんがみ、罰金等と同様に、その発生時期に関わりなく劣後的破産債権とする考え方(破産法第46条第4号参照。なお、破産宣告後、破産管財人が申告義務又は徴収納付義務を負担する場合において、その不履行があった場合には、財団債権になる(破産法第47条第4号)と考えられる。)等があり得るが、この点についてどのように考えるか。

(3)破産財団に関して破産宣告後の原因に基づいて生ずる租税債権
<1> 破産財団に関して破産宣告後の原因に基づいて生ずる租税債権は、破産財団の管理、換価及び配当に関する費用の請求権(破産法第47条第3号参照)に該当すると認められるものに限り、財団債権とするものとする。

<2> <1>以外のものについては、劣後的破産債権とするものとする。
(注)
意見照会においては、「破産財団の管理、換価及び配当に関する費用の請求権」の範囲を明確化すべきであるとの意見が寄せられたが、その具体的内容を規定上明示するのは著しく困難であると考えられるから、この点は解釈に委ねることでどうか(同様の問題は民事再生法等にもあると考えられる。)。

2 労働債権
(1) 破産宣告前の未払の給料債権
破産宣告前の一定期間内に生じた給料債権は、財団債権とするものとする。

(2)破産宣告前の退職手当の請求権
(ア)甲案
<1> 〔破産宣告前の原因に基づいて生じた〕退職手当の請求権は、退職前(破産宣告時に退職していない場合にあっては、破産宣告前)の一定期間の給料の総額に相当する額又はその退職手当の額の一定割合に相当する額のいずれか多い額を財団債権とするものとする。

<2> 破産者の使用人が破産宣告の時に退職していない場合には、<1>の退職手当の額は、破産宣告の時における評価額とするものとする。

<3> <1>の退職手当の請求権が定期金債権であるときは、<1>の退職手当の額は、次の(a)又は(b)に定める額とするものとする。(a)定期金の金額及び存続期間が確定しているもの 各期における定期金の合計額から、各期における定期金の中間利息に相当する部分(破 産法第46条第7号参照)の合計額を控除した額(b)定期金の金額又は存続期間が不確定であるもの 破産宣告の時における評価額

(イ)乙案
<1> [破産宣告前の原因に基づいて生じた〕退職手当の請求権には退職前(破産宣告時に退職していない場合にあっては、破産宣告前)の一定期間の給料の総額に相当する額を財団債権とするものとする。

<2>(ア)<2>及び<3>に同じ。
(注)
1 上記の考え方のほか、意見照会においては、給料債権及び退職手当の請求権の合計額のうち、破産宣告前の一定期間の給料の総額に相当する額を財団債権とするとの考え方に賛成する意見もあったが、給料債権と退職手当の請求権とでは財団債権とする根拠が異なるとも考えられることから、その範囲についてもそれぞれ個別に定めるものとする案を提示している。

2 退職手当の請求権について割合要件(「退職手当の額の一定割合に相当する額」)を設けることの当否について中間試案では、甲案の考え方を掲げたが、これは、新会社更生法第130条第2項と同様、在職期間が長期にわたり退職手当の請求権が高額になる労働者の保護を図ることを考慮したものである。しかしながら、この点については、意見照会においても、破産手続の場合は、再建型の手続である更生手続とは異なり、基本的に全ての労働者が退職するから、退職手当の請求権を財団債権とすると破産財団を圧迫に、破産廃止の事案が増加することを懸念する意見が相当数寄せられたところである。乙案は、このような意見照会の結果も踏まえ、退職手当の請求権について、財団債権の額が特に高額になるおそれの高い割合要件を設けないこととしたものである。上記の点について、どのように考えるか。

3 現行法の下で破産宣告後に退職した場合の退職手当の請求権がどのように取り扱われるべきかという点については、(ア)全額財団債権となるとする説、(イ)全額破産債権となるとする説、(ウ)賃金の後払的性格を有する退職金のうち、破産宣告前の労働の対価とみられる部分を破産債権とし、破産宣告後の労働の対価とみられる部分を財団債権とする説等があるが、上記の見直しをする場合には、これらの各説との関係を整理する必要がある。この点については、(i)基本的に(ウ)の考え方をとった上で、本来的には破産債権となる退職手当の請求権の一部を財団債権として取り扱うこととするとの考え方(この考え方によると、退職手当の請求権のうち、(a)(2)によるものと、(b)破産宣告後の労働の対価とみられる部分とが財団債権になることになる)や、(ii)更生手続の場合と同様に、上記のいずれの説をとるかにかかわらず、退職手当の請求権が財団債権となるのは、(2)の額に限定されるとの考え方(新会社更生法では、上記のいずれの説をとるかにかかわらず、退職手当の請求権が共益債権となるのは、同法第130条第2項の額に限定されるものと一般に解されている。)があり得るが、どのように考えるか。また、仮にこ(ii)の考え方をとる場合には、甲案の<2>及び<3>(乙案をとる場合も同様の問題がある、)の 「破産宣告時における評価額」を算定する必然性は乏しいと考えられることから、この基準時を「破産宣告の時」としている点を改め、退職時を基準時とすることが考えられる(<2>に相当するものは不要となり、<3>の基準時は退職時となる。)が、どうか。もっとも、このような考え方によると、破産宣告後に給料が下がった場合には、財団債権となる退職手当の請求権の額が破産宣告時を基準時とする考え方をとる場合よりも減少するので、破産宣告後に退職した場合において、退職前の「一定期間の給料の総額」が破産宣告前の「一定期間の給料の総額」より少ないときは、後者を基準とすること等が考えられる。

4 破産債権となる労働債権(退職手当の請求権)の債権調査の対象労働債権のうち給料の請求権については、中間試案の考え方は、当該請求権の発生時期によってその振分けをするものであるから、財団債権の額が決まらなくても、優先的破産債権である給料の請求権の額を算定することが可能であり、債権調査の対象も当該「一定期間」より前に発生した債権の内容及び原因等ということになるものと考えられる。これに対して、退職手当の請求権の場合には、財団債権を超える部分が優先的破産債権となるという関係にあるので、優先的破産債権の額を算定するにはその前提として、財団債権の額を算定する必要があることになる。そこで、退職手当の請求権については、何を破産債権の調査の対象とすべきかという点が問題となる。この点については、(a)退職手当の総額から財団債権分を控除した部分(破産債権となる部分)が調査の対象となるとする考え方(この考え方によると、結果的に財団債権の額についても調査の対象となることになる。)と、(b)退職手当の総額のみを調査の対象とする考え方等があり得ると考えられる。このうち、(a)の考え方をとると、財団債権に関する訴訟と破産債権の確定に関する訴訟とで財団債権の額についての判断権者が異なることから、退職金の総額=財団債権の額+優先的破産債権の額という関係が保障されない場合があり得ることとなり、その意味で労働債権者又は他の破産債権者が不当に不利益を受けるおそれがあることになる。このような不利益が処分権主義に基因するものであれば、異なる判断がされる事態が生じ得るのもやむを得ないと考えられるが、この場合には、法律上訴訟物の分断を強制する結果このような事態が生じる点が問題であるように思われる。また、破産債権者は、そもそも財団債権の額については争えないものとされていること等を考慮すると、退職手当の請求権についても財団債権の額を債権調査の対象とする必要はないとも考えられる。以上のような点を考慮すると、(b)の考え方をとるのが相当ではないかと考えられるが、この点についてどのように考えるか。もっとも、(b)の考え方をとる場合には、退職手当の総額の調査、確定手続が終了している場合であっても、財団債権となる退職手当の請求権の額に争いがあれば、結果的に配当額算定の基準となる破産債権の額が決まらないことから、当該退職手当の請求権を有する者に、「中間配当をすることができなくなる点が問題となる(財団債権の額に争いがある場合には、いずれにしても最後配当をすることはできない。)。この点については当該退職手当の請求権を有する者は、その総額につき、少なくとも優先的破産債権として権利行使をすることができる立場にあり、その後財団債権の額が訴訟等で確定すれば、より高い優先順位で弁済を受け得ることになるに過ぎない。そうすると、中間配当の時点で財団債権となる退職手当の請求権の額が未確定であっても、そのために当該退職手当の請求権を有する者に配当をしないのは相当でなく、とりあえず、退職手当の請求権の総額が優先的破産債権であるものとして配当を行い、財団債権の額が確定した後の配当において一種の配当調整を行うことが考えられる(後記(参考)<4>参照)。この点について、どのように考えるか。

(参考) 上記の(b)の考え方をとった場合のイメージ
<1> 破産者の使用人は、退職手当の請求権については、当該請求権の額から上記(2)により財団債権となる額を控除した額についてのみ、破産債権者として、その権利を行うことができるものとする。

<2> 破産債権である退職手当の請求権を有する者が破産手続に参加しようとする場合には、当該破産債権者は、債権届出期間内に退職手当の請求権(上記(2)により財団債権となる部分を含む。)の内容及び原因、議決権の額その他最高裁判所規則で定める事項を裁判所に届け出なければならないものとする。

<3> 破産債権である退職手当の請求権の調査は、退職手当の請求権(上記(2)により財団債権となる部分を含む。)の内容及び原因、優先的破産債権であること並びに議決権の額について行うものとする。

<4> 財団債権となる退職手当の請求権の内容に争いがある場合には、破産管財人は、退職手当の請求権(上記(2)により財団債権となる部分を含む。)の全額が優先的破産債権であるものとして配当(最後配当を除く。)をしなければならないものとする。この場合において、当該配当の後財団債権となる退職手当の請求権の額が確定したときは、当該配当における配当額は、確定した財団債権の額を限度として財団債権の弁済に充てられたものとみなすものとする。

5 財団債権となる労働債権につき査定の裁判の制度を設けることの当否財団債権となる労働債権の額について債権者と破産管財人との間で争いがあり、訴訟等になった場合には、破産債権者に配当すべき財団の範囲が確定せず、手続が遅延するおそれがあることから、財団債権である労働債権についても、破産債権の査定の裁判の制度と同様の制度を設ける必要があるとの指摘があるが、この点についてどのように考えるか。もっとも、財団債権は、財団不足が明らかである場合を除き、全額について随時弁済を受けられるものであることから、基本的には割合的弁済を受け得るに過ぎない破産債権の場合とは異なり、決定手続によって債権額が確定する場合は必ずしも多くないとも考えられる。また、この点を考慮すると、仮に、査定の裁判の制度を設けるとする場合であっても、役員の責任に基づく損害賠償請求権の査定の裁判と同様に、財団債権の内容に争い、がある場合も原則として査定の裁判の前置を強制するということはせず、訴訟をするか、査定の裁判をするかの選択を当事者に委ねるのが相当であると考えられるが、どのように考えるか。

(3)労働債権に対する弁済の許可
<1> 優先的破産債権となる給料債権又は退職手当の請求権(以下 「給料債権等」という。)について届出をした破産債権者が、その破産債権の弁済を受けなければ、その生活の維持を図るのに困難を生ずるおそれがあるときは、裁判所は、最初の配当の許可があった日までの間、破産管財人の申立てにより又は職権で、その弁済をすることを許可することができるものとする。ただし、その弁済により財団債権を有する者及び先順位又は同順位の他の優先的破産債権を有する者の利益を害するおそれがないときに限るものとする。

<2> 破産管財人は、<1>の給料債権等を有する破産債権者から<1>の申立てをすべきことを求められたときは、直ちにその旨を裁判所に報告しなければならないものとする。この場合において、破産管財人は、その申立てをしないこととしたときは、遅滞なく、その事情を裁判所に報告しなけれいばならないものとする。

<3> <1>により弁済を受けた破産債権者は、同順位の他の優先的破産債権者が自己の受けた弁済と同一の割合の配当を受けるまでは、破産手続により配当を受けることができないものとする。

(注)
1 中間試案では、弁済許可の要件の1つとして「生活の維持を図るのに箸しい困難を生ずるおそれがあるとき」を要求していたが、<1>では、この要件を緩和している。これは、意見照会の結果を踏まえるとともに、上記の制度は、許可の範囲を配当が確実に見込まれる額に限定しており、上記の要件を緩和しても他の債権者の利益を害するおそれは少ないとと等を考慮したものである。

2 中間試案では 弁済許可をすることができる終期を「最初の配当期日」としていたが、ここでは、終期を「最初の配当の許可があった日」とする考え方を掲げている。これは、最初の配当における配当表の作成の後にこの制度に基づく弁済を行うと、配当表の更正が必要になること、最初の配当の許可がされてから最初の配当期日までの間に弁済を認める必要性は乏しいこと等を考慮したものであるが、どのように考えるか。

3 破産債権の届出をしていない破産債権者に弁済の許可をするのは相当でないことから、<1>では、弁済許可の要件として破産債権の届出が必要となる点を明確化している。

4 この制度によって弁済がされると、議決権の額も弁済を受けた限度で減少することになると考えられる。

5 意見照会においては、更生手続については、一定の範囲の労働債権が共益債権とされており(新会社更生法第130条)、弁済許可の制度を設ける必要性が少ないこと、更生会社の再建のためには手元流動資金を可及的に確保すべき要請が高いこと等を理由として、弁済許可の制度を設ける必要はないとの意見が大勢を占めたことから、上記の制度は破産手続においてのみ設けることで、どうか。

3 その他の各種債権
(1) 無利息債権の期限までの中間利息分
破産宣告後に期限が到来すべき確定期限付債権で無利息のものについては、破産宣告の時から期限に至るまでの期間の年数(その期間に1年に満たない端数があるときは、これを切り捨てるものとする。)に応じた債権に対する法定利息の額に相当する部分を劣後的破産債権とするものとする。

(2)合意による劣後債権(劣後ローン)
ア 破産手続
<1> 債権者と債務者との間において、破産手続における配当の順位につき破産法第46条各号に掲げる債権(劣後的破産債権)に後れる旨の合意がされた債権は、同条各号に掲げる債権に後れるものとする。

<2> 破産債権者は、<1>の合意がされた債権については、議決権を有しないものとする。

(注)
約定劣後債権を除く破産債権のうち、一定の要件を満たす債権についてのみ劣後する旨の約定がされた場合には、<1>の要件には該当しないことになるが、このような特約の効力まで認めるものとすると、配当の循環が生じ、配当額が決められない場合が生じ得ること、このような特約がされた債権は自己資本性がないと考えられ、この点についてまで手当てをする必要性は少ないと考えられることから、上記のような約定に関する規定は設けないものとすることで、どうか。

イ 再生手続
<1>ア<1>の合意がされた債権(以下「約定劣後債権」という。)について、届出がされ、又は認否書(民事再生法第101条第3項参照)に記載がされた場合には再生計画においては、ア<1>の合意における権利の順位を考慮して、再生計画の条件に公正、衡平な差等を設けなければならないものとする(新会社更生法第168条第3項参照)。

<2> <1>に規定する場合には、再生計画案の決議は、<3>の場合を除き、再生債権(約定劣後債権を除く。)を有する者と約定劣後債権を有する者とに分かれて行うものとする(新会社更生法第196条第1項参照)。

<3> 再生債務者が再生手続開始の時においてその財産をもって約定劣後債権に優先する債権を完済することができない状態にあるときは、約定劣後債権を有する者は、議決権を有しないものとする(新会社更生法第166条第2項参照)。

<4> <2>の場合において、約定劣後債権につき再生計画案の可決の要件を満たす同意を得られなかったため、再生計画案が可決されなかった場合においても、裁判所は、再生計画案を変更し、約定劣後債権を有する者のために次に掲げる方法のいずれかにより約定劣後債権を保護する条項を定めて、再生計画認可の決定をすることができるものとする(新会社更生法第200条第1項参照)。

(a)約定劣後債権を有する者に対して破産の場合に配当を受けることが見込まれる額又は裁判所の定める約定劣後債権の公正な取引価額を支払うこと。
(b)その他前号に準じて公正かつ衡平に約定劣後債権を有する者を保護すること。

<5> 再生計画案について、約定劣後債権につき再生計画案の可決の要件を満たす同意を得られないことが明らかであるときは、裁判所は、再生計画案の作成者の申立てにより、あらかじめ、約定劣後債権を有する者のために<4>(a)又は(b)の方法のいずれかにより当該権利を保護する条項を定めて、再生計画案を作成することを許可することができるものとする(新会社更生法第200条第2項参照)。

<6> <5>の申立てがあったときは、裁判所は、申立人及び約定劣後債権を有する者のうち一人以上の意見を聴かなければならないものとする(新会社更生法第200条第3項参照)。

<7> 再生債務者等が届出がされていない約定劣後債権があることを知りながら、これを認否書に記載をしなかった場合において、他に届出がされ、又は認否書に記載がされた約定劣後債権が存しないときは、再生債務者は、当該約定劣後債権について、その責任を免れるものとする(民事再生法第181条第1項及び第2項参照)。

(注)
1 約定劣後債権を有する者の議決権について、中間試案では、再生手続においては議決権の行使につき組分けをする必要のない制度設計がされていること等を考慮して、これを認めない考え方を示したところである。意見照会においては、これに賛成する意見も相当数寄せられたが、他方、(a)再生手続においては、債務者が手続開始時における総財産をもって約定劣後債権に優先する債権(以下「上位債権」という。)の全額を弁済することができる場合も考えられ、その場合に約定劣後債権を有する者の議決権を否定するのは相当でないこと、(b)債務者の総財産をもって上位債権の全額を弁済することができる場合は稀であり、その場合に組分けをすることとしても実務上の障害にてなることはほとんどないと考えられること等を理由として、これに反対する意見も相当数寄せられたところである。また、株主の権利との比較においても、株主の権利は、再生手続においては手続外の権利とされ、再生計画の決議につき議決権を有しないものの、債務超過でない限り、再生計画による権利変更を受けることはないものとされている(民事再生法第166条第2項)。これに対して、約定劣後債権については、総財産をもって上位債権を完済することができる場合であっても、約定劣後債権を有する者の多数意思によることなく権利変更をされることになるのは均衡を失するとの指摘もあり得るところである。この点を合理的に説明するためには、約定劣後債権を有する者の合理的意思を問題とせざるを得ないと考えられるが、劣後ローンの合意にそこまでの意思を擬制することは困難であるとも考えられる。以上のような点を考慮すると、約定劣後債権について、届出がされ、又は認否書に記載がされた場合には、総財産をもって上位債権を完済することができない場合を除き、議決権を認め、一般の再生債権と約定劣後債権との間で組分けをするものとすることが相当ではないかと考えられるが、この点についてどのように考えるか。

2 約定劣後債権が資本代替的な性質を持っているとしても、あくまでも「債権」であることにかんがみると、約定劣後債権を有する者が議決権を有する場合に組分けを強制することはせず、一般の再生債権と約定劣後債権を同一の組にすることができるものとすることで、どうか(新会社更生法第196条第2項本文参照)。

3 再生計画案が可決されなかった場合の権利保護条項に関する規定は、約定劣後債権の組につき同意が得られなかった場合についてのみ設けることで、どうか。

ウ 更生手続
<1> 更生計画においては、次に掲げる権利の順位を考慮して、更生計画の内容に公正、衡平な差等を設けなければならないものとする(新会社更生法第168条第3項参照)。
(i)更生担保権
(ii)一般の先取特権その他一般の優先権がある更生債権
(iii)(ii)及び(iv)に掲げるもの以外の更生債権
(iv)約定劣後債権
(v)残余財産の分配に関し優先的内容を有する種類の株式
(vi)前号に掲げるもの以外の株式

<2> 更生計画案の決議は、原則として、<1>(i)から(vi)までに掲げる種類の権利を有する者に分かれて行うものとする(新会社更生法第196条第1項参照)。

<3> 更生会社が更生手続開始の時においてその財産をもって約定劣後債権に優先する債権を完済することができない状態にあるときは、約定劣後債権を有する者は、議決権を有しないものとする(新会社更生法第166条第2項参照)。

(約定劣後債権全体の注)
1 再建型の手続における条件の差等について
この点について、意見照会においては、BIS規制との関係で疑義が生ずることを回避するため、再生計画又は更生計画の条項の内容として、約定劣後債権を他の債権に絶対的に劣後させる旨を規定上明確化すべきであるとの意見が寄せられたところである。この点を規定と明確化しようとすると、再生計画又は更生計画の条項に関して、「再生計画又は更生計画において、約定劣後債権に優先する債権を減額又は免除する旨の条項を定めたときは、約定劣後債権の全額を免除する旨の条項を定めなければならない。ただし、手続開始時における財産をもって約定劣後債権に優先する債権を完済することができる場合はこの限りでない。」という規定を設けること等が考えられる。もっとも、このような規定を設ける場合には、株式についても、再生計画又は更生計画において再生債権又は更生債権等を減額又は免除する旨の条項を定めたときは、これを失権させることにしないと均衡を失するものと考えられるが、再生手続においては、債務超過の場合であっても1 0 0パーセント減資をしなければならないものとはされておらず、更生手続においても、債務超過の場合に株主に権利を与えることが必ずしも「公正、衡平」に反するとは解されていないようである。このように、再建型の手続において、債権と株式につき絶対的な優先・劣後の関係を認めることが必ずしも相当でないとすると、約定劣後債権の場合についても上記のような規定を設けることは相当でないと考えられるが、この点についてどのように考えるか。仮に、 BIS規制上、約定劣後債権と他の債権との間で絶対的な優先、劣後の関係を保障することが不可欠であるとすると、現行の実務で行われている停止条件構成(破産等の事由が生じた場合には、約定劣後債権の支払請求権がいったん停止し、上位債権者が全額の支払を受けることを条件に約定劣後債権の支払請求権が発生するとの取扱い)の方がこれになじむとも考えられることから、再建型については、むしろ規定を設けない方が適当であるとの指摘もあるが、どのように考えるか。

2 既存の契約の取扱い
破産手続との関係では、現行の劣後特約は、上位債権の破産宣告後の利息及び遅延損害金にも劣後する前提で約定がされており、結果的にそれと同順位の劣後的破産債権全てに劣後することが予定されているから、既存の契約に基づく劣後ローンも「破産法第46条各号に掲げる債権(劣後的破産債権)に後れる旨の合意がされた債権」に該当すると考えられる。また、破産手続においては、優先順位に差がある債権間においては絶対的な優先・劣後の関係が保障されるから、実際上の取扱いにおいても、寄託が不要となる等手続的な点を除くと、改正の前後で特段の変更が生じないと考えられる。これに対して、再建型の手続では、本文に掲げた見直しを行った後も、上位債権と約定劣後債権間の絶対的な優先・劣後の関係を保障する等の観点から、現在行われている停止条件構成の取扱いを認めることにするか否かについて検討する必要がある。仮に 停止条件構成の取扱いも認めることとすると、この類型のものについては、これまでどおり停止条件付債権として一般の再生債権又は更生債権の組に属することとなり、新法が適用される契約類型については、約定劣後債権の組に属することになるが、このような2類型の併存を認める必要性及び相当性については、疑問があるところである。このような2類型の併存を認めないこととし、この点について疑義が生じないようにするためには、それぞれの手続ごとに約定劣後債権の定義を変える必要がある(例えば、民事再生法では、約定劣後債権の定義を「一般の再生債権に後れる旨の合意がされた債権」とする。)とも考えられるが、この点についてどのように考えるか。 他方、上記の2類型の併存を認めないこととした場合には現行の取扱いと本文に掲げた見直しがされた後の取扱いとで次のような差異が生じるものと考えられる。まず、議決権に関しては、現行の取扱いでは、倒産処理手続開始時における評価額で議決権の行使が認められることとなるが、評価額が0円でない場合には、一般の再生債権又は更生債権の組において議決権を行使することになる。これに対し、本文に掲げた見直しがされれば、劣後ローン債権者は、約定劣後債権の組において議決権を行使することになる。また、現行の約定においては、約定劣後債権を除外すれば債務超過とはならない場合であっても、上位債権者の同意の下に上位債権につき債権カットがされれば、約定劣後債権もその影響を受け、再生計画又は更生計画において弁済を受けられないものとされているが、本文に掲げた見直しがされれば、この場合には、劣後ローン債権者も弁済を受け得ることになる。上記のように、本文に掲げた見直しがされた後の取扱いが現行の取扱いと異なることになるとすると、劣後債に対する投資家の信頼に影響を与えるおそれがあり得るとの指摘もされており、再建型の手続における手当ての要否を検討するに当たっては、上記の点をも考慮する必要があると考えられる。

(3)財団不足になった場合における財団債権の取扱い
<1> 破産財団が財団債権の総額を弁済するのに不足することが明らかにてなったときは、財団債権については、法令に定める優先権にかかわらず、まだ弁済していない債権額の割合に応じて弁済するものとする。ただし、財団債権について存在する留置権、特別の先取特権、質権及び抵当権の効力は、妨げないものとする。

<2> <1>本文の場合には、破産債権者の共同の利益のためにする裁判上の費用の請求権(破産法第47条第1号参照)並びに破産財団の管理、換価及び配当に関する費用の請求権(同条第3号参照)は、他の財団債権に先立って弁済するものとする。

(4)財団債権に基づく強制執行等の禁止等
<1> 破産宣告があったときは、破産財団に属する財産に対する財団債権に基づく強制執行、仮差押え若しくは仮処分、企業担保権の実行、一般の先取特権による競売又は国税徴収法若しくは国税徴収の例による滞納処分の手続は、することができないものとする。

<2> 破産財団に属する財産に対して既にされている財団債権に基づく強制執行、仮差押え若しくは仮処分、企業担保権の実行又は一般の先取特権による競売の手続は、破産財団に対してはその効力を失うものとする。ただし、破産管財人において破産財団のために強制執行又は一般の先取特権による競売の手続を続行することを妨げないものとする(破産法第70条第1項参照)。

(注)
1 上記の考え方は、(i)破産手続においては、財団債権の全額を支払えない事態は希有なこととはいえないこと、(ii)財団債権には、全破産債権者の共益的な費用としての性質を有するものだけでなく、政策的に財団債権とされているものも含まれており、財団債権者間の平等を図り、破産手続を円滑に進行させるためには、財団債権に基づく強制執行等を否定する必要性が高いこと等を考慮したものである。このような観点からすると、禁止の対象となる行為としては、強制執行、仮差押え又は仮処分だけでなく、一般の先取特権による競売も含める必要がある。そして、-般の先取特権による競売を禁止する場合には、一般の先取特権に劣後する企業担保権(企業担保法第7条第1項参照。なお、企業担保権の被担保債権である社債が財団債権となる場合としては、再建型の手続の開始後に発行した社債が共益債権に該当する場合において、その後牽連破産になったとき等が考えられる。)の実行手続をも禁止の対象とする必要があると考えられる。これに対して、財団債権について存在する留置権、特別の先取特権、質権及び抵当権による競売は、禁止されないものとする(破産法第51条第1項ただし書参照)。

2 破産財団に属する財産に対して国税徴収法又は国税徴収の例による滞納処分が既にされている場合には、破産宣告は、、その処分の続行を妨げないものとする(破産法第71 条第1項。その理由については、破産法分科会資料8第2・1(1)(理由)2参照)。

(各種債権の優先順位関係後注1)
財団債権の弁済を受けようとする者は、破産管財人がその存在を認識しているものを除き、遅滞なく、破産管財人に財団債権の内容及び原因を通知し'なければならないものとする考え方があるが、どのように考えるか。この点については、現行法の下でも、配当率又は配当額の通知を発する前に破産管財人に知れていない財団債権者には 当該配当における原資に対する優先権を失うものとされており(破産法第286条参照)、一定の手当てがされていることからすると、このような規定を置く意味は、期限末到来の財団債権等を含め、遅滞なく、その内容及び原因を通知させることによって、破産管財人が就任後早期に財団債権の総額についての見込みを立てることを可能にする点にあると考えられる。もっとも、このような考え方をとる場合でも、財団債権については破産管財人に対して通知をしなかったことをもって何らかの法的効果を付与することは相当でないと考えられる(この点から、仮に規定を設ける場合であっても規則事項になるものと考えられる。)ことからすると、実効性は確保しにくいとの指摘もあり得るが、どのように考えるか。また、仮に、このような制度を設ける場合であっても、破産管財人に対する通知を要する債権をその必要性が大きいもの(例えば、再建型の手続からの移行がされた場合における当該手続の共益債権)に限定することが考えられるが。どうか

(各種債権の優先順位関係後注2) 破産法第60条第2項の見直しの当否については、見直しに賛成する意見が裁判所、弁護士会を中心に多数寄せられており、見直しの内容としては、<1>解除によって双方に原状回復義務が生ずる場合に限ってこれを財団債権とすべきであるとの考え方や、<2>双方未履行の双務契約の処理の仕方を根本的に見直し、ドイツ倒産法等と同様、破産管財人の解除権に代えて履行拒絶権を付与することとすべきであるとの考え方を支持する意見が寄せられたところである。 他方、経済団体を中心として、現行法の規律は合理性を有しており、これを見直す必要はないとの意見も複数寄せられている。この点については、現行法の規律、<1>及び<2>の考え方のいずれについても、一定の合理性を有していると考えられ、このいずれを採用するかは政策的な判断を多分に含んでいると考えられる。また、現行法の規律に対してには当事者の一方のみが契約の一部の履行をしている場合には、その部分について与信をしているのであるから、その場合の原状回復請求権を財団債権とするのは相当でないとの批判がされているが、<1>の考え方についても、当事者の双方が契約の一部を履行しているという場合であっても、履行の程度には様々な場合が考えられ、相手方が履行した内容が破産者の履行した内容を大きく上回っている場合には、相手方は破産者に対して一定の信用を供与していることになると考えられるところ、この場合と相手方のみが一部の履行をしている場合とで取扱いを大きく変えることに合理性があるかという問題があるように思われる。他方、<2>の考え方については、そのような不均衡は生じないと考えられいるものの、双方未履行の双務契約一般についての規律を根本的に見直すものであり、その影響は大きいと考えられる。現行法の規律によると不当な結果が生ずる場合としては、主に建築請負等の場合において、注文者が請負代金の一部を前払をしていた場合が挙げられるが、<2>のような見直しを行った場合には、売買その他の双務契約一般の取扱いについても多大な影響が生じ、ひいてはそれぞれの契約における取引慣行にも影響を及ぼすことになるものと考えられる。見直しの当否及びその内容について意見照会においても意見が分かれていることに加え、以上のような点等を考慮すると、そのいずれの考え方についても決め手に欠け、現時点では、見直しの方向についての結論を得ることは困難ではないかと考えられる。したがって、今回の改正では、破産法第60条第2項については、見直しをしないものとすることで、どうか。

第3 多数債務者関係

<1> 複数の各自全部の履行をする義務を負う者の全員又はそのうちの数人若しくは一人が破産宣告を受け、かつ、債権者がその債権の全額について破産債権者として権利を行った場合において、破産者に対して将来行うことがある求償権を有する者が破産宣告後に債権者に弁済をしたときは、債権者の債権の全額が消滅した場合に限り、その求償権を有する者は、求償権の範囲内において、債権者が有した権利を破産債権者として行うことができるものとする(破産法第26条第2項参照)。

<2> 物上保証人についても、<1>と同様の取扱いとするものとする(同条第3項参照)。

(注)
1 意見照会の結果では、本文については、寄せられた意見のほとんどが賛成意見であったことから、中間試案どおり記載している(<1>)。

2  物上保証人の取扱いについては、意見が分かれたが、全部義務者と同様の取扱いとすべきであるとの意見が多数を占めた。また、近時の最高裁判例(最判平成14年9月24日判例タイムズ1106号76頁)においても、「物上保証人は、全部義務者と異なり、担保に供した特定財産の価額の限度において責任を負うにすぎないが、物上保証人も連帯保証人等の全部義務者も、債権者が債務者から債権の完全な弁済を受けられない場合に備えて、有限又は無限の責任を負担するものであって、責任の集積により債権の効力の強化を図るという点においては異なるものではないから、法26条3項において同条2項を準用する場合についても、上記と別異に解する理由はない」とされ、「債務者が、破産宣告を受けた場合において、債権の全額を破産債権として届け出た債権者は、破産宣告後に物上保証人から届出債権の弁済を得ても、届出債権全部の満足を得ない限り、なお届出債権の全額について破産債権者としての権利を行使することができるものと解するのが相当である」とされている。そこで、<2>では、物上保証人についても、判例の明文化を図り、全部義務者と同様の取扱いをするとの考え方を示している。

3 再生手続及び更生手続においても、同様の手当てを行うものとする。

第4 否認権

1 否認権の要件
(1)破産法第72条の見直し
ア 甲案
(ア)否認に関する一般的要件
次に掲げる行為は、破産宣告後、破産財団のために否認することができるものとする。

<1>破産者が支払の停止又は破産の申立て(以下「支払の停止等」という。)の前に破産債権者を害することを知ってした行為。ただし、これによって利益を受けた者が、その行為の当時、破産債権者を害する事実を知らなかったときは、この限りでないものとする。

<2> 破産者が支払の停止等があった後にした破産債権者を害する行為。ただし、これによって利益を受けた者が、その行為の当時、支払の停止等があったこと及び破産債権者を害する事実を知らなかったときは、この限りでないものとする。

(イ)偏頗行為に関する否認の要件
<1>(ア)にかかわらず、破産者が既存の債務についてした担保の供与又は債務の消滅に関する行為であって、その方法及び時期が破産者の義務に属するものは、その行為が支払不能になった後又は破産の申立てがあった後にされたものであり、かつ、債権者が、その行為の当時、
(i) 当該行為が支払不能になった後にされたものである場合にあっては、支払の停止があったこと又は他の破産債権者との平等を害する事実
(ii)当該行為が破産の申立てがあった後にされたものである場合にあっては、破産の申立てがあった事実をそれぞれ知っている場合に限り、否認することができるものとする。

<2> <1>の行為が支払の停止(破産等の申立て前1年間のものに限るものとする。)があった後にされた場合には、その行為の当時、支払不能であったものと推定するものとする。

(注)
1 甲案は、 中間試案に掲げた考え方である。
2 他の倒産処理手続から破産手続に移行した場合における否認の要件については、「否認権」に関する章ないし節ではなく、手続相互の移行に関する条文の中に規定するものとする(倒産法部会資料27第6参照。乙案も同じ。)。

イ 乙案
(ア)詐害行為(狭義)に関する否認の要件
<1> 次に掲げる行為は、破産宣告後、破産財団のために否認することができるものとする。(1) 破産者が支払の停止等の前に破産債権者を害することを知ってした行為(担保の供与又は債務の消滅に関する行為を除く。)。ただし、これによって利益を受けた者が、その行為の当時、破産債権者を害する事実を知らなかったときは、この限りでないものとする。(ii)破産者が支払の停止等があった後にした破産債権者を害する行為(担保の供与又は債務の消滅に関する行為を除く。)。ただし、これによって利益を受けた者が、その行為の当時、支払の停止等があったこと及び破産債権者を害する事実を知らなかったときは、この限りでないものとする。

<2> 破産者がした債務の消滅に関する行為であって、債権者が受けた給付の価額[債権者が受けた利益]が当該行為によって消滅した債権の額より大きいものについては、<1>と同様の取扱いをするものとする。

(イ)偏頗行為に関する否認の要件
<1> 破産者が既存の債務についてした担保の供与又は債務の消滅に関する行為は、その行為が支払不能になった後又は破産の申立てがあった後にされたものであり、かつ、債権者が、その行為の当時、次の(i)及び(ii)に掲げる区分に応じ、それぞれ(i)及び(ii)に定める事実を知っていたときは、これを否認することができるものとする。
(i) 当該行為が支払不能になった後にされたものである場合 支払の停止があったこと又は他の破産債権者との平等を害する事実
(ii) 当該行為が破産の申立てがあった後にされたものである場合 破産の申立てがあった事実

<2> <1>の行為が破産者の義務に属せず、又はその時期が破産者の義務に属しないものであって、当該行為の後30日以内に支払不能になったときは、これを否認することができるものとする。ただし、 債権者が、その行為の当時、他の破産債権者を害する事実を知らなかったときは、この限りでないものとする。

<3> <1>(i)及び<2>の適用については、支払の停止(破産の申立て前1年間のものに限るものとする。)があった後は、支払不能であるものと推定するものとする。

<4> <1>の適用については、<1>の行為が破産者の義務に属せず、又はその方法若しくは時期が破産者の義務に属しないものである場合には、債権者の主観的要件に関する証明責任を転換するものとする。

(注)
1 乙案は、狭義の詐害行為(財産減少行為)と偏頗行為とを分けて規定することとした上で、非義務行為(「その方法が破産者の義務に属しないもの」を除く。)に「ついては、支払不能後の行為だけでなく、その前30日以内にされた行為についても否認の対象とするものである。乙案をとる場合には、支払不能前30日よりも前にされた非義務行為についても、偏頗行為否認の可能性が全くないということになり、故意否認で対応することができる現行制度よりも否認できる範囲が狭まることになるおそれがあるが、この点についてどのように考えるか。

2(イ)<2>では、現行法上の非義務行為のうち、「破産者の義務に属せず、又はその時期が破産者の義務に属しないもの」については、危機時期を支払不能から30日間遡及させているのに対し、「その方法が破産者の義務に属しなし、もの」についてはこれを遡及させる取扱いとはしていない。これは、まず前者についてには、支払不能の直前にされる期限前弁済等は、特定の債権者が弁済期までの間負担すべき破産のリスクを他の破産債権者に転化するものであるから、これらの行為は債権者間の平等を図る観点から危機時期を遡及させる必要性が高いことを考慮したものである。これに対して、後者については、「その方法が破産者の義務に属しないもの」であっても、当該行為の当時・弁済期が到来しており(弁済期が到来していない場合には、「その時期が破産者の義務に属しないもの」として取り扱えば足りる。)、かつ、対価的均衡がとれているもの(対価的均衡がとれていないものについては、後記3のとおり、(ア)<2>が通用になる。)については、本旨弁済等の義務行為と同様の取扱いをするのが相当ではないかと考えたものである。(なお、支払不能後に非義務行為を否認する場合における債権者の主観的要件の証明責任の転換については、非義務行為から「その方法が破産者の義務に属しないもの」を除外することとはしていない。これは、危機時期にされた非義務行為は、特定の債権者をことさらに有利に扱っている点で、債権者間の公平を著しく害するものであることを考慮して、否認の要件を緩和したものであり、破産第72条第4号と同様の趣旨に基づくものである。)以上の点についてどのように考えるか。

3  債務の消滅に関する行為のうち、対価的均衡を欠く代物弁済等のように財産減少行為としての側面をも有する行為については、偏頗行為の否認の対象とならない時期における行為についても、詐害行為としては否認することができるものとしないと他の財産減少行為との間で均衡を欠くことになるから、(ア)<2>でその点の手当てをしている。なお。「担保の供与」については、被担保債権の額が担保物の価値を下回る場合であっても、基本的には清算義務があると解されるので、これについては詐害行為の否認の対象とはしていない。

(2) 適正価格による不動産等の売却等に関する否認の要件
<1> 破産者が不動産の売却その他の破産債権者を害する行為をした場合であっても、破産者がその行為の相手方から相当の対価を得ているときは、破産者が、その行為の当時、対価として取得したものについて、隠匿、無償の供与[特定の債権者に対する特別の利益の供与]その他の破産債権者を害する処分をする意思を有し、かつ、相手方が、その行為の当時、その意思を知っていた場合に限り、否認することができるものとする。

<2> <1>にかかわらず、<1>の行為が支払の停止等があった後にされたものである場合には、相手方が、その行為の当時、支払の停止等があったことを知っていたときも、否認することができるものとする。

(注)
1 意見照会においては、この類型による否認の対象となる財産に「その他の重要財産」を含めると、売買の目的物が動産や債権、知的財産権であっても、この類型による否認の対象となるおそれがあり、かえって、これらの取引に萎縮的効果が生ずるおそれがあるとの意見が複数寄せられたところである。しかしながら、この点については、判例においても、重要動産を適正価格で売脚した行為につき詐害行為取消権の行使を認めた事案が存在し、また、判例理論からすると破産者からの適正価格による債権譲渡も否認の対象となり得るとの指摘がされているところ、(2)の対象財産を不動産に限定した場合には、むしろ(1)による否認(否認の一般的要件又は詐害行為の否認)の対象となるおそれがあることとなって、かえって高い否認のリスクを負うことになるのではないかと考えられる。すなわち、(2)の否認は、(1)による否認(否認の一般的要件又は詐害行為の否認)の特則であって、その行為類型が適正価格によるものであることにかんがみ否認の要件を厳格化したものであるから、(1)による否認の対象となり得ない行為であるにもかかわらず、(2)で否認されるということはなく、逆に(1)による否認の対象となり得る行為については、(2)による否認の要件の厳格化によって否認のリスクが軽減されるという関係にあるものである。このような点からすると、この類型にこよる否認の対象となる財産を不動産に限定することは相当でないと考えられるが、どのように考えるか、

2 意見照会においては、破産者の主観的要件の例示として「特定の債権者に対する特別の利益の供与」を挙げている点について、この場合には 、当該債権者に対する偏頗行為の否認又は相殺の禁止によって対応すべきであって、その元となった適正価格売却を否認の対象とするのは相当でないとの意見が寄せられている。売買代金を弁済に充てた場合で、これが否認の対象となる場合については、売買代金を「有用の資」に充てたとの評価をすることはできないから、判例の基準によれば、当該売却行為は否認の対象となると考えられる。もっとも、当該債権者に対する偏頗行為の否認のほかに、その元となった適正価格による売却自体の否認を認める必要性がある場合としては、(a)不動産の買主の主観的要 件については証明が可能であるが、債権者の悪意を証明することができない場合や、(b)当該債権者の資力に不安がある場合等が考えられるが、これらの場合に否認を認める必要性及び相当性については疑問があるとの指摘もある。以上のような点を考慮すると、「特定の債権者に対する特別の利益の供与」を例示として取り上げることとはせずに、この点については解釈に委ねることも考えられるが、どうか。

3 意見照会においては、支払の停止等の後にされた行為についても、<1>の要件を満たす場合に限り否認を認めることとすべきであり、「支払の停止等があったことを知っていた」ことを理由する否認は認めるべきではないとの意見が寄せられている。しかしながら、支払の停止等があると、その直後に法的な倒産処理手続が開始される場合も想定され、債権者の引当財産として確実な財産を確保すべき必要性も高くなるものと考えられるのであるから、支払の停止等の後にされた行為であっても、<1>の要件を満たさない限り否認することができないとすることの相当性については疑問があるところである。また、上記の考え方も、支払の停止等の後にされた行為については、「支払の停止等があったこと」を知っていれば常に否認されるということを意図したものではなく、他の詐害行為の場合と同様、「破産債権者を害する行為」の解釈の中で、行為の目的・態様等を総合的に判断した上で、否認の可否が決せられることになるものと考えられる。以上のような点を考慮して、この点については中間試案の考え方を維持することとしているが、どのように考えるか。

(3)受益者が内部者である場合における証明責任の転換
(1)の場合(破産管財人が受益者の主観的要件に関する証明責任を負担する場合に限る。)及び(2)の適用については、受益者が次の(i)から(iii)までに掲げる者である場合には、受益者の主観的要件に関する証明責任を転換するものとする。
(i) 破産者の理事、取締役、執行役、監事、監査役、清算人又はこれらに準ずる者
(ii) 破産者との間に次に掲げる関係がある者
(イ)破産した株式会社の総株主の議決権の過半数を有する者
(ロ)破産した株式会社の総株主の議決権の過半数を商法第211条ノ2に規定する親会社及び子会社又は同条に規定する子会社が有する場合における当該親会社
(ハ)株式会社以外の法人が破産した場合における(イ)又は(ロ)に準ずる者
(i)破産者の親族又は同居者

(4) 転得者に対する否認の要件
転得者に対する否認の要件については、次のとおりとするとの考え方があるが、どのように考えるか。次の場合には、否認権は、転得者に対しても、行使することがができるものとする。
<1> 転得者が転得の当時、否認しようとする行為によって利益を受けた者に対する否認の原因(その者が、当該行為の当時、破産債権者を害する事実を知っていたことを除く。以下(4)において同じ。)のあることを知っていたとき。

<2> 転得者が(3)(i)から(iii)までに掲げる者であるとき。ただし、転得の当時、否認しようとする行為によって利益を受けた者に対する否認の原因のあることを知らなかったときは、この限りでないものとする。

<3> 転得者が無償行為又はこれと同視すべき有償行為によって藷得した場合において、否認しようとする行為によって利益を受けた者に対する否認の原因があるとき。

(注)
1 意見照会においては、転得者の前者の主観的要件を不要とする方向で検討することについて寄せられた意見のすべてが賛成意見であった。

2 現行の破産法においては、転得者に対する否認の要件が「転得者力転得ノ当時各其ノ前者二対スル否認ノ原因アリコトヲ知リタルトキ」(第83条第1項第1号)という表現になっていることもあり、転得者の前者についても否認の要件が具備していることが転得者に対する否認の要件になると解する見解が多数説であると考えられる。これに対して、詐害行為取梢権については、判例は、転得者に対して民法上の詐害行為取消権を行使する場合には、転得者が悪意であれば、受益者が善意であったとしても、詐害行為取消権を行使することができる旨の判示をしている(最判昭和49年12月12日金融法務事情743号31頁)。上記の転得者に対する否認の要件についての多数説及び詐害行為取消権に関する上記判例を前提とすると、転得者に対する関係では、否認権の方が詐害行為取消権よりも要件が厳格化されていることになって不均衡であると考えられる。また、否認権の効果は、破産管財人と相手方との間で相対的に生ずるにすぎないと一般に解されており、受益者や転得者の悪意は、取引の安全を図るための要件であると考えれば、受益者や転得者の前者に善意の者がいるとしても否認権行使の相手方である転得者本人が悪意であれば否認権の行使を認めたとしても不当ではないと考えられる(上記の見直しをする場合には、転得者から受益者に対して追奪担保責任(民法第561条)を追及することはできないとの解釈がされることになるのではないかと考えられる。)。もっとも、上記の判例の考え方とは異なり、善意の受益者の処分の機会を確保し、法律関係の安定を図る等の観点から、いったん善意者が現れた以上は、債権者はもはや詐害行為取消権を行使することができないと解する見解も学説上有力であること等を考慮すると、この点については慎重に検討すべきであるとの指摘もある。以上の点について、どのように考えるか。

3 現行法の下では、転得者に対して否認権が行使された場合には、当該転得者は、その前者に対して追奪担保責任を追及するか、これを被保全債権として受益者の有する反対給付返還請求権等を代位行使することができると解されているようである。しかしながら、上記の見直しをする場合には、少なくとも、転得者の前者が善意である場合には追奪担保責任を追及することができないとの解釈がされることになるものと考えられる(注2参照)ので、追奪担保責任があることを前提とする上記の構成をとることはできないと考えられる。したがって、上記の見直しをする場合には、転得者に対する否認がされた場合における転得者の権利行使の方法についても手当てをする必要があると考えられる(転得者がその前者に対してした給付の価額の限度で、受益者と同様の権利を行使すること.ができるものとすること等が考えられる。)が、どのように考えるか。

(否認権の要件関係後注)
再生手続及び更生手続においても、同様の手当てを行うものとする。


2 破産法第84条における基準時
破産の申立てがあった日より1年以上前にした行為は、[支払の停止の事実を知っていたこと][支払の停止があった後にされたものであること]を理由として否認することができないものとする、

(注)
1 意見照会においては、寄せられた意見のほとんどが中間試案の考え方に賛成するものであった。もっとも、破産法第84条は、支払の停止が破産宣告の日より1年以上前のものである場合には、当該支払の停止と破産宣告との間の因果関係が希薄化する点を考慮したものであるといわれているところ、このような制度趣旨からすると、否認権の行使を制限する場合を「支払の停止の事実を知っていたこと」を理由とするものに限定する必然性はなく、「支払の停止」を要件とする否認を一般的に制限するのが相当であるとの指摘がある。具体的には、中間試案の考え方によると、破産の申立てがあった日より1年以上 前に支払の停止があり、その後否認の対象となる行為がされた場合において、受益者が破産債権者を害する事実を知っていたときは、破産者の詐害意思の証明を要せずに否認をすることができることになると考えられるのに対して、上記の考え方によると、この場合には、破産者の詐害意思の証明を要することになる点に違いがあると考えられる。上記の点について、どのように考えるか。

2 倒産手続相互間の移行がされた場合には、先行する手続開始の申立時を基準時とするものとする。

3 否認権の行使方法
破産手続において、破産管財人は、否認の請求の方法(民事再生法第135条から第137条まで参照)によっても否認権を行使することができるものとする。

4 否認の訴え及び否認の請求事件の管轄
否認の訴え及び否認の請求事件は、破産裁判所が管轄するものとする(民事再生法第135条第2項参照)。

(否認権関係後注)
詐害行為(狭義)(1(2)の対象となる行為を含む。以下同じ。)の否認の効果について、次のとおりとするとの考え方があるが、どのように考えるか。

<1> 詐害行為(狭義)が否認されたときは、相手方は、次の(i)又は(ii)に掲げる区分に応じ、それぞれ(i)又は(ii)に定める権利を行使することができるものとする。

(i) 破産者の受けた反対給付が破産財団中に現存する場合 当該反対給付の返還を請求する権利
(ii) 破産者の受けた反対給付が破産財団中に現存しない場合 財団債権として反対給付の価額の償還を請求する権利

<2> <1>(ii)にかかわらず、詐害行為(狭義)が否認された場合において、次の(i)又は(ii)に掲げる要件を満たすときは、相手方は、破産者の受けた反対給付によって生じた利益が破産財団に現存する部分に限り、財団債権者としてその現存利益の返還を請求することができるものとし、その利益が破産財団に現存しない部分については、破産債権者としてその価額の償還を請求することができるものとする。

(i) 破産者が、その行為の当時、対価として取得したものについて、隠匿、無償の供与[特定の債権者に対する特別の利益の供与]その他の破産債権者を害する処分をする意思を有し、かつ、相手方が、その行為の当時、その意思を知っていたとき。
(iii)相手方が、その行為の当時、支払の停止等があったことを知っていたとき。

<3> 詐害行為(狭義)が否認されたことによって、相手方が破産財団に属する財産を返還する義務を負担する場合には、相手方は、当該財産の価額から<1>又は<2>によって財団債権となる額を控除した額を破産管財人に弁償して当該財産の返還を免れることができるものとする(民法第1041条第1項参照)。

(注)
1 <1>及び<2>について
意見照会においては、財産減少行為や適正価格売却等が否認された場合の効果について見直しをすべきであるとの意見が相当数寄せられたところである。現行法の下では、財産減少行為や適正価格売却等が否認された場合の効果については、(a)破産者の受けた反対給付が破産財団に現存する場合には、当該反対給付の返還を求めることができる、(b)破産者の受けた反対給付によって生じた利益が破産財団に現存する場合には、現存利益の返還を財団債権として請求することができる、(c)破産者の受けた反対給付によって生じた利益が破産財団に現存しない場合には、破産者の受けた反対給付の価額の償還を破産債権として行使することができるものとされている(破産法第78条)。したがって、相手方は、(c)の場合には、当該行為の時点で適正価格により当該 財産を買い受けること等により否認の対象とならない取引をしていた場合以上に損害を被ることになると考えられる。このように、相手方が、自らの与り知らない行為後の事情(破産者が受けた反対給付の使途等)によって、破産手続における地位が大きく異なることとなるのは、相当でないと考えられる。また、現行法の下では、破産者の受けた反対給付によって生じた利益が破産財団に現存しなかった場合のリスクが大きいため、このことが取引に対する萎縮的効果をもたらすおそれがあるものと考えられる。他方、破産則財団にとってみれば、例えば廉価売却の場合であれば、当該財産の適正な価格から当該売買代金の差額について償還を受ければ損害はないはずである(相手方が破産者の費消・隠匿等の意図を知っていた場合については後述する。)。この場合に、売買代金の全部又は一部につき破産財団に現存利益がないときは、破産財団はその分減少することになるが、このような損害は、仮に、適正価格で売却をしていた場合であっても生ずるのであるから、この減少分についてまで相手方の負担とするのは相当でないと考えられる。そこで、<1>では、反対給付の価額の償還を請求する権利についてには破産財団に利益が現存するか否かにかかわらず財団債権としているが、この点についてどのように考えるか。もっとも、否認の相手方が、破産者の費消・隠匿の意図や支払の停止等の事実があったことを知っていた場合にまで、破産財団に利益が現存しない部分を財団債権とするのは相当ではなく、また、これを財団債権としたのでは適正価格による売却等の否認を認める意味がないと考えられることから、<2>でには相手方が、破産者の費消・隠匿等の意図を知っており、又は支払の停止等の事実を知っていた場合には、財団債権の範囲を現存利益に限定しているが、この点についてどのように考えるか。

2 <3>について
(1)概要
意見照会においては、詐害行為の否認の効果について、相手方は適正価格と取引価格との差額を償還することによって否認を免れることができるものとし、破産管財人も差額請求を選択することができるものとすべきであるとの意見が複数寄せられたが、このような意見は、廉価売却の否認等否認権の行使によって相手方が否認の対象となった財産の返還義務を負う場合を念頭に置いたものであると考えられる。この点については、破産管財人としては、反対給付の価額を償還した上で財産の返還を受けても、結局それを換価する必要があるのであるから、むしろ、適正価格と反対給付の差額分の償還を受けた方が迅速に管財実務を遂行することができるものと考えられる。もっとも、相手方が現物の返還を希望する場合にまで破産管財人からの差額請求を認めると、相手方に適正価格における売買契約等の締結を強制するのと同様の効果を生じさせることになって相当ではないと考えられる。そこで、相手方が差額分等の償還をすることによって財産の返還を免れることを希望した場合(いわば適正価格による買受けを希望した場合)に限って、このような処理をすることができるものとするのが相当であると考えられるが、どうか(民法第1041条では、遺留分減殺請求権を行使された受遺者等は、減殺を受ける限度において、遺贈等の目的の価額を遺留分減殺権利者に弁償することにより現物の返還義務を 免れることができることとされている。)。

(2) 詐害行為取消権との関係
詐害行為取消権について、判例は、現物返還が可能な場合にはできるだけその方法によるべきであるとしているので、否認権の場合に差額の償還請求を認めることが民法との整合性の観点から問題がないか検討する必要がある。この点については、詐害行為取消権においては、取消しの結果相手方が金銭の支払義務を負う場合には、取消債権者は直接自己に支払うよう請求することができ、その結果、取消債権者はこの金銭についての不当利得返還請求権と被保全債権との相殺をすることにより事実上優先弁済を得ることができることになるとされているので、このような結果をできるだけ回避するため現物返還を原則としているとの指摘もされている。これに対して、否認権についいては、 価額賠償を認めたとしても、破産管財人が金銭を受領してこれを全破産債権者の配当原資とするのであるから、上記のような問題点は存在しない。したがって、否認権について上記のような制度を設けたとしても、必ずしも詐害行為取消権の取扱いと整合性を欠くことにはならないと考えられるが、どうか。

第5 担保権等の倒産手続上の取扱い

1 譲渡担保権者の破産
譲渡担保権設定者の目的財産の取戻しの制限を定めた破産法第88条の規定は、削除するものとする。
(注)
再生手続及び更生手続においても、同様の手当てを行うものとする。

2 共有者の別除権
共有に関する債権を有する他の共有者に別除権を認めた破産法第94条の規定は、削除するものとする。

(担保権等の倒産手続上の取扱い関係後注1)
中間試案(第3部、第5・担保権等の倒産手続上の取扱い関係後注1)では、留置権の倒産手続上の取扱いについて、民事留置権は、再生手続及び更生手続においても手続の開始により効力を失うものとする考え方(破産法第93条第2項参照)を掲げ、その当否につついては、担保執行法制部会における留置権の効力に関する検討状況を踏まえ、なお検討するとしていた。意見照会の結果では、寄せられた意見数自体がそう多くはないものの、失効するとの考え方に賛成する意見が複数ある一方、それを上回る数の反対意見があった。賛成意見は、破産手続における取扱いとの統一を図ること、再建型手続において民事留置権についての規定がないために、弁済も、目的物の取戻しもできず、事業の再生に支障を来している状況に手当てする必要があることを理由とする。これに対し、反対意見は民事留置権と商事留置権とで破産手続における取扱いが異なることが当を得ないこと、債権と物との間に牽連性がなく目的物の範囲が広範にわたる商事留置権よりも民事留置権の方が別除権としての保護に値すること、建設請負契約における請負人の報酬債権の保護方法として民事留置権に意義があること等を理由とし、むしろ倒産処理手続において民事留置権を特別の先取特権とみなす旨を規定すべきであるとする。担保・執行法制部会における検討との関係でも、意見は二様に分かれ、同部会における議論を踏まえて検討すべきであるとの意見が複数示される一方、担保・執行法制の見直しの場合とは異なるとする意見もあった。担保・執行法制部会では、留置権の効力に関し、留置権者に優先弁済権を与えるものとする考え方についてなお検討することが、中間試案において掲げられていた(「担保・執行法制の見直しに関する要綱中間試案」第1・1(1)参照)が、この点については、他の競合する権利との間の優劣関係の規律や競売申立権の付与の是非等なお多くの問題について検討を尽くす必要があり、今次の担保・執行法制の見直しにおいて成案を得ることは困難であることから、見直し、をしないこととされている。(a)上記のとおり、民事留置権の倒産処理手続における処遇については、意見照会の結果でも、見解の一致をみるには至っていないこと、(b)あるべき留置権の効力をめぐる実体法上の議論もいまだ十分に固まっているとはいえないこと、(c)倒産処理手続において、民事留置権についても特別の先取特権とみなし、商事留置権と同様の取扱いとするとすれば、従来の民事留置権の取扱いを大きく変えることになるため、破産財団の減少に伴う実務上の支障をはじめ、それによって生じ得る問題点や波及的効果について、慎重に吟味する必要があること、(d)目的物と被担保債権との間に牽速関係の要求される民事留置権の場合には、商事留置権に比し、目的物の範囲が限定される結果、再生手続及び更生手続において、その効力(留置的効力)の継続によってもたらされる支障も、比較的小さいものと考えられなくもないことからすると、倒産処理手続における民事留置権の処遇については、特段の手当てをしないものとすることが考えられるが、どうか。

(担保権等の倒産手続上の取扱い関係後注2)
中間試案(第3部・第5・担保権等の倒産手続上の取扱い関係後注2)では、破産管財人が動産の先取特権(民法第322条等)の目的動産を任意売却した場合について、動産の先取特権者が、破産手続において、破産管財人に対し、売却代金につき優先弁済を求めることができるものとする考え方を掲げ、その当否については、担保・執行法制部会における動産の先取特権の行使方法の整備に関する検討状況を踏まえ、なお検討するとしていた。意見照会の結果では、この考え方に賛成する意見が多数であったが、管財業務に遅滞・支障を来すこと、 一般債権者の利益を害し、動産先取特権者を不当に厚遇することになること、そもそも公示のない動産先取特権に大きな保護を与える必要性が認められないこと等を理由として、反対する意見も相当数あった。この点に関しては、「担保物権及び民事執行制度の改善のための民法等の一部を改正する法律案」において、動産を目的とする担保権の実行としての競売(動産競売)の開始要件を見直し、執行裁判所は、担保権の存在を証する文書を提出した債権者の申立てがあったときは、当該担保権についての動産競売の開始を許可することができるものとすること、動産競売は、債権者が執行官に対し、当該動産を提出し、又は占有者の差押承諾文書を提出した場合のほか、上記の許可がされた場合にも開始するものとすることとされている(「担保物権及び民事執行制度の改善のための民法等の一部を改正する法律案要綱」第三・十三「動産競売」、「担保物権及び民事執行制度の改善のための民法等の一部を改正する法律案」第三条(民事執行法第百九十条関係)参照)。中間試案に掲げた考え方及びそれに賛成する意見は、現行の民事執行法上の動産競売の開始要件の下では、動産の先取特権者は事実上実行をし得ない状況にあり、民法上先取特権が付与された趣旨が十分に実現されないとの問題意識を基礎とするが、このような問題状況自体が、上記の民事執行法の改正により、相当に解消されることになり、その結果、強いて、破産手続において動産先取特権の実効性を確保するための特別の措置を設けるべきであるとするまでの事情は存在しないこととなるものと解される。したがって、この点については、上記民事執行法の改正がされることを前提に、破産法において特段の手当てをしないものとすることで、どうか。

(参考) 「担保物権及び民事執行制度の改善のための民法等の一部を改正する法律案」第三条(民事執行法第百九十条関係)第百九十条を次のように改める。

(動産競売の要件)
第百九十条 動産を目的とする担保権の実行としての競売(以下「動産競売」という。)は、次に掲げる場合に限り、開始する。
一  債権者が執行官に対し当該動産を提出した場合
二  債権者が執行官に対し当該動産の占有者が差押えを承諾することを証する文言を提出した場合
三  債権者が執行官に対し次項の許可の決定書の謄本を提出し、かつ、第百九十二条において準用する第百二十三条第二項の規定による捜索に先立って又はこれと同時に当該許可の決定が債務者に送達された場合

2 執行裁判所は、担保権の存在を証する文書を提出した債権者の申立てがあったときは、当該担保権についての動産競売の開始を許可することができる。ただし、当該動産が第百二十三条第二項に規定する場所又は容器にない場合は、この限りでない。

3 前項の許可の決定は、債務者に送達しなければならない。

4  第二項の申立てについての裁判に対してには 執行抗告をすることができる。

第6 相殺権

1 破産管財人の催告権
<1> 破産管財人は、[債権届出期間が満了した後は][債権調査期間の末日又は一般の債権調査期日が経過した後は、]破産法第98条又は第99条の規定により相殺をすることができる破産債権者に対し、1月以上の期間を定め、その期間内に当該破産債権について相殺をするか否かを確答すべき旨を催告することができるものとする。ただし、破産債権者の負担する債務が弁済期にあるときに限るものとする。

<2> <1>の催告があった場合において、破産債権者が<1>で定めた期間内に相殺をしないときは、破産債権者は、当該破産債権にてついての相殺をもって他の破産債権者に対抗することができないものとする。

(注)
1 意見照会においては、例えば、割引手形の買戻請求権を自働債権とする相殺については、期日未到来の手形のうちどれが決済されるか不明であり、破産宣告後間もない時期に破産管財人から催告がされると、自働債権とする買戻請求権を適切に選択することができなくなること等を理由として、破産管財人が催告をすることができる時期につき制限を設けるべきであるとの意見が複数寄せられた。中間試案の考え方は、破産手続の場合には、再建型の倒産処理手続の場合と比較して、相殺権の行使を時期的に限定すべき必要性が高くないこと等を考慮して、一律に相殺権行使の時期的制限を設けることとはせず、破産手続の円滑な進行を図る観点から相殺権を有する破産債権者に対する催告・失権の制度を設けることとしたものである。このような制度趣旨からすると、破産管財人が破産宣告後間もない時期に催告をすることによって、結果的に再建型の手続の場合以上に相殺権の行使が制限されることになるのは相当でないと考えられるから、破産管財人が催告をすることができる時期を限定するのが相当であると考えられるが、どうか。仮に、破産管財人の催告の時期に制限を設けるとする場合には、(a)債権届出期間満了後に限る考え方や、(b)債権調査期日又は債権調査期間の末日の経過後に限る考え方等があり得ると考えられるが、この点についてどのように考えるか。

2 同時処分において債権調査期間等を定めないこととした場合の取扱いについては、なお検討する(倒産法部会資料30・第10・2(2)注2参照)。

2 破産管財人による相殺
破産管財人は、破産財団に属する債権をもって破産債権と相殺することが破産債権者の一般の利益に適合するときは、裁判所の許可を得て、相殺をすることができるものとする。(注)
1 意見照会においては、寄せられた意見のほとんどが中間試案の考え方に賛成するものであった。

2 再生手続及び更生手続についても、同様の手当てを行うものとする。

3 相殺禁止の範囲の見直し
相殺禁止の範囲については、次のとおりとするとの考え方があるが、どのように考えるか。
(1) A案
次に掲げる場合には、相殺をすることができないものとする。
<1> 破産債権者が破産宣告後に破産者に対して債務を負担したとき。
<2> 破産債権者が、支払不能になった後又は破産の申立てがあった後に破産者に対して債務を負担したとき。ただし、破産債権者が、その当時、
(i) 当該債務の負担が支払不能になった後のものである場合にあっては、支払の停止があったこと又は他の破産債権者との平等を害する事実
(ii) 当該債務の負担が破産の申立てがあった後のものである場合にあっては、破産の申立てがあった事実をそれぞれ知っていたときに限るものとする。
<3> 破産者に対して債務を負担する者が破産宣告後に他人の破産債権を取得したとき。
<4> 破産者に対して債務を負担する者が、支払不能になった後又は破産の申立てがあった後破産債権を取得したとき。ただし、破産者に対して債務を負担する者が、その当時、(i) 当該破産債権の取得が支払不能になった後のものである場合にあっては、支払の停止があったこと又は他の破産債権者との平等を害する事実
(ii)当該破産債権の取得が破産の申立てがあった後のものである場合にあってには 破産の申立てがあった事実をそれぞれ知っていたときに限るものとする。
<5> 破産債権者の債務の負担又は破産者に対して債務を負担する者の破産債権の取得が支払の停止(破産の申立て前1年間のものに限るものとする。)の後にされた場合には、その当時支払不能であったものと推定するものとする。
<6> <2>又は<4>は、破産債権者の債務の負担又は破産者に対して債務を負担する者の破産債権の取得が次に掲げる原因に基づくときは、適用しないものとする。

(i) 法定の原因
(ii) 破産債権者又は破産者に対して債務を負担する者が支払の停止若しくは破産の申立てがあったこと又は他の破産債権者との平等を害する事実を知った時より前に生じた原因
(ii) 破産の申立てがあった時より1年以上前に生じた原因

(注)
1 A案は、中間試案に注記した考え方を具体化したものである。この考え方は、相殺の前提となる債権・債務の対立関係の発生はその時点における担保の供与と同視すべきものであり、相殺の禁止規定は危機否認(偏頗行為の否認)の規定とその趣旨を同じくするものであるところ、担保の供与等の偏頗行為について支払不能で危機時期を画するのが債権者間の平等の観点から適切であるとすると、相殺の禁止についても同様に考えるのが適切であること等をその根拠とするものである。

2 意見照会においては、相殺の禁止の場合についても危機時期を支払不能で画することについては、賛成意見と反対意見とが拮抗していた。このうち、反対意見は、新たな取引による債務負担や債権取得行為に対して萎縮的効果が生ずるおそれがあるという点等を理由とするものである。

(2) B案
破産法第104条第2号又は第4号の場合のほか、次に掲げる場合にも、相殺をすることができないものとする。

<1> 破産債権者が、支払不能になった後破産者との間で破産者の財産の処分を内容とする契約により債務を負担し、又は破産者の債務者の債務を引き受けた場合であって、その当時、他の破産債権者との平等を害する事実を知っていたとき。

<2> 破産者に対して債務を負担する者が、支払不能になった後他人の破産債権を取得した場合であって、その当時、他の破産債権者との平等を害する事実を知っていたとき。

<3> <1>又は<2>に規定する破産債権者の債務の負担又は破産者に対して債務を負担する者の破産債権の取得が次に掲げる原因に基づくときは、適用しないものとする。
(a) 法定の原因
(b)破産債権者又は破産者に対して債務を負担する者が他の破産債権者との平等を害する事実を知った時より前に生じた原因
(c)破産の申立てがあった時より1年以上前に生じた原因

(注)
1 B案は、相殺の禁止の場合には、支払不能によって危機時期を画することによる萎縮的効果が偏頗行為の否認の場合に比して大きいことを考慮して、支払不能によって危機時期を画する場面を、特に相殺を制限する必要性が高く、かつ、萎縮的効果が生ずるおそれが少ないと考えられる類型に限定する考え方である。
ア 第104条第2号に規定する場合
同号に規定する場合については、(a)破産者と破産債権者との間の新たな取引等によって債務が発生し、又は破産債権者が破産者の債務者の債務を引き受けた場合等、破産債権者の積極的作為による債務負担の場合と、(b)破産債権者の積極的作為によらずに 破産債権者が債務を負担する場合等が考えられ、それぞれ問題状況が異なると考えられるので、以下場合を分けて検討する。
(1)(a)の場合
このうち、破産者と破産債権者との間の新たな取引等によって債務が発生した場合については、破産者が債権の取得の対価(売買の目的物等)によって代物弁済に供したのと同視すべき場合が多いと考えられるので、支払不能後の代物弁済を否認の対象とするのであれば、この場合の相殺も禁止することとしないと均衡を失するものと考えられる。また、破産債権者が破産者の債務を引き受けた場合についても、これによって既に実価の低下していた既存の破産債権が全額の満足を受けることになるが、この場合はいわば、後述するイ(b)(破産者の債務者が他人の破産債権を譲り受けた場合)と表裏の関係にあるから、この場合と同様に支払不能によって危機時期を画する必要性が高い場面であるといえる。そこで、 B案では、この類型については、基本的に支払不能によって危機時期を画するものとしている。
(2)(b)の場合
この場合の典型例は、銀行が、破産者に対する債権と破産者の取引先が破産者の銀行口座に振込みをしたことによって生じた債務とを相殺する場合であり、この場合も支払不能によって危機時期を画することとすると、これまでの融資慣行を変更せざるを得なくなることから、倒産を早期化させるおそれがあるとの指摘がされている。仮に、支払不能によって危機時期を画することとした場合であっても、「前に生じたる原因」に該当するのであれば、相殺は禁止されないことになるが、現行法における「前に生じたる原因」は、具体的な相殺期待を生じさせる程度に直接的なものに限られ、第2号の場合についていえば、当座預金契約等に基づき開設された破産者の銀行預金口座に第三者が振込みをしたというだけでは、これに該当しないものと一般に解されている(最判昭和60年2月26日金融法務事情1094号38頁等)。この点に関しては、現在の取引実務においては、キャッシュフローを重視した信用供与が行われているといわれており、特に多数の取引が継続的に行われているような場合には、キャッシュフローの分析によって、債権の取得又は債務の負担について特定性がない場合であっても、相殺に対する合理的期待を認めるべき場合(いつ、誰から銀行口座に振込みがあるかは具体的に特定できないが、一定額の振込みがあることが確実であると認められる場合等)があり得るようにも思われる。このような点を考慮すると、相殺の禁止についての危機時期を支払不能によって画することとする場合には、上記のような問題点がより深刻なものとして顕在化することになるが、萎縮的効果が生じない程度にまで「前にこ生じたる原因」の内容を明確化することは困難であると考えられる。そこで、 B案では、以上の点を考慮して、この類型については、支払不能によって危機時期を画することとはせずに、これによって不当な結論が生ずる場合については権利濫用等の一般条項によって対応することとしたものであるが、この点についてどのように考えるか。

イ 第104条第4号に規定する場合
同号に規定する場合についても、(a)破産者の債務者と破産者との間で新たに債権が発生した場合(他人の破産債権の譲受けではない場合)と(b)破産者の債務者が他人の破産債権を譲り受けた場合とではそれぞれ問題状況が異なるので、以下場合を分けて検討する。 (1)(a)の場合
この場合は、既に存する破産者に対する債務をいわば担保として、新たに債権を取得したものと評価することができる場合が多く、少なくとも、当該債権者は一度も一般債権者としての地位には立っていないということができる。したがって、偏頗行為の否認の対象から同時交換的行為を除外するのが相当であるとの結論をとるのであれば、この場合についても支払不能によって危機時期を画するのは必ずしも相当でないと考えられる。そこで、 B案では、この類型については支払不能によって危機時期を画することとはしていない。
(2)(b)の場合
この場合には、破産者の債務者が既に発生している破産債権を譲り受け、これを相殺に供することによって既に実価の低下していた既存の破産債権が全額の満足を受けることになる。この場合の相殺を禁止しないと、破産者の債務者が破産債権を安価に譲り受けること等によって自己の債務を免れることが可能となるので、偏頗行為の否認と同様の要件で相殺を禁止するのが相当であると考えられ、また、この場合の相殺を禁止したとしても、相殺の担保的機能に対する信頼が害されるおそれは少ないのではないかとも考えられる。そこで、 B案では、この類型については支払不能によって危機時期を画することとしている。

(相殺禁止の範囲の見直し全体の注)
1 相殺の担保的機能に対する信頼に与える影響
A案及びB案の考え方については、後記のとおりの問題点があることから、相殺の禁止の危機時期については現行法のとおりにするものとし、それによって債権者間の平等が不当に害されるような事例については権利濫用等の一般条項によって対応するとの考え方があるが、どのように考えるか。現行の破産法第104条では、危機否認の場合とは異なり、危機時期に債権・債務の対立関係が生じた場合であっても、当該債務の負担又は債権の取得が「前に生じたる原因」(第104条第2号ただし書、第4号ただし書)に基づくものであるとき、すなわち相殺の合理的期待があると認められる場合には、相殺禁止の例外とされている。このように、相殺の禁止についてはその例外事由が規定上明示されているが、これは、相殺の禁止の場合には、否認の場合とは異なり、裁判所が事後的に相殺の有効性を判断するという構造をとっていないことに基因するものであると考えられる。このような相殺の禁止と否認の判断構造の差異にかんがみると、相殺の禁止の例外事由については、より明確性が要求されると考えられるが、「前に生じたる原因」については、判例の集積もさほど多くなく、合理的期待がある相殺か否かを分ける基準としてやや明確性に欠けるきらいがあるようにも思われる。このような要件の下でも、現行の実務において相殺の担保的機能に対する取引関係者の信頼がさほど害されていないと考えられるのは、判例が相殺の否認を否定し、「支払の停止等止という明確な基準で危機時期を画している点が大きいものと考えられる。すなわち、明確な基準で危機時期を画していることが相殺の禁止の除外事由の抽象性を補っているものとも考えられる。そうだとすると、相殺の禁止における危機時期を前倒しし、支払不能によってこれを画することとする場合には、取引に対する萎縮的効果を除去するために相殺に対する合理的期待があると認められる場合とそうでない場合とをより具体的かつ明確な基準で画することが必要になると考えられるが、このような要件を設定することは困難であると考えられる。また、相殺の禁止における危機時期を支払不能によって画することとする場合には、融資を行う金融機関等とすれば、結局その前の段階で担保を要求することになると考えられるが、そうなると担保に供すべき財産がない者が融資を受ける機会を奪うことになるおそれもある。

2 再建型の手統から破産手続への移行があった場合における相殺禁止の要件については、「相殺権」の章ないし節ではなく、手続相互の移行に関する条文の中に規定するものとする(倒産法部会資料27第6参照)。

3  相殺禁止の例外について定めた破産法第104条第2号ただし書及び第4号ただし書では、「1年」の基準時を「破産宣告時」としているが、ここではこの基準時を「破産の申立て」とする考え方を掲げている。これは、破産の申立てから破産宣告までの審理期間の長短によって相殺禁止の範囲が異なることとなるのは相当でないことを考 慮したもの(破産法第84条の見直し(第4・2)参照)であるが、どのように考えるか。