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【第一次案】第1部 破産手続

第1 総則

1 管轄の特例

(1)親法人とその子会社

<1> 法人が、株式会社の商法の規定により計算される総株主の議決権の過半数又は有限会社の有限会社法の規定により計算される総社員の議決権の過半数を有する場合において、当該法人(以下「親法人」という。)について破産事件が係属しているときは、当該株式会社又は当該有限会社(以下「子会社」という。)についての破産の申立ては、親法人の破産事件が係属している地方裁判所にもすることができるものとする。子会社について破産事件が係属しているときにおける親法人についての破産の申立てについても同様とするものとする(民事再生法第5条第3項、会社更生法改正案第5条第2項第2号及び第3号参照)。

<2> 他の株式会社の商法の規定により計算される総株主の議決権の過半数を親法人及び子会社又は子会社が有するときは、<1>の適用については、当該株式会社も当該親法人の子会社とみなすものとする。他の有限会社の有限会社法の規定により計算される総社員の議決権の過半数を親法人及び子会社又は子会社が有するときも、同様とするものとするものとする(会社更生法改正案第5条第2項第2号及び第3号、商法第211条ノ2第3項参照)。

(注) <2>については、再生手続においても、同様の手当をするものとする。

(2)商法特例法上の大会社とその連結子会社
株式会社の監査等に関する商法の特例に関する法律(以下.「商法特例法」という。)第1条の2第1項に規定する大会社について破産事件が係属している場合には、当該大会社(以下「連結親会社」という。)の同条第4頃に規定する連結子会社(当該連結親会社の直前の決算期において商法特例法第19条の2又は第21条の32の規定により当該連結子会社に係る連結計算書類が作成され、かつ、定時総会において当該連結計算書類が報告されたものに限る。以下「連結子会社」という。)についての破産の申立ては、 連結親会社の破産事件が係属している地方裁判所にもすることができるものとする。連結子会社について破産事件が係属している場合における連結親会社についての破産の申立てについても、同様とするものとする〈会社更生法改正案第5条第2項第4号及び第5号)。

(注) 再生手続においても.同様の手当てを行うものとする。

(3)法人とその代表者
法人について破産事件が係属している場合には、当該法人の代表者についての破産の申立ては、当該法人の破産事件が係属している地方裁判所にもすることができるものとする。法人の代表者について破産事件が係属している場合における当該法人についての破産の申立てについても、同様とするものとする(民事再生法第5条第4項参照)。

(後注)相互に連帯債務者の関係にある個人等について民事再生法第5条第5項に規定する個人の再生手続の管轄の特例に相当する規定を設けるものとするか否かについては、(a)破産手続には、再生手続とは異なり、経済的に密接な関係を有する者について一体的な再生計画を作成することにより再生の実効性を確保するといった要請は少ないと考えられることから、管轄の特例を設けないものとする。(b)破産手続には、(a)のような要請はないものの、経済的に密接な関係を有する者には債務の発生原因となる事実が共通する部分も多いと認められ、その共通する部分に関する債権調査等の手続を-回で済ませるという利点も一方であることから、管轄の特例を設けるものとし、その競合管轄を拡大するものとする、(c)原則的な管轄として規定するまでの必要性は認められないが、(b)と同様に、個々の事案における手続経済上の利点をも考慮するという観点から、移送先としてのみ管轄権を有するものとして、薯しい損害又は遅滞を避けるために必要があると認める場合(民事再生法第7条参照)に限って、一般的な移送の要件で対処するものとするなどの考え方があり得る。これらの考え方のうち(b)については、債務者の原則的な管轄の利益を上回る手続経済上の利益があるか、債務者の住所地から遠隔の地に管轄が認められる場合には、著しい損害又は遅滞を避けるためという一般的な移送の規定で対応することができるか等の問題点があるが、これらについてどのように考えるか.

(4)複数の管轄裁判所の調整
原則的管轄(破産法第105条参照)、財産所在地の管轄(同法第107条第1項及び第2項参照)又は(1)から(3)までの規定により二以上の裁判所が管轄権を有するときは、破産事件は、先に破産の申立てがあった裁判所が管轄するものとする(民事再生法第5条第6項、会社更生法改正案第5条第3項参照)。

2 移送
裁判所は、著しい損害又は遅滞を避けるため必要があると認めるときは、職権で、破産事件を次に掲げる地方裁判所のいずれかに移送することができるものとする(民事再生法第7条、会社更生法改正案第7条参照)。
(i)債務者の主たる営業所又は事務所以外の営業所又は事務所の所在地を管轄する地方裁判所
(ⅱ)債務者の住所又は居所の所在地を管轄する地方裁判所
(ⅲ)財産所在地の管轄(破産法第107条第1項及び第2項参照)に規定する地方裁判所
(ⅳ)1の(1)から(3)までに規定する地方裁判所
(v)1の(1)から(3)までの規定により(iv)の地方裁判所に破産事件が係属しているときは、原則的管轄(同法第105条参照)又は財産所在地の管轄に規定する地方裁判所

3 不服申立て
破産手続、免責手続及び復権手続(以下 「破産法の定める手続」という。)に関する裁判につき利害関係を有する者は、破産法に特別の定めがある場合に限り、当該裁判に対し即時抗告をすることができるものとする。その期間は裁判の公告があった場合には、その公告が効力を生じた日から起算して2週間とするものとする(民事再生法第9条、会社更生法改正案第9条参照)。
(注) 即時抗告の可否につき再生手続及び更生手続と破産手続とで取扱いが異なる裁判 については、所要の整備をするものと、必要な規定を設けるものとする。

4 送達及び公告
(1)送達すべき裁判
破産法の定める手続に関する裁判のうち、送達すべきものは、個別に規定するものとする(破産法第111条の規定は削除するものとする。)(民事再生法第10条第3項、会社更生法改正案第10条第3項参照)。

(2)公告等をすべき場合の取扱い
<1> 破産法の定める手続に関する裁判のうち、現行の破産法において公告及び送達をしなければならないとされているもの(破産法第118条参照)については、公告及び通知(民事訴訟規則第4条第1項参照)をしなければならないものとする。
<2> 破産法の規定によって送達をしなければならない場合には、公告をもって、これに代えることができるものとする。ただし、破産法の規定によって公告及び送達をしなければならない場合は、この限りでないものとする (民事再生法第10条第3項、会社更生法改正案第9条第3項参照)。
<3> <1>及び<2>は、特別の定めがある場合には、適用しないものとする(民事再生法第10条第6頃。会社更生法改正案第1 0条第5項参照)。

(注) <1>及び<3>については、再生手続においても、同様の手当てを行うものとする。

(3)公告の方法
破産法の定める手続においてする公告(破産法第115条及び第116条参照)は、官報に掲載してするものとする(民事再生法第10条第1項、会社更生法改正案第10条第1項参照)。

5 登記及び登録の嘱託
(1)嘱託の主体
登記及び登録の嘱託は、裁判所書記官がするものとする(民事再生法第11条、会社更生法改正案第246条参照)。

(2)破産財団に属する権利に関する登記
破産財団に属する権利で登記又は登録したもの(不動産所有権等)に関する破産の登記、破産取消しの登記、破産廃止の登記及び破産終結の登記の制度(破産法第120条及び第121条参照)は、破産者が法人である場合については、廃止するものとする(外国倒産処理手続の承認援助に関する法律第10条第3項参照)。

(注)この考え方に対しては、意見照会の結果によれば、以下のとおりの反対意見が寄せ られている。

<1>破産直前に商業法人登記簿謄本等の必要書類を準備した上で、破産宣告直後に権利に関する登記申請をしたような場合には、破産の事実を知らない登記官が登記申請を受け付けることも考えられるから、このような場合をも考慮すると、商業法人登記簿が必ずしも破産者と取引をしようとする第三者に対する警告的な意味を持たなくなることもある。

<2>登記実務においては、根抵当権に関して、不動産登記簿上元本が確定していることが明らかなときは、元本の確定の登記をしなくても.元本の確定後でなければすることができない登記(例えば、代位弁済に基づく根抵当権の移転登記簿)をすることができるとされているところ、実体法上、根抵当権設定者が破産の宣告を受けたときば根抵当権の元本は確定するとされている(民法第398条ノ20)ことから、不動産登記簿に破産の登記がされていれば、元本が確定していることが明らかな場合にあたるとされている。ところが、上記のとおり、酸産者が法人である場合について、破産財団に属する権利で登記したものに関する破産の登記簿を廃止した場合には、不動産登記簿上元本が確定していることが明らかであるといえなくなることから、例えば、代位弁済に基づく根抵当権の移転登記をする場合にも、元本の確定の登記をする必要が生ずることになり、その分、手続的にも費用的にも負担が多くなるおそれがあるとの指摘がされている。<1>及び<2>について、どのように考えるか。<2>については.例えば、破産の登記がされている商業法人登記簿謄本を添付することで(破産法第119条参照)、単独申請により元本の確定の登記をすることができるものとする(不動産登記法第119条ノ9参照)等の対応力が考えられるが、この点についてどのように考えるか。


6 事件に関する文書等の閲覧等
(1)文書等の閲覧等の請求
<1> 利害関係人は、裁判所書記官に対し、破産法の規定に基づき、裁判所に提出され、又は裁判所が作成した文書その他の物件(以下「文書等」という。)の閲覧を請求することができるものとする(民事再生法第17条第1項、会社更生法改正案第14条第1項参照)。

<2> 利害関係人は、裁判所書記官に対し、文書等の謄写、その正本、謄本若しくは抄本の交付又は事件に関する事項の証明書の交付を請求することができるものとする(民事再生法第17条第2項、会社更生法改正案第14条第2項参照)。

<3> <2>は、文書等のうち録音テープ又はビデオテープ(これらに準ずる方法により一定の事項を記録した物を含む。)に関しては、適用しないものとする。この場合において、これらの物について利害関係人の請求があるときは、裁判所書記官は、その複製を許さなければならないものとする(民事再生法第17条第3項、会社更生法改正案第14条第3項参照)。

<4> <1>から<3>までにかかわらず、次の各号に掲げる者は、当該各号に定める裁判のいずれかがあるまでの間は、<1>から<3>までによる請求をすることができないものとする。ただし、当該者が破産の申立人である場合は、この限りでないものとする(民事再生法第17条第4項、会社更生法改正案第14条第4項参照)。

(i) 債務者以外の利害関係人 強制執行等の手続の中止命令、強制執行等の包括的禁止命令、破産財団に関する保全処分、保全管理命令又は破産の申立てについての裁判
(ii)債務者 破産の申立てに関する口頭弁論若しくは債務者を呼び出す審尋の期日の指定又は(i)に定める裁判

(2)閲覧簿の請求の時期的制限
<1> 次に掲げる文書等について、利害関係人がその閲覧若しくは謄写、その正本、謄本若しくは抄本の交付又はその複製(以下「閲覧等」という。)を行うことにより、破産財団の管理又は換価に著しい支障を生するおそれがある部分(以下「支障部分」という。)があることにつき疎明があった場合には、裁判所は、当該文書等を提出した債務者又は保全管理人の申立てにより、支障部分の閲覧等の請求をすることができる者を、当該申立てをした者及び債務者(保全管理人が選任されている場合にあっては、保全管理人。<2>において同じ。)に限ることができるものとする(民事再生法第18条第1項、会社更生法改正案第15条第1項参照)
(i)破産管財人の行為に対する裁判所の許可(保全管理人が選任されている場合にあっては、保全管理人の行為に対する裁判所の許可を含む。)又は保全管理人が債務者の常務に属しない行為をする場合において裁判所の許可を得るために裁判所に提出された文書等
(ii)破産管財人が裁判所の命するところにより裁判所に提出した報告に係る文書等

<2> <1>の申立てがあったときは、その申立てについての裁判が確定するまで、利害関係人(<1>の申立てをした者及び債務者を除く。<3>において同じ。)は、支障部分の閲覧等の請求をすることができないものとする(民事再生法第18条第2項、会社更生法改正案第15条第2項参照)。

<3> 支障部分の閲覧等の請求をしようとする利害関係人は、破産裁判所に対し、<1>による要件を欠くこと又はこれを欠くに至ったことを理由として、<1>による決定の取消しの申立てをすることができるものとする(民事再生法第18条第3項。会社更生法改正案第15条第3項参照)。

<4> <1>の申立てを却下した決定及び<3>の申立てについての裁判に対しては、即時抗告をすることができるものとする(民事再生法第18条第4項、会社更生法改正案第15条第4項参照)。

<5> <1>による決定を取り消す決定は、確定しなければその効力を生じないものとする(民事再生法第18条第5項、会社更生法改正案第15条第5項参照)。

7 最高裁判所規則への委任
破産法に定めるもののほか、破産法の定める手続に関し必要な事項は、最高裁判所規則で定めるものとする。

第2 破産の申立て

1 破産の申立書の審査
(1)補正を命ずる処分

<1> 破産の申立ては、最高裁判所規則で定める事項を記載した書面でしなければならないものとする。

<2> <1>の書面(以下「破産の申立書」という。)が<1>の事頃を記載していない場合には、裁判所書記官は、相当の期間を定め、その期間内に不備を補正すべきことを命ずる処分をしなければならないものとする。民事訴訟費用等に関する法律の規定に従い破産の申立ての手数料を納付しない場合も、同様とするものとする。

<3> <2>の処分は、相当と認める方法で告知することによって、その効力を生ずるものとする。


(2) 処分に対する異議申立て

<1>(1)<1>の処分に対する異議の申立ては、その告知を受けた日から-週間の不変期間内にしなければならないものとする。

<2> <1>の異議の申立ては、執行停止の効力を有するものとする。

<3> 裁判所は、<1>の異議の申立てがあった場合において、破産の申立書の不備を補正すべきときは、自らその補正を命じなければならないものとする。

(注) <1>の異議の申立てに対する裁判は、裁判所が、決定で、すろこととなる(破産法第108条において準用する民事訴訟法第121条参照)。

(3)破産の申立書の却下

<1>(1)<2>又は(2)<3>の場合において、破産の申立てをした者が不備を補正しないときは、裁判長は、命令で、破産の申立書を却下しなければならないものとする。

<2> <1>の命令に対しては、即時抗告をすることができるものとする。

2 破産手続の費用
(1)費用の予納
<1> 破産の申立てをするときは、申立人は、破産手続の費用として裁判所の定める金額を予納しなければならないものとする(民事再生法第24条第1項、会社更生法改正案第21条第1項参照)。

<2> 費用の予納に関する決定に対しては、即時抗告をすることができるものとする(民事再生法第24条第2項、会社更生法改正案第21条第2項参照)。

(2)国庫仮支弁
国庫仮支弁については、仮に支払いをすべき必要性が特に高い場合に限って利用することができるものとするが、その内容についてはなお検討するものとする。

(注) 要件については、意見照会の結果等を踏まえ.次回以降検討するものとする。

3 破産手続開始の条件
次の(i)又は(ii)のいずれかに該当する場合には、裁判所は、破産の申立てを棄却しなければならないものとする(民事再生法第25条、会社更生法改正案第41条第1項参照)。
(i)破産手続の費用の予納がないとき(2(2)により費用を仮に国庫から支弁する場合を除く。)。
(ii)不当な目的で破産の申立てがされたとき、その他申立てが誠実にされたものでないとき。


(破産の申立て関係後注)
監督官庁による破産の申立ての制度等について、破産法中に一般的な規定を設けることはせず、個別法の規定に委ねるものとすることで、どうか。この問題については、これまでの倒産法部会の審議において、公益的な観点から、一般的な監督官庁による申立権を認める規定を破産法に設けるべきであるとの意見も述べられていたところであるが。(a)破産手続は債務者の解体・清算を内容とするものであって、社会的な影響が非常に大きいものであり、政策的な見地からも慎重な検討を要する、(b)監督官庁に-律に申立権を付与する場合には、監督権限を強化することについて合理性が認められない法人についてまで監督権限を強化することになる等との指摘がされている。このような反対意見の指摘するところをも踏まえて、監督官庁に破産の申立権を認める必要性があると考えることができる場合を検討すると.具体的には、<1>定型的に多数の債権者が存在し、かつ、迅速な破産の申立てができないと、多数の債権者に深刻な影響が生ずるおそれがある場合であって、<2>債権者自らが破産の申立てを行うことを期待することができない場合ということができると思われる。金融機関等の更生手続の特例等に関する法律は、預金債権者保護の観点(<1>)から、調査権限等を有する監督官庁が、預金債権者を代理する立場にある(<2>)として、破産申立権を認めたものであり、このような観点からの説明が可能であると解されるが.一般には.監督官庁といっても業種によって規制の程度や態様が異なって、金融機関に対する規制のあり方と同様に考えることはできず、破産申立てが必要となる業種を一義的に明確な概念によって回することは困難であると考えられる。これに対しては、破産の申立権を付与するかどうかについては監督官庁の権限によって画するという意見もあるが、個別の各業法において与えられている監督官庁の権限は様々であって、共通の権限であっても、その趣旨、目的は異なり.権限から業種を限定することばできないと考えられる。 このように考えると、監督官庁による破産の申立権を破産法に一般的に規定することは 極めて困難であるといわざるを得ないと考えられるが.どうか。

第3 保全処分

1 強制執行手続等の中止命令

<1> 裁判所は、破産の申立てがあった場合において、必要があると認めるときは、利害関係人の申立てにより又は職権で、破産の申立てにつき決定があるまでの間、次に掲げる手続の中止を命ずることができるものとする。ただし、

(1)に掲げる手続については、その手続の申立人である債権者に不当な損害を及ぼすおそれがない場合に限るものとする(民事再生法第26条第1項、会社更生法改正案第24条第1項参照)。

(i)強制執行、仮差押え若しくは仮処分、企業担保権の実行手続又は一般の先取特権若しくは留置権(商法の規定によるものを除く。)による競売の手続で、破産財団に属する財産に対して既にされているもの
(ii)債務者の財産関係の訴訟手続
(iii)債務者の財産関係の事件で行政庁に係属しているものの手続
(iV)債務者の責任制限手続(船舶の所有者等の責任の制限に関する法律又は油濁損害賠償保障法に規定する責任制限手続をいう。)(破産法第155条ノ2参照)

<2> 裁判所は、<1>による中止の命令を変更し、又は取り消すことができるものとする(民事再生法第26条第2項、会社更生法改正案第24条第4項参照)。

<3> <1>による中止の命令及び<2>による決定に対しては、即時抗告をすることができるものとする(民事再生法第26条第4項、会社更生法改正案第24条第6項参照)。

<4><3>の即時抗告は、執行停止の効力を有しないものとする(民事再生法第26条第5項、会社更生法改正案第24条第7項参照)。

<5> <3>に規定する裁判及び<3>の即時抗告についての裁判があった場合には、その裁判書を当事者に送達しなければならないものとする(民事再生法第26条第6項、会社更生法改正案第24条第8項参照)。

(注)
1 再生手続においては、強制執行の手続等が中止したままの状態では、その対象となっている財産を処分すること等は困鍾であることから。当該強制執行等の対象となっている財産が再生債務者の事業の継続のために特に必要がある場合には、当該強制執行等の取消しをすることができるという制度が設けられており(民事再生法第26条第3項)更生手続においても、同様の制度が設けられることとされている(会社更生法改正案第24条第2 項)、これに対して、清算型の破産手続においては、再建型の手続とは異なり、破産宣告後においては原則的には破産者の事業は廃止されることになるため、事業の継続のために、強制執行等の対象となっている財産を利用する必要性は-般的には低いと認められることから、保全の段階において、あえて認めるまでの必要はないとして、中間試案においても強制執行等の取消しの制度は設けるものとされていない。
これに対しては、破産手続においても、営業を譲渡することにより配当原資が増える場合など、破産債権者一般の利益となる場合もあるから、このような場合には、再生手続や更生手続と同様に、強制執行等の取消しの制度を必要とする場面も一応あり得ると考えられる。もつとも、このような取消しを認めて、営業の譲渡を可能とする場合などは、その換価代金が破産財団に組み込まれることが制度上保障されることが必要であり、保全管理人が選任されている場合であって、保全の段階に早期に特定の財産を処分することが、破産債権者の一般の利益になると認められる場合に限り認めるべきであると考えられる。これらの点についてどのように考えるか。

2 <1>(i)において中止される強制執行の範囲について検討する必要がある。破産宣告後における財団債権に基づく強制執行を認めない(中間試案第3部第2の後注1参照)ものとすることを前提とするときは、破産宣告前においても財団債権となるべき債権(中間試案第8部第2の1(i)、同第2の2(1)参照)に基づく強制執行を命令の対象に含めるものとすることが考えられる。すなわち、再生手続及び更生手続においては手続開始後においても共益債権に基づく強制執行が認められることを前提とした規定(民事再生法第121条第3項及び会社更生法第210条の2第1項参照)が設けられているように、これらの手続においては共益債権すら支払えない事態は基本的には想定されていないが、破産手続においては本来的に債務者の手元にある財産は少ないことに加えて、破産手続における財団債権にはすべての破産債権者の共益的な費用としての性質を有するものだけでなく、政策的に財団債権とされているものも含まれていることからすると、財団債権の全額を支払えない場合も少なくないと考えられる。そうであるにもかかわらず、このような場合にまで、一部の財団債権の強制執行を認めると、財団債権者間の平等を害することになり、ひいては適正かつ公平な債務者の財産の清算を図るという破産手続の目的に適合しないことになると解せられる。意見照会においても、実務上財団債権すら全額弁済できない場合が住々にしてあるので、このような場合には、財団債権に基づく強制執行を認めるべきではないとの意見が寄せられているところである。
そこで、このような指摘を踏まえて、財団債権者間の平等を図り、破産手続を円滑に進 行させるという観点から、破産宣告前であっても、財団債権の全額を支払えないことが見込まれる事情があれば、、財団債権となるべき債権については強制執行の中止〔又は取消し〕をすることができるものとすることが考えられる。他方では、債務者の財産をもって将来財団債権の全額を支払うことができないと見込まれる状態を要件とするのであれば、そのような状態になっているときは、その時点において債務者に破産原因があると認定することは十分可能であると考えられるので、破産宣告をすれば足り、結局、財団債権となるべき債権が破産宣告の前に中止〔又は取消し〕されることはないのではないかとの指摘も考えられる。
したがって、この点については、破産宣告後における財団債権に基づく強制執行も認めないものとしても、その場合の根拠をどのように考えるか等についての検討結果を踏まえて、なお検討する必要があると考えられる。

3 更生手続においては、国税滞納処分で、開始前会社の財産に対して既にされているものの中止を命ずることができるものとされているが(会社更生法改正案第24条第2項)、破産手続では、破産宣告前に滞納処分がされている場合にあっては破産宣告はその処分の続行を妨げない(破産法第71条)と規定されており、既に滞納処分がされている租税債権については、中止の対象から除くものとしている。

2 包括的禁止命令
(i)包括的禁止命令
<1>裁判所は、破産の申立てがあった場合において、強制執行手続等の中止命令(前記1参照)によっては債権者の間の平等を害するおそれその他破産手続の目的を十分に達成することができないおそれがあると認めるべき特別の事情があるときは、利害関係人の申立てにより又は職権で、破産の申立てにつき決定があるまでの間、すべての債権者に対し、破産財団に属すべき財産に対する強制執行等及び滞納処分の禁止を命ずることができる。ただし、事前に又は同時に、破産財団に属すべき主要な財産に関し宣告前の保全処分(破産法第155条参照)をした場合又は後記5による処分(保全管理命令)をした場合に限るものとする(民事再生法第29条第1項、、会社更生法改正案第25条第1項参照)。

<2> 包括的禁止命令が発せられた場合には、破産財団に属すべき財産に対して既にされている債権に基づく強制執行等の手続は、中止するものとする(民事再生法第27条第2項、会社更生法改正案第25条第3項参照)。

<3> 裁判所は、包括的禁止命令を変更し、又は取り消すことができるものとする(民事再生法第27条第3項、会社更生法改正案第4項参照)。

<4> 包括的禁止命令及び<3>による決定に対しては、即時抗告をすることができるものとする(民事再生法第27条第5項、会社更生法改正案第25条第6項参照)。

<5> <4>の即時抗告は、執行停止の効力を有しないものとする(民事再生法第27条第6項、会社更生法改正案第25条第7項参照)。

<6> 包括的禁止命令が発せられたときは、債権については、当該包括的禁止命令が効力を失った日の翌日から2月を経過する日までの間は、時効は、完成しないものとする(民事再生法第27条第7項、会社更生法改正案第25条第8項参照)。

(注)
1 包括的禁止命令の制度の導入については、意見照会においても、破産の申立てをした債務者の規模が大きいため、全国各地に財産が存する場合や売掛金債権を多数有する場合などにおいては、これらの財産等に対する手続が各地で同時並行的に行われることもあるが、個々の強制執行手続に対し、個別に中止命令を求めていては、結果として財産の保全に支障を来すおそれがあるとの指摘もされており、この制度を導入することについては多数が賛成であった。

2 財団債権に基づく強制執行等の中止命令を認めるものとする場合(前記1(注)2参照)には、財団債権に基づく強制執行手続も包括的禁止命令の対象に含まれるものとなると考えられる。その場合には、以下のとおり、一定の範囲に属する債権に基づく強制執行手続等を包括的禁止命令の対象からあらかじめ除外する制度が必要になると考えられる。民事再生法では、包括的禁止命令により特定の再生債権者に不当な損害を及ぼすおそれがある場合には、当該再生債権者の申立てにより、その者との関係では包括的禁止命令を解除する制度(後記2(3)参照)が設けられている。しかし、破産手続における包括的禁止命令が財団債権や労働債権等の-段の優先権のある債権に基づく強制執行等をも禁止するものとする場合には、破産手続は更生手続と同様に、無担保で優先権のない再生債権に基づく強制執行等のみを禁止するにとどまる民事再生法上の包括的禁止命令以上の強力な効力を有することになることから、包括的禁止命令発令後の個別的申立てを前提とする解除の制度のみでは、債権者の救済の手段としては不十分であると考えられる。そこで、会社更生法改正案第25条第2項と同様に、包括的禁止命令により労働債権等の一定の範囲に属する破産債権について不当な損害を及ぼすものと認められる場合には、会社更生法改正案と同様に、これらの債権に基づく強制執行等を包括的禁止命令の対象からあらかじめ除外することができるものとするのが相当である。

3 財団債権となるべき債権のうち租税債権については、破産宣告により既に開始された滞納処分は中止されないが、新たな滞納処分はすることができないとされており(破産法第71条)、財団債権に基づく強制執行が包括的禁止命令の対象に含まれる場合(前記(注)2参照)には、租税債権に基づく滞納処分についても新たな処分は禁止され得ることになると考えられる。この場合、財団債権となるべき租説債権の算定の基準となる「一定期間」の計算の方法が問題となるが、これについては、包括的禁止命令が発せられた日から破産宣告までの間(包括的禁止命令の解除があった場合にあっては包括的禁止命令が発せられた日から命令の解除があった日までの問)は、新たな滞納処分をすることができない ことになるため、このように滞納処分をすることができない期間を「一定期間」の計算から除外する必要があると考えられる。すなわち、租税債権の取扱いについては、租説債権者が国税徴収法等により付与されている自力執行権等を合理的期間内に行使しなかった場合には、財団債権を優先的破産債権とすることに一定の合理性が認められることを考慮して、自力執行権を行使することができなくなる時期である破産宣告を基準として財団債権となるべき租税債権を算定するものとされている(中間試案第3部第2の1(1)参照)が、包括的禁止命令の効力が存する間は、<1>の効果により自力執行権が行使し得なくなることから、この期間を財団債権となるべき租税債権の算定の基準となる「一定期間」の計算から除外する必要があると考えられる(倒産法部会資料第27、第3の3参照)。

4 <1>により中止した強制執行手続等を取り消すことができるか否かについては、前記 (1)(注)1と同様の問題があるので、なお検討するものとする。

(2)包括的禁止命令に関する公告及び送達等
<1> 包括的禁止命令及びこれを変更し、又は取り消す旨の決定があった場合には、その旨を公告し、その決定書を債務者(保全管理人が選任されている場合にあっては、保全管理人。<2>において同じ。)及び申立人に送達し、かつ、その決定の主文を知れている債権者及び債務者(保全管理人が選任されている場合に限る。)に通知しなければならないものとする(民事再生法第28条第1項、会社更生法改正案第26条第1項参照)。

<2> 包括的禁止命令及びこれを変更し、又は取り消す旨の決定は、債務者に対する決定書の送達がされた時から、効力を生ずるものとする(民事再生法第28条第2項、会社更生法改正案第26条第2項参照)。

<3>(1)<5>の即時抗告についての裁判(包括的禁止命令を変更し、又は取り消す旨の決定を除く。)があった場合には、その裁判書を当事者に送達しなければならないものとする(民事再生法第28条第3項、会社更生法改正案第26条第3項参照)。

(3)包括的禁止命令の解除
<1> 裁判所は、包括的禁止命令を発した場合において、債権に基づく強制執行等の申立人である債権者に不当な損害を及ぼすおそれがあると認めるときは、当該債権者の申立てにより、当該債権者に限り当該包括的禁止命令を解除する旨の決定をすることができるものとする。この場合において、当該債権者は、債務者の財産に対する当該債権に基づく強制執行等をすることができ、当該包括的禁止命令が発せられる前に当該債権者がした当該債権に基づく強制執行等の手続は、続行するものとする(民事再生法第29条第1項、会社更生法改正案第27条第1項参照)。

<2> 包括的禁止命令が発せられたときは、債権については、<1>による解除の決定があった日の翌日から2月を経過する日までの間は、時効は、完成しないものとする(民事再生法第29条第2項、会社更生法改正案第27条第3項参照)。

<3> <1>の申立てについての裁判に対しては、即時抗告をすることができるものとする(民事再生法第29条第3項、会社更生法改正案第27条第4項参照)。

<4> <3>の即時抗告は、執行停止の効力を有しないものとする(民事再生法第29条第4項;会社更生法改正案第27条第5項参照)。

<5> <1>の申立てについての裁判及び<3>の即時抗告についての裁判があった場合には、その裁判書を当事者に送達しなければならないものとする。この場合においては、代用公告の規定は、適用しないものとする(民事再生法第29条第5項、会社更生法改正案第27条第6項参照)。

(注) 包括的禁止命令により特定の債権者に不当な損害を及ぼすおそれがある場合には、民事再生法及び会社更生法改正案と同様の観点から、当該債権者の申立てにより、その者との関係では包括的禁止命令を解除する制度を設けるものとするものである。

3 弁済禁止の保全処分に違反してされた弁済等の効力
裁判所が債務者に対して弁済その他の債務を消滅させる行為をすることを禁止する旨の保全処分を命じた場合には、債権者は、破産手続の関係においては、当該保全処分に反してされた弁済その他の債務を消滅させる行為の効力を主張することができないものとする。ただし、債権者が、その行為の当時、当該保全処分がされたことを知っていたときに限るものとする(民事再生法第30条第6項、会社更生法改正案第28条第6項)。

4 否認権のための保全処分
(1)保全処分の発令
<1> 裁判所は、破産の申立てがあった場合において、破産の決定があるまでの間に否認権を保全するため必要があると認めるときは、利害関係人の申立てにより又は職権で、第三者が所有し、又は占有する財産に関し、処分禁止の仮処分その他の必要な保全処分を命ずることができるものとする。

<2> <1>による保全処分は、担保を立てさせて、又は立てさせないで命ずることができるものとする。

<3> 裁判所は、<1>による保全処分を変更し、又は取り消すことができるものとする。

<4> <1>による保全処分及び<3>の規定による決定に対しては、即時抗告をすることができるものとする。

<5> <4>の即時抗告は、執行停止の効力を有しないものとする。

<6> <4>に規定する裁判及び<4>の即時抗告についての裁判があった場合には、その裁判書を当事者に送達しなければならないものとする。この場合においては、、代用公告の規定は、適用しないものとする。
(注) 意見照会においても、職権による保全処分を認めるべきであるとの指摘がされているところであり。法人の役員の財産に対する保全処分(民事再生法第142条第1項、会社更生法改正案第40条第1項参照)との均衡をも考慮し、職権によっても保全処分ができるものとするものである。

(2)破産管財人による手続の続行と担保の取扱い
<1>(1)<1>による保全処分が命じられた場合において、破産宣告があったときは、破産管財人は、当該保全処分に係る手続を続行することができるものとする。

<2> 破産管財人は、(1)<1>の保全処分が担保を立てさせて命じられている場合(担保が破産財団に属する財産をもって立てられている場合を除く。)において、<1>により当該保全処分に係る手続を続行しようとするときは、民事訴訟法第80条本文の規定にかかわらず、担保を破産財団の負担に帰せしめるため、裁判所に対し、担保の変換を申し立てなければならないものとする。この場合においては、裁判所は、同条本文の規定にかかわらず、その担保の変換を命ずることができるものとする。

(後注) 再生手続及び更生手続においても、同様の手当てを行うものとする。

5 保全管理命令
(1)発令の要件
<1> 裁判所は、破産の申立てがあった場合において、債務者(債務者が法人である場合に限る。以下<1>において同じ。)の財産の管理又は処分が失当であるときその他債務者の財産の確保のために特に必要があると認めるときは、利害関係人の申立てにより又は職権で、破産の申立てにつき決定があるまでの間、債務者の財産に関し、保全管理人による管理を命ずる処分をすることができるものとする(民事再生法第79条第1項、会社更生法改正案第30条第1項参照)。

<2> 裁判所は、<1>の処分(以下「保全管理命令jという。)をする場合には、当該保全管理命令において、一人又は数人の保全管理入を選任しなければならないものとする(民事再生法第79条第2項、会社更生法改正案第30条第2項参照)。

<3> <1>及び<2>は、破産の申立てを棄却する決定に対して即時抗告があった場合について準用するものとする(民事再生法第79条第3項参照)。

<4> 裁判所は、保全管理命令を変更し、又は取り消すことができるものとする(民事再生法第79条第4項、会社更生法改正案第30条第3項参照)。

<5> 保全管理命令及び<4>による決定に対しては、即時抗告をすることができるものとする(民事再生法第79条第5項、会社更生法改正案第30条第4項参照)、

<6> <5>の即時抗告は、執行停止の効力を有しないものとする(民事再生法第79条第6項、会社更生法改正案第30条第5項参照)。

<7> 裁判所は、保全管理命令を発したときは、その旨を公告しなければならないものとする。保全管理命令を変更し、又は取り消す旨の決定があった場合も、同様とするものとする(民事再生法第80条第1項、会社更生法改正案第31条第1項参照)。

<8> 保全管理命令、<4>による決定及び<5>の即時抗告についての裁判があった場合には、その決定書を当事者に送達しなければならないものとする(民事再生法第80条第2項、会社更生法改正案第31条第2項参照)。

<9> 公告は一切の関係人に対する送達の効力を有する旨の公告の効力に関する規定は、保全管理命令に関し公告及び送達をしなければならない場合については、適用しないものとする(民事再生法第80条第3項、会社更生法改正案第31条第3項参照)。
(注) <1>は、再生手続と同様に、債務者が法人である場合に限って、保全管理命令を認めるものである。これについては、意見照会においても、大型個人事業者等 の場合には債務者の財産の確保のために特に必要があることから、保全管理命令の対象には債務者が個人である場合も含めるべきであるとの意見があるが、どのように考えるか。この点については、意見照会においても、管理の対象となる財産と自由財産とを峻別することが困難であり、すべての財産を保全管財人が管理するものとすると。私生活の維持・継続に支障を来す結果になるとの指摘がされている、特に、個人についても保全管理命令が認められるとすると、保全管理命令が発せられている間の債務者について自由財産に相当する財産を考える必要があると考えられるが、その範囲を合理的に画することが困難ではないか等の間題があり、その意味からも法人である場合に限るのが適当であると思われるが、どうか。

(2)保全管理人の権限等
<1> 保全管理命令が発せられたときは、債務者の財産の管理及び処分をする権利は、保全管理人に専属するものとする。ただし、保全管理人が債務者の常務に属しない行為をするには、裁判所の許可を得なければならないものとする(民事再生法第81条第1項、会社更生法改正案第32条第1項参照)。

<2> <1>ただし書の許可を得ないでした行為は、無効とするものとする。ただし、これをもって善意の第三者に対抗することができないものとする(民事再生法第81条第2項、会社更生法改正案第32条第2項参照)。

<3> 裁判所の許可を要する事項(中間試案第1部の第12参照)は、保全管理人について準用するものとする(民事再生法第81条第3項、会社更生法改正案第32条第3項参照)。

<4> 保全管理人は、必要があるときは、その職務を行わせるため、自己の責任で一人又は数人の保全管理人代理を選任することができるものとする(民事再生法第82条第1項、会社更生法改正案第32条第1項参照)。

<5> <4>の保全管理人代理の選任については、裁判所の許可を得なければならないものとする(民事再生法第82条第1項、会社更生法改正案第32条 第2項参照)。

6 保全処分の申立ての濫用の防止
破産の申立てをした者は、破産宣告前に限り、当該申立てを取り下げることができるものとする。この場合において、強制執行手続等の中止命令、包括的禁止命令、宣告前の保全処分(破産法第155条参照)、保全管理命令がされた後は、裁判所の許可を得なければならないものとする(民事再生法第32条参照)。

第4 破産宣告の効果

1 検察官への通知
破産宣告の検察官への通知の制度(破産法第144条参照)は、廃止する方向で、なお検討するものとする。

(注) この制度は、公益の代表者である検察官に対し破産犯罪などの犯罪の捜査に便宜を与えるために必要であると説明されているが、このような通知の必要性については疑問を呈する見解もあり、意見照会の結果によっても、実際には破産管財人による告発などで捜査が開始されており、破産宜告を検察官に通知する必要性は認められないとして、このような通知の制度を廃止することに賛成する意見が多かったところである。そこで、このような意見照会の結果を踏まえて、通知の制度を廃止するものとする方向で、なお検討するものとする。

2 破産者の説明義務の強化
<1> 破産者等は、破産宣告後遅滞なく、その所有する不動産、現金、有価証券、預貯金その他の重要な財産の内容を記載した書面を裁判所に提出しなければならないものとすることで、どうか。

<2> 罰則については、なお検討するものとする。
(注)
1 担保・執行法制部会においては、個別執行に関する財産開示手続につき一定の方向性が示されている。具体的には、債務者は、財産開示の期日に出頭し、宣誓をした上で、自己の責任財産のすべてを開示しなければならないものとし、債務者が正当な理由がないのに、財産開示の期日に出頭せず、宣誓若しくは財産開示の陳述を拒み、又は虚偽の陳述をした場合については罰則を設けるものとして、債務者の財産状況の開示義務を強化するものとしている(下記参考部分参照)。

2現行の破産法においては、(A)破産者(B)破産者の代理人並びに(C)、破産者の理事及びこれに準ずべき者は、破産管財人又は債権者集会の請求により、破産に関して必要な説明をしなければならないものとされている(破産法第153条)が、破産に関して必要な説明のうち、破産者の財産のうち特に重要なものについては、破産債権者等の関心が最も高いところであり、破産手続においても、債務者の財産状況に対する開示の義務を強化すべきであると考えられる。ところで、現行の破産法においては、破産の申立人は、債権者が申立人である場合を除き、破産原因の審理及び管財業務の円滑な進行のため。財産の概況を示す書面を提出しなければならないものとされているが(破産法第138条)、この規定は訓示規定と解されており、この書面が提出されなくても、申立てが不適法なものであるとしてニれを却下するべきではないとされていることからすると、このような規定のみでは、債務者の財産状況についての開示の方法として不十分であると考えられる。そこで、債務者の財産状況に対する開示の義務を強化するという観点から、破産債権者は、破産者の所宥する重要な財産の情報を破産者等から開示を受けることができるものとし、<1>では、 この開示の方法としては、破産者等は破産宣告後遅滞なく、重要な財産の内容を記載した書面を裁判所に提出しなければならないものとし、裁判所ほこの書面を破産債権者のために閲覧に供するものとしているが、この点についてどのように考えるか。なお、開示の対象となる財産については、その範囲を明確にするために、不動産、現金、有価証券、預貯金等を具体的に例示することとしているが、対象についてはどのように考えるか。

3 破産者等が、<1>の義務に造反した場合については、 破産者等の財産の開示義務の重要性にかんがみ、所要の罰則を設けるとともに、免責不許可事由とすることが考えられるが(破産法第366条ノ9第5号参照)、この点についてはなお検討するものとする。

4 <1>の書面を提出しなければならない者の範囲については、(a)説明譲務(破産法第153条)を負う者の範囲を確定した上で、(b)(2)のうち、どの範囲まで、<1>の義務を負わせるものとするかを検討する必要がある。

(i)(a)については、ア)現行の破産法において説明義務を負うものとされている者は、破産者、その代理人並びに理事及びこれに準ずべき者とされているが(破産法第153条)、再生手続にあっては、個人である再生債務者若しくはその法定代理人又は法人である再生債務者の理事、取締役、執行役、監事、監査役、清算人若しくはこれらに準じる者(民事再生法第78条、第54条)、更生手続にあっては、更生会社の取締役、執行役、監査役・精算人及び支配人その他の使用人とされており(会社更生法改正案第77条第1項)、それぞれ説明義務を負う者又は報告を求められる者の範囲が異なっているという問題がある。また、イ)破産法においては過去に資格を有していた者についても、説明義務がある(破産法第153条第2頃)とされているが、民事再生法と会社更生法ではこれに相当する規定がないという問題がある。さらに、ウ)破産法においては、破産者の代理人も説明義務を負うとされているが、一方で、破産者の引致等の規定が準用される者は、そのうち法定代理人及び支配人に限定されている(破産法第152条)という問題がある。これらの点についてどのように考えるか。

(ii)(b)については、例えば、(a)の説明義務を負う者のうち、破産者が個人の場合にあっては、法定代理人がいるときは、一般に破産者に<1>の書面を提出させることが期待でき ないものと考えられることから、法定代理人が提出しなければならないものとすること、破産者が法人の場合にあっては、類型的に破産の事情に最も詳しい者として、代表権の ある者とすること等が考えられる。この点については、どのように考えるか。

(参考)財産開示手続(担保・執行法制の見直しに関する要綱中間試案第2の2(2)参照)次のような財産開示の手続を設けるものとする。

ア 申立権者
財産開示手続の申立権者を次のように定めるものとする。
<1> 金銭債権についての債務名義(民事執行法第22条第2号、第4号若しくは第5号又は確定判決と同一の効力を有する支払督促を除く。)を有する債権者

<2> 一般の先取特権を有する債権者

イ 手続の開始要件
財産開示手続は、強制執行の一般的な開始要件(ー般の先取特権については、その存在を証する文書の提出)を充足し、かつ、次のいずれかに該当する場合に、開始するものとする。

<1> 強制執行(ー般の先取特権については、その実行)を試みたが不奏功に終わったこと

<2> 債権者に判明している債務者財産に対する強制執行(一般の先取特権については、その実行)を行ったとしても請求債権の満足に足りないことが疎明されたこと

ウ 手続の概要
(ア)財産開示事件は債務者の普通数判籍の所在地を管轄する地方裁判所が、執行裁判所として管轄し、財産開示の申立てについての裁判は執行裁判所の執行処分とするものとする。
(イ)財産開示手続は、公開しないものとする。
(ウ)債務者は、財産開示の期日に出頭し、宣誓をした上で、自己の財産状況を開示しなければならないものとする。
(エ)債務者は、その責任財産(動産についてはその所在場所を含む。)のすべてを開示しなければならないものとする。ただし、次のいずれかに該当する場合は、裁判所は、債務者の申立てにより、その責任財産の-部の開示義務を免除することができるものとする。
<1> 債権者の同意がある場合
<2> 債権者の債権の満足に支障がないことが明らかである場合
(オ)財産開示の期日においては、裁判所のほか申立債権者も、債務者に対し質問をすることができるものとする。
ェ その他
(ア)財産開示手続が行われた後3年間は、その開示の対象となる財産を開示しなかったこと、又は開示の対象となる財産を新たに取得したこと等を疎明しなければ、当該債務者についての財産開示手続の申立てをすることができないものとする。
(イ)財産開示事件の記録中、財産開示の陳述に関する部分については、その閲覧等の請求をすることができる者(民事執行法第17条参照)を財産開示事件の当事者及び財産開示手続の申立権を有する他の債権者に限るものとする。
(ウ)財産開示を受けた債権者(財産開示の陳述に関する部分の事件記録の閲覧等をした債権者を含む。)は、債務者財産に関する情報を民事執行の用に供する目的以外に使用してはならないものとする。
(エ)債務者が、正当な理由がないのに、財産開示の期日に出頭せず、宣誓若しくは財産開示の陳述を拒み、又は虚偽の陳述をした場合につき、所要の罰則を設けるものとする。上記(ウ)の債務者財産に関する情報を目的外に使用した場合についても、所要の罰則を設けるものとする。

3 郵便物の管理
<1> 裁判所は、破産管財人の職務の遂行のため必要があると認めるときは、信書の通信事務を取り扱う官署その他の者に対し、破産者にあてた郵便物又は民間事業者による信書の送達に関する法律第2条第3項に規定する信書便物(以下 「郵便物等」という。)を破産管財人に配達すべき旨を嘱託することができるものとする(民事再生法第73条第1項、会社更生法改正案第75条第1項参照)。

<2> 裁判所は、破産者の申立てにより又は職権で、破産管財人の意見を聴いて、<1>に規定する嘱託を取り消し、又は変更することができるものとする(民事再生法第73条第2項、会社更生法改正案第75条第2項参照)。

<3> 破産手続が終了したときは、裁判所は、<1>に規定する嘱託を取り消さなければならないものとする(民事再生法第73条第3項、会社更生法改正案第75条第3項参照)。

<4> <1>の嘱託の決定及び<2>の申立てについての裁判に対しては、即時抗告をすることができるものとする。

<5> 破産管財人は、破産者にあてた郵便物簿を受け取ったときは、これを開いて見ることができるものとする(民事再生法第74条第1項、会社更生法改正案第76条第1項参照)。

<6> 破産者は、破産管財人に対し、破産管財人が受け取った<5>の郵便物等の閲覧又は当該郵便物等で破産財団に関しないものの交付を求めることができるものとする(民事再生法第74条第2項、会社更生法改正案第76条第1項参照)。

(注)
1 破産財団に属すべき財産を発見し、又は破産者の財産の隠ぺい行為を監視し若しくは 財産を散逸する行為を防止して財団を確保するという観点から、郵便物の管理に閲して 再生手続及び更生手続と同様の制度を設けるものとするものである。ただし、破産者に対する手続保障を図る趣旨で、<1>では、裁判所が必要であると認める場合に嘱託をすることができるものとし、<4>では、破産者は、転送嘱託の決定に対して、即時抗告をすることができるものとしている。この点についてどのように考えるか。

2 <1>及び<4>については、再生手続及び更生手続においても、同様の手当をするものとする。

第5 破産管財人

1 破産管財人の資格
法人は、破産管財人となることができるものとする(民事再生法第78条において準用する同法第54条第3項、会社更生法改正案第67条第2項参照)。

2 複数管財人の職務執行
<1> 破産管財人が数人あるときは、共同してその職務を行うものとする。ただし、裁判所の許可を得て、それぞれ単独にその職務を行い、又は職務を分掌することができるものとする(民事再生法第70条第1項、会社更生法改正案第69条第1項参照)。

<2> 破産管財人が数人あるときは、第三者の意思表示は、その一人に対してすれば足りるものとする(民事再生法第70条第2項、会社更生法改正案第69条第2項参照)。

3 代理人の選任
(1)選任の要件
<1> 破産管財人は、必要があるときは、その職務を行わせるため、自己の責任で一人又は数人の代理人を選任することができるものとする(民事再生法第71条第1項、会社更生法改正案第70条第1項参照)。

<2> <1>の代理人の選任については、裁判所の許可を得なければならないものとする(民事再生法第71条第2項、会社更生法改正案第70条第2項参照)。

(2)代理人の報酬等
代理人は、費用の前払及び裁判所が定める報酬を受けることができるものとする(民事再生法第78条において準用する同法第61条第1項、会社更生法改正案第81条第5項参照)。

4 破産管財人の裁判所への報告
<1> 破産管財人は、破産宣告後遅滞なく、次の事項を記載した報告書を、裁判所に提出しなければならないものとする(民事再生法第125条第1項、会社更生法改正案第84条第1項参照)。

(i)破産宣告に至った事情
(ii)破産者及び破産財団に関する過去及び現在の状況
(iii)法人である破産者の役員等に対する損害賠償請求権の査定の申立て又はその保全処分を必要とする事情の有無
(iv)その他破産手続に関し必要な事項

<2> 破産管財人は、<1>によるもののほか、裁判所の定めるところにより、破産財団の管理及び換価の状況その他裁判所の命ずる事項を裁判所に報告しなければならないものとする(民事再生法第125条第2項、会社更生法改正案第84条第2項参照。

5 破産管財人の職務執行に対する妨害行為への対策
破産管財人は、職務の執行に際し抵抗を受けるときは、その抵抗を排除するために、裁判所の許可を得て、警察上の援助を求めることができるものとする。
(注) 民事執行手続における執行官に関する規定(民事執行法第6条第1項)と同旨の規定を、破産手続にも導入することについては、意見照会においても、管財業務に伴い様々な妨害行為が起きている現状では、警察上の援助を得なければ管財業務の履行を確保することができないことがあるので必要である等の意見が寄せられている。このような意見照会の結果を踏まえて、破産管財人は、裁判所の許可を得て、警察上の援助を求めることができるものとすることで、どうか。なお、破産管財人の職務に対する妨害行為自体は威力業務妨害罪(刑法第234条)などによる対処も可能であるが、それ以外に破産管財人の職務に対する妨害行為を破産法上の刑罰の対象とするかどうかについては、なお検討するものとする。

6 破産者及び子会社に対する調査等
<1> 破産管財人は、破産者の帳簿、書類その他の物件を検査することができるものとする(民事再生法第78条において準用する同法第59条、会社更生法改正案第77条第1項参照)。

<2> 破産管財人はァその職務を行うため必要があるときは、破産者の子会社又は連結子会社に対してその業務及び財産の状況につき報告を求め、又はその帳簿、書類その他の物件を検査することができるものとする(会社更生法改正案第77条第2項参照)。

<3> <2>の子会社又は連結子会社は、正当な理由がない限り、<2>による報告又は検査を拒むことができないものとする(同条第3項参照)。

(注)
1 再生手続においては、再生債務者の財産状況を把握するために、再生債務者の帳簿等に対する破産管財人の物件調査権を認めている。また。更生手練においても、同様の趣旨から、更生管財人の更生会社に対する物件調査権を認めるものとしている。破産法において、破産者の財産状況を的確に把握する手段として、このような制度の必要性は同様に認められ、再建型の倒産手続と異なるところはないものと考えられる。加えて、実務上、破産者は破産宣告後は協力的にならない場合も多く、現行の破産法における説明義務では財産状況を的確に把握することができないとの指摘がされ、意見照会の結果によっても、破産者による財産隠匿等が種々認められるが、現行法では実効性のある手段が不十分であり、破産管財人の調査権限を明確にすべきであるとの指摘がされている。 そこで、再生手続及び更生手続と同様に、破産者等に対する物件調査権を認めるものとするものである。

2 会社更生法改正案においては、<1>に加えて、子会社に対する物件調査権を認める制度が設けられている。すなわち、更生手続においては、1で述べたとおり、更生会社の業務及び財産状況に対する調査権が認められているものの、実務上は、更生会社の子会社等を通じて資産隠しや不明朗な経理処理がされている事例も少なくないことから、更生会社に対する調査権のみでは不十分であるとの指摘を受けて、新たに規定されたものである。この点については、破産手続においても、同様の事例が少なくないと指摘がされ、意見照会においても、関連会社などに破産者の資産が移動している場合もあるので、破産者の財産状況を的確に把握するためには、会社更生法改正案と同様に、子会社に対する物件調査権を認める必要性が高いとの意見が寄せられている。そこで、これらの指摘等を踏まえ、破産手続においても、同様に子会社に対する物件調査権を設けるものとしている。なお、<3>についても、会社更生法改正案と同様に、子会社等が営業上の秘密の保持のため調査に応じ難いこと等も想定されることから、この点に配慮して、子会社は、正当な理由があるときは、報告又は検査を拒むことができるものとしている。

3 制裁については、会社更生法改正案においては、1 0 0万円以下の過料とされているが(同案第261条第2項)、倒産犯罪の全体的な整備の中でなお検討するものとする。

4 <2>及び<3>については、再生手続についても、同様の手当をするものとする。

第6 監査委員

監査委員の制度(破産法第170条から第175条まで参照)は、廃止するものとする。

(注) 現行の破産法において監査委員の同意を要するものとされている事項は、裁判所の許可事項とするものとする(中間試案第1部の第12の1(4))参照)。

第7 債権者集会

1 債権者集会の招集

(1)財産状況報告集会(第1回債権者集会)
<1> 裁判所は、破産者の財産状況等を報告するため、債権者集会を招集しなければならないものとする。ただし、債権者の数その他の事情を考慮して相当と認めるときは、この限りでないものとする。

<3> <1>ただし書の場合は、裁判所は、破産管財人に対して、破産債権者の閲覧に供するため、破産者及び破産財団に関する過去及び現在の状況等を記載した報告書(前記第5の4<1>参照)の写しの備置き等を命ずる措置をとることができるものとする。

(注)
1 上記の考え方は、中間試案に掲げられた第1回債権者集会についての考え方、すなわち、債権者の数その他の事情を考慮して相当と認めるときは、裁判所は、債権者集会を開催する代わりに、<2>の代替措置をとることができるものとするものである。裁判所が代替措置を選択した場合において破産債権者の招集請求権の規定を適用すべきか否かについては、意見照会の結果においては、このような招集請求権を適用すると、裁判所が代替措置を選択した趣旨を没却することから適当ではないとの意見が多数であった。

2 破産管財人は、再生手続及び更生手続と同様に、破産宣告に至った事情及び破産者及び破産財団に関する過去及び現在の状況等に関する報告書を作成して遅滞なく裁判所に提出しなければならないものとし(前記第5の4参照)、このような措置に加えて、裁判所は、<2>の措置を命ずることによって、情報の開示の措置を補完することができることとしている。もっとも、<2>については、意見照会の結果によれば、破産管財人の事務所には、閲覧に供せるだけの人的・物的設備がないとして反対する意見もあったが。破産債権者に対して財産状況を周知させる必要性は再生手続と異なるところはないと考えられるし、他方で、意見照会では、規則において、破産管財人は、裁判所に提出した報告書の要旨を知れている破産債権者に周知させるため、報告書の要旨を記載した書面の送付等の措置をとらなければならない旨を定める(民事再生規則第63条参照)こととすれば、破産管財人の事務所に現実に訪れる破産債権者は限られるものと考えられるとの指摘もされている。そこで、このような措摘を踏まえて、再生手続と同様に、裁判所は、破産管財人に対して、破産債権者の閲覧に供するため、破産者及び破産財団に関する経過及び現状等を記載した報告書の写しの傭置き等を命ずる措置をとることができるものとし、これと併せて、破産管財人は、裁判所に提出した報告書の要旨を知れている破産債権者に周知さぜるため、報告書の要旨を記載した書面の送付等の措置をとらなければならない旨を定めるものとすることで、どうか。

(2)(1)以外の場面における債権者集会
ア ー般的な債権者集会
<1> 裁判所は、次の各号に掲げる者のいずれかの申立てがあった場合には、債権者集会を招集しなければならないものとする。ただし、債権者の数その他の事情を考慮して相当と認めるときは、この限りでないものとする。

(i)破産管財人
(ii)債権者委員会
(iii)知れている破産債権者の総債権について裁判所が評価した額の十分の一以上に当たる破産債権を有する破産債権者

<2> 裁判所は、<1>の申立てがない場合であっても、相当と認めるときは、債権者集会を招集することができるものとする。

<3> <1>ただし書の場合において、債権者集会における決議を要するときは、裁判所は、これに代えて、書面による決議(民事再生法第172条参照)を行わなければならないものとする。

(注)
1 前記(1)の場合以外の一般的な債権者集会の招集請求権のあり方を検討するにあたっては、債権者集会の権限の範囲についても考慮する必要がある。破産法上の債権者集会の権限は、(a)破産管財人や監査委員の任免に関するもの(破産管財人の解任決議(第167条)、監査委員の設置(第170条)、監査委員の選任(第171条第1項))、(b)破産財団の管理及び換価に関するもの(監査委員の同意に代わる決議(第183条第1項)、第1回債権者集会の決議事項(第194条)、監査委員の同意に代わる裁判所の許可(第198条第2項)、監査委員の同意を得た場合における破産管財人の行為の中止命令(第2 0 0条)、寄託高価品の返還請求(第206条第1項)、不換価財産の処分決議(第281条)、異時廃止の決定をする際の意見聴取(第353条第1項))。(c)破産手続の進行に関して必要な説明を受けること(破産者等の説明義務(第153条)。破産管財人等の計算の報告(第168条第1項)、第1回債権者集会における破産管財人の報告(第193条)、破産管財人の状況報告(第205条))、(d)破産手続を終了させ、強制和議に移行させるための決議(債権者集会の期日(第299条第1項)、和議の可決要件(第306条第1))、の4つに区分される。これらは、中間試案においては、次のとおりとされている。(a)については、監査委員制度の廃止に伴い、破産管財人の解任決議(第167条)のみが存続することになる(後記第7の3)。(b)については、監査委員制度の廃止に伴い、監査委員の同意に代わる債権者集会の決議が廃止され、その他については個別に検討することとしている(第281条については、後記ウ(注)4参照)が、異時廃止の決定をする際の意見聴取(破産法第353条第1項)は存続することになる。(C)のうち、第1回債権者集会における報告(第193条)については前記(1)において、計算の報告(第168条第1頃)については後記ウにおいて、それぞれ個別に検討するものとされているが、破産者等に説明を求める決議をするため の債権者集会(第153条及び第205条)は存続することになる。(d)については、強制和議の制度の廃止に伴い、削除するものとしている。

2 以上のとおり、今回の見直しにおいて、債権者集会の権限となる事項は、前記(1)の第1回債集会における報告(第193条)を除くと、(い)破産管財人の解任決議(第167条)、(ろ)異時廃止の決定をする際の意見聴取(第353条第1項)、(は)破産者等に説明を求める決議(第153条及び第205条)及び(に)計算の報告(第168条第1項及び第281条)となる。したがって、債権者集会は、以上の権限の範囲内において開催されることになると考えられる。もっとも、このうち(い)については、後記3でその廃止を検討しており、(ろ)については後記イで書面による意見聴取、(に)については後記ウで債権者集会外での異議の陳述を検討することとしている。そうすると、一般の債権者集会において問題となるのは、(は)の決議がされる場合であると解せられるが、債権者等が債権者集会の権限事項について集会の開催を求める場合には招集請求権自体を否定することはできないと考えられる。もっとも、債権者集会の開催の要否についてば(1)の財産状況報告集会の要否と同様に、裁判所が債権者の数その他の事情を考慮してその判断をするのが適切であると考えられ、同様の制限を認める必要があると考えられる。ただし、債権者の数その他の事情を考慮して相当と認めて、債権者集会を開催しない場合も、代替措置は必要であり、(は)のように決議が必要な場合には債権者集会におげる決議に代えて書面による決議を認める必要があると考えられる。<3>は、その旨を定めるものであるが、この点についてどのように考えるか。

イ 異時廃止の決定をする際の意見聴取のための債権者集会
<1> 裁判所は、異時廃止の決定をする場合には、債権者集会において破産債権者の意見を穂かなければならないものとする。

<2> <1>にかかわらず、裁判所は、相当と認めるときは、<1>の債権者集会における破産債権者の意見の聴取に代えて、書面によって破産債権者の意見を聴くことができる。この場合においては、破産債権者の債権者集会の招集請求権(前記ア<1>参照)についての規定は、適用しない。

ウ 破産管財人の計算の報告
(ア)債権者集会における計算の報告
<1> 破産管財人の任務が終了した場合には、破産管財人又はその承継人は、遅滞なく、債権者集会に計算の報告をしなければならないものとする。

<2> 破産者、破産債権者又は後任の破産管財人が、債権者集会において、計算について異議を述べなかったときは、これを承認したものとみなすものとする。

<3> 破産管財人は、利害関係人の閲覧に供するため、計算の報告書を債権者集会の日から3日前に裁判所に提出しなければならないものとする。

<4> <1>の債権者集会においては、価値がないために破産管財人が換価しなかった財産の処分について、決議をしなければならないものとする。

(イ)書面による計算の報告
<1>(ア)<1>の場合には、破産管財人又はその承継人は、(ア)<1>の報告に代えて、遅滞なく、計算の報告書を作成して裁判所に提出するとともに、破産者、破産債権者又は後任の破産管財人(以下(イ)において「破産者等」という。)の閲覧に供するため、<2>により破産者等が異議を述べることができる期間が満了するまでの間、その写しを自らの事務所に備え置く措置を執ることができるものとする。

<2> 裁判所は、破産者等に対し、<1>の報告書及びその写しが備え置かれている旨及びその計算に異議があれば一定期間内にこれを述べるべき旨を公告しなければならないものとする。この場合においては、その期間は、1月を下ることができないものとする。

<3> 破産者等が<2>の期間内に異議を述べなかったときは、計算を承認したものとみなすものとする。

<4> <1>の措置を執る場合には、破産管財人又はその承継人は、(ア)<4>の処分について、裁判所の許可を得なければならないものとする。

(注)
1 この考え方は、破産管財人の任務が終了した場合には、破産管財人は、債権者集会における計算の報告((ア)<1>)(破産法第168条参照)と書面による計算の報告((イ)<1>とを選択的に行うことができるものとするものである。

2 倒産法部会においては、破産管財人の免責の効果を導くことを制度として予定する意義が少ないものとして、上記(ア)<3>及び(イ)<2><3>を設ける必要はないとする考え方も示された。この点、意見照会の結果によれば 計算の報告により、その後、配当の計算違いについての免責の効果があることに意味があるとして、制度としては残すべきであるとの意見が多数であった。免責の必要性が乏しい場合等には、上記(ア)<2>及び(イ)<2><3>を適用しないものとする考え方もあり得るが、どのように考えるか。

3 2を前提として、(ア)<1>及び(イ)<1>(<4>)は、報告義務の主体に個人である破産管財人の承継人(相続人)を含めるとしている。現行の破産法においては、破産管財人が死亡等の原因により計算の報告ができない場合であって。破産管財人に過誤があったときは、相続人は、破産管財人に対する損害賠償請求権を相続することになるが、相続人が破産管財人に代わり計算の報告をすることによって、この損害賠償責任を免れることができる。この場合、承継人の報告義務の側面を強調して、実際上の能力を有しない相続人等の承継人に報告義務や備置き義務を負わせることはおよそ適当ではないとして、(ア)<1>又は(イ)<1>(<4>)の主体に破産管財人の承継人を含めないものとすべきであるとの意見もあるが、一方で、上記のとおり、承継人がこのような報告義務を尽くせば、破産管財人に対する損害賠償請求権が相続される前に、免責されるという利益を受けられるという側面を強調する立場からは、承継人に免責を受ける機会を確保するために、(ア)<1>及び(イ)<1>(<4>)の主体に承継人を含めるべきであるという指摘もされている。なお、計算の報告は、破産債権者等が破産管財人により行われた管財業務を最終的に検証するという意義を有するものであるが、その計算の報告に要する費用を誰が負担するかという点も問題となる。この点については、現行の破産法では、任務に関する計算の報告を、当該任務を行った破産管財人又はその承継人の負担で行うものとされており、破産財団の負担により後任の破産管財人を選任した上で、その破産管財人に計算の報告をさせることまでは予定していないと解されている(破産法第168条第1項参照)。したがって、破産管財人や相続人等の承継人の負担によって計算の報告をさせる必要があり、むしろ、それが損害賠償責任の免責の趣旨にも適合すると考えられる。なお、実務上、専門家ではない承継人が計算報告の義務を負う場合であっても、専門的な知識を有する代理人を選任して報告している場合があるとの指摘もされている。(ア)<1>及び(イ)<1>(<4>)では、以上の点を考慮し、報告義務の主体に破産管財人の承継人を含めるものとしているが、この点についてどのように考えるか。

4 現行の破産法では、計算報告のために招集した債権者集会において、破産管財人は、価値がないために換価しなかった財産の処分について承認の決議を受けなければならないものとされている(破産法第281条)が、(イ)<4>では、破産管財人が(イ)による書面による計算の報告という方法を選択した場合には、債権者集会の決議に代えて、裁判所の許可を得なければならないものとしている。もっとも、実務上は、換価が不可能な財産がある場合には、最後配当までに、現行の破産法第197条第12号に規定する権利の拠棄についての許可を得た上で、その財産を放棄している事例が多いと指摘されていることからすると、このような決議の制度自体を廃止するものとすることも考えられる。この点についてどのように考えるか。

2 必要的決議事項の取扱い
(1) 営業の継続
破産管財人は、破産宣告がされた後であっても、裁判所の許可を得て、営業を継続することができるものとする。

(2)高価品の保管方法
破産管財人は、高価品の保管方法について定め、裁判所に届け出なければならないものとすることで、どうか。

(注)意見照会の結果によっても、高価品の保管方法についての判断は、形式的・画一的なものであるから、(2)に定める方法によっても、その適正さを図りつつ、管財業務の円滑な進行を実現することができるとの意見が多数であった。

3 破産管財人の解任
裁判所は、破産管財人が破産財団の管理を適切に行っていないとき、その他重要な事由があるときは、利害関係人の申立てにより又は職権で、破産管財人を解任することができるものとする。この場合においては、その破産管財人を審尋しなければならないものとする(民事再生法第78条において準用する同法第57条第2項、会社更生法改正案第68条第2項参照)ことで、どうか。

(注) この考え方は、再生手続と更生手続と同様に、裁判所の監督権の発動として、裁判所による破産管財人の解伍権を定めるものであり、具体的には、裁判所は、利害関係人の申立てにより又は職権で、破産管財人を解任することができるものとするものである。現行の破産法における債権者集会の解任の決議(第167条前段参照)は、裁判所の解任権の職権発動を促すものに過ぎず、裁判所はこの決議に拘束されないと解されている。したがって、あえて債権者集会の決議の方法によらなければならないものとはせず 再生手続及び更生手続との均衡を図る観点から、これらの手続と同様に、破産債権者が破産管財人の業務遂行の適正さについて意見表明をする機会を与えるために、利害関係人としての各破産債権者が、債権者集会の決議によらなくても、破産管財人が破産財団の管理を適切に行っていないときなど重要な事由があるときは、解任の申立てをすることができるものとすることで、どうか。

4 決議の成立要件
債権者集会の決議案を可決するには、議決権を行使することができる破産債権者で出席した者の議決権の総額の2分の1巻超える議決権を有する者の賛成がなければならないものとする。

5 債権者集会期日の労働組合等への通知
債権者集会の期日は、破産者の使用人その他の従業者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、破産者の使用人その他の従業者の過半数で組織する労働組合がないときは破産者の使用人その他の従業者の過半数を代表する者に通知しなければならないものとする(民事再生法第115条第3項、会社更生法改正案第115条第3項参照)。

第8 債権者委員会

<1> 裁判所は、破産債権者をもって構成する委員会がある場合には、利害関係人の申立てにより、当該委員会が、破産法に定めるところにより、破産手続に関与することを承認することができるものとする。ただし、次に掲げる要件のすべてを具備する場合に限るものとする。
(i)委員の数が、三人以上最高裁判所規則で定める人数以内であること。
(ii)破産債権者の過半数が当該委員会が破産手続に関与することについて同意していると認められること。
(iii)当該委員会が破産債権者全体の利益を適切に代表すると認められること。

<2> 裁判所は、必要があると認めるときは、破産手続において、<1>により承認された委員会(以下「債権者委員会」という。)に対して、意見の陳述を求めることができるものとする。

<3>債権者委員会は、破産手続において、裁判所又は破産管財人に対して、意見を述べることができるものとする。

<4> 裁判所は、利害関係人の申立てにより又は職権で、いつでも<1>による承認を取り消すことができるものとする。(民事再生法第118条、新会社更生法第117条参照)

(注)
1この考え方は、破産債権者の意思を破産手続に反映させるための手段を充実させるために 民事再生法及び新会社更生法と同様に、債権者委員会の制度を設けるものとするものである。意見照会においても、このような制度を設けることについては、多数の賛成意見が寄せられ ほぼ異論がなかった。

2( i) 債椎者委員会の権限について、再生手続において認められている意見陳述権等(上記<2>及び<3>参照)や債権者集会の招集請求権(倒産法部会資料28第7・1(2)ア参照)以外に、どのようなものを認めるかという点については検討を要するとされていたところである(中間試案第1部、第8(注)参照)。この点について、意見照会においては、債権者集会の申立権が認められれば 破産管財人に対する監督は十分機能するし、<3>による意見陳述権が認められれば、破産債権者の意見を破産手続に反映することができる等の理由から、上記<2>及び<3>の権限を認めることで足りるとの意見が寄せられており、上記の案でもこれを採用している。

(ii)他方、再生手続の実務において債権者委員会の活用事例が少ないとの指摘がされていたことから、新会社更生法においては、債権者委員会の活用を促すために、その権限を次のとおり拡張するものとしている(更生手続においては、更生債権者、更生担保椎者又は株主についてそれぞれの利害を代表する委員会が認められている。)すなわち、(ア)更生手続に参加する更生会社の事業の更生に貢献する活動があったと認められるときは、当該委員会の費用償還請求権を共益債権として取り扱うものとして、裁判所が相当と認める額の費用を償還することを許可することができる(新会社更生法第117条第4項)、(イ)<1>により債権者委員会の設置が承認されたときは、戦判所書記官は遅滞なく管財人に対してその旨を通知するものとし、管財人は、その通知を受けたときは、遅滞なく更生会社の財産の管理に関する事項について債権者委員会の委見を聴かなければならない(新会社更生法第118条)、(ウ)管財人は報告書等(中間試案第1部、第 5の4参照)を裁判所に提出したときは、当骸報告書を債権者委員会にも提出しなかればならない(新会社更生法第119条)、(エ)債権者委員会は、更生債権者全体の利益のために必要があるときは、裁判所に対し、管財人に更生会社の業務及び財産の管理状況その他更生会社の事業の再生に必要な事項について、裁判所が管財人に一定の事項を報告するように命ずる(中間試案第1部、第5の4<2>参照)ように申し出ることができるものとし、裁判所は、当該申出が相当であると認めるときは、管財人に対し、当該報告を命じなければならない(新会社更生法第120条)ものとするものである。

(iii)このうち、(ア)については、事業の更生に貢献した場合には、裁判所がその貢献の程度を考慮して相当と認める額の範囲内において費用償還請求権を共益債権として取り扱うものであるが、破産手続においても、債権者委員会の活動に要した費用は共益性が認められる限りにおいて、財団債権として優先的に弁済することが可能となることからすると、清算型の倒産処理手続である破産手続において、あえて(ア)のような規定を設ける必要性は少ないと考えられるが、どうか。次に、(イ)から(エ)までについては、破産管財人と債権者委員会との意思疎疎通が円滑に行われるようにその端緒を与え、又は債権者委員会の情報収集機能を高めることを目的とするものであるとされており、これらの趣旨は破産手統にも同機にあて はまるものといえる。そこで、(イ)から(エ)までの制度については、破産手続においても採用するものとすることが考えられるが、どうか。

3 意見照会に対して寄せられた意見の中には、債権者委員会の設置にあたっては、労働組合の参加を必要的とすべきであるとの意見があるが、どのように考えるか。この点については、債権者委員会は、監査委員制度の廃止に伴い、破産債権者の意思を破産手続に反映させるための手段を充実させるために設けられるものであり、破産債権者全体の利益を適切にに代表することをその本質とするという位置付け(<1>(iii))に照らすと、適正かつ公平な財産の清算を目的とする破産手続において、特定の破産債権者の利益を代表する者を必要的に参カロさせることは、このような目的に一段的に適合するとはいえないのではないかと考えられるが、どうか。

第9 代理委員

<1> 債権者は、裁判所の許可を得て、共同して又は各別に、一人又は数人の代理委員を選任することができるものとする。

<2> 代理委員は、これを選任した債権者のために、破産手続に属する一切の行為をすることができるものとする。

<3> 代理委員が数人あるときは、共同してその権限を行使するものとする。ただし、第三者の意思表示は、その一人に対してすれば足りるものとする。

<4> 裁判所は、代理委員の権限の行使が著しく不公正であると認めるときは、<1>の許可を取り消すことができるものとする。(民事再生法第90条、新会社更生法第122条参照)

(注)
1 意見照会においては、裁判所による代理委員の選任勧告又は職権による選任の制度を 設けないものとすることについて多数の賛成意見が寄せられた。具体的には、破産手続は債務者の財産を清算することを目的とするものであり、代理委員は結局個々の破産債権者の利益を図る者として位置付けられるものに過ぎず、再生手続や更生手続のように、計画案を提出するなど再建のために積極的な活動をすることが制度上予定されていないので、その必要性に乏しいことなどを理由とするものである。どのような意見照会の結果を踏まえて、裁判所による代理委員の選任勧告又は職権による選任の制度は設けないものとしている。

2 意見照会においては、代理委員の報償金の制度(民時再生法第91条第1項参照)を設けないものとすることについては多数の賛成意見が寄せられた。これに対しては、代理委員によって財団の換価が適切に行われた場合や管財業務が簡素化された場合等は報償金の支払が適切であることもあるとの意見もあるが、代理委員が破産財団の管理及び換価に貢献したときは、その活動は破産債権者全体の利益に資するといえることから、その費用を財団債権として優先的に支払うことは可能であり、このような取扱いで足りるのではないかと考えられるが、どうか。

3 意見照会に対して寄せられた意見の中には、過半数の従業員が労働組合等に代理権を 付与している場合などは、破産手続の進行や破産管財人による破産財団の管理に関する事項について情報提供を行うなど、債権者委員会に準じた取扱いをすべきであるとの意見がある。しかし、過半数の従業員が労働組合等に代理権を付与している場合であっても、このような代理委員は、制度上、あくまで利害関係を共通にする特定の債権者を代表するものであって、破産債権者全体の利益を適切に代表するものと位置付けられる債権者委員会に準じた取扱いをすることは困難ではないかと考えられるが、どうか。

第10 破産債権の届出、調査及び確定

1 破産債権の届出

(1) 一般調査期間の末日又は一般調査期日後の届出
<1> 破産債権者がその責めに帰することができない事由によって一般調査期間の末日又は一般調査期日までに届出をすることができなかった場合には、その事由が消滅した後1月以内に限り、その届出の追完をすることができるものとする。

<2> <1>に定める届出の追完の期間は、伸長し、又は短縮することができないものとする。

<3> 一般調査期間の末日又は一般調査期日後に生じた破産債権については、その権利の発生した後1月の不変期間内に、届出をしなければならないものとする。

<4> <1>及び<2>は、破産債権者が、その責めに帰することができない事由によって、届け出た事項について他の破産債権者の利益を害すべき変更を加える場合について準用するものとする。(民事再生法第95条、新会社更生法第139条参照)

(注)
1 中間試案では、債権の届出につき時期的な制限は設けるものの、清算型の倒産処理手続である破産手続においては、債権届出期間までに届出をしなければならないとすることは厳格に過ぎると考えられることから、債権の届出をすることができる期間を一般調査期間の末日又は一般調査期日までとして、その後の債権の届出を制限する一方で、追完事由は、再生手続のように「責めに帰することができない事由」ではなく、それよりも厳しい「やむを得ない事由」とする案を示していた(中間試案第1部、第10の1(1)参照)。意見照会においては、債権の届出を一定期間以後制限すること自体については、ほぼ異論が出されなかったところであるが、追完事由を「やむを得ない時由」とすることについては、反対意見が相当数寄せられた。破産手続においても債権の届出につき時期的な制限を設けるものとする場合に、再生手続及び更生手続と異なって、一般調査期間の満了又は一般調査期日の終了までの届出を可能とするとしても、破産手続の性質上、追完事由を再生手続及び更生手続よりも厳格にする必要性は少ないと考えられることから、このような意見照会の結果を踏まえて、上記の案では追完事由を「責めに帰することができない事由」と改めることとしている。

2 なお、追完に関連して、破産者の異議の追完を定めた破産法第288条の見直しについても検討する必要がある。同条は、破産者の異議の追完について独立の行為としての原状回復の申立てを必要としているが、届出の追完と同様に、期間の徒過によって不適法とされる行為が適法である旨の主張をすれば足り、あえて独立の行為としての原状回復の申立てをさせる必要はないと考えられる(訴訟行為一般の追完にてついては、かつては民事訴訟法上、原状回復の申立てを必要としていたが、大正15年改正によって原状回復の申立ての制度は廃止されている。)。そこで、破産者の異議の追完についても、他の追完の制度と同様に 「破産者がその責めに帰することができない事由により債権調査期日に出頭することができなかったときは、その事由がやんだ日から1週間内に限り異議を追完することができるものとする」旨の規定とすることで足りると考えられるが、どうか。なお、破産者の異議の追完については、更生手続や再生手続と同様に、そもそもこのような異議の追完の制度を設けないものとすることも考えられる。しかし、両手続においては、債権調査につき書面による調査のみが採用され、1週間以上3週間以下の調査期間が設けられるのに対し、破産手続の期日における調査については、貴めに帰することのできない事由により当該期日に出頭することができなかった場合のために異議の追完を認める必要性も否定できないと考えられることから、この制度を維持することでどうか。

(2)届出名義の変更
届出をした破産債権を取得した者は、債権届出期間が経過した後でも、届出名義の変更を受けることができるものとする(民事再生法第96条前段、新会社更生法第141条参照)。

(後注)
租税債権も一定の場合に優先的破産債権となるものとする場合(中間試案第3部、第2の1(1)参照)には、破産宣告前の罰金等(破産法第254条)と同様に、優先的破産債権に該当するものについては、債権額及び原因を裁判所に届け出なければならないものとする必要がある(この場合には、破産宣告前の罰金等と同様に、届け出られた債権は、債権表に記載されるが、債権調査手続は行われないことになる。)。なお、このような租税債権や破産宣告前の罰金等の届出(現行法上は、遅滞なく届け出なければならないものとされている。)が前記1(1)の時期的な制限を受けるものとするかどうかについて検討する必要がある。

2 破産債権の調査
(1) 債権調査
<1> 裁判所による破産債権の調査は、破産管財人が作成した認否書並びに破産者及び破産債権者の書面による異議に基づいてするものとする(民事再生法第100条、新会社更生法第145条参照)。

<2> <1>にかかわらず、裁判所は、必要と認めるときは、破産債権の調査を期日における破産管財人の認否並びに破産者及び破産債権者の異議に基づいてすることができるものとする。

(注)意見照会の結果によると、破産手続においても書面による債権調査(<1>)を導入することについては大多数が賛成意見であったが、実務上、破産管財人が一般調査期間内に債権を認否することができない場合もあり、このような場台にあっては、破産管財人は認否書において当該債権を認めない旨の記載をせざるを得ず、その結果、債権確定手続が頻発する可能性があり、かえって管財業務の負担が増大するおそれがあること等を理田として、期日における債権調査(<2>)を原則とすべきであるとする意見も寄せられた。しかし、この点については、期間による債権調査を原則とした場合であっても、上記の場合には、「必要と認めるとき」に当たると考えられるので、期日による債権調査を選択することができ、運用上は支障がないものと考えられるが、どうか。

(2)債権調査期間又は債権調査期日
<1> 裁判所は、破産宣告と同時に、一人又は数人の破産管財人を選任し、かつ、次に掲げる事項を定めなければならないものとする。
(i) 債権届出期間
(ii)破産者の財産状況を報告させるための債権者集会を招集するときは、その期日
(iii)一般調査期間又は一般調査期日(以下「一般調査期間等」という。)

<2> <1>(iii)にかかわらず、裁判所は、破産財団をもって破産手続の費用を償うに足りなくなる見込み〔おそれ〕があると認めるときは、一般調査期間等を定めないことができるものとする。

<3> <2>の場合において、裁判所は、相当と認めるときは、債権届出期間も定めないことができるものとする。

(注)
1 債権調査期間は、特別の事情がある場合を除き、その期間の初日と債権届出期間の末日との間には1週間以上2月以下の期間をおき、1週間以上3週間以下とし(民事再生規則第18条第2号参照)、債権調査期日は、債権調査期間と平因を合わせて、その期日と債権届出期間の末日との間には1週間以上2月以下の期間をおくものとすることを規則で定めるものとする。第1回債権者集会については、現行の破産法は、破産宣告の日から1月内の開催としているが、この点についてどのように考えるか。

2 <2>及び<3>は、破産宣告の際、財団債権の弁済により、破産財団をもって破産手続の費用を償うに足りなくなる見込みがあると認めるときは、債権調査を行う必要性が少ないことから、破産宣告と同時に、債権調査期間又は債権調査期日を定めないことができるものとし、さらに、債権調査の前提となる債権の届出のための債権届出期間をも定めないことができるとするものである。意見照会においては、債権調査期間又は債権調査期日を定めないことができるという点については賛成する意見が多数寄せられた。これに対し、債権届出期間をも定めないことができるという点については、異時廃止が明らかであり配当が受けられないにもかかわらず、債権者に債権の届出を行わせることは、債権者に無用の労力や費用を使わせることになるし、また、異時廃止が明らかであるにもかかわらず、債権届出期間を設けないものとすれば、債権届出書の管理などを省くことができることから、破産管財人の管財業務を簡素化することに資する等の理由から、これに賛成する意見が相当数寄せられた一方で、反対意見も相当数寄せられた。具体的には、( i)破産宣告時における異時廃止の見込みは、あくまで暫定的なものに過ぎず、その後の手統の進行で配当が可能となることもあり得るところ、そのような結果になった場合には証拠の散逸という事態が生じるおそれがある。(ii)債権届出期間を定めないと、裁判所及び破産管財人としても、債権届出がされるのが否か、あるいは届出がいつされるか等が分からない上、五月雨的に届出がされると、かえって事務手続上混乱するおそれがある、(iii)債権届出期間の定めがないと、届出により時効の中断の効果が生ずるにもかかわらず届け出ること自体できない、あるいはその必要性がないと債権者が誤解するおそれがある等というものである。
そこで、<3>では、( i)(ii)の指摘を踏まえて、将来破産手続の費用を償うに足りなくなる見込みがより確実であると認められる場合、早期に異時廃止が見込まれる場合、債権者数が少なく、事務手続上混乱が生ずるおそれが少ないと見込まれる場合など裁判所が相当と認める場合には、債権届出期間をも定めないことができるものとしている。また、(iii)の指摘については、破産宣告の通知の中で、時効中断等のために債権の届出をすることができる旨を注意的に記載する等教示についての運用上のエ夫で対処しうるとの意見もある。これらの点について、どのように考えるか。

3 一般調査期間等又は債権届出期間を定めなかった場合には、裁判所が、必要に応じてこれらを定める根拠となる規定を設ける必要があると考えられるが、どうか。例えば、「一般調査期間等を定めなかった場合には、いつでもこれを定めることができる。ただし、破産財団をもって破産手続の費用を償うに足りなくなる見込みがなくなったと認めるときは、一般調査期間等を定めなければならない」ものとすることが考えられるが、どうか。なお、一般調査期間等を定める場合には、公告及び通知の対象とする必要がある。

(3)特別調査期間等に関する費用の予納がない場合の破産債権の届出の却下
<1> 裁判所は、債権届出期間経過後の届出又は他の破産債権者の利益を害すべき届出事項の変更があった破産債権について、その調査をするための期間又は期日(以下「特別調査期間等」という。)を定めなければならないものとする。ただし、一般調査期間を定めた場合にあっては、破産管財人が認否書に当該破産債権についての認否を記載しているもの、一般調査期日を定めた場合にあっては 当該期日において当該破産債権について調査をすることについて破産管財人及び破産債権者の異議がないものについては、この限りでないものとする。

<2> <1>本文の場合には、特別調査期間等に関する費用は、<1>の破産債権を有する者の負担とするものとする。

<3> <1>本文の場合には、裁判所書記官は、相当の期間を定め、<2>の費用の予納を命ずる処分をしなければならないものとする。

<4> <3>の処分は、相当と認める方法で告知することによって、その効力を生ずるものとする。

<5> <3>の処分に対する異議の申立ては、その告知を受けた日から一週間の不変期間向にしなけれはならないものとする。

<6> <5>の異議の申立ては、執行停止の効力を有するものとする。

<7> <3>の場合において、<1>の破産債権を有する者が<3>による予納をしないときは、裁判所は、決定で、<1>の破産債権の届出を却下しなければならないものとする。

<8> <7>の決定に対しては、即時抗告をすることができるものとする。
[<3> 裁判所は、民事訴訟費用等に関する法律の規定に従い<2>の費用の予納を相当の期間を定めて破産債権者に命じた場合において、その予納がないときは、決定で、当該破産債権者の破産債権の届出を却下しなければならないものとする。<4> <3>の決定に対しては、即時抗告をすることができるものとする。]

(注)
1 本文の案は裁判所書記官が、[]の案は裁判所が、<2>の費用につき予納を命ずるものとする案を記載するものである。 裁判所書記官が予納を命ずる処分をすることができるか否かについては(中間試案第1部、第1Oの1(3)(注1)参照)、意見照会においては、これに賛成する意見と、この処分は形式的な判断事項とはいえないとして反対する意見がそれぞれ寄せられており、その結果を踏まえて、[]で別案を掲げるものとしている。

2 意見照会においては、費用の予納を命ずる場合には、届出期間経過後の届出に「やむを得ない事由」があるか否かの判断も含まれることを前提として、裁判所書記官が費用の予納を命ずる処分をすることに反対する意見が寄せられている。しかし、本案の考え方をとる場合であっても、手続的には、裁判所が期限に後れて届出がされた債権につき追完事由に該当するか否かを判断した上で、<1>の規定により特別調査期間又は特別調査期日を定め、その後に裁判所書記官が<3>の費用の予納を命ずる処分をすることになるので、この処分には追完事由に該当するか否かの判断は含まれないことになる。したがって、予納を命ずる場合にその判断の対象となるのは、特別調査に要する費用の額となるが、具体的には、<1>特別調査期日の場合の官報公告費用。<2>破産債権者等に対する期日の送達費用(破産法第237条)、<3>破産管財人の報酬の追加分であると解されている。上記の特別調査に要する費用のうち、<1>官報公告費用については廃止されることとなり(後記(4)参照)、<2>破産債権者に対する期日の送達費用については破産債権者の数によって形式的に定められるものであり、定型的な計算に基づくことになる。<3>破産管財人の報酬の追加分の費用については、特別調査における調査の対象となる債権の数及びその性質等によって定まるものであると考えられるが、実務上は特別調査に要する費用を一律定額としている運用も多いと指摘されている。以上の点を踏まえて、本案について、どのように考えるか。

3 本案及び別案のいずれを採る場合も、再生手続及び更生手続において、破産手続と同様の手当てを行うものとする。

(4) 特別調査期日の公告
特別調査期日を定める決定の公告の制度(破産法第237条参照)は、廃止するものとする。

3 債権表〔破産債権者表〕等
(1)債権表【破産債権者表〕の記載
<1> 裁判所書記官は、破産債権の調査の結果を債権表〔破産債権者表)に記載しなにナれぱならないものとする(民事再生法第104条第2項、新会社更生法第150条第2項参照)。

<2> 裁判所書記官は、破産管財人又は破産債権者の申立てにより、破産債権の確定に関する訴訟の結果(査定の申立てについての裁判に対する訴えが期間内に提起されなかったとき、又は却下されたときは、当該裁判内容)を債権表[破産債権者表]に記載しなければならないものとする(民事再生法第110条、新会社更生法第160条参照)。

(2)債権証書への記載
債権証書に当該債権が確定した旨を記載する制度(破産法第241条第2項参照)は、廃止すものとする。

(3)債権表〔破産債権者表〕の更正
債権表〔破産債権者表〕の記載に誤りがあるときは、裁判所書記官は、申立てにより又は職権で、いつでもその記載を更正する処分をすることができるものとする(民事訴訟法第257条参照)。

(注)
1 この更正処分に対して異議がある場合は、破産法第108条において準用する民事訴訟法第121条によるものとする。

2 再生手続における再生債権者表及び更生手続における更生債権者表等についても、同様の手当てを行うものとする。

4 破産債権の確定
(1)決定による債権確定手続
破産憤権の調査において、破産管財人又は届出債権者が異議を述べた破産債権の内容については、査定の手続及び査定の申立てについての裁判に対する異議の訴えの手続により確定を行うものとする(民事再生法第105条、新会社更生法第151条参照)。

(2)債権確定手続の申立期間等

<1>(1)の査定の申立ては、異議等のある破産債権に係る調査期間の末日又は調査期日から1月の不変期間内にしなければならないものとする(民事再生法第105条第2項、新会社更生法第151条第2項参照)。

<2> 執行力ある債務名義又は終局判決のある破産債権に対して異議を述べた異議者が、破産者がすることのできる訴訟手続によってその異議を主張する場合には、当該異議の主張は、当該破産債権に係る調査期間の末日又は調査期日から1月の不変期間内にしなければならないものとする(民事再建法第109条第3項、新会社更生法第158条第3項参照)。

第11 係属中の債権者代位訴訟

<1> 民法第423条の規定により破産債権者が提起した訴訟が破産宣告時に係属するときは、その訴訟手続は、中断するものとする。

<2> <1>によって中断した訴訟手続は、破産管財人においてこれを受け継ぐことができるものとする。この場合においては、受継の申立ては、相手方もすることができるものとする。

<3> <2>の場合においては、相手方の<1>の訴訟を提起した破産債権者に対する訴訟費用請求権は、財団債権とするものとする。

<4> <1>によって中断した訴訟手続について<2>による受継があった後に破産手続が終了したときは、当該訴訟手続は中断するものとする。

<5> <4>の場合には、<1>の訴訟を提起した破産債権者において当該訴訟手続を受け継がなければならないものとする。この場合においては、受継の申立ては、相手方もすることができるものとする。

<6> <1>によって中断に、た訴訟手続について<2>による受継があるまでに破産手続が終了したときは、<1>の訴訟を提起した破産債権者は、当該訴訟手続を当然に受継するものとする。(民事再生法第140条、新会社更生法第98条参照)

(注)
1 条文の配置については、破産宣告の効果に関する規定として、詐害行為取消訴訟(民事再生法第140条等)と並べて規定する(詐害行為取消訴訟に関する規定は、否認権に関する節に規定しない。)ことが考えられるが、どうか。

2 転用型事例の取扱いについては(i)転用型事例においても、被代位権利の行使は、破産財団の管理及び処分に属し、破産管財人による権利行使を認めるのが適切であること、(ii)当該訴訟によって当該債権者の有する破産債権の実現が図られるときは、当該債権者が当然に訴訟追行を継続することは、破産法第16条に反し適切ではないことから、一般に、通常の代位訴訟と異なる取扱いをすべきこととはならないものと考えられる。もっとも、直接請求に基づ<訴訟と併せて代位訴訟が提起されている場台のように、破産管財人による権利行使が破産財団の増殖等総債権者の利益に資するわけてばなく、また、当該債権者による訴訟追行が破産法第16条に反しないと考えられる場合には、当該訴訟の中断及び破産管財人による受継という取扱いをすることに十分な理由はなく、このような場合には、債権者代位訴訟の中断は生ないとする考え方も十分にあり得るところである。転用型事例について、総債権者の利益に資するか等の観点から、どのような類型が中断・受継の対象となるかを予め明確に規定することは、判例及び学説において個別の事例が確立しているにすぎない転用型事例の性格上、困難であり、この点は、制度趣旨を踏まえた「民法第423条の規定により破産債権者が提起した訴訟」の解釈に委ねるものとすることが適切であると考えられるが、どうか。

3 再生手続及び更生手続においても、同糠の手当てを行うものとする。

第12 破産財団

1 破産財団の管理
(1)帳簿の閉鎖
裁判所書記官は、破産管財人の申立てにより、必要があると認めるときは、破産者の財産に関する帳簿を閉鎖することができるものとする。

(2)財産の価額の評定
<1> 破産管財人は、破産宣告後遅滞なく、破産財団に属する一切の財産につき破産宣告の時における価額を評定しなければならないものとする。

<2> 破産管財人は、<1>による評定を完了したときは 直ちに破産宣告の時における財産目録及び貸借対照表を作成し、これらを裁判所に提出しなければならないものとする。(民事再生法第124条参照)

(注)
1 <1>は、裁判所書記官、執行官又は公証人の立会いの制度を廃止するものである。また、<1>及び<2>では、民事再生法にならって財産の評定の基準時並びに財産目録及び賃借対照表の作成の基準時を示すこととしている。

2 破産法第188条第1項後段(「此ノ場合ニ於テハ遅滞ノ虞アル場合ヲ除クノ外破産者ノ立会ヲ求ムルコトヲ要ス」)、第3項及び第4項については、 規則で定めるものとする。

(3)財団に属する財産の引渡し
<1> 裁判所は、破産管財人の申立てにより、決定で、破産者に射し、破産財団に属する財産を破産管財人に引き渡すべき旨を命ずることができるものとする。

<2> 裁判所は、<1>の決定をする場合には、破産者を審尋しなければならないものとする。

<3> <1>の申立てについての決定に対しては、即時抗告をすることができるものとする。

<4> <1>の決定は、確定しなければその効力を生じないものとする。(民事執行法第83条参照)

(注)
<2>の必要的審尋の対象については、どのように考えるか。破産財団に属する財産と自由財産との区別が問題となる場合以外に必要性がないとすると、審尋の相手方を個人の破産者に限定することも考えられるが、この点についてどのように考えるか。

(4)裁判所の許可を要する事項
破産管財人が次に掲げる行為をするには、裁判所の許可を得なければならないものとする。ただし、(ii)から(xiv)までの行為につき最高裁判所規則で定める金額以上の価額を有するものに関しないときは、この限りでないものとする。
(i) (破産法第197条第1号と同じ。)
(ii)鉱業権、漁業権、特許権、実用新案権、意匠権、商標権、回路配置利用権、育成者権、著作権及び著作隣接権の任意売却
(iii)~(xiv)(破産法第197条第3号から第14号までと同じ。)
(xv)その他裁判所の指定する行為

(注)
1 規則において、ただし書の金額を100万円と定めるものとする。

2 監査委員の制度の廃止(前記第6参照)に伴い、破産法第198条及び第200条の規定は、削除するものとする。なお、破産法第199条(破産者の意見聴取)の規定は、破産管財人が裁判所の許可を得た場合であっても、管財業務の適正かつ円滑な遂行を図るために、破産財団の実情を最もよく知り、かつ利害関係が最も強い破産者に対して意見を聴く必要性は高いと認められることから、これを維持するものとする。

3 現行の破産法においては、商標権の任意売却については許可を要する行為として規定されていない(破産法第197条)。これは、破産法制定当時には商標権は「其ノ営業卜共ニスル場合二限り之ヲ移転スルコトヲ得」と規定されていたことから(旧商標法第12条第1項参照)、商標権の譲渡は、破産法第197条第3号の営業の譲渡に含まれるものとされていたためであると指摘されている。しかし、その後の商標法の改正(昭和34年法律第127号)によって、商標糟は営業と分離して譲渡することができるものとされており、現在では、商標権が単独で譲渡される場合には、他の知的財産権の任意売却について定めた破産法第197条第2号が類推適用されるものと解されている。そこで、現在の解釈を明文化するものとして、上記(ii)におい、て、商標権を加えるものとすることで、どうか。

(5)損害賠償請求権の査定
<1> 裁判所は、法人である債務者について破産宣告があった場合において、必要があると認めるときは、破産管財人の申立てにより又は職権で、破産者の理事、取締役、監事、監査役、清算人又はこれらに準ずる者の責任に基づく損害賠償請求権の査定の裁判をすることができるものとする。

<2> <1>の申立てをするときは、その原因たる事実を疎明しなければならないものとする。

<3> 裁判所は、職権で査定の手続を開始する場合には、その旨の決定をしなければならないものとする。

<4> <1>の願立て又は<3>の決定があったときは、時効の中断に関しては、裁判との請求があったものとみなすものとする。(民事再生法第143条、新会社更生法第100条参照)

(注)
1 損害賠償請求権の査定に関する裁判、査定の裁判に対する異議の訴え、査定の裁判の効力については、新会社更生法第101条から第103条までと同様の規定を設けるものとする。
2 民事再生法及び新会社更生法の規定による保全処分と同様の制度を設けるものとする(民事再生法第142条、新会社更生法第40条及び第99条参照)。

2 破産財団の換価
(1)換価の時期
破産管財人は、一般の債権調査の終了前においても、破産財団に属する財産を換価することができるものとする(破産法第 196条の規定は削除するものとする。)

(2)別除権の目的財産の任意売却
破産管財人が別除権の目的である財産を任意売却した場合において、当該担保権が存続するときは、当該担保権を有する者は、その権利の行使によって弁済を受けることができない債権の部分についてのみ、破産債権者として、その権利を行うことができるものとする(破産法第96条及び第97条参照)。

(注)
破産管財人は、別除権の目的である財産を任意売却する場合において、当該担保権が存続するときは、当該担保権を有する者に対して、任意売却をする旨及びその相手方等を通知しなければならない旨の規定を設けるものとする。このような通知の制度を設けることについては相当数の賛成意見が寄せられた。この制度は、任意売却により担保権の目的物の占有・管理状態が変わり得ることから、担保権者が担保権の実行の申立てや担保権の目的物の受戻しをする等の適切な対応をする機会を確保するため、目的物に関する情報や売却の相手方に関する情報を明らかにすることを目的とするものと位置付けられるものである。なお、通知を欠いた場合であっても、この制度が、上記のとおり、担保権者に対して担保権の実行や交渉の機会等を与えるものであるという趣旨に照らし、任意売却の効果には影響を及ぼさないものとすべきであると考えられる。そのような規定の性格からみて、規則で規定するものとすることで、どうか。

(3)破産管財人による任意売却と担保権の消滅
(前注)
1 「破産管財人による任意売却と担保権の消滅」は、中間試案においては、破産管財人が担保権者に対し任意売却による売得金の額や組入額等の条件を示した上で、担保権の実行を自らするか、又は破産管財人が示した条件で担保権を消滅させるかの選択を担保権者に行わせ、担保権者が後者を選択した場合においては、担保権は消滅し、破産財団へ一定金額が組み入れられるものとし、その根拠については、担保権者が担保権を実行せず、破産管財人の示した条件でよいと判断したことに求めるという基本的な考え方を示していた(中間試案第1部、第12の2(3)参照)。具体的には、中間試案では、このような基本的な考え方を甲案において示しつつ、担保権者が破産管財人の示した組入額についてのみ不服がある場合に再生手続における担保権の消滅制度で採用されている価額決定の請求手続と同様の制度(以下「価額決定手続」という。)を不服申立てのオプションとしてカロえる案(乙案)を示していた。また、これらの案に加えて、担保権を区別しないで一律に消滅の対象として取り扱う甲案の基本的な考え方を修正し、消滅する担保権をいわゆる判子代を要求する後順位担保権者の有するものに限定して一定の実務上のニーズに応えるものとし'さらに、組入れにつき利害関係を有する担保権者については組入額についての合意の形成を促進ないし補完するために、乙案と同様の価額決定手続をオプションとして設けるものとする考え方(丙案)を示していた。

2 意見照会の結果によると、このような基本的な考え方を採用して、-定の場合には担保権を消滅させて破産管財人の任意売却を促進させる制度を設けることについては、ほぼ異論のなかったところであるが、担保権者の保護をどのように図るべきかにつき様々な意見が寄せられた。

3 このうち、価額決定手続(乙案にあっては不服申立ての制度、丙案にあっては組入額についての合意の形成を促進ないし補完するための制度)を設けることについては、意見照会において、組入額のみを争っている担保権者、存在し得るから、その点を解決する手段として、このような制度を設けるのが相当であるとする意見も寄せられた一方で、このような制度が実務上機能するかどうかという点については疑問を呈する意見が相当数寄せられた。具体的には、(a)任意売却にあってはその合意成立から実行まで迅速な処理が必要となるところ、価額決定手続を導入すると、その手続に時間がかかり過ぎ、その間、買受希望者を引き留めておくことは実際上困難である、(b)再生手続における価額決定の請求とは異なり、破産手続においては実際に売買契約を締結することが前提とされており、売買契約に基づいて得られた売得金以外の「財産の価額」を現実に評価することは困難ではないか等とするものである。このように、価額決定手続は、運用上有効に機能するかという点について多くの疑問が寄せられており、この制度を支持する意見からも、 これらの問題点を解決する方策は示されていないところである。そこで、今回の資料では、中間試案の乙案及び丙案のうち合意の形成を促進ないし補完するための制度については、採用しないものとしている。

4 今回の資料では、意見照会の結果を踏まえて、以下のとおり、甲案と丙案に一定の修正を加え、 A案(甲案の修正案)及びB案(丙案の修正案)を提示することとしている。

ア A案(甲案の修正案)
(ア)担保権消滅の許可等
<1> 破産宣告当時破産財団に属する財産の上に別除権である担保権(以下「担保権」という。)が存する場合において、当該担保権を消滅させて当該財産を任意に売却することが破産債権者の一般の利益に適合するときは、破産管財人は、裁判所に対し、当該財産を任意に売却し、及び次の(i)又は(ii)に掲げる区分に応じてそれぞれに定める額に相当する金銭を裁判所に納付して当該財産の上に存するすべての担保権を消滅させることについての許可の申立てをすることができるものとする。

(i)破産管財人において、売却によってその相手方より取得することができる金銭(以下「売得金」という。)の一部を破産財団へ組み入れようとする場合 売得金から組み入れようとする額(以下「組入金」という。)を控除した額
(ii)(i)に掲げる場合以外の場合 売得金の額

<2> 破産管財人は、<1>の許可の申立てをしようとするときは、組入金の額について、あらかじめ消滅すべき担保権を有する者(以下アにおいて「担保権者」という。)と協議しなければならないものとする。

<3> <1>の許可の申立ては、次に掲げる事項を記載した書面でしなければならないものとする。

(i)当該担保権の目的である財産の表示
(ii)売得金の額
(iii)(i)の財産の売却の相手方の氏名又は名称
(iv)消滅すべき担保権の表示
(v)(iv)の担保権の被担保債権の額
(vi)組入金が存すると認めるときは、その額

<4> <1>の許可の申立てがあった場合には、<3>の書面(以下アにおいて「申立書」という。)を、当該申立書に記載された担保権者に送達しなければならないものとする。この場合においては、代用公告の規定は、適用しないものとする。

<5> <4>の場合においては、裁判所は、担保権者に対し、<1>の許可の申立てに異議があるときは、<4>に規定する申立書の送達を受けた日から1月以内に、担保権の実行を申し立てるとともにその申立てを証する書面を提出し、既に担保権の実行を申し立てているときはそれを証する書面を提出すぺきごとを命じなければならないものとする。

<6> 裁判所は、やむを得ない事由がある場合に限り、担保権者の申立てにより、<5>の期間を伸長することができるものとする。

<7> <5>の書面が提出された後に、<5>にて規定する担保権の実行の申立てが取り下げられ、又は却下された場合には、その書面を提出しなかったものとみなすものとする。民事執行法第188条において準用する同法第63条の規定又は同法第192条において準用する同法第 129条の規定により担保権の実行の手続が取り消された場合についても、同様とするものとする。

<8> 裁判所は、担保権者が<5>又は<6>に規定する期間向に<5>の書面を提出しなかったときは、<1>の許可の決定をすることができるものとする。

<9> 裁判所は、必要があると認めるときは、<1>の許可の決定において、(イ)による金銭の納付がされ、又は当該決定が取り消されるまでの間、担保権の実行の禁止を命ずることができるものとする。

<10> <1>の許可の決定に対しては、担保権者は、即時抗告をすることができるものとする。

<11> <10>の即時抗告についての裁判があった場合には、その澱定書を担保権者に送達しなけ航はならないものとする。この場合においては、<4>後段の規定を準用するものとする。

(イ)価額に相当する金銭の納付
<1> 破産管財人は、(7)<1>の許河の決定が確定したときは、(ア)<1>(i)又は(ii)に掲げる区分に応じてそれぃぞれに定める額の金銭を裁判所の定める期限までに裁判所に納付しなければならないものとする。

<2> 担保権着の有する担保権は、<1>による金銭の納付があわた時に消滅するものとする。

<3> <1>による金銭の納付があったときは、裁判所書記官は、消滅した担保権に係る登記又は登録の抹消を嘱託しなければならないものとする。

<4>破産管財人が<1>による金銭の納付をしないときは、裁判所は、(ア)<1>の許可の決定を取り消さなければならないものとする。

(ウ) 配当等の実施等
<1> 裁判所は、(イ)<1>の規定による金銭の納付があった場合には、<2>に規定する場合を除き、配当表に基づいて、担保権者に対する配当を実施しなければならないものとする。

<2> 担保権者が一人である場合には、裁判所は、当該金銭の交付書を作成して、担保権者に弁済金を交付し、剰余金を破産管財人に交付するものとする。

<3> 民事執行法第85条及び第88条から第92条までの規定は<1>の配当について、同法第88条、第91条及び第92条の規定は<2>による弁済金の交付の手続について準用するものとする。

(注)
1 A案は、中間試案で掲げた甲案を基本的に維持し、目的物の上に存する担保権を区別しないで一律に消滅の対象として取り扱うものとしつつ、担保権が消滅する根拠については(前注)1における基本的な考え方を採用するものである。

2 意見照会においてにま、甲案は手続が最もシンプルであり、任意売却を迅速に処理するごとができるという理由から、これに「賛成する意見が相当数寄せられた。しかし、その一方で、担保権者が組入額のみを争いたい場合において、その不服を申し立てる手段がなく、この点につき破産管財人のイニシアティブが強すぎるとの意見が相当数寄せられた。そこで、このような意見照会の結果を踏まえ、甲案の仕組みを補うものとして、破産管財人は、許可の申立てをしようとするときは、組入金の額について、あらがじめ担保権者と協議しなければならないものとする(<2>)ことで、担保権者が事前に組入額について意見を述べて破産管財人と組入額につき協議する機会を保 障するものとしている(なお、中間試案においては、同様に破産管財人のイニシアティブが強すぎるとの指摘に対する対応として、許可の申立てができる時期を破産宣告後一定期間が経過した後とする考え方も注記していたが、このような取扱いは迅速な任意売却の障害になるとの意見が相当数寄せられており、この考え方は採用しないこととしている。)。もっとも、「協議」の内容は、事案によって様々であって、協議の内容やその時期を具体的に定めることは困難であることからすると、「協議」を欠いたとしても、そのことが許可決定の効力に影響を及ぼすものとすることは適切がはないと考えられる。このような意味において'この規定は訓示規定とせざるを得ないと考えられる(規則で定めることも考えられる。)が、どうか。このような規定を設けることで、上記の甲案の問題点に対する方策として適切であると考えることができるか。

3 <6>では、担保権者の担保権実行の機会を保障するために、担保権実行のための1月の期間をやむを得ない場合には伸長することができるものとしている(なお、この点は、後記B案の(ア)<5>も同様である。)。

4 担保権者に対する配当の手続については、再生手続における担保権消滅請求の制度の取扱いとは異なり、破産管財人がこれを行うものとし、破産管財人は、裁判所の許可を得た上で、担保権者に対し、配当手続によらずに弁済することができるものとするとの考え方(中間試案第1部、第12の2(3)ア甲案(イ)(注)参照)があるが、どのように考えるか にの場合においては、配当異議訴訟に類似した制度を設けることが考えられる。)。

イ B案(丙案の修正案)
(ア)担保権消滅の許可等
<1> 破産宣告当時破産財団に属する財産の上に担保権が存する場合において、当該担保権を消滅させて当該財産を任意に売却することが破産債権者の一般の利益に適合するときは、破産管財人は、裁判所に対し、当該財産を任意に売却し、及び次の(i)又は(ii)に掲げる区分に応じてそれぞれに定める担保権を消滅させることについての許可の申立てをすることができるものとする。

(i) 破産管財人において、売得金の一部を破産財団へ組み入れようとする場合 先順位の担保権の被担保債権の総額が売得金の額を超えるもの
(ii)(i)に掲げる場合以外の場合 当該担保権の被担保債権の額が売得金の額(先順位の担保権が存する場合にあっては、売得金の額から先順位の担保権の被担保債権の額を控除した額)を超えるもの

<2> <1>の許可の申立ては、次に掲げる事項を記載した書面でしなければならないものとする。

(i)当該担保権の目的である財産の表示
(ii) 売得金の額
(iii)(i)の財産の売却の相手方の氏名又は名称
(iv)消滅すべき担保権の表示
(v)(iv)の担保権及びその先順位の担保権の被担保債権の額
(vi) 組入金が存すると認めるときは、その額

<3> <1>の許可の申立てがあった場合には、<2>の書面(以下イにおいて「申立書」という。)を、当該申立書に記載された<2>(iv)の担保権を有する者(以下イにおいて「担保権者」という。)に送達し/なければならないものとする。この場合においては、代用公告の規定は、適用しないものとする。

<4> <3>の場合においては、裁判所は、担保権者に対し、<1>の許可の申立てに異議があるときは、<3>に規定する申立書の送達を受けた日から1月以内に、担保権の実行を申し立てるとともにその申立てを証する書面を提出し、既に担保権の実行を申し立てているときはそれを証する書面を提出すべきことを命じなければならないものとする。

<5> 裁判所は、やむを得ない事由がある場合に限り、担保権者の申立てにより、<4>の期間を伸張することができるものとする。

<6> <4>の書面が提出された後に、<4>に規定する担保権の実行の申立てが取り下げられ、又は却下された場合には、その書面を提出しなかったものとみなすものとする。民事執行法第188条において準用する同法第63条の規定又は同法第192条において準用する同法第129条の規定により担保権の実行の手続が取り消された場合についても、同様とするものとする。

<7> 裁判所は、担保権者が<4>又は<5>に規定する期間内に<4>の書面を提出しなかったときは、<1>の許可の決定をすることができるものとする。

<8> 裁判所は、必要があると認めるときは、<1>の許可の決定において、(イ)<1>による金銭の支払がされ、又は当該決定が取り消されにるまでの間、担保権の実行の禁止を命ずることができるものとする。

<9> <1>の許可の決定に対しては、担保権者は、即時抗告をすることができるものとする。

<10> <9>の即時抗告についての裁判があった場合には、その決定書を担保権者に送達しなければならないものとする。この場合においては、<3>後段の規定を準用するものとする。

(イ)金銭の支払等
<1> 破産管財人は、(ア)<1>の許可の決定が確定したときは、売得金の額(先順位の担保権が存する場合にあっては、売得金の額から先順位の担保権の被担保債権の額を控除した額)に相当する金銭を裁判所の定める期限までに(7)<1>(ii)の担保権を有する者に支払わなければならないものとする(先順位の担保権が存する場合にあっては、売得金の額から先順位の担保権の被担保債権の額を控除してなお残額が存する場合にご限るものとする。)。

<2>(ア)<2>(iv)の担保権は、<1>による金銭の支払があった時(<1>の場合以外の場合にあっては、(ア)<1>の許可の決定が確定した時に消滅するものとする。

(注)
1 B案は、担保権が消滅する根拠については(前注)1における基本的な考え方を採用しつつ、その対象となる担保権者をいわゆる判子代を要求する後順位担保権者等に限定し、これらの者の有する担保権を消滅させることで、実務上の二一ズに応える制度とするものである。中間試案の丙案では、担保権を(i)「許可に係る担保権」、(ii)「利害関係に係る担保権」、(iii)それ以外の担保権の3つに分類していたが(中間試案第1部、第12の2(3)ウ丙案参照)、組入額についてその合意を取りつける必要のある(ii)「利害関係に係る担保権」の類型は価額決定の手続において意味をもち、B案においては、価額決定の手続を設けないものとすることから、(ii)の類型を設ける必要はなくなり、したがって、 B案においては、担保権は、(a)許可により消滅すべき担保権(上記(i))と(b)それ以外の担保権(上記(ii)及び(iii))に2分されることになる。

2 中間試案では、合意の形成を促進ないし補完するための仕組みとして、民事調停法第17条に規定する決定手続に相当する制度を設けるか否かにつき検討する旨注記していた(2ウ丙案(イ)(後注)参照)。しかし、意見照会においては、裁判所が破産管財人の提示した支払額をもとにして組入額を決定するという制度を設けることができるのかという疑問を呈する意見が相当数寄せられたところであり、今回は、このような手続を制度として設けることはしないこととしている。

3(イ)<2>では、中間議案と同様に、担保権者を個別に取り扱うことを前提として、「許可に係る担保権」は、金銭の支払があった時又は許可の決定が確定した時に消滅するものとしており、その結果、目的物の上に存する担保権の消滅時期がそれぞれ異なるという事態が生ずることになる。また、 B案では、その後「利害関係に係る担保権」を有する者が結果的に担保権の消滅に同意せず「任意売却がされない場合であっても、この制度の対象となる担保権は消滅するということになる、このような結果を避けるためには、「利害関係に係る担保権」を有する担保権者の同意を申立ての要件とい、かつ、任意売却の対象財産に設定されている担保権を一括して消滅させるように制度設計すること等が考えられるが、この点についてどのように考えるか。

4 B案については、先順位担保権者の被担保債権の額で「許可に係る担保権」に該当するかどうかが決まることから、各担保権者の被担保債権の額をどのように争うかが問題となる。例えば、「許可に係る担保権」を確定するために、まず、破産管財人が各担保権者の被担保債権の額を定め、これに対して担保権者から異議を出させる等の方法が考えられるが、 B案では、このような手続は採用せず、破産管財人の示した被担保債権の額((ア)<2>(v)参照)に異議があるときは 担保権者は、組入額等についての争い方と同様に、担保権の実行を求めるか、実行を求めずに許可決定の手続の中で争い、許可決定に対しては即時抗告をするものとするかを選択することになるものとしている。この点について、どのように考えるか。

(4)民事執行手続による換価
民事執行法第63条及び同法第129条の規定(その他強制執行の手続に関する法令において準用する場合を含む。)は、破産法第203条第1項に規定する財産の換価には、適用しないものとする。

5 商事留置権の消滅請求
破産管財人は、破産宣告当時破産財団にて属する財産につき商法の規定による留置権を有する者に対して、その債権額が留置権の目的である財産の価額を超える場合において、破産債権者一般の利益に適合するときは、裁判所の許可を得て、当該留置権者に対し、その財産の価額に相当する金銭を支払って、留置権の消滅を請求することができるものとする。

(注)
1 清算型の破産手続においても、例外的に営業が継続される場合があり、このような場合には、財産を直ちに任意売却をする場合以外にも、当該財産を自ら加工した上で売却することにより、破産財団の増殖に寄与する場合も十分考えられる等の理由から、意見照会においては、4(3)の担保権の消滅の制度とは別に、商事留置権の消滅請求の制度 (中間試案第1部、第12の2(後注)参照)を設けることについて多数の賛成意見が寄せられた。そこで、5では、意見照会において示されたこの制度の必要性にかんがみ、商事留置権を消滅させて目的物を迅速に確保することができる仕組みを設ける考え方を提示している。なお、この制度は、破産手続における商事留置権の留置的効力の有無という問題に関わるものであるが、これを否定する立場であっても、破産管財人からの返還請求を拒む権能を認める見解等もあり、この制度が、当然に商事留置権の留置的効力を認める立場を前提とするものとは必ずしもいえないものと考えられる。

2 規定ぶりについては、新会社更生法第29条にならうものとすることで、どうか。

第13 国庫仮支弁

<1> 破産の申立てをするときは、申立人は、破産手続の費用として裁判所の定める金額を予納しなければならないものとする(民事再生法第24条第1項参照)。

<2> <1>の規定にかかわらず、申立人の資力、債務者の財産状況その他の事情を考慮して、申立人及び利害関係人の利益の保護のため特に必要と認めるときは、裁判所は、<1>による義務(以下「予納義務」という。)を免除することができるものとする。

<3> 裁判所は、<2>で予納義務を免除した場合のほか、職権で破産宣告をした場合には、破産手続の費用を仮に国庫から支弁することができるものとする。

(注)破産手続は、民事訴訟のような当事者の利益の実現を図る制度にとどまるものではなく、債権者等様々な利害関係人の利益を調整する側面(その意味で公益的と評価できる側面)も無視できないとすると、国庫仮支弁の制度を民事訴訟法上の訴訟救助の制度と同趣旨の制度と位置付けることは適当ではないと考えられる。むしろ、破産手続の性質からみて、裁判所が、職権で、申立人の資力、債務者の財産状況その他の事情を総合的に判断して、特に必要性の高いと認められる場合に、破産手続の費用を仮に国庫から支弁する制度と構成することで、どうか。

第13 配当手続

1 中間配当の配当率
中間配当の配当率についての裁判所の許可等の制度(破産法第265条第2項参照)は、廃止するものとする。

(注) 中間試案では<1>中間配当の配当率についての裁判所の許可等の制度を廃止し、<2>破産管財人は、配当事を定めたときは、直ちに、これを裁判所に報告しなければならないものとする考え方を示していた(中間試案第1部、第13の1)。意見照会におい』ては、これらの考 え方については、ほぼ異論がなかったところであるので、<1>について本文に掲げるとともに、<2>については最高裁判所規則で定めるものとする。

(後注)今回の見直しにおいては、破産手続に関する裁判につき利害関係を有する者は、破産法に特別の定めがある場合に限り、当該裁判に対し即時抗告をすることができるものとするとの考え方(倒産法部会資料28第1・3前段参照)を採ることに異論がないが、中間配当の許可の決定又は中間配当の許可の申立てを却下する決定(不許可の決定)に対しては、不服申立てを認めない(特段の規定を設けない)ことで、どうか。

2 債権証書への配当金額の記載
債権証書に配当金額を記載する制度(破産法第269条第2項参照)は、廃止するものとする。

(注)意見照会においては、上記の考え方に対して多数の賛成意見が寄せられたが、債権者の申出があった場合には、債権証書(特に手形等の遡求権があるもの)への記載を認めるべきであるとの意見も寄せられた。しかし、債権証書への配当金額の記載の制度は、そもそも

<1>記載の前提として債権証書を提示させることによる受領権限の有無の確認、<2>重榎支払の防止(配当金支払の事実の証拠化)を目的とするものと解されており、破産管財人ひいては他の破産債権者の利益を保護するためのものというべきであるから、この制を、債権者の申出があった場合に限定した上で維持する必要性は乏しいと考えられるが、どうか。

3 別除権者の配当参加
(1)被担保債権が担保されなくなったことによる配当参加
破産法第92条に規定する担保権によって担保される債権の全部又は一部が破産宣告後に担保されないこととなった場合には、その債権の全部又は一部について、破産債権者として、その権利を行うことを妨げないものとする。(民事再生法第88条ただし書参照)

(注)意見照会においては「上記の考え方を採ることを前提として、「担保されないこととなった場合」に該当するためには、登記を要件とすべきであるとの意見が寄せられた。また、「担保されないこととなった場合」の確定、証明の方法が未定では実務上機能しないのではないかとの懸念も表されたが、これも、登記の要否に関する規定を設ける必要性を指摘するものと考えられる。この点に関しては、再生手続について同様の規律が設けられる際にも議論されたが、その際は、<1>担保権者が担保権の放棄、被担保債権額の変更(滅縮)等を第三者に主張するために登記を要けるか否かについては、実体法の解釈にゆだねるべき問題であること、<2>被担保債権を公示することができない担保権もあること等が指摘されて、結局、特段の規定は設けられなかったところである。これらの指摘は、破産手続についても同様に当てはまることから、登記の要否については、民事再生法と同様に特に規定を設けず、解釈にゆだねるものとすることが適切であると考えられるが、どうか。

(2)根抵当権に関する特則
<1>別除権の内容が根抵当権である場合には、最後の配当の除斥期間の満了までにその権利の行使によって弁済を受けることができなかった債権額を証明することができなかったとき[(別除権者が当該根抵当権の目的の処分に着手したことを証明した場合に限る。)]であっても、当該根抵当権の被担保債権のうち極度額を超える部分は、弁済を受けることができなかった債権額とみなすものとする。(破産法第277条及び民事再生法第160条第2項参照)

<2><1>の場合において、当該根抵当権の被担保債権の額は、最後の配当の除斥期間の末日を基準として算定した額とするものとする。

(注)
1 意見照会においでは、上記(2)<1>の考え方については、異論がなかつた。

2 意見照会においては、上記(2)<2>の考え方にでついても、多数の賛成意見が寄せられた。この考え方は、最後配当の除斥期間の末日を基準として算定した被担保債権の総額が極度額を超える場合に、当該被担保債権につき同日に極度額に相当する額を法定充当したものと仮定して、その残額を極度額を超える部分として取り扱うことを前提とするものであるが、どれに対して、最後の配当の除斥期間の末日を基準としつつも、仮定的な充当計算は行わず、極度額を超える額のうち破産宣告後の利息等に相当する額を劣後的破産債権として取り扱う旨の規律を設ける方が、衡平に適い、手続上も合理的かつ簡便であるこの意見が寄せられた。また、他の破産債権者に対する配当額に及ぼす影響等の点から、破産宣告時を基準とすべきであるとの意見も寄せられた。これらの意見は、仮定的な充当計算の際に元本よりも先に破産宣告後の利息等への充当が行われる場合には、劣後的破産債権制度の趣旨を没却し、他の破産債権者との間の衡平を害するおそれがあるとの問題意識に基づくものと考えられる。しかし、現実に権利の行使をすることによる不足額の証明の終期が除斥期間の末日とされていること(破産法第277条)に加えて、上記(1)の考え方を採った場合には、根抵当権者は、最後の配当の除斥期間の末日までの間は、根抵当権の被担保債権の一部を任意に選択し、極度額を超えるものとして被担保債権の範囲から除外することにより、当該一部につき配当を受けることができることとの均衡上も、最後配当の除斥期間の末日を基準として充当計算を行う'ことが、特に他の破産債権者との間の衡平を害するものとはいえないし、むしろ、これらの場合と同程度に根抵当権者の利益を保護すべきであると考えられる。そこで、これらの意見については、採用しないことで、どうか。

3 意見照会においては、上記(2)<2>の考え方に対して、除斥期間の末日いよ、実際に配当公告がされるまで確定しない(下記5(2)参照)ため、配当表作成の段階では、極度額を超える部分を、配当に加えるべき債権の額(破産法第258条第1項第2号)として記載することはできず、配当表の更正が不可避となることから、被担保債権の算定の基準日は、配当表作成前の-定の、時点に求めるべきである態の意見が霄菅られた。この意見を踏まえて上記(2)<1>及び<2>の考え方に修正を加え、たとえば、次のような規律を設けることも考えられるが、どうか。

<1> 破産管財人は、別除権の内容が根抵当権であるときは、、定の時点(たとえば、最後の配当の許可があった日)における当該根抵当権の被担保債権のうち極度額を超える部分につき当該根抵当権の行使に「よって弁済を受けることができない債権額の証明があったものとして、最後配当の配当表を作成しなければならないものとする.ただし、当該一定の時点において、弁済を受けることができない債権額が証明されていない場合に限るものとする。

<2> 最後配当の除斥期間の末日までに弁済を受けることができない債権額が証明された場合には、破産管財人は、直ちに、配当表を更正しなければならないものとする(破産法第263条第3号参照)。

<3>最後配当の除斥期間の末日までに[別除権者が根抵当権の目的の処分に着手したことが証明され、かつ]、弁済を受けることができない債権額が証明されなかった場合には、<1>の「極度額を超える部分」は、弁済を受けることができない債権額とみなすものとする。[<4>最後配当の除斥期間の末日までに別除権者が根抵当権の目的の処分に着手したことが証明されなかった場合には、破産管財人は、直ちに、配当表を更正しなければならないものとする。]

4 なお、上記(2)<1>及び<2>又は上記(注)3の考え方に基づき、根抵当権に関する特則を設けた場合には、根抵当権者にとって、現実に権利の行使をすることによって確定不足額を証明して配当に参加するよりも、特則を利用して配当に参加する方が有利であることも多く、根抵当権者が権利の行使に着手する動機付けを奪うことになるおそれがある。このことは、不足額の証明の例外としてこのような特則を設ける趣旨に照らすと、適当ではないと考えられる。そこで、中間配当において、別除権者が除斥期間内に破産管財人に対してその権利の目的の処分に着手したことを証明しないときは、配当から除斥されること(破産法第262条)との均衡も考慮し、別除権者が根抵当権の目的の処分に着手したことを証明することを要件とすることが考えられるが。どうか(上記(2)<1>及び上記(注)3の[]部分参照)。

4少額の配当に関する特則
<1> 破産手続に参カロしようとする破産債権者は、債権届出期間内に、その内容等(破産法第228条参照)のほか、当該破産債権者に対する配当額の総額が最高裁判所規則で定める金額に満たない場合であっても配当金を受領する意思があるときは、その旨を裁判所に届け出なければならないものとする。

<2> 届出をした破産債権を取得した者は、届出名義の変更(倒産法部会資料30第10・1(2)参照)を受ける場合には、当該者に対する配当額の総額が<1>の最高裁判所規則で定める金額に満たない場合であっても配当金を受領する意思があるときは、その旨を裁判所に届け出なければならないものとする。

<3> 破産管財人は、最後の配当及び追加配当の場合を除き、<1>及び<2>に規定する事項の届出をしはかった破産債権者が有する債権に対する配当額に相当する金銭を寄託しなければならないものとする(破産法第271条参照)。

<4>破産管財人は、破産法第274条の規定により各破産債権者に対する配当額を定めた場合において、<1>及び<2>に規定する事項の届出をしなかった破産債権者について、次の(i)及び(ii)に掲げる金額の合計額が<1>の最高裁判所規則で定める金額に満たないときは、当該破産債権者に対して(i)の配当額を配当することはできず、当該合計額は他の破産債権者に配当しなければならないものとする。この場合においては、当該破産債権者に対しては、同条の通知をすることを要しないものとする。
(i)破産管財人が破産法第274条の規定により定めた当該破産債権者に対する配当額
(ii)破産管財人が<3>の規定により当該破産債権者が有する破産債権について寄託した金銭の総額

<5>破産管財人は、<4>の「合計額について、<4>の「他の破産債権者」に対する配当額を定めて<4>の「他の破産債権者」に対して、当該配当額を通知しなければならないものとする。

<6> 破産管財人は、破産法第283条第2項の規定により各破産債権者に対する配当額を定めた場合において、<1>及び<2>に規定する事項の届出をしなかった破産債権者について、当該配当額が<1>の最高裁判所規則で定める金額に満たないときは、当該破産債権者に対して当該配当額を配当することはできず、当該配当額は他の破産債権者に配当しなければならないものとする。この場合においては、<4>額段及び<5>の規定を準用するものとする。

(注)
1意見照会においては、<1>破産債権者が、債権届出書において、配当総額となるべき額が最高裁判所規則で定める金額に満たない場合であっても配当金を受領する旨を明らかにしなかったときは、破産管財人は、その配当額を寄託しなければならないものとし、<2>寄託した額に最後の配当において配当すべき額を加えた配当総額となるべき額が最高裁判所規則で定める金額に満たない場合には、当該破産債権者は、配当から除斥されるものとする考え方(中間試案第1部、第l3の4)については、ほぼ異論がなかった。

2 意見照会においては、(i)債権譲渡等を考慮すると、実際には煩雑に思われるとの指摘、(ii)配当額の寄託の点は中間配当に限る措置なのか不明確であるとの指摘、(iii)最後配当のみで終了する事案も多いのであるから、中間配当、これに続く最後配当という条文構成は不適切ではないか(一定の金額に満たない場合は、最後配当から除斥されるが、その際、中間配当において寄託された金銭があるときは、合計額で除斥を判断するという規定にすべきである。)との指摘等があった。そこで、今回の資料では、これらの指摘も踏まえ、より具体的な案を示している。まず、上記<2>は、「債耀譲渡等により届出名義の変更がされる場合の規律を新たに提案している。なお、債権届出及び届出名義の変更は、基本的に債権を単位とするが、配当金を受領する意思の表明は、債権者を単位とすることになると考えられるから、同一の債権者が有する債権について、受領意思の表明をしたものと受領意思の表明をしなかったものとが存在するという事態が生ずる可能性がある。上記<3>、<4>及び<6>において、「<1>及び<2>に規定する事項の届出をしなかった」としているのは、-度 でも受領意思の表明をした債権者については除斥の対象としない(すべての債権届出及び届出名護の変更において、一度も受領意思の表明をしなかった債権者のみを除斥の対象とする)趣旨である。次に、上記<4>及び<5>は、最後配当において配当すべき額は、配当表に対する異議に係る手紙が終了して配当表が確定し、配当額を定める段階でないと確定しないことを踏まえて、中間試案の考え方を具体化している。最後に、上記<6>、迫加配当の場合の取扱いを、最後配当の場合に準じて、提案している。

3 中間試案においては、最高裁判所規則で、定める金額を1000円と定めるものとするとの考え方(中間試案第1部、第13の4の(注)参照)を示していたが、意見照会においては、この点についても、多くの賛成意見が寄せられた。これに対して、1万円とすべきであるとの意見、3000円とすべきであるとの意見、1000円から1万円間で裁判所が定める額とすべきであるとの意見等も寄せられだ。これらの意見や少額の配当に、関する特則を設ける趣旨を踏まえて。最高裁判所規則で適当な金額を定めるものとすることで、どうか。

5 最後の配当
(1)実施時期の定め
裁判所は[破産管財人の意見を聴いて]、最後の配当を実施すべき時期を定めることができるものとする。
(注)
1意見照会において、上記5(1)の考え方については、ほぼ異論がなかった.具体的事件に応じて、裁判所と破産管財人との間で緊密な協議を行うことで十分である等として、これに反対する意見もあったが、現実に最後の配当が完了するまでに必要以上の長期間を要している事件が存在すること、訓示規定とはいえ、このような規定を設けることにより、破産手続の進行の迅速化に一定の効果が得られると考えられることから、今回の資料でも、この考え方を維持している。

2 意見照会においては、補足的に管財人との協議により時期を定めるべ意であるとの意見や、「破産管財人と協議の上」との文言を付加すべきであるとの意見が寄せられた。事件の個別具体的な内容に即した適切な最後配当の時期を定めるためには、事前に破産管財人との間で十分に意思疎通を図らなければならないことは当然であり、明文の規定を設けずに、運用にゆだねることでも足りると考えられるが、どうか。仮に明文の規定を設けるとすれば、制度上、破産管財人は、裁判所の監督を受ける地位にあること(破産法第161条)にかんがみると、「裁判所は、破産管財人の意見を聴いて、・・・を定めることができる」との文言が適当であると考えられるが、どうか。

3 なお、最後配当の時期を定める裁判の取消し又は変更については、特に明文の規定 を設けなくても、裁判所は、これを取り消し又は変更することができることを前提としている(非訟事件手続法第19条参照)。

(2)裁判所書記官による許可
最後の配当の許訂は、裁判所書記官が行うものとする。

(注)
1  意見照会においては、最後配当の許可は比較的形式的な事項の判断である等として、上記(2)の考え方について賛成する意見が多数寄せられた。これに対して、比較的形式的な事項の判断ではあるが、その背後には実質的な判断を含むものであること、手続全般の責任者である裁判所の許可事項とすべきであること、裁判所が管財人のした財団の回収、状況、計算等について審査する必要があること等から、これに反対する意見もあった。他方、裁判所書記官の許可すら必要でなく、報告又は届出で足りるという意見も寄せられた。そもそも、最後配当の要件については、中間配当を含む配当の一般的要件のほか、<1>破産財団の換価(換価することができる財産の換価)を完了したこと、<2>破産の終結のためにする配当であることであると解されているようである。これらの審査は、基本的には現在又は過去の事実関係の確認が中心であり、特に複雑困難な裁量的判断、法律判断が要求されることはないと考えられる。他方で、配当手続の安定を図るためには、何らかの方法によって最後配当の要件を審査する必要はあると考えられる。そこで、今回の資料でも、中間試案の考え方を維持している。

2 上記5(2)の考え方を採用する場合に、裁判所書記官の許可の処分又は許可の申し立を却下する処分(不許可処分)に対する不服申立てについては、どのように考えるか。特段の規定を設けず、民事訴訟法の規定の準用(破産法第108条)により、当該裁判所書記官の所属する裁判所に、処分に対する異議申立て(民事訴訟法第121条)をすることができるものとすることで、どうか。中間配当の場合(上記第13・1の(後注)参照)との均衡を考慮して処分に対する異議の申立てについての決定に対しては、さらなる不服申立て(同法第328条第1項)を許されないとすることも考えられるが、どのように考えるか。

3 中間配当については、配当率についての裁判所の許可等の制度は廃止されることになる(上記第13・1参照)が、中間配当自体についての裁判所の許可の制度は維持されることになる。中間配当は、最後配当に比べると、将来の破産財団(配当財団)の形成見込み、破産手続の費用の発生の見込みという予測的要素を含み、実質的事項の判断を要求されること、実務上は最後配当だけを実施して終結する事件が多く、中間配当を実施する事件は例外化していることから、中間配当についての裁判所の許可の制度を維持しても、特にバランスを失するものではないと考えられるが、この点についてどのように考えるか。

(3)除斥期間
最後配当に関する除斥期間は、配当の公告があった日から起算して2週間とするものとする。

(配当手続関係後注)
中間配当においては、破産管財人は、最後の配当に関する除斥期間経過後遅滞なく、配当を実施しなければならないものとする旨を、最高裁判所規則において定めるものとする考え方を示していた(中間試案第1部、第13の5(4)参照)が、意見照会においては、これに賛成する意見が多数を占めた。これに対して、「遅滞なく」ではなく「2週間以内に」又は「1ヶ月以内に」等と期限を区切り、正当な理由がないのにこの期間内に配当を実施しなかった場合には管財人に遅延利息を課すること等を明文化した方がより実効性が上がるとの意見、除斥期間経過後一定期間(2ヶ月)内に最後配当を実施すべきことを明記した方がよいとの意見等が寄せられた(なお、今回の見直しにおいては、同条が定める規律は、法律事項として維持する予定である。)。これらの意見を踏まえて、最高裁判所規則で適当な規律を設ける(ただし、遅延利息に関する規律を設けることは、理論的に困難であるし、当部会の従前の議論からも相当でないと考えられる。)ものとすることで、どうか。

第14 簡易な破産手続

1 小破産の制度の廃止 
小破産の制度(破産法第358条から第366条まで参照)は、廃止するものとする。

(注) 意見照会においでは、現行の小破産の制度を廃止し、これに代えて、破産財団に属する財団が一定額に満たない破産事件について、簡易な破産手続(以下蝋、「簡易破産(仮称)」という。)の特則を設けるものとするとの考え方については、多くの賛成意見が寄せられた。この考え方に反対する意見も寄せられたが、それらは、専ら簡易破産(仮称)の特則の創設に関して異論を述べるにとどまり、小破産め制度を廃止することについては、異論のないところであった。(簡易破産(仮称)の特則関係前注1) 意見照会においては、簡易破産(仮称)等の複数の手統を認めることは、手続を煩雑にするたけであるとの意見が寄せられたが、今回の簡易破産(仮称)の特則の創設は現在定着しつつある運用を踏まえて、簡易迅速な破産手続の特創の制度化を図という要素が強く、現在以上に破産手続を煩雑にするものではないと考えられる。(簡易破産(仮称)の督促関係前注2)意見照会においては、大多数の事件が簡易破産(仮称)によることを前提とするのであれば、むしろ、簡易破産(仮称)を通常の破産手続として規定すべきであるとの指摘、要件の限定は不要であるとの指摘、通常の破産手続が大幅に簡素化されるのであれば、通常の破産決定で足りる(簡易な配当手続を一定の要件で認めれば足りる)との指摘が寄せられた。これらの指摘のとおり、簡易破産(仮称)の特則と通常の破産手続との関係をどのように整理するかは、重要な問題であるので、簡易破産(仮称)の特則及び通常の破産手続についての検討を並行的に進めつつ、なお検討するものとする。(簡易破産(仮称)の特則関係前注3) 意見照会においては、「簡易破産」との仮称に対して、積権者の利益を軽視して簡単に破産させるとの印象を与えるため、不適切であるとの意見が寄せられた。 「簡易破産」に代わる適切な名称として、どのようなものが考えられるか。 例:「少額破産」、「少額財団破産」、「小規摸破産」、「小規摸財団破産」等

2 簡易破産(仮称) 特則
(1) 簡易破産(仮称)の決定等
<1> 裁判所は、破産財団に属する財産の総額が一定金額に満たないと認める場合には、破産宣告と同時に、簡易破産(仮称)の決定をしなければならないものとする。ただし、簡易破産(仮称)によることが相当でないと認められる場合は'この限りでないものとする。

<2> <1>の決定があったときは、破産宣告の公告及び通知(破産法第143条参照)には、その決定の主文をも掲げなければならないものとする(同法第358条第2項参照)。 

<3> 裁判所は、破産宣告後、破産財団に属する財産の総額が一定金額に満たないと認めるとときは、簡易破産(仮称)の決定をすることができるものとする[しなければならないものとする。ただし、簡易破産(仮称)によることが相当でないと認められる場合は、この限りでないものとする] (破産法第359条第1項参照)。

<4> <3>の決定があったときは、直ちに、その主文を公告し、かつ、破産管財人及び知れている債権者[(債権届出期間経過後にあっては、届出破産債権者)]にその主文を通知しなければならないものとする[直ちに、破産管財人及び知れている債権者[(債権届出期間経過後にあっては、届出破産債権者)]にその主文を 記載した書面を送達しなければならないものとする](破産法第359条第2項参照)。

<5> 裁判所は、<1>又は<3>の決定をした場合において、破産財団に属する財産の総額が一定金額を超えると認めるに至ったときは、当該決定の取消しの決定をすることができるものとする「しなければならないものとする」。この場合においては、<4>の規定を準用するものとする(破産法第360条参照)。
(注) 1 上記(1)の考え方は、簡易破産(仮称)の特則を適用する基準として、破産財団の規模(金額)を用いることを前提とするものであり、意見照会においては、この考え方について多数の賛成見が寄せられた。これに対して、金額が少額でも簡易破産(仮 称)に適さない事件があり、事案の軽重、手続進行の予想を要件とすべきであるとの意見も寄せられたが、簡易破産(仮称)に適さない事件に対しては、上記2(1)<1>及び<3>のただし書を設けることによって対処することができると考えられることから、今回の資料でも、金額を基準とするとの考え方を維持している。なお、破産財団に族する財産の総額が一定金額を超える場合でも、簡易破産(仮称)の決定をする余地を認めるべきであるとの意見も寄せられたが、手続の振分けについての客観的基準がないと、手続の進行を不安定にするおそれがあることから、この意見は、採用しないことで、どうか。

2 中間試案においては、簡易破産(仮称)の特則を適用する基準となる金額について、5 0 0万円又は10 0 0万円とする考え方があるが、なお検討するとされていた(中間試案第1部、第14の1の(注1)参照)。意見照会においては、1000万円とすることに賛成する意見が多数寄せられる一方で、500万円とすることに賛成する意見も少なからず寄せられた、さらに 3000万円とすべきであるとの意見、300万円とすべきであるとの意見、当面は500万円でよいが、基準となる金額は最高裁判所規則で定めることとし、そのときの経済情勢を反映したものにすべきであるとの委見等も寄せられた。基準となる金額については、特則を設けることができる根拠及び特則の具体的内容との関係で定まるべきものと考えられることから、1000万円とすることを基本として、なお検討することで、どうか。なお、基準となる金額については、法律で定めることで、どうか(小規模個人再生につき民事再生法第221条第1項、少額訴訟における訴訟の目的の価額の要件につき民事訴訟法第3618条第1項参照)。

3 上記(1)<2>から<5>までは、破産法第359条(破産宣告後の小破産決定)及び第360条(小破産の取消し)を参考にして、必要な規定の整備(中間試案第1部、第14の1の(注2)参照)について、より具体的な案を示している。上記(1)<3>及び<5>においては、裁判所に対して簡易破産(仮称)の決定又は簡易破産 (仮称)の決定の取消しの決定をすることを義務付けるか、裁量の余地を認めるかは、特則の内容によって変わってくることから、暫定的に、小破産にならって裁量の余地を認める案を本案とし、義務付ける案を別案として示している。上記(1)<4>においては、基本的に小破産にならいつつも、通知の相手方については、破産管財人及び知れている債権者にとどめるものとし、知れている債務者(破産者の債務者)に対する通知は不要としている。また、公告と通知とを併用するのではなく、原則は送達とした上で、送達代用公告(同法第117条)を認めることも考えられることから、これを別案として示している。なお、<1>、<3>及び<5>の決定に対する不服申立てについて特段の規定を設けていないのは、これを否定する越旨である(同法第361条参照)。

4  <5>の決定があった場合(<1>又は<3>の決定が取り消された場合)の従前行われた手続の効果(中間試案第1部、第14の1の(注3)参照)については、意見照会において、これを維持すべきであるとの委見が多数を占めたことから、効果を維持する場合にどのような制度上の手当が必要となるのかについて、特則の具体的内容の確定をまって、なお検討するものとする。

(2)管財業務等
貸借対照表の作成及び提出を不要とするものとする(民事再生法第228条参照)。
(注)
最高裁判所規則において、財産目録には、申立書の添付書面の記載を引用することができる旨を定める(民事再生規則第128条参照)ものとする考え方(中間試案第1部、第14の2の(注)参照)については、意見照会において、多数の賛成意見が寄せられた。民事再生事件と異なり、破産事件は、実務上、申立書の添付書面には不完全なものが多く、破産管財人に改めて財産目録を作成してもらう必要性が高いのが実情であり、規定を設けることにより、破産管財人が容易に書面を引用するおそれがあるとの指摘もあったが、指摘のような実情にあるとしても、それに留意し運用に当たれば足りるものと考えられる。

(後注)
意見照会においては、破産管財人の報告についても、簡易化を検討すべきであるとの意見や、報告書の提出を不要とする旨を最高裁判所規則等で明示すべきであるとの意見が寄せられた。破産管財人の裁判所への報告については、現在、以下の考え方を示している(倒産法部会資料28第5・4参照)が、<1>の点については、当部会第21回会議において、債権者集会が召集される場合には報告書の提出を義務付ける必要はないとの意見や、すべての事件について報告書の提出を義務付ける必要はないとの意見があり、なお検討すべきものとされたところである。そこで、簡易破産(仮称)についても、通常の破産手続についての検討結果をまって、なお検討するものとする。

<1>破産管財人は、破産宣告後遅滞なく、次の事項を記載した報告書を、裁判所に提出しなければならないものとする(民事再生法第126条第1項、新会社更生法第84条第1項参照)。
(i)破産宣告に至った事情
(ii)破産者及び破産財団に関する過去及び現在の状況
(iii)法人である破産者の役員等に対する損害賠償請求権の査定の申立て又はその保全処分を必要とする事情の有無
(iv)その他破産手続に関し必要な事項

<2>破産管財人は、<1>によるもののほか、裁判所の定めるところにより、破産財団の管理及び換価の状況その他裁判所の命ずる事項を裁判所に報告しなければならないものとする(民事再生法第125条第2項、新会社更生法第84条第2項参照)。

(3)簡易な配当手続
<1> 破産管財人は、すべての届出破産債権者に対し、配当表[配当に加えるべき債権の総額、配当することができる金額及び当該破産債権者に対する配当額を記載した書面]を送付する方法により配当の通知をするものとする。「この場合において、当該通知は、その通知が通常到達すべきであった時に、到達したものとみなすものとする(新会社更生法第46条第6項)。」

<2> 債権調査において破産管財人が認めず、又は届出をした破産債権者が異議を述べた債権については、<1>の方法による配当の通知があった日から起算して1週間以11内に、破産管財人に対して、その債権の確定のために査定の申立て(倒産法部会資料30第10・4参照)、訴えの提起又は訴訟の受継をしたことを証明しないときは、配当から除斥されるものとする(破産法第275条参照)

<3> 停止条件付債権又は将来の請求権が<2>の期間内に行使することができるに至らないとき、その債権者は、配当から除斥されるものとする(破産法第275条参照)。

<4> 別除権者が、<2>の期間内に、破産管財人に対して、その権利の放棄の意思を表示せず、又はその権利の行使によって弁済を受けることができなかった債権額を証明しないときは、配当から除斥されるものとする(破産法第277条参照)

<5> 破産債権者は、<1>の方法による配当の通知があった日から起算して2週間以内に限り、裁判所に対して、配当表に対する異議を申し立てることができるものとする。

<6> 破産管財人は、<5>の期間経過後又は異議の申立てがあったときはこれに対する決定があった後、配当表に基づいて、配当を実施するものとする。

(注)
1中間試案においては、上記(3)<1>、<5>及び<6>の考え方をその本文に示していた(中間 試案第1部、第14の3(2)<1>から<3>間で参照)が、意見照会においては、これに賛成する意見が多数を占めた。

2 中間試案の考え方は、除斥期間を不要とし、配当表に対する異議の申立てについての決定に対する不服申立ての制度を設けないものであることから、中間試案の注においては、債権者の手続保障を図るための制度を設ける必要があるか否か、また、上記(3)<1>の配当表の送付後、上記(3)<5>の異議申立期間前に、除斥期間に相当する期間を設けるか否かについては、なお検討するとされていた(中間試案第1部、第14の3の(注1))。意見照会においては、債権者の手続を保障を図るための制度(配当表に対する異議の申立についての裁判に対する不服申立て等)を設けるという点については、賛成する意見も寄せられたが、その数は少数にとどまる一方で、これに積極的に反対する意見も少数であった。この点については、破産債権について破産手続内で配当を受けられない場合には、当該破産債権の回収は事実上不可能となること、簡易破産(仮称)の特則を適用する基準となる金額を1000万円とする場合には、配当に参加することができないことによる不利益は、必ずしも小額とはいえない額になる可能性があることを考慮しなければならないと考えられるが、どのように考えるか。他方で、意見照会においては、除斥期間に相当する期間を設けるという点については、賛成する意見が多数であった。そこで、上記(3)<2>から<4>までの考え方を示している。なお、意見照会においては、破産管財人が、配当許可決定時までに、除斥期間に相当する期間を定めて、これを別除権者等に通知する方法を検討すべきであるとの意見がよせられたが、除斥期間に相当する別除権者等に対する通知の時期及び配当許可決定の時期とを調整するための規律を設けることは容易ではないと考えられる。また、配当に加えない別除権者等があるときは、配当の通知と同時に、当該別除権者等に対して、配当が行われること及び当該別除権者は配当に加えないことを通知し、当該別除権者等は、通知があった日から2週間以内に異議を述べることができるものとすることで足りるとの意見も寄せられたが、配当表の送付を受けた破産債権者による異議申立と別除権者等による異議申立との調整が必要となり、必ずしも手続全体としての簡素・合理化にならないものと考えられる。そこで、今回の資料では、配当表の送付後異議申立期間前に、除斥期間に相当する期間を設ける案を示している。

3 なお、債権者の手続保障のためには、配当表そのものを送付する必要はなく、現行法の公告事項(破産法第260条)及び通知事項(同法第274条)を記載した書面による通知並びに配当表の閲覧等の保障(倒産法部会資料28第1・6参照)で足りるという考え方もありうることから、上記(3)<1>にその旨を付記している。また、通知があった日を基準として除斥期間に相当する期間及び異議申立期間の初日を定める上での便宜を図るために、上記(3)<1>の後段に、通知の到達に関するみなし規定を設けることを提案している。

4 一般に、配当金請求権は、配当額の通知(破産法第274条)があったときに具体的に発生すると解されているが、上記(3)の考え方を採用する場合には、配当金請求権の発生時期について、どのように考えるか。

(後注)
中間試案においては、簡易破産(仮称)の要件に該当しない場合についても、破産債権者の全員が異議を述べなかった場合には、簡易破産(仮称)と同様の簡易な配当手続を行うことができるものとする考え方の当否については、なお検討するとされていた(中間試案第1部、第14の3の(注2))が、意見照会において、特段の異論はなかった。この考え方に基づき制度化を図る場合には、破産債権者の意思確認の時期、方法等についてどのように考えるか。

(簡易な破産手続関係後注1)
簡易破産(仮称)において、配当は一回とするものとするとの考え方(中間試案第1部、第14の3(1)参照)については、意見照会において、これに賛成する意見が多数寄せられたが、一回の配当で終了することができない事案であっても、なお簡易破産(仮称)の決定を取り消すまでもない事案がありうるとの指摘があり(その例としては、相当額の財団が形成されたが、一部につきなお換価が終わらない場合で、優先債権である賃金債権を先に配当する場合が挙げられている。)、<1>明文の規定で1回に限定する必要はないとの意見、<2>配当は原則として一回とするものとすべきであるとの意見等も寄せられた。この点については、実務上、小額・小規模とはいえない事件についても、最後配当のみで終結する事案が多いことを踏まえて、配当に関する規定の配列の見直しをすること等により、簡易破産(仮称)の特則の一つとして、特に配当回数の制限を設ける必要性がなくあることもありうると考えられることから、配当回数の制限については、通常の破産手続についての検討結果をまって、なお検討するものとする。

(簡易な破産手続関係後注2)
簡易破産(仮称)において第1回債権者集会を原則として招集しないものとする考え方(中間試案第1部、第14の(簡易な破産手続関係後注1)参照)については、意見照会において、これに賛成する意見が多数を占めた。しかし、通常の破産手続においても例外的に第1回債権者集会を招集しない余地を認めることを前提として、簡易破産(仮称)の特則として明文の規定を設ける必要性はないとの意見も多くよせられた。この点については、通常の破産手続における第1回債権者集会の取扱いとの関係に留意し、なお検討するとされていたところであるが、第1回債権者集会を招集しない余地を認める中間試案の考え方(中間試案第1部、第7の1(1)<1>参照)は、意見照会において、多数の賛成意見が寄せられ、これを受けた当部会第21回会議でも、財産状況報告集会(第1回債権者集会)について、「裁判所は、破産者の財産状況等を報告するために、債権者集会を招集しなければならないものとする。ただし、債権者の数その他の事情を考慮して相当と認めるときは、この限りでないのとする。」との考え方(倒産部会資料28第7・1(1)<1>参照)に特段の異論は見られなかったところである。そして、簡易破産(仮称)の要件に該当するれるため、財産状況報告集会について独自の規律を設ける必要性、合理性はないと考えられるが、どうか。

(簡易な破産手続関係後注3) 簡易破産(仮称)において、債務者に債権者一覧表の提出を義務付け、その債権者一覧表に記載された破産債権については、当該債権を有する破産鮒者がこれと異なる届出をしない限り、その記載内容どおりの届出があったものとみなすものとする考え方(中間試案第1部、第14の(簡易な破産手続関係後注2)参照)についてにはこれに賛成する意見も寄られたが、むしろ、反対する意見が多数を占めた。債権者が提出する債権者一覧表(破産法第138条参照)の内容と債権者が届出をする債権の内容とがおおむね一致するとの経験則が存在するとは認められないこと、みなし届出制度が設けられている小規模個人再生(民事再生法第13章第1節)と異なり、債務者にとって正確な内容の債権者一覧表を作成する動機付けにかけること(特に、免責を受けることを主たる目的とする個人破産事件や、債権者申立事件)当から、これを制度化することは困難であると考えられるが、どうか。

第15 大規模破産事件

1大規模破産事件の管轄の特例
<1> 債権者数が500 人〔300人]以上であるときは、通常の管轄裁判所(破産第105条から第107条まで参照)を管轄する高等裁判所の所在地を管轄する地方裁判所にも、破産の申立てをすることができるものとする。

<2> 債権者数が10 0人以上であるときは、東京地方裁判所又は大阪地方裁 判所にも、破産の申立てをすることができるものとする(新会社更生法第5条第2項第6号参照)。

(注)
1 中間試案においては、上記<2>の考え方とともに、特例の適用の基準となる債権者数をより少なくした上で、高等裁所の所在地を管轄する地方裁判所にも競合管轄を認める考え方についても示していた(中間試案第1部、第15の2)が、意見照会においては、いずれの考え方についても、多数の賛成意見が寄せられたことから、今回の資料では、上記<1>の考え方も併せて示している。

2  上記<1>の基準となる債権者数については、意見照会において、500人とすべきであるとの意見が寄せられたことから、これを本案出 当部会の従前の議論を踏まえて、300人とする別案をも示している。

3 上記<2>の考え方に対しては、破産事件は、知的財産権に関す事件と異なり、特殊な事件ではないことから、債権者数が1万人を超えるような特殊な事件に限定して、東京地方裁判所又は大阪地方裁判所に移送することができるという程度にとどめるべきであるとの意見が寄せられたが、迅速な事件処理が求められる場合には、移送の制度では十分に対処することができないことから、管轄の特例を設ける必要があると考えられる。また、債権者の便宜考えれば、破産事件を東京又は大阪に事実上集中させるような特例を設けることは適当ではないとの意見も寄せられたが、情報開示や手続参加の方法等についての制度的手当又は運用上の工夫をしても、なお仮看過することができないような重大な不都合が生ずることがあるか。

(後産)
再生手続においても、同様の手当てをするものとする.
2 債権者に対する公告及び通知についての特則
裁判所は、破産宣告に際して知れている債潅者、債務者及び財産所持者に対する破産法第143条第1項に掲げる事項の通知をする場合において、当該債権者の数が1000人以上であるときは、当該債権者に対しては、その後の当該債権者に対する通知をしない旨の通知をすることができるものとする。

(注)
1 意見照会においては 前記2の考え方に多数の賛成意見が寄せられた。

2 中間試案においては、さらに、大規模破産事件における通知については、(a)破産管財人の氏名若しくは名称又は住所に変更を生じた場合(破産法第143条第3項参照)等に限って、個別の通知を省略するものとする考え方、(b)裁判所は、相当と認める方法により、破産宣告の場合も含め、債権者に集団的に周知させるために必要な措置を講ずることをもって、個別の通知に代えることができるものとする考え方を示して、これらの考え方の当否については、なお検討するとしていた(中間試案第1部、第15の3の(注)参照)・意見照会においては、(a)については、賛成する意見が多かったものの、反対する意見も少なからず奇せられた。もっとも、反対する意見のほとんどは、(a)の考え方では、合理化の効果が限定的であるという趣旨で不十分とするものであった。他方で、(b)の考え方については、多数の賛成意見が寄せられた。そこで、(b)の考え方について、さらに検討することで、どうか。たとえば、債権者に集団的に周知させるために必要な措置として、日刊新聞紙への掲載、裁判所又は破産管財人が主催するウェブサイトへの掲載のほか、具体的にどのようなものを想定することができるか。

3 従前の当部会の議論では、特則を認めるべき事項ごとに、特則の適用要件に差異を設けることもありうるとの指摘があったが、前記2については、1000人以上とすることで、よいか。通知の特則を設けるのは、費用の低減を図り、事務処理の省力化を図ること等を狙ったものであるが、そのような観点からは、さらに要件を絞る(たとえば、1万人以上)とすることは、考えられないか。

(後注)
再生手続及び更生手続においても、同様の手当てをするものとする。

3 議決権の行使方法
裁判所は(債権者の数が1000人以上であるときは)、決議をするための債権者集会を招集するに当たり、議決権行使の方法について、次に掲げる方法のいずれかを定めるものとするものとする。
<1>債権者集会の期日において議決権を行使する方法
<2>書面等投票(書面その他の最高裁判所規則で定める方法のうち裁判所の定めるものによる投票をいう。)により裁判所の定める期間内に議決権を行使する方法。
<3><1>及び<2>に掲げる方法のうち議決権者が選択するものにより議決権をこうしする方法。

(注)
1 中間試案においては、裁判所は、決議をするための債権者集会を招集するに当たり、相当と認めるときは、議決権を行使することができる破産債権者であって当該集会に出席しないものが裁判所の定める期間内に書面その他の最高裁判所規則で定める相当な方法をもって議決権を行使することができる旨の決定をすることができるものとする考え方の当否については、なお検討するとしていた(中間試案第1部、第15の(大規模破産事件関係後注2)参照)が、意見照会においては、この考え方に賛成する意見が多数を占めた。

2 中間試案の考え方は、既に、新会社更生法及び民事再生法において書面等投票として実現されている(平成15年4月1日施行予定)が、そこでは、債権者数、事件の規模の大小等にかかわらず、裁判所が、<1>関係人集会(債権者集会)の期日において議決権を行使する方法、<2>書面等投票により裁判所の定める期間内に議決権を行使する方法、

<3><1>又は<2>の方法のち議決権者が選択するものにより議決権を行使する方法の中から、具体的事案の下で最も適切なものを選択することを予定している(新会社更生法第189条第2項後段、民事再生法第169条第2項参照)。したがって、各手続間の制度的なバランス、特に再生手続とのバランスの観点からは、破産手続についても、大規模破産事件の特則としてではなく、一般的に、三種類の議決権行使の方法を認めることか考えられるが、どうか。

第16 強制和議

強制和議の制度(破産法第290条から第346条まで参照)は、廃止するものとする。

(注)
強制和議と類似の効果をもたらす破産手続から再建型の倒産処理手続への移行については 「 倒産処理手続の相互の関係」の問題として、破産手続における財団債権(手続が開始されなかった場合におけ 継続的給付を目的とする双務契約の相手方が手続開始の申立て後手続開始前にした給付に係る請求権を含む。中間試案第3部、第1の4参照)は、後続の手続において共益債権として取り扱う(後続の手続開始後直ちに随時弁済を可能にする)方向で検討するものとする(民事再生法第184条第2項及び新会社更生法第208条第2項倒産法部会資料27第1(注) 2参照)。