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【第三次案】第2部 個人の破産手続の特則及び免責手続等

第1 個人の破産手続に関する特則

1 自由財産
(1)自由財産の範囲
ア 民事執行法第131条第4号及び第5号の動産も、自由財産とするものとする。
イ 自由財産のうち、金銭(民事執行法第131条第3号参照)の額については、標準的な世帯の必要生計費(民事執行法施行令第1条参照)を基準として、その3月分とするものとすることで、どうか。

(注)
第 24回会議の審議においては、上記イの自由財産となるべき金銭の額について、標準的な世帯の必要生計費を基準として、担保物権及び民事執行制度の改善のための民法等の一部を改正する法律案第3条による改正後の個別執行における差押禁止金銭の額と同様にその2月分とすべきであるとの意見と、破産手続の特殊性を考慮してその3月分とすべきであるとの意見に分かれた。破産者は、破産手続開始の決定があると、原則として、その全財産の管理処分権を失った状態でその後の生活を送らなければならないこととなり、個別の財産について執行を受けた場合に比べて、生活に必要な資産等を確保することが一般的に困難であるといえる。そこで、このような事情を考慮して、破産者の生活の維持を図るため、破産手続における自由財産となるべき金銭の額は、個別執行における差押禁止金銭の額に、さらに、標準的な世帯の必要生計費の1月分を加えて、その3月分とすることで、どうか。

(2)自由財産の範囲の拡張の裁判
<1> 裁判所は、破産手続開始の決定が確定した日から1月を経過する日までの間、破産者の申立てにより又は職権で、決定で、破産者の生活の状況、破産手続開始の決定時において破産者が有していた自由財産の種類及び額、破産者が収入を得る見込みその他の事情を考慮して、破産財団に属しない財産(自由財産となるべき財産)の範囲を拡張することができるものとする。
<2> 裁判所は、<1>の決定をするにあたっては、破産管財人の意見を聴かなければならないものとする。
<3> <1>の申立てを却下する決定に対してには破産者は、即時抗告をすることができるものとする。
<4> <1>の決定又は<3>の即時抗告についての裁判があった場合には、その裁判書を当事者に送達しなければならないものとする。この場合においては、代用公告の規定は、適用しないものとする。

(注)
1 第24回会議の審議において、職権によって<1>の決定をすることができるものとするとの考え方については異論がなかったことから、裁判所は職権によって決定をすることができるものとする。
2 自由財産の範囲の拡張の裁判の要件については、当該申立てに係る財産が破産者の生活を維持するために必要かどうか、破産者の生活を維持するためにはどの程度の拡張が必要なのかなどを判断するために、扶養家族が多いこと、多額の医療費がかかること等の破産者の現在の生活の状況のみならず、中小企業の経営者が破産した場合等のように当分の間就業見込みがなく収入の当てがないこと等の将来の事情をも考慮する趣旨で「破産者の生活の状況」、「破産者が収入を得る見込み」を考慮すべき事情の例として示すことで、どうか。また、第24回会議の審議において、破産者が破産手続開始時に自由財産となるべき金銭の全額を手元に有していないという事情は、自由財産の範囲の拡張の裁判において考慮することで対処するとの意見が大勢を占めた。そこで、このような事情を考慮することができることを明確にする趣旨で、「破産手続開始の決定時において破産者が有していた自由財産の種類及び額」をも例示することで、どうか。
3 破産手続の円滑な進行を図るため、<1>の決定に対しては、破産債権者は即時抗告をすることができないものとするが、破産管財人は、破産財団の管理について責任を負い、かつ、総破産債権者の利益を実現する地位にあることから、裁判所は、<1>の決定をするにあたっては、破産管財人の意見を聴かなければならないものとして、破産債権者の利益保護を図ることで、どうか。
4 前述のとおり、第24回会議の審議においては、破産者の手元に自由財産となるべき金銭の全額がないという事情は、自由財産の範囲の拡張の裁判における考慮要素となるとの意見が大勢を占めた。このように考えると、破産者は<1>の決定に対して重大な利害関係を有することになることから、破産者には即時抗告権を認めるものとする。
5 なお、自由財産の範囲の拡張のみならず縮小の裁判を認めることも検討すべきであるとの指摘があった。しかし、法定された自由財産の範囲は、破産者の健康で文化的な生活を保障するために認められたものであるから、この縮小を認めることはこの趣旨を没却することとなり、相当でないと考えられる。

2 破産者に対する監守
破産者(これに準ずる者(破産法第152条参照)を含む。)に対する監守の制度は、廃止するものとする。

3 扶助料の給与
破産者及びこれに扶養される者に対する扶助料の給与の制度(破産法第192条第1項及び第194条参照)は、廃止するものとする。

第2 免責手続

1 免責の申立て
(1)申立ての時期等
<1> 債務者は、破産手続開始の申立てのあった日以後破産手続開始の決定が確定した日から1月を経過する日までの間に、破産裁判所に対し、免責の申立てをすることができるものとする。
<2> 債務者が破産手続開始の申立てをした場合には、当該申立てと同時に<1>の免責の申立てがあったものとみなすものとする。ただし、債務者が、破産手続開始の申立ての際に反対の意思を表示しているときは、この限りでないものとする。
<3> 債務者は、その責めに帰することができない事由により、<1>の期間内に免責の申立てをすることができなかった場合には、その事由が消滅した後1月以内に限り、免責の申立てをすることができるものとする。

(2)申立ての方法
破産手続開始の申立時の債権者一覧表(破産法第138条参照)と免責手続における債権者名簿(同法第366条ノ3参照)の記載事項は、同一のものとし、債務者が破産手続開始の申立てをする場合には、免責手続における債権者名簿の提出を要しないものとする。

(注)
最高裁判所規則において、債権者一覧表及び債権者名簿の記載事項を定めるものとする。

2 免責についての審理
(1)調査
ア 調査の方法
免責の調査は相当な方法によってすることとし、期日における審尋(破産法第366条ノ4第1項参照)によることを要しないものとする。

イ 破産管財人による調査及び報告
裁判所は、破産管財人に免責不許可事由(破産法第366条ノ9参照)の有無又は破産手続開始に至った経緯その他裁量免責の判断に必要な事情につき調査をさせ、その結果について書面で報告をさせることができるものとする。

ウ 裁判所等による免責の調査に対する協力義務
破産者(免責の申立てをした者に限る。)は、裁判所又は破産管財人が行う当該破産者に対する免責の調査に協力しなければならないものとする。

(注)
1 裁判所又は破産管財人(前記イ参照)による免責不許可事由の有無等の調査を有効かつ効率的に行うためには、破産者の協力が不可欠であると考えられる。また、破産者に、このような協力義務を課したとしても、自ら免責の申立てをしている以上は、酷とはいえないと考えられる。そこで、免責の申立てをした破産者に裁判所等の行う免責の調査に対する協力義務を認めることで、どうか。具体的な義務の内容としては、例えば 審尋期日が定められた場合には、これに出頭し、かつ、虚偽の陳述をしてはならないこと、財産状祝の開示を求められた場合にはこれに応じなければならないこと等が考えられる。
2 「破産者(免責の申立てをした者に限る。)」には、前記1(1)<2>によって、免責の申立てがあったものとみなされる者を含むものとする。
3 破産者が免責の調査に対する協力義務に違反したこともって、免責不許可事由とするものとする(後記4(2)イ参照)。

(2)意見聴取[意見申述]
ア 意見聴取[意見申述]期間
<1> 裁判所は、免責の申立てがあったときは、破産手続開始の決定があった時以後、免責についての意見聴取[意見申述]期間を定めなければならないものとする。
<2> <1>の意見聴取[意見申述]期間を定める決定は、公告をするとともに[、検察官]、破産管財人及び免責の効力を受けるべき知れている破産債権者に通知しなければならないものとする。
<3> <1>の意見聴取[意見申述]期間は、<2>の公告が効力を生じた日から起算して1月[3週間]以上としなければならないものとする。

(注)
1 免責手続における「異議申立て」の実質的内容は、破産者に免責不許可事由に該当する具体的事実が存在すること等の債権者の主張であり、給与所得者等再生において再生計画案の不認可事由に該当する具体的事実が存在しすることを債権者が主張する「意見聴取」(民事再生法第240条)と同質のものであることから、「異議申立て」の用語を「意見聴取」等に改めることが考えられる(給与所得者等再生では裁判所が債権者から意見を聴く制度であるのに対し、免責手続では債権者が主体的に裁判所に対して意見を述べる制度であることを考慮して、「意見申述」とすることも考えられる。)。
2 <3>の意見聴取[意見申述]期間については、今後の事件増に伴う債権者の事務負担の増加を考慮して1月以上とすべきであるとの考え方と、免責手続の迅速化を重視して3週間以上とすべきであるとの考え方とがあるが、どのように考えるか。
3 債権者が意見を述べる際には、免責不許可事由に該当する事実を具体的に明らかにしてしなければならない旨を最高裁判所規則別において定めるものとする。
4 検察官に意見聴取[意見申述]期間の通知を要するものとするかどうかについては、検察官に意見を述べる権利を認めるかどうか(後記(意見聴取[意見申述]関係後注)参照)と併せて、なお検討するものとする。

イ 意見を述べた破産債権者等からの意見聴取
前記アの期間中に意見を述べた破産債権者及び破産者からの必要的な意見聴取の制度(破産法第366条ノ8)は、廃止するものとする。

(注)
免責取消前の意見聴取の制度(第366条ノ16)及び復権についての異議申立てがあった場合の意見聴取の制度(第371条)も、廃止するものとする。

(意見聴取[意見申述]関係後注)
検察官の異議申立ての制度(第366条ノ7参照)については、免責不許可事由の内容をどのように規定するかという事項と関係することから、これと並行して、なお検討するものとする。

3 免責手続中の個別執行禁止効
<1> 免責の申立てがあり、かつ、破産手続終結の決定又は破産手続廃止の決定があったときは、免責の申立てについての裁判が確定するまでの間は、破産者の財産に対する破産債権に基づく強制執行、仮差押え、仮処分又は一般の先取特権[若しくは留置権(商法の規定によるものを除く。)]による競売(以下<1>及び<3>において「強制執行等」という。)の手続及び国税滞納処分(交付要求を除く。)はすることができず、破産者の財産に対して破産手続開始の決定前に既にされている強制執行等の手続は中止するものとする。
<2> 免責許可の決定が確定したときは、<1>により中止した手続は、その効力を失うものとする。
<3> <2>の場合には、破産法第366条ノ12各号及び後記5(1)(i)及び(ii)に掲げる破産債権(<1>により強制執行等又は国税滞納処分が禁止されているものに限る。<4>において同じ。)については、当該決定が確定した日の翌日から2月を経過する日までの間は、時効は、完成しないものとする。
<4> 免責の申立てについての裁判が確定した場合(<3>の場合を除く。)には、破産債権については、当該裁判が確定した日の翌日から2月を経過する日までの間は、時効は、完成しないものとする。

4 免責の裁判
(1) 裁量免責
<1> 裁判所は、免責不許可事由(破産法第366条ノ9及び後記<2>参照)がある場合を除き、免責を許可するものとする。
<2> 裁判所は、免責不許可事由がある場合であっても、破産手続開始に至った経緯その他一切の事情を考慮して免責を相当とするときは、免責を許可することができるものとする。

(2)免責不許可事由
ア 詐術を用いた信用取引による財産取得行為
破産法第366条ノ9第2号については、破産者が、破産手続開始の申立てがあった日の1年前の日から破産手続開始の決定の日までの間に、破産の原因となる事実があることを知りながら、当該事実がないことを信じさせるため、詐術を用いて信用取引によって財産を取得したことをもって、免責不許可事由とするものとすることで、どうか。

(注)
現行法は、破産宣告前1年内の詐術を用いた信用取引による財産取得行為を免責不許可事由としているが、破産手続開始の決定(破産宣告)がいつされるかは、諸事情によって左右されるものであり確定的できないから、このような流動的なものによって免責不許可事由の対象となる行為を画することは合理性に乏しいと考えられる。そこで、破産者自身の行為である破産手続開始の申立てを基準とし、その1年前から破産手続開始の決定までの間における詐術を用いた信用取引による財産取得行為を免責不許可事由とすることで、どうか。

イ 過去に免責許可の決定を受けたこと等
破産法第366条ノ9第4号については、破産者について次の(i)から(iii)までに掲げる事由のいずれかがある場合において、それぞれ(i)から(iii)までに定める日から7年以内に免責の申立てがされたことをもって、免責不許可事由とするものとする。
(i)免責許可の決定が確定したこと・当該決定の確定の日
(ii)給与所得者等再生における再生計画が遂行されたこと 当該再生計画認可の決定の確定の日
(iii)民事再生法第235条第1項(同法第244条において準用する場合を含む。)に規定する免責許可の決定が確定したこと 当該免責許可の決定に係る再生計画認可の決定の確定の日

(注)
民事再生法第239条第5頃第2号イ、ロ及び八の規定についても、同様に制限期間を7年とするものとする。

ウ 免責の調査に対する協力義務違反
破産者が裁判所又は破産管財人の行う免責不許可事由の有無等に関する調査に対する協力義務に違反したことをもって、免責不許可事由とするものとする。

(注)
破産者の免責調査に対する協力を実効あらしめるため、当該義務に違反したことを免責不許可事由とすることで、どうか。なお、ここで要求される義務の程度は、現行破産法で予定されているものと同程度であり、破産者の行為の態様等から破産者の不誠実性が認められた場合に義務違反になるものと考えられる。

(免責不許可事由関係後注)
免責不許可事由と罰則規定とは切り離して規定するものとする。なお、「浪費又ハ賭博共ノ他ノ射倖行為」(第 375条第1号、第366条ノ9第1号参照)及び「詐術」(第366条ノ9第2号)については、現行法の内容を変更することなく、これをより明確化する適切な要件があるか、引き続き検討するものとするが、表現ぶりについては事務当局に御一任いただくことで、どうか。

(3)免責許可の決定の確定
免責許可の決定が確定した場合の公告の制度(破産法第366条ノ14参照)は、廃止するものとする。

(注)
免責許可の取消しの決定が確定した場合の公告の制度(第366条ノ19参照)及び復権の決定が確定した場合の公告の制度(第372条参照)も、廃止するものとする。

5 非免責債権
(1)破産手続における非免責債権
次の(i)及び(ii)に掲げる債権を非免責債権(破産法第366条ノ12参照)に加えるものとする。
(i)破産者による人の生命又は身体を侵害する不法行為で故意又は重大な過失によるものに基づく損害賠償請求権(破産法第366条ノ2第2号に該当するものを除く。)
(ii)破産者が養育者又は扶養義務者として負担すべき費用に関する債権

(2)再建型倒産処理手続における非免責債権
個人再生(小規模個人再生及び給与所得者等再生)手続においては、次の(i)及び(ii) に掲げる債権を非免責債権とするものとし、当該債権に係る債務は、再生計画に基づいて期限を猶予することはできるものの、減免をすることはできず、計画完遂時に残額について履行期が到来するものとする。
(i)前記(1)(i)及び(ii)に掲げる債権
(ii)債務者が悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権(第366条ノ12第2号)


(第1・第2関係後注)
1 個人再生(小規模個人再生及び給与所得者等再生)手続の適格要件である再生債権の総額の上限(民事再生法第221条第1項、第239条第1項)を引き上げ、再生債権の総額が5000万円[6000万円]を超えない者は、個人再生手続を行うことを求めることができるものとすることで、どうか。
2 個人再生手続の適格要件である再生債権の総額の上限を引き上げる場合には、最低弁済額要件(同法第231条第2項第3号、第241条第2項第5号)については、次のようにすることで、どうか(下記イメージ図参照)。
(1)基準債権の総額が3000万円以下の場合においては、基準債権に対する再生計画に基づく弁済の総額(以下「計画弁済総額」という。)が基準債権の総額の5分の1又は100万円のいずれか多い額(基準債権の総額が100万円を下回っているときは基準債権の総額、基準債権の総額の5分の1が300万円を超えるときは300万円)を下回っているとき。
(2)基準債権の総額が3000万円を超え、5000万円[6000万円]以下の場合においては、計画弁済総額が基準債権の総額の10分の1を下回っているとき。には、再生計画不認可の決定をするものとする。なお、個人再生手続の適格要件である再生債権の総額の上限を引き上げた場合には、引き上げられた範囲に属する事件(再生債権の総額が3000万円を超え、5000万円[6000万円〕以下のもの)は、従前の事件に比べて規模が大きくなり、再生債権者により重大な影響を与えることになること等から、手続の適正さを確保する趣旨で、当該事件については個人再生委員の選任を必要的とするとの考え方があるが、どのように考えるか。

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第3 相続財産の破産等に関する特則

1 相続財産管理人等の破産手続開始の申立義務
相続財産管理人、遺言執行者又は限定承認若しくは財産分離がされた場合における相続人は、破産手続開始の申立てをする義務を負わないものとする(破産法第136条第2項の規定は削除するものとする。)。

2 破産手続開始の申立て後破産手続開始の決定前の相続の開始
<1> 裁判所は、破産手続開始の申立て後破産手続開始の決定前に債務者について相続が開始したときは、相続債権者、受遺者、相続人、相続財産の管理人又は遺言執行者の申立てにより、当該破産手続開始の申立てに係る手続を相続財産について続行する旨の決定をすることができるものとする。
<2> <1>に規定する続行の申立ては、<1>に規定する相続の開始後1月以内にしなければならないものとする。
<3> <2>の期間が経過したとき(<1>に規定する続行の申立てがあった場合には、当該申立てを却下する決定が確定したとき)は、<1>に規定する手続は、終了するものとする。
<4> <1>に規定する続行の申立てを却下する裁判に対しては、即時抗告をすることができるものとする。

3 最後配当から除斥された者の権利行使
相続財産の破産において最後配当から除斥された相続債権者及び受遺者の残余財産にてついての権利行使を認める第289条の規定は、削除するものとする。

4 破産手続廃止の申立て
相続財産の破産についての破産手続廃止の申立ては、相続人が数人ある場合であっても各相続人ができるものとし、全員の一致を要しないものとする。

(更生手続につき採用された個別の手続、制度の破産手続における採否)

1 大規模破産事件の移送の特則
裁判所は、著しい損害又は遅滞を避けるため必要があると認めるときは、職権で、破産事件を倒産法部会資料40第1・2(i)から(v)までに掲げる裁判所のほか、次に掲げる裁判所にも移送することができるものとする。
(i)[破産手続開始の決定がされたとすれば破産債権となる債権を有する]債権者[(破産手続開始の決定があった後にあっては、破産債権者)]の数が500人以上であるときは、通常の管轄裁判所(破産法第105条から第107条まで)の所在地を管轄する高等裁判所の所在地を管轄する地方裁判所
(ii)[破産手続開始の決定がされたとすれば破産債権となる債権を有する]債権者[(破産手続開始の決定があった後にあっては、破産債権者)]の数が1000人以上であるときは、東京地方裁判所又は大阪地方裁判所

(注)
再生手続においても、同様の手当をするものとする。

2 社債管理会社の費用償還請求権及び報酬請求権
(1)費用償還請求権の財団債権化の事前許可
破産手続開始後 社債管理会社が裁判所の許可を得て社債管理事務を行った場合には、当該行為によって生じた破産者に対する費用償還請求権(商法第336条第1項及び第337条参照)は、財団債権とするものとすることで、どうか。

(2)費用償還請求権の財団債権化の事後許可
社債管理会社が破産手続の円滑な進行に貢献したときは、当該社債管理会社は、(1)の許可を得ていない社債管理事務によって生じた費用についても、裁判所がその貢献した程度を考慮して相当と認める額の範囲内で、財団債権者としてその償還を請求することができるものとすることで、どうか。

(3)報酬請求権の財団債権化の許可
破産手続開始後における社債管理会社の報酬請求権(商法第336条第1項参照)は、裁判所が相当なものとして許可をした限度において財団債権とするものとすることで、どうか。(会社更生法第131条参照)

(注)
1 更生手続において社債管理会社の費用償還に請求権等についての共益債権化の制度を設けたのは、<1>社債管理事務に伴う費用、報酬は、発行会社が負担すべきものとされていること(商法第336条第1項)、<2>商法は、社債権者の利益を保護するため、一定の場合に社債管理会社の設置を強制に、社債管理会社が社債管理事務を行うことを法定している(同法第309条第1項、第309条ノ2第1項)が、社債管理事務に伴う費用等を共益債権として支払わなければ、その趣旨を実現することは困難であること、<3>社債管理会社が社債管理時務を遂行することにより、管財人の更生手続上の事務負担も軽減されることが根拠となっている。これらの根拠は破産手続にも同様に当てはまると考えられることから、上記(1)から(3)までの手当をすることで、どうか。
2 社債管理会社には担保附社債信託法上の受託会社を含むものとする。そのほか、株式会社の社債管理会社に準じるものとして、<1>投資法人の投資法人債管理会社(投資信託及び投資法人に関する法律第139条の3、第139条の5及び第139条の6参照)、<2>相互会社の社債管理会社(保険業法第61条参照)、<3>特定目的会社の特定社債管理会社(資産の流動化に関する法律第109条、第111条及び第113条参照。なお、旧資産流動化法上の特定社債管理会社を含む。)等についても、同様に、費用償還請求権等の財団債権化を図ることが考えられるが、どのように考えるか。
3 再生手続においても、同様の手当をするものとすることで、どうか。

3 破産手続終了後における査定等の手続及び異議の訴えに係る訴訟手続の帰趨

(前注)手続の移行が生じた場合の取扱いは、以下の規律を前提として、なお検討するものとする。

(1)破産債権関係
ア 破産債権の査定の手続
<1> 破産手続が破産手続終結の決定により終了したときは、引き続き係属するものとする。
<2> 破産手続が破産手続開始の決定の取消しの決定の確定又は破産手続廃止の決定の確定により終了したときは、当然に終了するものとする。

イ 異議の訴えに係る訴訟手続
(ア)破産管財人が当事者である場合
<1> 破産手続がが破産手続終結の決定により終了したときは(破産管財人を当事者とする破産財団に関する訴訟手続の中断、受継に関する一般的規定を適用せず)、引き続き係属するものとする。
<2> 破産手続が破産手続開始の決定の取消しの決定の確定又は破産手続廃止の決定の確定により終了したときは(破産管財人を当事者とする破産財団に関する訴訟手続の中断・受継に関する一般的規定を適用して)、中断し、破産者においてこれを受け継がなければならないものとする。

(イ)破産管財人が当事者でない場合
<1> 破産手続が破産手続終結の決定により終了したときは、引き続き係属するものとする。
<2> 破産手続が破産手続開始の決定の取消しの決定の確定又は破産手続廃止の決定の確定により終了したときは、当然に終了するものとする。

ウ イ以外の確定訴訟手続
(ア)破産管財人が当事者である場合
<1>破産手続が破産手続終結の決定により終了したときは(破産管財人を当事者とする破産財団に関する訴訟手続の中断・受継に関する一般的規定を適用せず)、引き続き係属するものとする。
<2> 破産手続が破産手続開始の決定の取消しの決定の確定又は破産手続廃止の決定の確定により終了したときは(破産管財人を当事者とする破産財団に関する訴訟手続の中断・受継に関する一般的規定を適用して)、中断し、破産者においてこれを受け継がなければならないものとする。

(イ)破産管財人が当事者でない場合
<1> 破産手続が破産手続終結の決定により終了したときは、中断しない[引き続き係属する]ものとする。
<2> 破産手続が破産手続開始の決定の取消しの決定の確定又は破産手続廃止の決定の確定により終了したときは、当然に終了するものとする。ただし、破産手続開始当時に係属していた訴訟手続であって破産債権の確定のための受継があったものは、終了せずに中断するものとし、破産者においてこれを受け継がなければならないものとする。

(注)
1 現行破産法に関する通説的見解及び会社更生法における規律を参考にしたものである。会社更生法では、例えば、アに相当する部分は、更生計画認可前の終了であるか否かで区別している(同法第163条第1項参照)のに対し、アでは、破産手続終結の決定による終了であるか否かで区別しているが、いずれも債権者に確定手続を継続する利益があるか否かで区別をするという点でには共通している。また、会社更生法では、イ(ア)に相当する部分は、<1><2>を区別することなく、「管財人が当事者である場合は引き続き係属するものとする」としている(同法163条第4項参照)。更生手続では、更生会社財産の管理処分権は全面的に会社に復帰するためであるが、破産手続では、債権確定訴訟の終了後に破産管財人が配当(追加、配当)をする限度では、破産手続終結の決定後も破産管財人の権限及び任務が残っており、破産手続終結の決定後も、破産管財人が債権確定訴訟をそのまま追行するというのが通説的見解であるので、これに従い、<1><2>を区別している。

2上記のような手続の継続、中断・受継、終了の点のほかに、破産者が手続を受継する場合には当該手続をどのような状態で受継するのかという問題がある。 現行破産法上の債権確定訴訟にてついて、多数説は、破産取消し又は破産廃止による破産手続終了時に係属している訴訟であって、破産債権者が破産債権の確定のために破産手続開始の決定時に係属していた訴訟を受継したものは、破産者が当初の中断時(破産手続開始の決定時)の状態にさかのぼって受継すると解している。他方で、会社更生法についての通説的見解は、更生計画認可前の更生手続終了の場合に関して、<1>更生債権者等が更生債権等の確定のために更生手続開始の決定時に係属していた訴訟を受継した場合には、更生会社が更生手続開始の決定時の状態で受継し、<2>管財人が更生債権等の確定のために更生手続開始の決定時に係属していた訴訟を受継した場合には、更生会社が更生手続終了時の状態で受縦するのを原則とするが、更生債権等の調査で異議を述べていたときはその選択により更生手続開始の決定の状態で受継することができ、<3>管財人が更生手続係属中に新たに提起した場合には、更生会社が更生手続終了時の状態で受継するのを原則とするが、更生債権等の調査で異議を述べていたときは新たに訴えを提起することもできると解している。これに対して、破産債権者のした訴訟行為が真実に反する場合には、錯誤を理由に訴訟行為の拘束性を否定すれば良く、従前のすべての訴訟活動を否定する必要はないから、受継時点での訴訟状態を前提として受継されると解する説もある。 会社更生法改正要綱案の決定の際は、<3>の場合については専ら中断、受継の問題として処理する(新訴の提起を選択する余地は否定する)こととした上で、手続をどのような状態で受継するかは当面解釈にゆだね、制度的手当の要否についてはなお検討するものとされたところであるが、破産手続の全面的見直しに当たり、どのように考えるべきか。現行破産法の解釈が一様ではない上、現行破産法についての多数説と会社更生法についての通説的見解とが一致していないことを考えると、なお解釈にゆだねることも考えられるが、どうか。

3 現行破産法には、破産者の異議の制度(破産法第232条第1項、第241条 第1項後段、第287条及び第288条参照)及び破産者を相手方とする債権確定訴訟の制度(同法第240条第2項、第244条第2項後段、第246条第2項及び第248条第2項参照)が設けられている。しかし、民事再生法及び会社更生法には、後者に相当する制度は設けられていない。その理由は、再生手続及び更生手続では、管財人が選任されている場合における再生債務者又は更生会社が調査期間内に異議を述べても、再生計画認可の決定が決定し、又は更生計画認可の決定があれば、再生債権者表等の記載は再生債務者又は更生会社に対する関係でも確定判決と同一の効力を有し、再生債権者等は、再生計画認可の決定後又は更生手続の終了後、再生債権者表等の記載を債務名義として再生債務者等に対して強制執行をすることができるので、破産手続と異なり、再生債務者等を相手方として訴訟を受継し得ることとする実際上の必要が少なく、これを設けないことが手続の簡素化にもつながるためであるといわれている。
ところで、破産者を相手方とする債権確定訴訟の制度が機能するのは、実際には個人破産の場合に限定されるが、個人破産については昭和27年の破産法改正により免責の制度が採用されており、破産者を相手方として債権確定訴訟を行い、破産手続係属中に迅速に債権確定を図る利益は実質的には失われている。また、破産者に対しても、無用な負担を課す結果となることが多いと考えられる。そのため、今日では、破産者を相手方とする債権確定訴訟の制度に対しては、立法論的批判があるところである。そこで、破産者の異議の制度は維持するものとしつつ、破産者を相手方とする債権確定訴訟の制度は廃止するものとすることで、どうか。
なお、現行の民事再生法及び会社更生法は、現行の破産法と同様に、管財人が選任されている場合における再生債務者の異議の制度及び更生会社の異議の制度を採用している。しかし、再生手続及び更生手続においては、自由財産という概念は存在せず、再生手続開始後又は更生手続開始後に財産の管理処分権を掌握する管財人が再生債務者財産又は更生会社財産に関してした行為(訴訟行為を含む。)の効果は、債権の調査及び確定の場面以外の場面では、再生計画又は更生計画の認可前の手続終了であるか否かを問わず、特段の限定なく、再生債務者又は更生会社に及ぶとされており、債権の調査及び確定の場面に限ってこのような特殊な異議の制度を設ける合理性は乏しいと考えられる。そこで、管財人が選任されている場合における再生債務者の異議の制度及び更生会社の異議の制度を廃止することも考えられるが、どのように考えるか。

4 再生手続については、次のように考えることで、どうか。

(1)再生債権の査定の手続
<1> 再生計画認可の決定の確定前に再生手続が終了したときは、当然に終了するものとする。
<2> 再生計画認可の決定の確定後に再生手続が終了したときは、引き続き係属するものとする。この場合において、管財人を相手方としているときには、中断し、再生債務においてこれを受け継がなければならないものとする。

(2)異議の訴えに係る訴訟手続
ア 再生債務者が当事者である場合
再生手続が終了したときは、引き続き係属するものとする。

イ 管財人が当事者である場合
再生手続が終了したときは、中断し、再生債務においてこれを受け継がなければならないものとする。

ウ 再生債権者等が当事者でない場合
<1> 再生計画認可の決定の確定前に再生手続が終了したときは、当然に終了するものとする。
<2> 再生計画認可の決定の確定後に再生手続が終了したときは引き続き係属するものとする。

(3)(2)以外の確定訴訟手続
ア 再生債務者が当事者である場合
再生手続が終了したときは、引き続き係属するものとする。

イ 管財人が当事者である場合
再生手続が終了したときは、中断し、再生債務者においてこれを受け継がなければならないものとする。

ウ 再生債務者等が当事者でない場合
<1> 再生計画認可の決定の確定前に再生手続が終了したときは、当然に終了するものとする。ただし、再生手続開始当時に係属していた訴訟手続であって再生債権の確定のための受継があったものは、終了せずに中断するものとし、再生債務者においてこれを受け継がなければならないものとする。
<2> 再生計画認可の決定の確定後に再生手続が終了したときは、引き続き係属するものとする。

(2)損害賠償請求権関係
ア 損害賠償請求権の査定の手続
破産手続が終了したときは、当然に終了するものとする。

イ 異議の訴えに係る訴訟手続
破産手続が終了したときは(破産管財人を当事者とする破産財団に関する訴訟手続の中断・受継に関する一般的規定を適用して)、中断し、破産者においいてこれを受け継がなければならないものとする。

ウ イ以外の訴訟手続
破産手続が終了したときは(破産管財人を当事者とする破産財団に関する訴訟手続の中断・受継に関する一般的規定を適用して)、中断し、破産者においてこれを受け継がなければならないものとする。

(注)
再生手続については、次のように考えることで、どうか。
(1) 損害賠償請求権の査定の手続
再生手続が終了したときは、当然に終了するものとする。
(2)異議の訴えに係る訴訟手続
ア 再生債務者が当事者である場合
再生手続が終了したときは、引き続き係属するものとする。
イ 管財人が当事者である場合
再生手続が終了したときは、中断し、再生債務者においてこれを受け継がなければならないものとする。
ウ 再生債務者等が当事者でない場合
再生手続が終了したときは、中断し、再生債務者においてこれを受け継がなければならないものとする。
(3)(2)以外の訴訟手続
ア 再生債務者が当事者である場合
再生手続が終了したときは、引き続き係属するものとする。
イ 管財人が当事者である場合
再生手続が終了したときは、中断し、再生債務者においてこれを受け継がなければならないものとする。

(3)否認権関係
ア 否認の請求の手続
破産手続が終了したときは、当然に終了するものとする。
イ 異議の訴えに係る訴訟手続
破産手続が終了したときには当然に終了するものとする。
ウ イ以外の訴訟手続
破産手続が終了したときは(破産管財人を当事者とする破産財団に関する訴訟手続の中断・受継に関する一般的規定を適用して)、中断し、破産者においてこれを受け継がなければならないものとする。

(注)
1 否認の請求の手続においては、否認権の行使に関連する他の攻撃防御方法(虚偽表示無効等)を提出することはできないと考えられており、ア及びイのとおり、破産手続終了により否認の請求の手続及び異議の訴えに係る訴訟手続は当然に終了すると考えるのが合理的であると考えられる。
2 ウについては、会社更生法に関する通説的見解に従い、手続の終了により中断し、債務者が受継するという考え方を採用している。この考え方によれば 解釈上、受継した訴訟手続において、<1>否認権の行使が訴訟物に直結する場合には訴えは却下され、<2>否認権の行使が攻撃防御方法である場合(他の攻撃防御方法の主張立証がない場合)には、請求は棄却される等と考えることになる。
3 再生手続については、次のように考えることで、どうか。更生手続についても、同様に考えることで、どうか。
(1)否認の請求の手続
再生手続が終了したときは、当然に終了するものとする。
(2)異議の訴えに係る訴訟手続
再生手続が終了したときは、当然に終了するものとする。
(3)(2)以外の訴訟手続
再生手続が終了したときは、中断し、再生債務者においてこれを受け継がなければならないものとする。

(後注)取締役等の報酬の請求権について
一般に、破産手続開始後も法人である破産者の業務執行機関(取締役等)は存続し続け、法人の組織法的・社団的事項に関する権限を行使することができるが、破産手続開始により法人と業務執行機関との間の委任関係は当然に終了するため、業務執行機関は不在となる。他方で、法人の財産的事項(破産財団)に関する権限は破産管財人に専属する。これを前提とすると、報酬を受けるべき業務執行機関が不在であるのが通常であるから、特段の手当をしないことで、どうか。なお、保全管理人が選任されている間に限って手当をすることも考えられるが、どのように考えるか。
なお、再生手続については、更生手続と同様に、法人である再生債務者の理事、取締役、執行役、監事、監査役、清算人及びこれらに準ずる者は、保全管理人又は管財人が選任されている間は、再生債務者に対して報酬を請求することができないものとすることで、どうか。