メイン

【第一次案】第4部 その他

第1 倒産犯罪

1 破産財団を構成する財産の価値を侵害する行為及びその収集を困難にする行為(詐欺破産行為)の処罰破産法第374条第1号及び第2号に規定する行為(同法第376条及び第378条に係る場合を含む。)に対する処罰の在り方については、個別執行における同種の妨害行為に関する刑法等改正案の規定等を参考にしつつ、なお検討する。

(注)下記の点については、なお検討する。
ア 一定の危機的状況が発生にした時点以降の詐欺破産行為については、破産宣告の確定を処罰条件とせずに処罰の対象にするか。
イ 保全管理命令(倒産法部会資料28・第3・5参照)が発せられた場合については、破産宣告後と同様に取り扱うか。
ウ 図利加害目的の要件については、「債権者を害する目的」に絞るか。
エ 債務者が不利益な条件で債務を負担した場合についても、不利益処分と同様に処罰の対象にするか。
オ 商業帳簿(破産法第374条第3号参照)及び閉鎖帳簿(同条第4号参照)(倒産法部会資料30・第12・1(1)参照)に係る行為については、詐欺破産行為としての重い処罰の対象から除外するか(後記2(3)参照)。
力 破産宣告後、破産管財人が関知しない場面で、破産財団に属する財産の占有を移転し、あるいは取得する行為を処罰の対象にするか。
(参考)犯罪の国際化及び組織化に対処するための刑法等の一部を改正する法律案における刑法第96条の2の改正規定(強制執行妨害目的財産損壊等)強制執行を妨害する目的で、次の各号に掲げる行為をした者は、3年以下の懲役若しくは250万円以下の罰金に処し'又はこれを併科する。情を知って第3号に規定する譲渡又は権利の設定の相手方となった者も、同様とする。

一 強制執行を受け、若しくは受けるべき財産を隠匿し、損壊し、若しくはその譲渡を仮装し、又は債務の負担を仮装する行為
二 強制執行を受け、又は受けるべき財産について、その現状を改変して、価格を減損し、又は強制執行の費用を増大させる行為
三 金銭執行を受けるべき財産について、無償その他の不利益な条件で、譲渡をし、又は権利の設定をする行為旧商法(明治23年法律第32号)第1050条破産宣告ヲ受ケタル債務者力支払停止又ハ破産宣告ノ前後ヲ間ハス履行スル意ナキ義務又ハ履行スル能ハサルコトヲ知リタル義務ヲ負担シタルトキ又ハ債権者二損害ヲ被フラシムル意思ヲ以テ貸方財産ノ全部若クハー分ヲ蔵匿シ転匿シ若クハ脱漏シ又ハ借方現額ヲ過度二掲ケ又ハ商業帳簿ヲ殿滅シ蔵匿シ若クハ偽造。変造シタルトキハ詐欺破産ノ刑二処ス
(後注1)破産法第375条第3号所定の行為を含め、偏頗行為の処罰の要否については、否認権の在り方に関する議論の動向も踏まえて、なお検討する。
(後注2)不利益処分にあたる場合のほか、破産管財人が、その任務に違反して、債権者に損害を与えた場合における処罰の要否については、特別清算の場合の清算人に係る商法の特別背任罪の規定との均衡をも考慮して、なお検討する。
(参考)商法第486条
1 発起人、取締役、監査役又ハ株式会社ノ第183条第3項、第258条第第2項若ハ第280条第1項ノ職務代行者若ハ支配人其ノ他営業二関スル或種類若ハ特定ノ事項ノ委任ヲ受ケタル使用人自己若ハ第三者ヲ利シ又ハ会社ヲ害センコトヲ図リテ其ノ任務ニ背キ会社ニ財産上ノ損害ヲ加ヘタルトキハ10年以下ノ懲役又ハ1000万円以下ノ罰金ニ処ス
2 整理委員、監督員、第398条第1項ノ管理人又ハ株式会社ノ清算人若八第430条ノ職務代行者前項二掲グル行為ヲ為シタルトキ亦前項二同ジ
2 破産者の財産等に関する情報の収集を妨害する行為の処罰

(1)重要財産に関する破産者の説明義務違反行為の処罰(倒産法部会資料第28・第4・2)破産者等が、破産宣告後遅滞なく、破産者の所有する不動産、現金、有価証券、預貯金その他の重要な財産の内容を記載した書面を裁判所に提出しなければならないものとした場合において、その提出を拒み、又は虚偽の書面を提出する行為を処罰するかについては、なお検討する。
(注) 上記の説明義務は、管財手続が開始されたことを前提とするものであるが、破産申立てについての審尋等における虚偽の陳述に係る制裁等についても、併せて検討する(倒産法部会資料83・第2・2(1)ア(注)参照)。

(2) 破産管財人等への説明義務違反行為等の処罰(倒産法部会資料28・第4・2(注)4及び第5・6(注)3参照)破産管財人等に対する説明義務等に違反した者は処罰するものとする。
(注)
1 説明義務等の内容については、なお検討する(民事再生法第78条、第59条、新会社更生法第77条参照、)。
2 説明義務等を負う主体の範囲については、破産者及び準債務者(破産法第376条)のほか、「破産者の代表者、代理人、使用人その他の従業者」一般や、前にこれらの地位にあった者(破産法第153条第2項参照)を含むものとするかにつき、なお検討する。
3 子会社に対する調査等に関する制裁については、なお検討する。

(3)破産者の業務及び財産の状況に関する資料の隠滅行為の処罰
商業帳簿(破産法第374条第3号)や閉鎖帳簿(同条第4号)を含めて、破産者の業務及び財産の状況に関する資料を隠滅するなどする行為については、処罰する方向で検討する。
(参考)刑法第104条(証拠隠滅等)
他人の刑事事件に関する証拠を隠滅し、偽造し、若しくは変造し、又は偽造若しくは変造の証拠を使用した者は、2年以下の懲役又は20万円以下の罰金に処する。旧刑法(明治13年大政官布告第36号)第389条家資分散ノ際牒簿ノ類ヲ蔵匿殷棄シ若クハ分散決定ノ後債主中ノー人又ハ数人二其負債ヲ私償シテ他ノ債主ヲ害シタル者ハ1月以上2年以下ノ重禁錮二処ス

3 破産管財人等の職務執行に対する妨害行為の処罰(倒産法部会資料28・第5・5(注)参照) 破産管財人の職務にご対する妨害行為については、個別執行における執行官等の職務に対する妨害行為に関する刑法改正案の規定を参考にして、これを処罰する規定を設ける方向で、なお検討する。
(注) 破産管財人のほか、その職務を保護する者の範囲については、なお検討する。
(参考)犯罪の国際化及び組織化に対処するための刑法等の一部を改正する法律案における刑法第96条の3(新設)
(強制執行行為妨害等)
1 偽計又は威力を用いて、立入り、占有者の確認その他の強制執行の行為を妨害した者は、3年以下の懲役若しくは250万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
2 (略)

4 その他
(1) 過怠破産行為
1~3にあたる場合を除くほか、破産法第375条に規定する行為に係る罰則を存続するかについては、なお検討する。
(2)その他現行法において処罰される行為
<1> 監守等に違反する罪は廃止するものとする。
<2> 破産管財人等及び破産債権者等に係る収賄及び贈賄の罪については、処罰するものとする。
(注) <2>について、「不正の請託」等を成立要件又は加重要件とするか、商法における贈収賄規定等を参考にして、なお検討する。
(参考)
商法第493条
1 第486条若ハ第487条ニ掲ゲル者、検査役又ハ監査委員其ノ職務ニ関シ不正ノ請託ヲ受ケ財産上ノ利益ヲ収受シ、要求シ又ハ約束シタルトキハ5年以下ノ懲役ヌハ500万円以下ノ罰金二処ス
2 前項ノ利益ヲ供与シ又ハ其ノ申込若ハ約束ヲ為シタル者ハ3年以下ノ懲役又ハ300万円以下ノ罰金二処ス商法第494条
1 左ニ掲グル事項二関シ不正ノ請託ヲ受ケ財産上ノ利益ヲ収受シ、要求シ又ハ約束シタル者ハ5年以下ノ懲役又ハ500万円以下ノ罰金二処ス
ー 創立総会、株主総会、社債権者集会又ハ債権者集会二於ケル発言又ハ議決権ノ行使
二、三 (略)
2 前項ノ利益ヲ供与シ又ハ其ノ申込若ハ約束ヲ為シタル者亦前項二同ジ(倒産犯罪後注1)破産債権を有する者が、破産管財人からの配当によらずに、不正な手段を用いて、破産債権の弁済等を債務者等に要求する行為は、配当の限度での弁済を甘受している破産債権者間における公平を害するほか、破産者の再建を妨げ、その関係者等をも危機的状況に陥れることから、このような行為は処罰の対象にすべきであるとの考え方があるが、どうか。
(倒産犯罪後注2)
そのほか倒産犯罪に係る罰則について、所要の整備をするものとする。

第1 倒産処理手続相互の関係

(倒産処理手続相互の関係前注1)
更生手続において採用された個別の手続・制度を破産手続及び再生手続において採用するか
どうかについては、おおむね以下のような方向でなお検討するものとすることで,どうか。

会社更生法改正要綱
破産手続
再生手続

第1更生事件の管轄及び移送

第2 送達及び公告

第3 監督行政庁に対する通知の見直し

第4 更生手続開始の登記簿の廃止

第5 登記及び登録の嘱託に関する事務の書記官権限化

第6 更生手続開始前の牽連破産の場合における共益債権の財団債権化

第7 更生手続終了後職権破産宣告までの間の財産保全

第8 事件に関する文書等の閲覧等

第9 最高裁判所規則ヘの委任

第10 包括的禁止命令

第11 保全段階における中止した強制執行等の取消しの制度

第12 保全段階における商事留置権消請求

第13 更生手続開始の条件

第14 株主に対する送達の見直し

第15 労働組合又は使用人代表の手続関与

第16 法務大臣及び金融庁長官の手続関与

第17 担保権の実行禁止の一部解除

第18 営業の全部又は重要な一部の譲渡についての規律

第19 取締役等の競業避止義務

第20 取締役等の報酬

第21 管財人,管財人代理,保全管理人及び保全管理人代理の選任

第22 数人の管財人の職務執行の見直し

第23 管財人等による更生会社の子会社等の調査権

第24 監督委貝による調査報告

第25調査委員制度の整傭

第26 更生計画によらない弁済の制度

第27 議決権の算定における無利息債権の中間利息分の取扱い

第28 使用人の預り金の取扱い

第29 劣後的更生債権制度の廃止

第30 債権質の目的たる債権の第三債務者の権利供託の制度

第31 更生債権及び更生担保権の調査及び確定の手続

第32 更生担保権に係る担保権の目的の価額の争いに関する手続

第33 後順位担保権者の更生担保権確定訴訟の帰趨と更生担保権額

第34 社轄者の手統参加

第35 代理委員

第36 関係人集会

第37 議決権の不統一行使

第38 基準日による議決権者の確定

第39 関係人委員会(仮称)

第40 保全段階における請求権の共益債権化

第41 社債管理会社等の費用償還請求権及び報酬請求権

第42 代理委員等の報償金等の制度

第43 財産評定及び更生担保権に係る担保権の目的の評価

第44 担保権の目的である財産の特別な換価制度

第45 更生計画による更生債権等の弁済期間

第46 更生計画の定めに基づき発行する社債の償還期限

第47 更生計画の定めに基づく新株発行

第48 更生計画案の提出時期

第49 書面投票制度

第50書面による決議

第51更生計画案の可決要件等

第52更生計画認可の決定に対する株主の即時抗告権

第53更生手続の終結時期(終結要件)

第54更生手続終了後における査定の手続及び異議の訴えに係る訴訟手続の帰趨(*5)

審議中(*1)

審議中

不採用

審議中

審議中

―(*2)

―(*2)

審議中

審議中

審議中

審議中

不採用

審議中

不採用

要検討

不採用

審議中

審議中

不採用

審議中(*4)

不採用

不採用

審議中

不採用

審議中

審議中

不採用

不採用

審議中

要検討

要検討

審議中

審議中

審議中

要検討

審議中(*1)

採用済み

採用済み

採用済み

採用済み

採用済み(*2)

採用済み(*2)

採用済み

採用済み

採用済み

採用済み

不採用

採用済み

要検討(*3)

採用済み

要検討

要検討

不採用

採用済み

審議中

採用済み

採用済み

採用済み

不採用

採用済み

採用済み

要検討

要検討

採用済み

要検討

要検討

要検討

採用済み

要検討

採用済み

要検討

不採用

採用済み

採用済み

不採用

要検討

※1 親法人、子会社の特則、大会社・連結子会社の特則について審議中。さらに、大規模事件の特則として大規模裁判所の競合管轄についても審議中。
※2 倒産処理手続相互の移行の問題として別途審議中。
※3再生手続開始の申立てについての決定前の意見聴取に関する検討が必要である。
※4劣後的破産債権の問題として審議中。
※5債権調査における更生会社、破産者又は再生債務者の異議の制度(会社更生法第147条第2項、第235条第2項、第238条第6項破産法第232条、第287条第1項、第357条、民事再生法第102条第2項、第185条第1項ただし書、第195条第7項等)についての見直しを含む。

(倒産処理手続相互の関係前注2)
民事再生法について、株式譲渡制限の定款の定めがある株式会社が新株の発行をする場合の特例(商法第280条ノ5ノ2第1項、民事再生法第154条第3項、第166条、第183条参照)を設けるものとするとの考え方がある(経済対策閣僚会議、平成18年4月6日「緊急経済対策」参照)が、どのように考えるか。

1 異種の倒産処理手続が係属する場合における管轄の特例
(1)破産事件についての管轄の特例
<1> 法人が、株式会社の総株主の議決権の過半数又は有限会社の総社員の議決権の過半数を有する場合において、当該法人(以下 「親法人」という。)について更生事件又は再生事件が係属しているときは、当該株式会社又は当該有限会社(以下「子会社」という。)についての破産の申立ては、親法人の更生事件又は再生事件が係属している地方裁判所にもすることができるものとする。子会社について更生事件又は再建事件が係属しているときにおける親法人についての破産の申立てについても、同様とするものとする。
<2> 他の株式会社の総株主の議決権の過半数を親法人及び子会社又は子会社が有するときは、<1>の適用については、当該他の株式会社も当該親法人の子会社とみなすものとする。他の有限会社の総社員の議決権の過半数を親法人及び子会社又は子会社が有するときも、同様とするものとするものとする。
<3> 株式会社の監査等に関する商法の特例に関する法律(以下「商法特例法」という。)第1条の2第1項に規定する大会社について更生事件又は再生事件が係属している場合には、当該大会社(以下「連結親会社」という。)の同条第4項に規定する連結子会社(当該連絡親会社の直前の決算期において商法特例法第19条の2又は第21条の32の規定により当該連結子会社に係る連結計算書類が作成され、かつ、定時総会において当骸連結計算書類が報告されたものに限る。以下「連結子会社」という。)についての破産の申立ては、連結親会社の更生事件又は再生事件が係属している地方裁判所にもすることができるものとする。連結子会社について更生事件又は再生事件が係属している場合における連結親会社についての破産の申立てについても、同様とするものとする。
<4> 法人について更生事件又は再生事件が係属している場合には、当該法人の代表者についての破産の申立ては、当該法人の更生事件又は再生事件が係属している地方裁判所にもすることができるものとする。法人の代表者について再生事件が係属している場合における当該法人についての破産の申立てについても、同様とするものとする。

(2)再生事件についての管轄の特例
<1> 親法人について更生事件が係属しているときは、子会社についての再生手続開始の申立ては、親法人の更生事件が係属している地方裁判所にもすることができるものとする。子会社について更生事件が係属しているときにおける親法人についての再生手続開始の申立てについても、同様とするものとする。
<2> 他の株式会社の総株主の譲決権の過半数を親法人及び子会社又は子会社が有するときは、<1>の適用については、当該他の株式会社も当該親法人の子会社とみなすものとする。他の有限会社の総社員の議決権の過半数を親法人及び子会社又は子会社が有するときも、同様とするものとするものとする。
<3> 連結親会社について更生事件が係属している場合には、連結子会社についての再生手続開始の申立ては、連結親会社の更生事件が係属している地方裁判所にもすることができるものとする。連結子会社について更生事件が係属している場合における連結親会社についての再生手続開始の申立てについても、同様とするものとする。
<4> 法人について更生事件が係属している場合には、当該法人の代表者についての再生手続開始の申立ては、当該法人の更生事件が係属している地方裁判所にもすることができるものとする。

(注)
1 この考え方は、関連会社の一体的倒産処理を可能にするため、ある倒産処理手続が係属している裁判所に、その倒産処理手続に劣後する関係にある倒産処理手続についての競合管轄権を認めようとするものである。これ以外に、既係属の倒産処理手続より優先する関係にある倒産処理手続について競合管轄権を認めることも考えられるが、そのようなニーズはあるか。また、代表取締役の破産事件が係属する裁判所に株式会社の更生事件の競合管轄を認めるなど劣後する関係にある倒産処理手続を基準として優先する関係にある倒産処理手続の管轄を定めることに合理性はあるか。

2 (1)において更生事件が係属していることが競合管轄の原因となる場合には、<1>前段の「親法人」、<1>後段の「子会社」、<3>後段の「連結子会社」及び<4>前段の 「法人」は、株式会社に限られることになる。同様に、(2)<1>前段の「親法人」、<1>後段の「子会社」、<3>後段の「連結子会社」および<4>の「法人」も、株式会社に限定されることになる。

2 管財人の他の倒産処理手続開始の申立権
破産管財人に更生手続開始の申立権を認める等、倒産処理手続における管財人に他の倒産処理手続開始の申立権を認めるものとするとの考え方があるが、どのように考えるか。

(注)
倒産処理手続は、債務者の財産の清算又は経済的再生を目的とするものであるが、会社更生法には破産宣告後の会社が更生手続開始の申立てをするには商法第343条に定める決議によらなければならない旨の規定が設けられている(会社更生法第19条、旧会社更生法第31条)等、現行倒産法制は、倒産処理手続において債務者の財産の管理処分権等を掌握する管財人が、他の倒産処理手続の申立てをすることは予定していないようである。しかし、倒産処理手続における管財人に他の倒産処理手続開始の申立権を認めることは、理論的には不可能ではないと考えられる(外国管財人につき破産法第357条の3第1項、民事再生法第209条第1項、会社更生法第244条第1項参照)。もっとも、再生手続又は更生手続における管財人の砺産の申立てについては、再生手続及び更生手続は破産手続に優先する関係にあり(民事再生法第39条第1項、会社更生法第50条第1項参照)、再生手続又は更生手続における管財人が破産手続への移行を相当と考える場合には、まずは手続廃上の決定の申立てをし、又は手続廃止の決定についての裁判所の職権発動を求めるべきである(民事再生法第191条、第193条第1項、第194条、会社更生法第236条、第241条第1項参照)から、破産の申立権を認めるのは適当ではないと考えられる。同様に、更生手続における管財人に再生手続開始の申立権を認めることも、適当ではないと考えられる。他方で、破産管財人に再生手続開始又は更生手続開始の申立権を認めることについては、その申立てにより破産手続に優先する関係にある再生手続又は更生手続が開始されるのであり、必然的に破産手続廃止を伴うものではないし、破産管財人の権限の中止(凍結)を前提としているとはいえ、申立てを認める合理性がないとまではいえないと考えられる。また、再生手続における管財人に更生手続開始の申立権を認めることについても、同様である。そして、倒産処理手続における管財人は、その倒産処理手続の拘束を受ける利害関係人の利益を代表する立場にあると考えられることから、これらの場合に限り、債権者(及び株主)に準じて、他の倒産処理手続開始の申立てを認めることも考えられるが、どのように考えるか。なお、破産管財人又は再生手続における管財人の本来的な任務、注意義務等の内容にかんがみると、他の倒産処理手続開始の申立てを認めるとしても、他の倒産処理手続によることが債権者の一般の利益に適合する場合に限られる(民事再生法第25条第2号会社更生法第41条第1項第2号参照)と考えられるが、どのように考えるか。また、事柄の重要性にかんがみると、裁判所の許可を要件とすることが考えられるが、どのように考えるか。

3 再生手続から破産手続への移行
(前注)
会社更生法では、更生手続開始後に更生手続が終了した場合には、裁判所が職権で破産の宣告をする場合を除き、管財人は、共益債権を弁済しなければならないとされ(同法第82条第3項本文)、更生会社財産が共益債権の総額を弁済するのに足りないことが明らかになった場合における共益債権の弁済は、法令に定める優先権にかかわらず、債権額の割合による(同法第133条第1項本文)等とされている。また、民事再生法でも、再生手続開始後に再生手続が終了した場合には、裁判所が職権で破産の宣告をすべき場合を除き管財人は、共益債権及び一般優先債権を弁済しなければならない等とされている(同法第77条第3項)。これらの制度は、更生手続又は再生手続が不成功に終わった場合に、その手続内で、破産手続類似の簡易な清算処理を行うものであるといわれており、下記(1)の考え方等により牽連破産の制度を拡充する場合には、これに対応して、これらの制度の適用範囲を縮減する方向で両者の調整を図ることになると考えられるが、さらに、両者の関係について見直すべき点はあるか。例えば、再生債務者に破産の原因たる事実があると認めるときは(特別の事情がある場合を除き)破産の宣告をしなければならないものとし、牽連破産制度の適用範囲を実質的に拡張するとの考え方があり得る一方で、更生手続又は再生手続内の清算処理の制度を拡充するものとし、牽連破産の適用範囲を実質的に限定する
との考え方もあり得るが、どのように考えるか。

(1)再生手続終了前の破産の申立て
<1> 破産宣告前の再生債務者につき再生手続開始の決定の取消し、再生手続廃止又は再生計画不認可の決定があった場合には、民事再生法第39条第1項の規定にかかわらず、再生裁判所に破産の申立てをすることができるものとする(民事再生法第16条の2第1項参照)。

<2> <1>の破産の申立てによる破産宣舎は、<1>に掲げる決定が確定した後でなければ、することができないものとする。

(注)
1 この考え方は、再生手続開始前にされた破産の申立てがない場合でも、当事者主導による手続の「架橋」を可能にしようとするものである。

2 <1>の 「再生手続開始の決定の取消し…の決定があった陽合」のうち、抗告審で再生手続開始の決定を取り消すとともに再生手続開始の申立てを棄却する決定があった場合 (取消し・自判の場合)には、その決定は告知を受けた日かみ5日の不変期間(民事訴訟法第337条第2項・第6項、第336条第2項)の経過により確定すると考えられる(同法第122条、第116条)。したがって、<1>の破産の申立ては、事実上は困難であるが、<1>の破産の申立てがない場合でも、裁判所は、職権で破産宣告をすることができることから、特にこの場合だけを取り上げて制度上の手当を講ずる必要性は乏しいと考えられるが、どうか。

3 <1>は、「架欄」 の実効性を確保するため、破産事件の管轄裁判所ではなく、再生裁判所に破産の申立てをすることができるものとしている。これに関連して、再生手続開始前に再生裁判所以外の裁判所に申し立てられた破産事件について、破産事件を取り扱う裁判所が再生裁判所に移送することができる制度(倒産法部会資料28・第1‐2参照)又は再生事件を取り扱う裁判所が破産事件を取り扱う裁判所に対して再生裁判所に移送することを求めることができる制度(旧会社更生法第71条参照)を設けることも考えられるが、どうか。

(2)再生手続と破産手続とを一体化させるための特別の保全処分
いわゆる認可前移行型(倒産法部会資料27・第2・1参照)の場合に先行の再生手続と後続の破産手続とを一体のものとして取り扱うことができるようにするため、再生手続開始の決定の取消し、再生手続廃止又は再生計画不認可の決定があった後その決定が確定するまでの間、特別の保全処分(再生手続終了時から破産宣告時までその効力を有するものとする。)を命ずることができる制度を設けるものとするとの考え方があるが、どのように考えるか。

(注)
1(2)の「破産宣告」とは、<1>裁判所の職権による破産宣告(民事再生法第16条第1項)、<2>再生手続開始の決定前にされていた破産の申立てによる破産宣告、<3>(1)の破産の申立てによる破産宣告のいずれをも含むものである。

2 この考え方は、再生手続における債権届出や債権調査の結果を破産手続で活用する前提として、破産債権の範囲(破産法第15条)を画する基準時を再生手続開始の決定時とするための一つの方策である(倒産法部会資料27・第4-1(1)<3>参照)。この考え方に対して、再生手続終了後の破産宣告前の保全処分(民事再生法第16条の2)以外に、特別の保全処分の制度は設けないものとし、一般破産債権について(破産債権としての届出がない場合等に)再生手続における再生債権としての届出を利用することができるような手当を講ずる一方で、再生手続における再生債権の調査の結果の利用については特段の手当を講じないで、再生債権者表の記載の効力(再生計画不認可の場合につき同法第185条、再生計画認可前の再生手続廃止の場合につき同法第195条第7項、再生計画認可後の再生手続廃止の場合につき同法第180条)にゆだねるものとするとの考え方もあるが、どのように考えるか。

3 特別の保全処分の制度を設けるものとする場合に、保全処分の内容につき、(a)再生手続開始の決定の効力(再生債権であった一般破産債権についての個別的権利行使の禁止及び債務者の財産管理処分権の一定の制限)を持続させることを内容とするものとするとの考え方と、(b)破産宣告の効力(破産債権全般についての個別的権利行使の禁止及び債務者の財産管理処分権の全面的制限)を内容とするものとするとの考え方とがありうるが、いずれが妥当か。

4 破産債権の範囲を画する基準時を再生手続開始の決定時とすることと破産手続における倒産実体法の適用のあり方(下記<1>から<3>まで参照)との関係について、どのように考えるか。倒産実体法の適用のあり方は、特別の保全処分が命じられていたかどうかによって取扱いを異にするべきか。

<1> 未履行双務契約の解除権(破産法第59条第1項、民事再生法第49条第1項)については、未履行双務契約の要件を満たすかどうかは、後続の破産手続を基準として判断するものとし、先行の再生手続で相手方の債務の履行を請求した場合でも、破産手続において、破産管財人は、改めて契約を解除し、又は債務の履行を請求することができるものとする(再生手続から破産手続に移行した場合でも、破産法第59条をそのまま適用することとし、特段の手当を講じない)ことで、どうか。なお、更生手続から破産手続への移行の場合、更生手続と再生手続との間の移行の場合についても、同様に考えることで、どうか。

<2> 再生債権についての(a)再生手続開始後の消滅行為、(b)再生債務者財産に関しての 権利取得、(c)再生手続開始前に生じた登記原因に基づく登記等は、無効又は再生手続の関係においてその効力を主張することができないとされる(民事再生法第44条第1項、第45条、第85条第1項参照)が、破産手続に移行した場合でも、再生債権(であった破産債権)について再生手続開始後破産宣告前にされたこれらの行為は、当然に無効又は破産手続の関係においてその効力を主張することができない(否認権の行使によって始めてその効力が否定されるのではない)と考えることで、どうか。再生債権に劣後する関係にある開始後債権(であった破産債権)についてのこれらの行為についても、同様に考えることで、どうか。他方で、一般優先債権又は再生手続における共益債権についてのこれらの行為は、有効又は再生手続の関係においてもその効力を主張することができると考えられるが'破産手続に移行した場合でも、一般優先債権(であった破産債権)又は再生手続における共益債権(であった財団債権)について再生手続開始後破産宣告前にされたこれらの行為は、有効又は破産手続の関係においてもその効力を主張することができると考える(下記<3>参照)ことで、どうか。また、再生債務者が管理命令が発せられた後に再生債務者財産に関してした法律行為は、再生手続の関係においてその効力を主張することができないとされる(同法第76条第1項本文)が、破産手続に移行した場合でも、当然に破産手続の関係においてその効力を主張することができないと考えることで、どうか。以上のような考え方を採る場合に、何らかの制度的手当が必要となるか。解釈にゆだねることでよいか。

<3> 破産宣告前の債務者について破産宣告があった場合における「否認権及び相殺禁止の要件に関する規定」(倒産法部会資料35・第4・1(1)参照)の適用については、基本的に、再生手続開始の申立ては、その申立ての前に破産の申立てがないときに限り、破産の申立てとみなすものとする(民事再生法第16条第2項参照)ことで、どうか。更に具体的には、破産宣告前の債務者について破産宣告があった場合における再生手続開始前にされた(狭義の)詐害行為及び再生債権(であった破産債権) についての偏頗行為に対する否認権に関する規定の適用については、再生手続開始の申立ては、その申立ての前に破産の申立てがないときに限り、破産の申立てとみなすものとすることで、どうか。他方で、再生手続開始前にされた一般優先債権(であった破産債権)又は再生手続における共益債権(であった財団債権)についての弁済、担保の提供等の行為(偏頗行為に相当する行為)に対する否認権に関する規定の適用について、どのように考えるか。再生債務者が再生手続開始後にこれらの行為をした場合には、その効力は否定されないこととの均衡上、これらの債権との関係では、否認権を行使することはできないとの考え方があるが、どのように考えるか。また、再生債務者が再生手続開始後にした(狭義の詐害行為については、民事再生法上、その効力を否定する規定は設けられでおらず、再生計画の否決や再生債務者の義務違反を理由に再生手続廃止の決定がされることがあるにとどまる(同法第191条第3号、第193条参照)ことから、再生手続が廃止されて破産手続に移行した場合でも、否認権の行使によってその効力を否定することはできないとの考え方があるが、どのように考えるか。なお、否認の時期的制限(破産法第84条、第85条参照)における基準時のあり方(倒産法部会資料27・第6(注3)参照)については、再生債務者が再生手続開始後にした行為の否認の可否についての検討の結果を踏まえて、なお検討するものとする。

(3)再生手続における各種債権の破産手続における取扱い(上記(2)の特別の保全処分の制度を採用する場合)

ア 再生債権の取扱い
<1> 再生債権であった債権についでは、破産債権の範囲を画する基準時を再生手続開始の決定時とする(再生手続開始後の利息・損害金等は、劣後的破産債権とする)ことで、どうか。
<2> 再生手続開始の決定後に弁済を受けている場合には、配当調整を行うものとする(弁済を受ける前の債権の全額につき破産債権者としてその権利を行うことができるものとし、その弁済を受けた債権額については議決権を行使することができないものとし、他の同順位の債権者が自己の受けた弁済と同一の割合の配当を受けるまでは配当を受けることができないものとする)ことで、どうか。

イ ー般優先債権の取扱い
(ア)一般的な取扱い
<1> 一般優先債権であった債権についても、破産債権の範囲を画する基準時を再生手続開始の決定時とする(再生手続開始後の利息・損害金等は、劣後的破産債権とする)ことで、どうか。
<2> 再生手続開始の決定後に弁済を受けている場合には、配当調整を行うものとすることで、どうか。
(イ)一般優先債権であった租税債権等の取扱い
<1> 一般優先債権であった租税債権等(国税徴収法又は国税徴収の例により徴収することのできる請求権をいう。以下同じ。)のうち、財団債権として取り扱われる基準となる「一定期間」の計算(倒産法部会資料34・第2・1(1)<1>参照)については、破産宣告時を基準とするものとする。
<2> 一般優先債権であった租税債権等についてした国税滞納処分等(国税滞納処分及びその例による処分をいう。以下同じ。)は、破産宣告後も、続行することができるものとする。
(ウ)一般優先債権であった労働債権の取扱い
一般優先債権であった労働債権のうち、財団債権として取り扱われる基準となる「一定期間」の計算(倒産法部会資料34・第2・2(1)(2)参照)については、再生手続開始の決定時を基準とするものとする。

ウ 共益債権の取扱い
<1> 再生手続における共益債権(再生手続が開始されなかった場合における(a)継続的給付を目的とする双務契約の相手方が再生手続開始の申立て後再生手続開始前にした給付に係る請求権及び(b)再生手続開始前の借入金等に係る請求権を含む。民事再生法第16条第4項参照)は、財団債権とするものとする。
<2> 共益債権であった租税債権についてした国税滞納処分等は、破産宣告後も、続行することができるものとする。

エ  開始後債権の取扱い
開始後債権であった債権は、劣後的破産債権(破産法第46条)とすることで、どうか。

(注)
1 ア<2>及びイ(ア)<2>の配当調整に関して、再生手続開始後の弁済額を破産手続における配当額に反映させる方法について、どのように考えるか。再生手続とは異なり、特定 の破産債権者が受ける配当額の多寡が直接に他の破産債権者が受ける配当額に影響を及ぼすことにかんがみると、再生手続開始後の弁済額を債権調査の対象とすることも考えられる(破産法第339条参照 )が、どのように考えるか。

2 ウ及びエに関して、再生手続係属中の再生債務者の不法行為によって生じた債権は、「再生手続開始後の再生債務者の業務、生活並びに財産の管理及び処分に関する費用の請求権」(民事再生法第119条第2号)、「再生債務者財産に関し再生債務者等が再生手続開始後にした資金の借入れその他の行為によって生じた請求権」(同条第5号)又は「その他再生債務者のために支出すべきやむを得ない費用の請求権で、再生手続開始後に生じたもの」(同条第7号)に該当して共益債権となり、破産手続に移行した場合には、財団債権となることが多いと考えられるが、このような結論は妥当ではないとの指摘がある。しかし、このような結論を避けようとすれば、再生手続における共益債権の一部を財団債権として取り扱わないことにならざるを得ないが、再生手続における共益債権を財団債権になるものとならないものとに合理的に切り分けることは困難であると考えられる。この点について、どのように考えるか。

3 ウに関して、<1>により実質的に財団債権の範囲が拡大すること等にかんがみ、財団 債権のうち、共益費用としての性格を有しないものは、免責の対象とするとの考え方があるが、どのように考えるか。財団債権の債務者が誰であるかについては、破産者説 、管財人説、債権者団体説等があるが、従来の通説は、破産者説を採り、財団債権は免責の対象外である(免責の対象となるのは、破産債権である。)と考えている。破産者説を前提として、再生手続における共益債権であった財団債権の一部について免責の概念を持ち込むことには、(注2)と同様に困難な問題があると考えられるが、どのように考えるか。

4 ウに関して、再生手続において、再生債務者等の行為について、裁判所(又は監督委員)が再生債務者の事業の継続に欠くことができないものであることを認定する制度を設けた上で、その旨が認定された行為から生じた請求権は、破産手続に移行した場合に財団債権となるにとどまらず、破産債権者の共同の利益のためにする裁判上の費用の請求権(破産法第47条第1号参照)並びに破産財団の管理、換価及び配当に関する費用の請求権(同条第3号参照)の次に、他の財団債権に先立って弁済するものとするとの考え方があるが、どのように考えるか、この考え方は、いわゆるD I Pファイナンスによって生じた債権の保護の強化を意図するものであるが、再生手続において共益債権とされる各種の請求権の中から D I Pファイナンス債権のみを取り上げて特別の保護を与えることについては、合理的理由は乏しいとの指摘があり、また、再生債務者に対する与信形態は現実には様々であり、与信形態によって取扱いを異にする合理的理由はないとの指摘もある。他方で、与信形態による限定をしないとすると、裁判所の認定が得られない限り胃生債務者との取引には応じない旨を主張する者が現れるなどして、かえって事業の維持継続に支障を来すおそれがあるとの指摘もあり、これらを考慮すると、再生手続中のD I Pファイナンスによって生じた債権等の保護としては、再生手続における共益債権となり、破産手続移行後は財団債権として取り扱われることを前提として、破産債権者の共同の利益のためにする裁判上の費用の請求権並びに破産財団の管理、換価及び配当に関する費用の請求権以外の財団債権と同順位の弁済を受けることができるものとする(倒産法部会資料34・第2・3(3)参照)ことによるのが適当であると考えられるが、どうか。

5 ウは、牽連破産について、既に現行法でも採用されでいる規律であり、(2)の特別の保全処分の制度を採用しない場合でも、この規律は維持されることになる。

(後注)
いわゆる認可後移行型(倒産法部会資料27・第2・2参照)の場合ついては、民事再生法第190条第1項及び第2項による処理のスキームを維持することで、どうか。

4 再生手続から破産手続への移行(上記3)以外の移行
先行の倒産処理手続における共益債権(手続が開始されなかった場合における(a)継続的給付を目的とする双務契約の相手方が手続開始の申立て後手続開始前にした給付に係る請求権及び(b)開始前の借入金等に係る請求権を含む。民事再生法第16条第4項及び会社更生法第11条第4項参照)又は財団債権((a)を含む。(b)につき上記(倒産処理手続相互の関係前注1)の「会社更生法改正要綱 第40」の欄参照)は、後続の手続において共益債権として取り扱うものとする。この場合において、破産手続から再生手続若しくは更生手続へ移行した場合又は再生手続から更生手続に移行した場合には、後続の手続開始の決定後、直ちに共益債権として取り扱うものとする(民事再生法第184条第2項及び会社更生法第208条第2項参照)。

(後注)
更生手続から破産手続への移行、更生手続と再生手続との間の移行については、再生手続から破産手続への移行(上記3)についての検討結果を踏まえて、なお検討するものとする。

(倒産処理手続相互の関係後注)
手続の移行があった場合の債権確定、否認及び役員の責任に基づく損害賠償請求に係る査定手続及び訴訟手続の帰趨(倒産法部会資料27・第5参照)については、破産手続及び再生手続が終了した場合(手続の移行がない場合)のこれらの手続の帰趨についての検討(上記(倒産処理手続相互の関係前注1)の「会社更生法改正要綱 第54」の欄参照)を踏まえて、なお検討するものとする。

第2 相続財産の破産等に関する特則

(相続財産の破産等にに関する特則前注)
以下(1から4まで)は、相続財産の破産等に関する特則について、実質的な改正を要すると考えられる事項のみを取り上げたものである。

1 相続財産管理人等の破産申立義務
相続財産管理人、遺言執行者又は限定承認若しくは財産分離がされた場合における相続人は、破産の申立てをする義務を負わないものとする(破産法第136条第2項の規定は削除するものとする。)。
(注)
1 意見照会の結果では、安易な限定承認の利用により債権回収が困難になることを理由に反対する意見もあったものの、ほとんどが中間試案に掲げた考え方に賛成する意見であった。

2 このほか、意見照会においては、相続人等の破産申立義務を免除し、相続財産の清算方法について相続人等に選択権を与えることを意味あるようにするには、相続財産の破産に限定承認の効力を認めるべきであるとする等、相続財産の破産に限定承認と同様の効果を与えるべきであるとの意見が複数示されている。しかし、相続財産の破産に限定承認と同様の効果を与えることについては、単純承認をした(とみなされる)者の破産の申立ての可否(民法第923条との関係)、(法定)単純承認の場合の取扱い(民法第937条参照)、限定承認効を望まない相続人の対応のあり方(単純承認の申述の制度がないこととの関係等)、限定承認効付与の要件(特に破産廃止となった場合の取扱い等)等の各論的な問題のほか、そもそも、基本的に、各相続人が単独で申立てのできる相続財産の破産手続に限定承認効を認めることが、単純承認を原則とする民法のあり方との関係で問題はないかといった民法上の限定承認さらには相続のあり方との関係をも検討する必要がある。このような課題の存在を勘案すると、今回の破産法等の見直しにおいて、この点について特段の手当てをすることは困難ではないかと考えられる。また、破産法分科会においても、このような問題の性質に照らし、破産法固有の問題として審議のできる範囲という観点から、今回の破産法等の見直しにおいて特段の見直しをすることは困難であるとの考え方が示されたところである。以上を踏まえ、この点については特段の手当てをしないものとすることで、どうか。

2 破産申立て後破産宣告前の相続の開始
破産の申立て後、破産の宣告前に相続が開始した場合の取扱いについては、次のとおりとすることで、どうか。

<1> 裁判所は、破産の申立て後破産の宣告前に債務者について相続が開始したときは、相続債権者、受遺者、相続人、相続財産の管理人又は遺言執行者の申立てにより、当該破産の申立てに係る手続を相続財産について続行する旨の決定をすることができるものとする。

<2> <1>に規定する続行の申立ては、<1>に規定する相続の開始後(1月)以内(1月の不変期間内)にしなければならないものとする。

<3> <2>の期間が経過したとき(<1>に規定する続行の申立てがあった場合には、当該申立てを却下する決定が確定したとき)は、<1>に規定する手続は、終了するものとする。

(注)
1 現行法は、破産の申立て後破産の宣告前に債務者が死亡し債務者につき相続が開始した場合についても、破産宣告後の破産者の死亡の場合(下記5参照)と同様に、手続は相続財産について続行するとしている(第130条参照)。この趣旨は、債務者に対する強制執行の手続についての取扱いとの権衡を図ったものと説明されている(倒産法部会資料26・第2・2・1・第1部・第2・1(4)(注 参照)。しかし、(a)破産の申立て後破産の宣告前の債務者の死亡の場合は、その手続は破産原因等の破産手続開始要件の存否を審理する裁判手続であって、このような強制執行手続との間の権衡という理由は、直ちには妥当しないこと、(b)破産申立手続中の債務者の死亡は、債務者についての破産手続の存立ないし債務者についての破産の宣告を不可能とすること、(c)債務者個人と相続財産とでは、破産原因を異にし、職務者についての破産手続開始要件の審理手続と相続財産についてのそれとは、基本的に異なるものと解されること、(d)破産申立手続は、多分に職権的要素の存する手続であること、(e)破産の申立て後破産の宣告前の債務者の死亡の実際の例では、自己申立てで、相続人の所在も不明である場合が多く、手続を続ける必要性が認められず、また、手続を続けることが困難である事例が多数を占めるという状況であることが指摘されていること、(f)その一方で、相続人の利益に配慮する必要性のある事案もあることが指摘されていること、(g)手続が続行される場合と新たに相続財産の破産の申立にがされる場合とでは、保全処分の継続の有無や否認や相殺禁止の危機時期の時点(破産の申立ての時点)等、法律効果においても違いか生ずることからすると、破産の申立て後破産の宣告前に債務者が死亡し債務者について相続が開始したときは、利害関係人が相続財産についての破産手続を望む場合には、その申立てにこより、債務者について先行した手続の相続財産についての手続としての「続行」を認め、先行する手続においてされた各種の行為の効果を引き継ぐことができるものとし(<1>)、そうでない限り、当該手続は、当然に終了するものとする(<3>)ことが、利害関係人の利益への配慮、手続経済的な観点、債権者間の衡平の観点に資するのではないかと考えられる。この点についてどのように
考えるか。

2 このように、当該手続の続行の実質を、「相続財産の破産手続が求められた場合に、先行する手続の効果の引継ぎを認める制度」ととらえるならば、その申立ての主体は、先行する手続において債務者の財産関係を承継する立場にある相続人(さらには相続財産の管理人又は遺言執行者)及び申立人(債権者申立ての場合の申立債権者)に限定する必要はなく、相続財産の破産について申立ての主体となり得る者一般に認めてよいのではないかと考えられるが、どうか。

3 申立ての期間については、手続の性質上、本来終了すべきものについて、例外的に続行を認めるものである以上、早期に確定することが望ましく、また、相続人等は別途、相続財産の破産の申立てが可能であり、この期間を限定してもその利益を不当に害するとはいえないのではないかと考えられる。そこで、<2>では、申立期間を相続開始から1か月としている。また、同様の観点から、この期間を不変期間とすることが考えられる。申立ての期間について、どのように考えるか。

4 続行の申立てについての裁判に対しては、即時抗告ができるものとすることで、どうか。

5 破産の宣告があった後に破産者につき相続が開始した場合については、現行法と同様、破産手続は、相続財産について続行するものとする(倒産法部会資料26・第2・2・1・第1部・第2・2(3)参照)。

3 最後配当から除斥された者の権利行使
相続財産の破産において最後の配当から除斥された相続債権者及び受遺者の残余財産についての権利行使を認める第289条の規定は、削除するものとする。

4破産廃止の申立て
相続財産の破産についての破産廃Iの申立ては、相続人が数人ある場合であっても各相続人ができるものとする(全員の一致を要しないものとする。)ことで、どうか。

(注)
債権者の同意がある場合の破産廃止の申立てについては、(a)それが、基本的に、全破産債権者が破産手続の廃止に同意している場合にされるものであること、(b)法人の理事等の場合と異なり、相続人には所在不明の者もあることが少なくなく、全員の一致を要求することは、実際上の困難をもたらすこと等から、相続人が数人ある場合であっても全員の一致を要せず、各相続人ができるものとすることが適切ではないかと考えられる(倒産法部会資料26・第2・2・1・第1部・第5参照)。相続人が複数あり、その中から相続財産の管理人が選任されている場合(民法第936条参照)には、破産廃止により相続財産の管理は再び当該相続財産の管理人に復すると考えられること、また、担保を供して行う破産廃止の申立て(破産法第347条第1項参照)に関しては、担保の供与自体、「相続財産の管理及び債務の弁済に必要な一切の行為をする」権限を有する当該相続財産の管理人でなければ行い得ないと解されることからすると。この場合には、破産廃止の申立権者をそのような相続財産の管理人である相続人に限定することも考えられる。しかし、同意破産廃止の制度において、担保の供与を要する場合は副次的な場面であり、総破産債権者の同意がある場合の申立権を担保供与権限がある者に限定する必然性はないと解されることからすると、破産廃止の申立権限一般については、相続財産の(従前の)管理権の有無による限定をすることなく、各相続人ができるものとすることが考えられる。この点についてどのように考えるか。

(相続財産の破産等に関する特則関係後注)
上記1から4までのほか、相続財産の破産等に関する特則については、国際破産管轄、説明義務等の主体の範囲等の項目につき、所要の整備をするものとする。