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【第三次案】第4部 その他

第1 倒産犯罪等

1 破産財団を構成する財産の価値を侵害する行為及びその収集を困難にする行為の処罰
(1) 詐欺破産行為の処罰
詐欺破産行為の処罰については、次のとおりとすることで、どうか。
<1> 債務者が破産手続開始の決定を受けるべき状態にあること又は当該決定を受けたことを認識しながら、債権者を害する目的で、以下の行為をした者は処罰し、情を知って(iv)に規定する行為の相手方となった者も処罰するものとする。
(i)債務者の財産を隠匿し、又は損壊する行為
(ii)債務者の財産の譲渡又は債務者における債務の負担を仮装する行為
(iii)債務者の財産の現状を改変して、その価格を減損する行為
(iv)債務者の財産を債権者の不利益に処分し、又は債権者に不利益な債務を債務者が負担する行為
<2> 債権者を害する目的で、<1>に規定する行為により債務者が破産手続開始の決定を受けるべき状態を生じさせた者は処罰するものとする。
<3> <1>に規定するもののほか、債務者が破産手続開始の決定又は保全管理命令を受けたことを認識しながら、債権者を害する目的で、破産管財人の承諾その他の正当な理由がなく、債務者の財産を取得し、又は取得させた者は処罰するものとする。

(注)
1 第30回会議においては、[倒産法部会資料39・1]において提示された第二次案のうち、詐欺破産行為の処罰について、「債務者に危機的状況が発生した後において」との行為の時期的要件及び「其ノ宣告確定シタルトキ」(破産法第374条)との客観的処罰条件を不要とする点を中心に議論が進められた。
上記の案は、このうち時期的要件について、「債務者が破産宣告の確定に至るべきことを予知ないし認識しながら」(最決昭和44年10月31日・刑集23巻10号1465頁)や「詐欺破産罪が成立するためには、行為当時に現実に破産宣告を受けるおそれのある客観的な状態にあることが必要であり、行為者によるその旨の認識も必要である」(東京地判平成8年10月29日・判時1597号153頁)等の判例における現行法の解釈をそのまま明文の要件としたものであるが、どのように考えるか。

2 客観的処罰条件を不要とする点については、<1>現行法がこれを必要としているのは、破産宣告の後においては、債務者が債権者から(不正に)保護を受けることになるからであり、この客観的処罰条件を懲戒主義の残滓と見るのは相当ではない、<2>客観的処罰条件を不要とすると、個別執行を妨害する行為に対する罰則との関係があいまいになる、<3>詐欺破産行為とされる行為は、本来は自己の財産に係る処分権の行使に属するものであり、これが禁止される時期を画する上で、客観的処罰条件の機能は重大である、<4>客観的処罰条件を不要とすると、適正価格売買に係る否認権行使の対象になるような行為が処罰の対象になるものと思われるし、債務者の再建に向けての努力が困難になる、等が理論上の問題点として指摘されたが、<1>第三者の詐欺破産罪が規定されていることなどからしても、詐欺破産罪を、債務者が不正な保護を得たことに係る罪と見るのは相当でなく、判例等においても、詐欺破産罪は総債権者の財産上の利益を害する罪とされているところであって、客観的処罰条件が懲戒主義の残滓であることは否定できない、<2>現行法でも、詐欺破産罪として処罰される行為が、強制執行妨害罪(刑法第96条の2)等にもあたるということは考えられるところであり、詐欺破産罪が前記のような財産犯的性格に重きを置く罪であるのに対し、強制執行妨害罪等は公務妨害罪的性格に重きを置く罪であって、そのような性格付けの相違から、処罰される行為の類型にも相違があるところであって、客観的処罰条件を不要とすることがこのような両者の関係に変化をもたらすものではない、<3>現行の詐欺破産罪においても、破産宣告後の行為のみが処罰の対象になるわけではなく、本来は債務者の財産処分権の行使に属する行為が処罰の対象になるのは、危機的状況の発生により、債務者の財産を保全すべき信義則上の義務が、その不履行に対して刑罰をもって対処すべきほどの強度のものになるからと理解すべきである、<4>適正価格売買に係る否認権行使の対象になるような行為が詐欺破産行為のどの類型にあたるか疑問であるし、詐欺破産罪により処罰されるためには、(図利)加害目的が要求されることろであって、再建に向けた行為が処罰の対象になることはないし、客観的処罰条件を不要にすることが再建に向けての努力を損なうとのこれまでの客観的処罰条件についての根拠付けも現実問題としては支持し難いなどと考えられるところであって、理論的には、客観的処罰条件を不要とするのが相当と考えられる。
一方、第30回会議では、このように処罰範囲を拡張しなければならないような実際上の必要性があるのかとの意見も主張された。これに対しては、客観的処罰条件を必要とした場合には、債務者がすべての財産を隠匿するなどすることにより、債権者に破産手続開始の申立てをする動機付けをも失わせてしまうという最も悪質な事案が処罰できなくなるなどの実際上の問題が生じるとの意見もあったところであるが、どのように考えるか。

3 同様に、詐欺破産行為として、「債権者に不利益な債務を債務者が負担する行為」を加える点についても、第30回会議では、そのような実際上の必要性があるのかとの意見が主張された。この点は、総債権者の利益を害する罪としての詐欺破産罪において、現行法では債務者の積極財産を外見上減少させる行為としての財産の仮装譲渡(「隠匿」に含まれるものと理解されている。)及び実際に(不正に)減少させる行為としての不利益処分とが処罰されるものとされている一方、債務者の消極財産を増加させる行為については、外見上これを増加させる行為としての虚偽の破産債権の行使が処罰されるにとどまり、実際にこれを(不正に)増加させる行為を処罰する規定が存在しないという不整合を解消しようとするものであるが、どのように考えるか。

(2)破産管財人等の任務違反行為の処罰
破産管財人等が、自己若しくは第三者の利益を図り又は債権者に損害を加える目的で、その任務に違反して、債権者に財産上の損害を加えたときは、処罰するものとする。

(3)義務に属しない偏頗行為の処罰
債務者が、支払不能になった後又は破産の申立てがあった後に、特定の債権者に対する債務について、他の債権者を害する目的で、担保を供与し、又は債務を消滅させる行為であって、債務者の義務に属せず、又はその方法若しくは時期において債務者の義務に属しないものをしたときは、処罰するものとし、情を知って、その相手方となった者が、面会を強請し又は強談若しくは威迫の行為をして、債務者の行為を要求したときも処罰するものとする。

(注)
第32回会議においては、偏頗行為の相手方を処罰する要件が「情を知って、その相手方となった」のみとされていた[倒産法部会資料42・第4・後注2]点について、その要件のみでは広きに失し、通常の経済取引にも萎縮的効果を生じさせるとの意見が述べられた。この偏頗行為の行為者及びその相手方の処罰規定は、(1)と同様に、債権者の利益を侵害する抽象的危険犯であるが、目的要件の相違からも明らかなように、その利益を侵害される債権者は、(1)においては総債権者であるのに対し、本規定においては偏頗行為の相手方である債権者以外の債権者であって、債権者間の公平を害する行為であるという点では、後記5の処罰規定と共通する性格を有するものと考えられる。実際、後記5の処罰規定が設けられた場合には、破産債権者となるべき債権者が当該規定による処罰を免れようとして、破産宣告前の段階で、威迫等を用いて債務者に偏頗行為を要求した結果として、債権者間に不公平を生じるということも懸念される。上記の案は、このような観点から、偏頗行為の相手方の処罰要件について、後記5にならって絞りをかけたものであるが、どのように考えるか。
また、第32回会議においては、この処罰規定は否認権の規定と密接な関係にあるが、否認権は破産宣告の効果として、遡及的に破産宣告前の法律行為の効力を否定するものであるから、少なくとも本処罰規定については、破産宣告の確定を客観的処罰条件とすべきではないかとの意見も述べられた。しかし、債権者間の公平に対する抽象的危険犯との理解に立つ以上、客観的処罰条件の取扱いについて、本処罰規定と、総債権者の利益に対するものではあるものの、同じ抽象的危険犯である(1)とを区別する合理性は乏しいと思われるが、どのように考えるか。

2 破産者の財産等に関する情報の収集を妨害する行為の処罰
(1) 重要財産に関する破産者の説明義務違反行為の処罰
破産者が、破産手続開始の決定後遅滞なく、破産者が所有する不動産、現金、有価証券、預貯金その他裁判所が指定する重要な財産の内容を記載した書面を裁判所に提出する義務に違反して、その提出を拒み、又は虚偽の書面を裁判所に提出したときは処罰するものとする。

(2) 破産管財人等への説明義務違反行為の処罰
説明義務を負う破産者等が、破産管財人、債権者集会又は債権者委員会の請求により、破産に関して必要な説明を求められた際に、その説明を拒み、又は虚偽の説明をしたときは、処罰するものとする。

(注)
破産管財人等への説明義務を負担させるための要件として裁判所の許可を要する者については、上記の処罰についても同様に裁判所の許可の存在が要件となる。

(3) 破産者の業務及び財産の状況に関する物件の隠滅行為の処罰
<1> 債務者が破産手続開始決定を受けるべき状態にあること又は当該決定を受けたことを認識しながら、債権者を害する目的で、債務者の業務及び財産の状況に関する帳簿、書類その他の物件を隠滅し、偽造し、若しくは変造した者は処罰するものとする。
<2> 裁判所書記官が閉鎖した破産者の財産に関する帳簿を隠滅し、偽造し、若しくは変造した者は処罰するものとする。

(注) <1>に規定する帳簿、書類その他の物件又は<2>に規定する帳簿に相当する電磁的記録に係る隠滅行為も処罰の対象にするものとする。

(4) 破産手続開始又は免責に関する審尋における陳述拒絶・虚偽陳述の処罰
債務者が、破産手続開始[(債務者以外の者がその申立てをした場合を除く。)]又は免責に関する審尋において、陳述を拒み又は虚偽の陳述をしたときは、処罰するものとする。

(注)
1 上記の罰則においては、自然人たる債務者自身のほか、当該審尋において、債務者を代表するなどの地位において、陳述をする立場にある者を処罰する旨の規定を置くこととする[倒産法部会資料39・2(1)注1参照]。
2 この罰則は、実質的には、債務者が同時廃止決定を得ることによって、重要財産に関する説明義務を不正に免れること(破産手続開始に関する審尋の場合)や、不正に免責を得ること(免責に関する審尋の場合)を防止しようとするものであるが、前者の審尋の段階では、後者の審尋の段階や、債務者が重要財産に関する説明義務を負う場合と異なり、債務者に破産原因が存することについての裁判所の判断を経ているわけではなく、破産手続開始の申立てがなされているに過ぎず、特に当該申立てが債務者以外の者(通常は債権者であると思われる。)による場合は。自らの意思によらずに敵対的手続における当事者的立場に置かれた債務者について、その陳述拒否や虚偽陳述(特に陳述拒否)を処罰するのは行き過ぎではないかとの意見も存するところであるが、どのように考えるか。

3 破産管財人等の職務執行に対する妨害行為の処罰
偽計又は威力を用いて、破産管財人等の職務を妨害した者は処罰するものとする。

(注) 破産管財人の職務について、一定のもののみを保護するものとする合理性は乏しく、特に重要と思われるものを例示することも困難と思われるが、どのように考えるか。

4 破産管財人等に係る贈収賄行為の処罰
(1) 破産管財人等の収賄行為の処罰
<1> 破産管財人等が、収賄行為をしたときは処罰するものとする。
<2> 破産管財人等が、不正の請託を受けて、収賄行為をしたときは加重処罰するものとする。

(2) 破産債権者等の収賄行為の処罰
破産債権者等が、不正の請託を受けて、収賄行為をしたときは処罰するものとする。

(注)
今回の改正においては、(破産)債権者集会の権限が縮小されることから、破産手続との関係では、「破産債権者等」の収賄規定が実質的な重要性を持つのは、主として債権者委員会の委員等についてであるものと考えられるものの、再生手続や更生手続との関係では、債権者集会の権限の中に、重要なものが多く存在することから、法的倒産処理手続に係る罰則の在り方の基本形として、上記においては「破産債権者等」として記載してある。

(3) 破産管財人等への贈賄行為の処罰
(1)<1><2>、(2)の各場合において、贈賄行為をした者は 収賄行為をした者と同等に処罰するものとする。

5 不正な手段により破産手続外で破産債権の充足を図る行為の処罰
破産者又はその親族等に破産債権を弁済させ、又は破産者の親族等に破産債権に係る保証をさせる目的で、面会を強請し又は強談若しくは威迫の行為をした者は処罰するものとする。

6 その他
その他倒産犯罪に係る罰則について、所要の整備をするものとする。

第2 倒産処理手続相互の関係

1 再生手続から破産手続への移行
(1)再生手続開始前に係属した破産事件の移送(倒産法部会資料36・第1・3(1))(注3)参照)
破産事件(破産手続開始の決定がされていないものに限る。)[(破産手続開始の決定がされているかどうかを問わない。)]を取り扱う裁判所は、当該破産事件に係る債務者について再生手続開始の決定があったとき[再生手続開始の申立ての棄却、再生計画認可の決定の確定前の再生手続廃止又は再生計画不認可の決定があったとき]は、職権で、再生手続が終了するまでの間、当該破産事件を再生裁判所に移送することができるものとする。

(注)
1 再生手続開始の決定前に再生裁判所以外の裁判所に申し立てられた破産事件について、当該裁判所が再生裁判所に移送することができる制度を設け、再生手続の終了後、速やかに破産手続開始の決定がされるように図るものである。破産手続開始の決定がされている破産事件については、再生手続の終了後は、破産手続開始の決定をした(狭義の)破産裁判所において破産手続を続行するのが合理的であると考えられることから、移送の対象となる破産事件を破産手続開始の決定がされていないものに限っているが、既に破産手続開始の決定がされている破産事件についても、再生手続との連続性を確保するために移送を認めることも考えられる(一つ目の[]部分参照)。この点について、どのように考えるか。
また、移送を認める必要性は、再生手続開始の決定があった段階では抽象的なものにとどまり、再生手続を終了させる決定があった段階で現実化することから、後者の段階で移送を認めることも考えられる(二つ目の[]部分参照)が、どのように考えるか。

2 再生裁判所以外の裁判所が移送の制度を利用せず、自ら破産手続開始の決定をした場合の効果について(3)(注1)参照。

(2)再生手続終了前の破産手続開始の申立て(倒産法部会資料36・第1・3(1)参照)
破産手続開始前の再生債務者について、再生手続開始の決定の取消し、再生手続廃止若しくは再生計画不認可の決定又は再生計画取消しの決定(再生手続の終了前にされた申立てに基づくものに限る。)があった場合には、民事再生法第39条第1項の規定にかかわらず、再生裁判所に破産手続開始の申立てをすることができるものとする。破産手続開始後の再生債務者について、再生計画認可の決定の確定により破産手続が効力を失った後に民事再生法第193条若しくは第194条の規定による再生手続廃止の決定又は再生計画取消しの決定(再生手続の終了前にされた申立てに基づくものに限る。)があった場合も、同様とするものとする。

(3)再生手続開始前の移行の場合の取扱い
破産手続開始前の再生債務者について、再生手続開始の決定がされないまま、裁判所の職権による破産手続開始の決定があった場合(民事再生法第16条第1項参照)又は再生手続開始の申立ての棄却の決定の確定前にされていた破産手続開始の申立てによる破産手続開始の決定があった場合[(再生裁判所が当該破産手続開始の決定をした場合に限る。)]には、破産手続において、次のような取扱いをするものとする。

ア 共益債権となるべき債権の取扱い(倒産法部会資料36・第1・3(3)ウ<1>参照)
(a)継続的給付を目的とする双務契約の相手方が再生手続開始の申立て後再生手続開始前にした給付に係る請求権及び(b)再生手続開始前の借入金等に係る請求権は、財団債権とする(民事再生法第16条第4項参照)。
イ 否認権及び相殺権の取扱い(倒産法部会資料36・第1・3(2)(注4)<3>参照)
破産法中、否認権及び相殺権に関する規定の適用については、再生手続開始の申立ては その前に破産手続開始の申立てがないときは、破産手続開始の申立てとみなすものとする(民事再生法第16条第2項参照)。

(注)
1 再生手続開始の決定がされない場合(いわゆる第一審棄却の場合)における破産手続への移行である。「再生手続開始の申立ての棄却の決定の確定前にされていた破産手続開始の申立て」には、再生手続開始の申立ての棄却の決定があった後、その確定前にされた破産手続開始の申立ても含まれる。なお、再生手続と破産手続との連続性という観点からは(4)も含めて、再生裁判所以外の裁判所が破産手続開始の決定をした場合を対象としないことも考えられる([]部分参照)が、どのように考えるか。

2 再生手続開始の決定がされていないので、再生債権、一般優先債権及び開始後債権の破産手続における取扱いの問題は生じないことから、アでは 再生手続が開始されていれば共益債権となるはずであった債権の取扱いだけを取り上げている。

3 イは、<1>偏頗行為に関する否認における支払不能の推定(倒産法部会資料42・第3部・第4・1(2)<4>参照)、<2>支払の停止を要件とする否認の時期的制限(倒産法部会資料42・第3部・第4・2参照)、<3>相殺禁止の除外(倒産法部会資料42・第3部・第6・1(1)<2>ア(c)、イ(C)及びウ(c)並びに(2)<2>ア(d)、イ(d)及びウ(d)参照)についても、再生手続開始の申立てを破産手続開始の申立てとみなす趣旨である。なお、(4)ウ及び(5)ア(工)も、同趣旨である。

(4) 再生計画認可決定確定前の移行の場合の取扱い
破産手続開始前の再生債務者について、再生手続開始の決定がされた後再生計画認可の決定の確定前に、裁判所の職権による破産手続開始の決定(民事再生法第16条第1項参照)、再生手続開始の決定前にされていた破産手続開始の申立てによる破産手続開始の決定又は(2)<1>前段による破産手続開始の申立てによる破産手続開始の決定があった場合には、破産手続において、次のような取扱いをするものとする。

ア 再生手続における各種債権の破産手続における取扱い(倒産法部会資料36・第1(3)参照)再生債権、一般優先債権又は開始後債権であった債権で破産債権となるものについて、破産手続の一般原則に従い、破産債権の範囲、額等を画する基準時を破産手続開始の決定時とするほか、次のような取扱いをするものとする。
(ア)一般優先債権であった租税債権等の取扱い
一般優先債権であった租税債権等についてした国税滞納処分等(国税滞納処分及びその例による処分をいう。以下同じ。)は、破産手続開始後、その続行を妨げないものとする(倒産法部会資料42・第3部・第2・3(4)(注)参照)。
(イ) 一般優先債権であった労働債権の取扱い
一般優先債権であった給料債権のうち、財団債権として取り扱われる範囲は、再生手続開始の決定の日を基準として定めるものとする(倒産法部会資料42・第3部・第2・2(1)<1>参照)。
(ウ) 共益債権の取扱い
<1> 共益債権は、財団債権とするものとする(民事再生法第16条第4項参照)。
<2> 共益債権であった租税債権についてした国税滞納処分等は、破産手続開始後も、その続行を妨げないものとする(倒産法部会資料42・第3部・第2・3(4)(注)参照)。

イ 再生手続において届出があった再生債権の取扱い
<1> 裁判所は、破産手続開始の決定をする場合において、[再生手続において届出があった再生債権の原因、内容及び議決権の額、異議等のある再生債権の数その他の事情を考慮して]相当と認めるときは、破産手続開始の決定と同時に、再生手続において届出をした再生債権[確定した再生債権]であった債権については 破産債権としての届出を要しない旨の決定をすることができるものとすることで、どうか。
<2> <1>の決定があった場合には、<1>の再生手続において届出をした再生債権[確定した再生債権]であった債権については 当該債権を有する者が破産債権の届出にをした場合を除き、破産債権としての届出があったものとみなすものとすることで、どうか。

ウ 否認権及び相殺権の取扱い(倒産法部会資料36・第1・3(2)(注4)<3>参照)
破産法中、否認権及び相殺権に関する規定の適用については、再生手続開始の申立ては、その前に破産手続開始の申立てがないときは、破産手続開始の申立てとみなすものとする(民事再生法第16条第2項参照)。

(注)
1 第27回会議の結果を踏まえて、先行の再生手続と後続の破産手続とを一体化させるための特別の保全処分の制度(倒産法部会資料36・第1・3(2)参照)を設けること等により再生手続における債権調査の結果をそのまま破産手続で利用するような厳格な制度ではなく、再生手続における再生債権の届出を破産手続における破産債権の届出として再利用するという緩やかな制度を設けるとの考え方を採っている。

2 (注1)の考え方は、再生手続における各種債権の破産手続における取扱いにつき基本的に破産手続の一般原則に従うことを前提とするものである。そこで、ア(ア)から(ウ)までは、一般原則で賄えない事項だけを取り上げている。
なお、第27回会議では 開始後債権の取扱いが問題とされたが、破産手続の一般原則に従えば、開始後債権は、破産手続開始前の原因に基づいて生じた債権であり、破産債権となることになる。もっとも、開始後債権となる債権のうち、例えば、法人の理事等が管理命令が発せられた後に再生債務者財産に関してした法律行為によって生ずる債権(民事再生法第76条第1項参照)については、管理命令発令後の法人の理事等の法律行為は再生手続の関係のみならず、破産手続の関係においてもその効力を主張することができず、その法律行為によって生ずる債権も破産債権にならないと解する余地は残ると考えられる。

3 (注1)の考え方を採用し、再生手続における再生債権の届出を破産手続で再利目:するための制度を設ける場合には、再生手続における未届出債権の自認制度(民事再生法第101条第3項参照)との関係が問題となるが、破産手続では同種の制度が設けられていないこと等から、イ<1>では、第20回会議の結果をも踏まえて、再生債務者等が自認した再生債権を対象に含めていない。他方で、個人再生の特則手続において、債権者一覧表に記載されている再生債権であって、その記載内容と同一の内容で再生債権の届出をしたものとみなされるもの(同法第225条及び第244条参照)については 再生手続における届出としての効力が生じている以上、対象に含めることで、どうか。
なお、イ<1>の対象となる債権の範囲については 「再生手続において確定した再生債権であった債権」とすることも考えられる(イ<1>の二つ目の[]部分及び<2>の[]部分参照)。「異議等のある再生債権」を有する者の主張が債権確定手続で容れられずに確定した場合等に、その届出を破産手続で再利用することは、必ずしも合理的ではないと考えられるためである。もっとも、再利用に当たり、破産手続への移行の時期について特段の限定をしないことを前提とすると、届出再生債権が確定に至らない理由は一様ではなく、確定していない再生債権についても、その届出の再利用を認める方が手続の円滑な進行に資すること等もあり得ると考えられることから、イ<1>では「再生手続において届出をした再生債権であった債権」としている。この点について、どのように考えるか。

4 再生手続における再生債権の届出を破産手続で再利用するためには、再生手続における届出事項についての一定の修正(読替え)が必要となる(個人再生の特則手続を除く。民事再生法第221条第5項、第224条第2項及び第244条参照)。すなわち、<1>民事再生法第84条第2項各号に掲げる請求権(再生手続開始後の利息の請求権等)であるかどうかを区分していたところを、破産法第46条第1号から第3号までに掲げる請求権(破産手続開始後の利息の請求権等)であるかどうかに区分し直し、<2>実体法上の権利内容がそのまま再生債権の内容となっていた非金銭債権を金銭化して破産債権の額とする(破産法第22条前段)等の必要が生ずることになる((注5)参照)。さらに、(注1)の考え方は、破産手続の一般原則に従い、破産手続開始時を基準として破産債権の範囲、額等を定めることを前提としており((注2)参照) <1>の区分や<2>の金銭化の基準時も破産手続開始時となることから、基準時にずれが生じ、届出事項の修正は必ずしも単純ではない。そのため、改めて破産債権の届出をさせた方が破産手続の円滑な進行に資する場合も少なくないと考えられる。
そこで、イ<1>では、当然に再生債権の届出を破産債権の届出として取り扱うのではなく、裁判所が相当と認める場合に限り、かつ、破産債権の届出をしなかった破産債権者が有する債権に限って、再生債権の届出を破産債権の届出とみなすものとしている。この制度を設ける場合には、<1>破産手続開始の決定の公告及び通知と併せて、この制度が適用される再生事件を特定した上で破産債権としての届出を要しない旨を公告し、かつ、通知するものとし、<2>破産債権の届出において、再生債権の届出をしているかどうか等についても届出をさせるものとする等、所要の整備をする必要があると考えられる。

5 (注4)記載の届出事項の修正については、法律上、次のような規律を設けることで、どうか。なお、基準時のずれを考慮した規律を設けることも考えられるが、修正に関する規律が複雑になると、破産管財人や他の破産債権者の事前準備(いわゆる先行調査)の負担が過大になる等の弊害が生じ、かえって、破産手続の円滑な進行を妨げるおそれがあることから、基準時のずれは考慮しないものとしている。したがって、改めて破産債権の届出をした方が有利になる場合も少なくないと考えられるが、破産事件の配当率が一般に低率にとどまっていることを考慮すると、実際に破産債権の届出をする者は、必ずしも多くないものと予想される。

【劣後的破産債権の区分関係】
<1> 民事再生法第84条第2項各号に掲げる請求権については、それぞれ、破産法第46条第1号から第3号までに掲げる請求権として届出があったものとみなすものとする。
<2> 民事再生法第87条第1項第1号、第2号又は第3号イに掲げる債権については、届出があった議決権の額を控除した額は、破産法第46条第5号、第7号又は第6号に掲げる請求権として届出があったものとみなすものとする。

【金銭化関係】
<3> 民事再生法第87条第1項第3号ロからへまでに掲げる債権については、届出があった議決権の額を破産債権の額(破産法第22条又は第23条の評価額)として届け出たものとみなすものとする。

【別除権関係】
<4> 別除権の行使によって弁済を受けることができないと見込まれる債権の額(民事再生法第94条第2項)は 破産手続においても、別除権の行使によって弁済を受けることができないと見込まれる債権の額(破産法第228条第2項)として届け出たものとみなすものとする。

6 イ<2>では、再生手続における再生債権の届出と破産手続における破産債権の届出との調整に関して、「当該債権を有する者が破産債権の届出をした場合を除き、破産債権としての届出があったものとみなす」ものとしている。すなわち、届出の再利用を「債権」単位ではなく、「債権者」単位で考えるものとしている。これは、届出の再利用の制度が機能するためには、再生手続における届出と破産手続における届出の同一性の認定が容易でなければならないと考えられることから、その認定を可及的容易にするためである。

7 ウ並びに(5)ア(工)及びイ(工)に関連して、破産法第85条(否認権行使の期間)前段に規定する「2年」の起算点が問題となるが、起算点を破産手続開始の決定の日とすると、相手方が相当長期間にわたり否認のリスクを負担することになって相当ではないと考えられる。この点については、ほとんどの再生事件において、<1>再生手続開始の決定の日からおおむね半年から1年以内に再生計画認可の決定がされるか、<2>再生手続廃止又は再生計画不認可の決定がされて破産手続開始の決定がされると考えられるところ、再生計画認可の決定がされる場合(<1>)には 法定多数の再生債権者は、否認権の行使を前提としない再生債務者の財産状態を是認したと考えられる一方で、破産手続開始の決定がされる場合(<2>)には、破産管財人による否認権の行使に時間的余裕が残ることから、再生手続開始の決定の日を起算点とすることで、どうか。

(5) 再生計画認可決定確定後の移行の場合の取扱い(倒産法部会資料36・第1・3(後注)参照)
ア 破産手続開始前の再生債務者の場合
破産手続開始前の再生債務者について、再生計画認可の決定が確定した後再生手続の終了前に、裁判所の職権による破産手続開始の決定(民事再生法第16条第1項)又は(2)<1>前段による破産手続開始の申立てによる破産手続開始の決定があった場合には、破産手続において、次のような取扱いをするものとする。
(ア)再生債権の破産手続における取扱い
民事再生法第190条第1項及び第2項による処理のスキームを維持するものとする。
(イ) 一般優先債権の破産手続における取扱い
一般優先債権であった給料債権のうち、財団債権として取り扱われる範囲は、再生手続開始の決定の日を基準として定めるものとする。
(ウ) 共益債権の破産手続における取扱い
共益債権は、財団債権とするものとする(民事再生法第16条第4項参照)。
(工) 否認権及び相殺権の取扱い
破産法中、否認権及び相殺権に関する規定の適用については 再生手続開始の申立ては、その前に破産手続開始の申立てがないときは、破産手続開始の申立てとみなすものとする(民事再生法第16条第2項参照)。

イ 破産手続開始後の再生債務者の場合
破産手続開始後の再生債務者について、再生計画認可の決定の確定により破産手続が効力を失った後再生手続の終了前に、裁判所の職権による破産手続開始の決定(民事再生法第16条第3項参照)又は(2)<1>後段による破産手続開始の申立てによる破産手続開始の決定があった場合には、破産手続において、次のような取扱いをするものとする。
(ア) 再生債権の破産手続における取扱い
民事再生法第190条第1項及び第2項による処理のスキームを維持するものとする。
(イ) 一般優先債権の破産手続における取扱い
一般優先債権であった給料債権のうち、財団債権として取り扱われる範囲は、再生手続開始の決定の日を基準として定めるものとする。
(ウ) 共益債権の破産手続における取扱い
共益債権(再生計画認可の決定の確定によって効力を失った破産手続における財団債権であったものを含む。)は、財団債権とするものとする(民事再生法第16条第4項参照)。
(エ) 否認権及び相殺権の取扱い
破産法中、否認権及び相殺権に関する規定の適用については、再生計画認可の決定の確定によって効力を失った破産手続における破産手続開始の申立てがあった時に破産手続開始の申立てがあったものとみなすものとする(民事再生法第16条第3項参照)。

(注)
1 ア(ア)、(ウ)及び(工)並びにイ(ア)、(ウ)及び(工)は、これらの規律の適用対象を裁判所の職権による破産手続開始の決定があった場合に加えて、(2)による破産手続開始の申立てによる破産手続開始の決定があった場合にも拡張するほかは、現行法の取扱いを維持する趣旨である。
2 ア(ア)及びイ(イ)の取扱いを前提とすると、これらの場合にも(4)と同様に、再生手続における再生債権の届出の再利用を認めることが考えられる。もっとも、(4)と比べて、再生債権の届出がされてから破産手続において再利用されるまでの期間が長期にわたるため、基準時のずれ((4)(注4)参照)の問題が大きくなることから、再利用をする必要性に乏しい場合が多いと考えられるが、どのように考えるか。
3 ア(イ)及びイ(イ)の一般優先債権であった給料債権の財団債権としての取扱いについては、(4)と同様に、再生手続開始の決定の日を基準とするのが適当であると考えられる。イ(イ)については、当初の破産手続開始後に生ずる労働債権(給料債権)は財団債権になり得ること等を考慮して、当初の破産手続開始の決定の日を基準とすることも考えられるが、(5)全体が再生計画認可の決定の確定を前提としており、そのような事案で、再生手続開始前の未払給料が再生計画認可の決定の確定後まで残存していることは考えにくいことから、ア(イ)と同様の考え方を採用している。
4 イ(工)は、<1>偏頗行為に関する否認における支払不能の推定(倒産法部会資料42・第3部・第4・1(2)<4>参照) <2>支払の停止を要件とする否認の時期的制限(倒産法部会資料42・第3部・第4・2参照)、<3>相殺禁止の除外(倒産法部会資料42・第3部・第6・1(1)<2>ア(c)、イ(c)及びウ(c)並びに(2)<2>ア(d)、イ(d)及びウ(d)参照)についても、当初の破産手続開始の申立てがあった時に破産手続開始の申立てがあったものとみなす趣旨である。

(6)破産手続続行の場合の取扱い
破産手続開始後の再生債務者について、再生手続の終了によって破産手続が続行された場合には、破産手続において、共益債権は、財団債権とするものとする(民事再生法第16条第5項参照)。

(7) 再生手続から破産手続への移行があった場合の債権確定、否認及び役員の責任に基づく損害賠償請求に係る訴訟手続等の帰趨(倒産法部会資料36・第1(倒産処理手続相互の関係後注)参照)
ア 再生債権関係
(ア) 再生手続終了による[査定の手続及び]訴訟手続の中断
<1> 再生計画認可の決定の確定前に再生手続が終了した場合において、[査定の手続又は]再生債務者等が当事者でない再生債権の確定に関する訴訟手続(査定の申立てについての裁判に対する異議の訴えに係る訴訟手続を含み、再生手続開始当時に係属していた訴訟手続であって再生債権の確定のための受継があったものを除く。)が係属しているときは、[当該査定の手続又は]当該訴訟手続は、中断するものとする。
<2> <1>の場合において、再生手続が終了した後[1か月]以内に、裁判所の職権による破産手続開始の決定、再生手続終了前にされていた破産手続開始の申立てによる破産手続開始の決定及び破産手続開始前の保全処分がないときは、<1>により中断した[査定の手続又は]訴訟手続は 終了するものとする。
(イ) 破産手続開始後の受継
破産債権の調査において破産管財人が認めず、又は届出をした破産債権者が異議を述べた破産債権について、当該破産債権を有する破産債権者がその確定を求めようとするときは、当該破産管財人及び当該異議を述べた破産債権者の全員を相手方として(ア)<1>により中断した[査定の手続又は]訴訟手続の受継の申立てをしなければならないものとする(破産法第246条参照)。
(ウ) 破産手続開始による査定の手続の終了
再生計画認可の決定の確定後に再生手続が終了した場合において、裁判所の職権による破産手続開始の決定がされ、又は再生手続終了前にされていた破産手続開始の申立てによる破産手続開始の決定がされたときは、破産手続開始当時に係属していた再生債権の査定の手続は 終了するものとする。

イ 損害賠償請求権関係
(ア) 再生手続終了による査定の手続の中断
<1> 再生手続が終了した場合において、役員の損害賠償請求権の査定の手続が係属しているときは、当該査定の手続は中断するものとする。
<2> <1>の場合において、再生手続が終了した後[1か月]以内に、裁判所の職権による破産手続開始の決定、再生手続終了前にされていた破産手続開始の申立てによる破産手続開始の決定及び破産手続開始前の保全処分がないときは <1>により中断した査定の手続は、終了するものとする。
(イ) 破産手続開始後の受継
<1>(ア)<1>の場合において、裁判所の職権による破産手続開始の決定がされ、又は再生手続終了前にされていた破産手続開始の申立てによる破産手続開始の決定がされたときは、破産管財人は、(ア)<1>により中断した査定の手続を受け継ぐことができるものとする。]

ウ 否認権関係
(ア)再生手続終了による[否認の請求の手続及び]訴訟手続の中断
<1> 再生手続が終了した場合において、[否認の請求の手続及び]否認の請求を認容する裁判に対する異議の訴えに係る訴訟手続が係属しているときは、[当該否認の請求の手続又は]当該訴訟手続は、中断するものとする。
<2> <1>の場合において、再生手続が終了した後[1か月]以内に、裁判所の職権による破産手続開始の決定、再生手続終了前にされていた破産手続開始の申立てによる破産手続開始の決定及び破産手続開始前の保全処分がないときは <1>により中断した[否認の請求の手続又は] 訴訟手続は、終了するものとする。
(イ)破産手続開始後の受継
<1>(ア)<1>の場合において、裁判所の職権による破産手続開始の決定がされ、又は再生手続終了前にされていた破産手続開始の申立てによる破産手続開始の決定がされたときは破産管財人は、(ア)<1>により中止した[否認の請求の手続又は]訴訟手続を受け継ぐことができるものとする(破産法第69条参照)。

(注)
1 第31回会議では、再生手続終了後における査定等の手続及び異議の訴えに係る訴訟手続の帰趨について、下記(1)から(3)までの考え方を採るべきものとされた(倒産法部会資料41(更生手続につき採用された個別の手続・制度の破産手続における採否)3(1)(注4)、(2)(注)及び(3)(注3)参照)。今回は これを前提として、再生手続から破産手続への移行が生じた場合の取扱いについての考え方を示している。

(1) 再生債権関係
ア 再生債権の査定の手続
<1> 再生計画認可の決定の確定前に再生手続が終了したときは 当然に終了するものとする。
<2> 再生計画認可の決定の確定後に再生手続が終了したときは、引き続き係属するものとする。この場合において、管財人を相手方としているときは、中断し、再生債務者においてこれを受け継がなければならないものとする。
イ 異議の訴えに係る訴訟手続
(ア)再生債務者が当事者である場合
再生手続が終了したときは、引き続き係属するものとする。
(イ) 管財人が当事者である場合
再生手続が終了したときは 中断し、再生債務者においてこれを受け継がなければならないものとする。
(ウ)再生債務者等が当事者でない場合
<1> 再生計画認可の決定の確定前に再生手続が終了したときは、当然に終了するものとする。
<2> 再生計画認可の決定の確定後に再生手続が終了したときは、引き続き係属するものとする。
ウ イ以外の確定訴訟手続
(ア) 再生債務者が当事者である場合
再生手続が終了したときは、引き続き係属するものとする。
(イ) 管財人が当事者である場合
再生手続が終了したときは 中断し、再生債務者においてこれを受け継がなければならないものとする。
(ウ) 再生債務者等が当事者でない場合
<1> 再生計画認可の決定の確定前に再生手続が終了したときは、当然に終了するものとする。ただし、再生手続開始当時に係属していた訴訟手続であって再生債権の確定のための受継があったものは、終了せずに中断するものとし、再生債務者においてこれを受け継がなければならないものとする。
<2> 再生計画認可の決定の確定後に再生手続が終了したときは、引き続き係属するものとする。

(2) 損害賠償請求権関係
ア 損害賠償請求権の査定の手続
再生手続が終了したときは、当然に終了するものとする。
イ 異議の訴えに係る訴訟手続
(ア) 再生債務者が当事者である場合
再生手続が終了したときは、引き続き係属するものとする。
(イ) 管財人が当事者である場合
再生手続が終了したときは、中断し、再生債務者においてこれを受け継がなければならないものとする。
(ウ) 再生債務者等が当事者でない場合
再生手続が終了したときは、中断し、再生債務者においてこれを受け継がなければならないものとする。
ウ イ以外の訴訟手続
(ア)再生債務者が当事者である場合
再生手続が終了したときは、引き続き係属するものとする。
(イ) 管財人が当事者である場合
再生手続が終了したときは 中断し、再生債務者においてこれを受け継がなければならないものとする。

(3) 否認権関係
ア 否認の請求の手続
再生手続が終了したときは、当然に終了するものとする。
イ 異議の訴えに係る訴訟手続
再生手続が終了したときは、当然に終了するものとする。
ウ イ以外の訴訟手続
再生手続が終了したときは、中断し、再生債務者においてこれを受け継がなければならないものとする。

2 先行の再生手続と後続の破産手続とを一体化させるのではなく、再生手続から破産手続への緩やかな移行の制度を設けるとの考え方((4)(注1)参照)を採る場合には債権確定、否認及び役員の責任に基づく損害賠償請求に係る訴訟手続等についても、その連続性を確保するための厳格な制度を設けるのではなく、再生手続の終了により当然に終了するとされる訴訟手続等((注1)(1)ア<1>、イ(ウ)<1>及びウ(ウ)<1>本文(2)ア並びに(3)ア及びイ参照)について、当然には終了しないものとし、破産手続開始当時に係属する訴訟手続の受継に関する既存の規律(破産法第69条、第246条参照)を適用することができるような必要最小限度の手当を講ずるのが適当であると考えられる。さらに、簡易迅速な審理手続である決定手続については、既存の手続における裁判資料を新しい手続で再利用するという必要性に乏しいことから、専ら訴訟手続((注1)(1)イ(ウ)<1>及びウ(ウ)<1>本文並びに(3)イ参照)についてのみ手当を講ずることが考えられる。そこで、ア(ア)及び(イ)の「査定の手続」の部分、イの全体並びにウ(ア)の「否認の請求の手続」の部分に[]を付するとともに、ア(ウ)では 再生手続の終了後も引き続き係属するとされる再生債権の査定の手続((注1)(1)ア<2>参照)は破産手続開始の決定がされたときは当然に終了するとの考え方を示している。

3 ア(ア)<1>、イ(ア)<1>及びウ(ア)<1>では 訴訟手続等が当然には終了しないものとするため。再生手続の終了により訴訟手続等はいったん中断するものとしている。そして、ア(ア)<2>、イ(ア)<2>及びウ(ア)<2>では その後一定期間(例えば、1か月)内に破産手続開始の決定等がされないときに当該訴訟手続等は終了するとの考え方を示しているが、これは、裁判所の職権等による破産手続開始の決定がされないという不作為を直接の契機として、訴訟手続等の終了という効果を導くことは困難であると考えられるためである。
なお、再生手続の終了から訴訟手続等の終了又は破産手続の開始までの間の訴訟状態は、「中断」概念(当事者に法律上訴訟行為をすることができない事由が生じた場合に、その者又はその者に代わる新たな当事者が訴訟行為をすることができるまでの間、訴訟手続の進行を停止して、その当事者の利益を保護する。)よりも、むしろ、 「中止」概念(裁判所又は当事者に訴訟をすることができない障害が生じた場合に、その障害が除去されるまでの間、訴訟手続の進行を停止する。)になじむと考えて、再生手続の終了により訴訟手続等は中止し、破産手続開始の決定により中断に転じて受継の対象となるとの考え方(倒産法部会資料27・第5参照)もあり得るが、そのような二段階の構成を採用する意味合いは実質的に乏しいことから、端的に再生手続の終了により訴訟手続等は中断するものとしている。

2 再生手続から破産手続への移行(上記1)以外の移行
(1)管財人の他の倒産処理手続開始の申立権(倒産法部会資料36・第1・2参照)
ア 破産管財人の再生手続開始の申立権
<1> 破産管財人は、民事再生法第21条第1項に規定する場合には、裁判所の許可を得て、法人である破産者について再生手続開始の申立てをすることができるものとする。
<2> 裁判所は 再生手続によることが債権者の一般の利益に適合すると認める場合に限り、<1>の許可をすることができるものとする。
<3> 裁判所は <1>の許可の申立てがあった場合には、当該申立てを却下すべきこと又は<1>の許可をすべきことが明らかである場合を除き、当該申立てについての決定をする前に、破産者の使用人その他の従業者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、破産者の使用人その他の従業者の過半数で組織する労働組合がないときは破産者の使用人その他の従業者の過半数を代表する者(以下「労働組合等」という。)の意見を聴かなければならないものとすることで、どうか。
<4> <1>による再生手続開始の申立てについては、民事再生法第23条第1項の規定は適用しないものとする。
イ 破産管財人の更生手続開始の申立権等
破産管財人による更生手続開始の申立て及び再生手続における管財人による更生手続開始の申立てについても、アと同様の手当をするものとする。

(注)
1 第27回会議では、破産管財人に再生手続開始の申立権等を認める必要が高い事件が現に存在するとの指摘がされたが、事業等の清算を職務とする破産管財人が継続企業価値の実現を目的として再生手続開始の申立て等をすることは破産管財人の本来的性格と整合しない等の指摘や、再生手続開始の決定等に対して即時抗告があった場合に誰が即時抗告審における相手方になるのかといった問題があることから倒産処理手続の移行の制度として構成すべきであるとの意見もあった。
今回は、破産管財人による再生手続開始の申立て等が実質的には破産管財人の主導による再生手続等への移行という性格を有することに配慮しつつ、そのような移行を認めるべき事件数が少数にとどまることにかんがみ、移行の制度を新たに整備するのではなく、破産管財人による再生手続開始の申立て等が破産債権者の利益の最大化を図ることを目的としてされる点で破産管財人の本来的性格又は破産手続の目的に反するとまではいえないことを考慮して、通常の再生手続開始の申立て等の形式を利用するものとし、その特殊性に応じて必要最小限度の修正を加えるとの考え方に立って、具体的な案を示している。
なお、これまで、破産管財人に再生手続開始の申立権を認める必要性は法人破産について指摘されてきたところであり、個人破産についてはその必要性に乏しく、また、適当でないと考えられる(民事再生法第64条第1項、第79条第1項。第200条第1項、第221条第1項及び第239条第1項参照)ことから、法人破産に限定して手当をするものとしている。
2 ア<1>では、破産財団の管理処分権が専属する破産管財人は、債務者(破産者)本人に準じた立場にあると考えられるところから、手続開始原因(申立原因)を限定しないものとしている。また、ア<4>では 既に破産手続が開始されていることを前提としている以上、通常は手続開始原因となる事実が存在することから、破産管財人に手続開始原因となる事実の疎明義務を課さないものとしている。
3 ア<1>及び<2>では、破産管財人が再生手続開始の申立てをした場合には、民事再生法上の中止命令(同法第26条第1項第1号)が発せられる場合はもとより、これが発せられない場合でも、事実上、既係属の破産手続は進行を止め、破産財団の換価等も差し控えられることになる等、利害関係人に及ぼす影響は重大であると考えられることから、再生手続によることが債権者の一般の利益に適合すると認められることを裁判所による許可の要件としている。再生手続によることが債権者の一般の利益に適合すると認められるためには、既係属の破産手続によるよりも再生計画を成立させて、再生計画による弁済を受ける方が債権者全体にとって利益になるとの具体的見込みがあることが必要になると考えられる。その意味では 再生手続開始の条件(民事再生法第25条第2号・第3号)についての判断を実質的に先取りすることになり、しかも、通常の再生手続開始の条件についての判断よりも慎重な判断を要求することになるが、これは 破産管財人による申立てが実質的に破産管財人の主導による手続の移行という性格を有することの反映である。
4 ア<3>では、(注3)記載のとおり、裁判所の許可が再生手続開始の申立てについての判断を実質的に先取りするものであることにかんがみ、労働組合等の意見聴取の制度(3(1)参照)を設けるものとしているが、どのように考えるか。

(2) その他(倒産法部会資料36・第1・4参照)
更生手続から破産手続への移行について、再生手続から破産手続への移行に準じて、所要の整備をするものとする。再生手続から更生手続への移行、破産手続から再生手続又は更生手続への移行及び更生手続から再生手続への移行についても、同様とする。

(注)
1 先行手続において共益債権又は財団債権であった債権の後続手続における取扱いについては、次のような手当を講ずるものとする。
ア 更生手続から破産手続への移行の場合
共益債権(手続が開始されなかった場合における(a)継続的給付を目的とする双務契約の相手方が手続開始の申立て後手続開始前にした給付に係る請求権及び(b)開始前の借入金等に係る請求権を含む。)は、破産手続開始の決定があったときは、財団債権とするものとする(会社更生法第11条第4項参照)。
イ 再生手続から更生手続への移行の場合
再生手続における共益債権(手続が開始されなかった場合における(a)継続的給付を目的とする双務契約の相手方が手続開始の申立て後手続開始前にした給付に係る請求権及び(b)開始前の借入金等に係る請求権を含む。)は、更生手続開始の決定があったときは、共益債権とするものとする(会社更生法第208条第2項参照)。
ウ 破産手続から再生手続又は更生手続への移行の場合
財団債権(破産法第47条第2号に掲げるものを除き、手続が開始されなかった場合における(a)継続的給付を目的とする双務契約の相手方が手続開始の申立て後手続開始前にした給付に係る請求権及び(b)開始前の借入金等に係る請求権を含む。)は 再生手続開始又は更生手続開始の決定があったときは、共益債権とするものとする(民事再生法第184条第2項及び会社更生法第208条第2項参照)。

2 更生手続から再生手続への移行については、更生計画案の可決要件(会社更生法第196条第5項第1号)が再生計画案の可決要件(民事再生法第172条の2)よりも緩和されたため、更生手続が不奏功に終わった後に再生手続に移行する利益を保護する必要性は乏しく、制度的手当を講ずる合理性は認められないと考えられることから、更生手続開始前に係属した再生事件の移送の制度(1(1)参照)、更生手続終了前 の再生手続開始の申立ての制度(1(2)参照)等は設けず、現行会社更生法と同様に、更生手続の終了に伴いに再生手続が続行された場合の取扱い(同法第13条)に関する規定を設けるにとどめることも考えられるが、どうか。