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【第三次案】第3部 倒産実体法: 第5 担保権等の倒産処理手続上の取扱い

1 譲渡担保権者の破産
譲渡担保権設定者の目的財産の取戻しの制限を定めた破産法第88条(会社更生法第64条及び民事再生法第52条第2項において準用する場合を含む。)の規定は、削除するものとする。

2 共有者の別除権
共有に関する債権を有する他の共有者に別除権を認めた破産法第94条の規定は 削除するものとする。

(担保権等の倒産処理手続上の取扱い関係後注)
民事留置権の取扱い
破産手続における民事留置権の取扱いについては、次のとおりとするとの考え方があるが、どのように考えるか。[民事留置権の存続、受戻し、消滅請求等]
<1> 破産手続において、民事留置権は失効しないものとする(破産法第93条第2項の規定は削除するものとする。)。
<2> 破産管財人は 留置権の目的(物)の受戻しができるものとし、裁判所の許可事項(破産法第197条第14号参照)に留置権の目的(物)の受戻しを加えるものとする。
<3> 民事留置権の消滅請求の制度を設けるものとする(部会資料40第12・2(5)の商事留置権の消滅請求の制度の対象を商事留置権に限定せず留置権一般とするものとする。)。
<4> 破産管財人は留置権者に対し、留置権の目的物を示すことを求めることができ、留置権者は 破産管財人による財産の評価を拒むことができないものとする(破産法第195条参照)。
<5> 留置権者は民法第297条、第298条第2項、<2>及び<3>により、破産手続によらずに被担保債権の弁済を受けることができるものとする。

【破産配当との調整関係】
<6> 留置権者は <5>により被担保債権の弁済を受けることができない債権額についてのみ破産債権者として権利行使ができるものとする。
<7>留置権者は破産債権の届出に当たり、留置権の目的[及びその価額][及び留置権の目的物の処分等により弁済を受けることのできない債権額]を届け出なければならないものとする(破産法第228条第2項参照)。
<8> 留置権者は、除斥期間の満了までに、留置権が消滅した場合には留置権の目的物の処分等により弁済を受けることができなかった債権額を証明しないとき、留置権が消滅していない場合には留置権の目的物を破産管財人に提供しないときは、配当から除斥されるものとする(破産法第277条、第262条参照)。
<9>留置権者が、除斥期間の満了までに、<7>の証明をし、又は留置権の目的物を提供したときは、破産管財人は直ちに配当表を更正しなければならないものとする(破産法第263条第3号参照)。
<10>中間配当において除斥された留置権者が、後の配当に関する除斥期間の満了までに<7>の証明をし、又は留置権の目的物を提供したときは、前の配当において受けることのできた額について他の同順位の債権者に優先して配当を受けることができるものとする(破産法第270条参照)。
<11>留置権の目的物が譲渡された場合において、留置権が存続するときは<6><8><9><10>を準用するものとする。]

民事留置権に基づく形式競売の手続】
[<12> 留置権者は破産手続開始後、[破産管財人の同意を得て、]形式競売の申立てをすることができるものとする。]
<13> 破産管財人は 民事執行法その他強制執行の手続に関する法令の規定により留置権の目的である財産の換価をすることができる[留置権者はこれを拒むことができない]ものとする(破産法第2 03条第1項参照)。
<14>民事留置権に基づく形式競売の手続は、強制執行等の中止命令及び包括的禁止命令の対象となるものとする。
<15> 民事留置権に基づく形式競売の手続は、免責手続中の強制執行等の中止命令の対象となるものとする。

(注)
1 第29回会議の審議では 民事留置権の取扱いについて、区々に意見が分かれた。まず、商事留置権と同様の取扱いとするという部会資料38の(ア)の考え方に対しては、商事留置権との平仄、民事留置権の要保護性、法律関係の簡明さ等から支持する意見が出される一方で、現行法との乖離の大きさ、現行法と相当に乖離した保護を基礎付ける必要性への疑問、商事留置権との沿革等の違い、迅速な換価等への支障等から反対する意見が出された。また、民事留置権を別除権とする部会資料38の(イ)の考え方及び民事留置権を別除権とはせず、効力の存続を図るとする同(ウ)の考え方に対しては、両者の関係についての疑問、個別の問題の処理についての疑問等が呈された。他方(ウ)の考え方に対しては、現行法との距離民事留置権の沿革、民事留置権の性質等から「最も受け入れやすい」、「穏当である」との評価も示された。これらと並んで、そもそも民事留置権について手当てをすることへの疑義も表明された。
このように、(ア)については正面から見解が対立したこと、見直し自体の必要性及び妥当性にも疑問が呈されたこと等を踏まえると、仮に民事留置権について一定の見直しを行うとすれば、部会資料38の(ウ)の考え方を基礎として、第29回会議の審議において指摘された問題点について検討するのが、現時点において、成案となり得る唯一の可能性ではないかと考えられる。

2 民事留置権の効力の存続(<1>-<5>)
部会資料38の(ウ)の考え方を基礎として、民事留置権の見直しの方向を検討すると、まず、破産手続においても民事留置権は存続することを認める(破産法第93条第2項の規定を削除する)ことになる(<1>)。これにより、留置権者には留置的効力を維持することになり、それによって認められる効力ないし地位を基本的に維持することになる。他方、留置権の被担保債権は 特別の規定がない限り、破産債権であり、破産財団との関係で、配当以外 の方法によってその弁済を受けることはできないため(破産法第16条)、破産財団としては、留置権の目的財産を必要とする場合であっても、その回復を図ることができず、また、留置権者側は、留置的効力により間接的に弁済をうながす力が、目的財産の所有者との関係で働かないことになり、いわば両すくみのまま、破産手続の終了を待つということとなる。この不都合を回避するためには、破産財団から被担保債権の弁済をし、留置権を消滅させ、その目的財産を破産財団へと回復する方法が用意される必要があると考えられ、そこで、留置権の目的財産については、被担保債権の額が目的物の価額を下回るときは受戻しを、被担保債権の額が目的物の価額を上回るときは消滅請求を可能とすることとしている(<2><3>)、破産法第 16条との関係で、受戻しや消滅請求を通じての弁済が許されることを明らかにし、また、破産債権者の権利行使との関係では、民法上留置権者に認められる収取果実による被担保債権への充当や債務者の承諾を得てされた目的財産の賃貸借に基づく資料による被担保債権の充当も問題となるため、これらも妨げられないことをあわせて明記することとしている(<5>)。
受戻しや消滅請求等の前提として、破産管財人の目的物の評定に関し、別除権者の場合と同様の規定を設けるものとしている(<4>)。
目的財産の受戻しや留置権の消滅請求は、被担保債権の債務者が破産者ではない場合にも利用可能であると考えられ、それらが利用されたときは、被担保債権の債務者に対する求償権が破産財団に帰属することになると考えられる。
なお、任意売却と担保権の消滅の制度に関しては、留置権者は担保権実行の申立権を有しておらず、同制度において想定される対抗手段を取りうる担保権者に該当しないため同制度の対象とはしないこととしている。したがって、留置権の目的財産が他の別除権である担保権の目的ともなっているときは、民事留置権を残したまま他の担保権を消滅させて目的財産を売却するか、又は事前に民事留置権につき受戻しをしたうえで担保権の消滅制度を用いることになると考えられる。

3 破産配当との調整-不足額責任主義に関する規律の取扱い(<6>-<11>)
受戻しや消滅請求により破産財団から配当以外の方法で弁済を受け得る地位を留置権者に認める場合、そのような弁済と破産配当との間の調整を図る必要があるかどうかが問題となる。例えば、中間配当がされた後に留置権の消滅請求がされた場合には、次の(a)(b)(c)等の考え方があり得る。すなわち(a)全く調整をしない(行使できる破産債権の額が減少するにとどまる。)。したがって、破産管財人としては、留置権の消滅請求をするのが適切であると認める事案においては、中間配当前に消滅請求をするという行動が期待されることになる。(b)中間配当における配当金を、消滅請求において目的財産の価額に相当する金銭の支払に係る請求権に充当されたものとみなす。(なお、中間配当によって被担保債権の額と目的物の価額が逆転し、中間配当後は実質的に受戻しとなる場合にも、破産手続開始時を基準として消滅請求の問題とする、あるいは 目的物の価額に相当する額を支払えば足りるものとする。)(c)調整の問題が生じないように、留置権が存続している限りは、配当を受けることができないものとする。
この点、留置権は他の優先弁済効のある担保権との比較で実体法上有利不利があり、民法及び民事執行法により、留置権者は、事実上他の優先弁済効のある担保権者に優先して弁済を受ける地位が認められているのであり、また、民法上は不足額責任主義は留置権には妥当しないと解され(民法394条、361条、341条参照)、このような留置権の「受動的には最強の地位」が破産手続においても反映されるものと考え(a)の考え方をとることも考えられる。これに対し、確かに留置権には他の優先弁済効のある担保権との比較で効力に強弱があるものの、破産手続における破産債権の行使の点で、優先弁済効があり別除権とされる担保権に比し、より有利な地位が認められることは、優先弁済効を持たないという留置権の性質や上記1の留置権の効力の強化への懸念等に照らすと、適切ではなく、破産配当との間で一定の調整を図るべきであるとも考えられる。そのような図り方としては、(b)や(c)の考え方等があり得るが、(b)の場合、消滅請求の場合の弁済額の調整だけで対応が足りているか、他に調整を要する場面がないか、調整の方法はこれで適切かが問題になると考えられる。他方(c)の場合、不足額責任主義の規律を導入することになり、別除権と同様の取扱いをすることになる。もっとも、留置権については、優先弁済効実現のための担保権の実行申立てを前提とする規律は考えられないため、目的物の処分への着手や(能動的な)「権利の行使」による被担保債権の満足を前提とする規律は、完全には該当せず、留置権の性質に応じた変容が必要になると解される。そのような変容としては、例えば、留置権者は、留置権の行使(果実の収取等)又は留置権の効力(受戻しや消滅請求)によって弁済を受けることができない債権額についてのみ、破産債権者として権利行使ができることとし(<6>)、手続としては、中間配当、最後配当を問わず、留置権者は、除斥期間の満了までに、留置権が消滅している場合には目的物の処分等にこより弁済を受けなかった債権額を証明しないとき、留置権が存続している場合には目的物を破産管財人に提供しないときは、配当から除斥されるものとする(<8>)ことなど(ほかにに「変容」された規律を必要とする点として、不足額についての届出(<7>)、配当表の更正(<9>)「後の配当における調整(<10>)、等)が考えられる。なお(c)の考え方をとる場合には、留置権の目的物が留置権が存続したまま任意売却された場合、不足額責任主義の考え方がなお及ぶこととする点でも、別除権と同様の取扱いとなるものと解される(<11>)が、留置権の目的物の場合、強制執行等の手続によっても留置権は消滅しないことがあり(不動産の場合の引受主義)、この場合も取扱いは同様となるのではないかと考えられることから、破産管財人が留置権の目的財産を任意売却した場合に限らず、一般に、留置権の目的財産が譲渡され、留置権はなお存続する場合を対象とすることになるのではないかと考えられる。
(c)の考え方をとり、破産配当以外の方法による破産財団からの被担保債権の弁済を認めるにとどまらず破産配当との間で調整を図り不足額責任主義の考え方をいれるとすると、実質的には別除権の取扱いに極めて近接することになる。このような別除権のいわば「亜種」を認めるのであれば、端的に民事留置権を別除権とすることも考えられるが、その場合にも、規律の内容は細部にわたり本来的・中核的な別除権の場合とは異なることになる。

4 留置権に基づく形式競売の手続の取扱い(<12>~<15>)
留置権者の形式競売の申立権(民事執行法第195条参照)については、破産手続中は換価金につき相殺による事実上の優先弁済を受けることができないこと、また、留置権の目的財産の換価の有用な一方法と考えられることから、そのような換価方法を否定するまでのことはないと考えられる。しかし、破産財団に属する財産の処分の時期・方法については、優先弁済効を担保権の実行によって実現できる別除権者を除き、破産管財人の専権に属すること、民事留置権の消滅請求制度の実を確保する意味もあること等からすると、破産管財人の意向を反映させるべきではないかとも考えられる。この点からすると、(a)破産管財人の同意を要求する、あるいは(b)およそ、留置権者による形式競売の申立ては認めず、破産管財人に申立権を認める(動産の場合は、留置権者が同意しない限り、動産競売を開始できないので、留置権者と破産管財人の双方が形式競売を望むときだけ、競売が可能となる。)ことなどが考えられよう(なお、留置権者に形式競売の申立てを認める場合、形式競売がされたときの換価金の交付先が問題となる。一般には申立権者である留置権者に交付されることになると考えられるが、直接管財人に交付されると解する余地もある。)
留置権に基づく形式競売に関しては 別院権である担保権の場合と同様、破産管財人にも申立権を認めることが考えられる(破産法第203条参照)。もっとも、動産の場合は留置権者が同意しない限り開始要件をみたさないので、破産管財人にこのような権限を認める実質的な意義はさして大きくないと考えられる。
破産手続中、留置権者の形式競売の申立権を認めないとするときはもとより、留置権者に形式競売の申立てを認めるけれども、破産管財人の同意を要するとの考え方を取るときは、留置権者の自由な競売申立ては認められないことから、破産手続開始前においてもまた、免責手続中においても、民事留置権に基づく競売の手続を中止命令の対象ととするのが適切ではないかと考えられる。

5 以上を踏まえ、破産手続における民事留置権の取扱いについて、どのように考えるか。
民事留置権は破産手続において失効しないものとし、民事留置権の実体法上の効力ないし地位を破産手続においても認めることを基本姿勢とする場合、破産配当との調整や形式競売の申立権の取扱い等の点において、その規律の内容及び別除権との関係をどのように考えるべきか。考慮すべき点は、上記で決しきれているといってよいか。

6 更生手続及び再生手続における民事留置権の処遇については、(a)現行法どおりとする(民事留置権は失効しないとするのみにとどめる。)(b)受戻し、担保の変換、消滅請求を認める等の考え方がある、破産手続における民事留置権の取扱いについて見直しをするとする場合、更生手続及び再生手続において、手当てをする必要の有無及び手当ての内容について、どのように考えるか。

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7 第29回会議の審議においては、民事留置権の取扱いについては、上記1に記載したとおり、見直しをする必要性についても疑義が呈され、また、見直しの方向についても意見が分かれたところである。上記の検討を踏まえると、今般の破産法等の見直しにおいて、成案を得るに至るのは困難であると考えられることから、今回は、特段の手当てをしないものとすることも考えられるが、どうか。

目次

○トップページ

■第一次案

第1部 破産手続

第2部 個人の破産手続の特則及び免責手続等

第3部 倒産実体法

第4部 その他

■第二次案

第1部 破産手続

第2部 個人の破産手続の特則及び免責手続等

第3部 倒産実体法

第4部 その他

■第三次案

第1部 破産手続

第2部 個人の破産手続の特則及び免責手続等

第3部 倒産実体法

第4部 その他

■残された課題

第1部 破産手続

第2部 個人の破産手続の特則及び免責手続等

第3部 倒産実体法