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【残された課題】第1部 破産手続: 第2 破産管財人による任意売却と担保権の消滅

ア 破産管財人による担保権消滅の許可の申立て
<1> 破産手続開始の決定当時破産財団に属する財産につき別除権に係る担保権(以下 「担保権」という。)がある場合において、当該担保権を消滅させて当該財産を任意に売却することが破産債権者の一般の利益に適合するときは、破産管財人は、裁判所に対し、当該財産を任意に売脚し、及び次の(i)又は(ii)に掲げる区分に応じてそれぞれに定める額に相当する金銭が裁判所に納付されることにより当該財産につき存するすべての担保権を消滅させることについての許可の申立てをすることができるものとする。ただし、当該担保権を有する者の利益を不当に害することとなると認められるときは、この限りでないものとする。
(i) 破産管財人において、売却によってその相手方から取得することができる金銭(売買契約の締結及び履行のために要する費用であって破産財団から現に支出し、又は将来支出すべき額のうち相手方が負担するものの額に相当する金銭を除く。以下「売得金」という。)の一部を破産財団へ組み入れようとする場合 売得金から組み入れようとする額(以下「組入金」という。)を控除した額
(ii)(i)に掲げる場合以外の場合 売得金の額
<2> 破産管財人は、<1>の許可の申立てをしようとする場合において、<1>(i)に掲げるときは、組入金の額について、あらかじめ当該担保権を有する者と協議しなければならないものとする。
<3> <1>の許可の申立ては、次に掲げる事項を記載した書面(以下「申立書」という。)でしなければならないものとする。
(i) 当該担保権の目的である財産の表示
(ii) 売得金の額((i)の財産が複数あるときは、売得金の額及びそれぞれの財産の売得金に相当する額)
(iii)(i)の財産の売却の相手方の氏名又は名称
(iv) 消滅すべき担保権の表示
(v)(iv)の担保権の被担保債権の額
(vi)<1>(i)に掲げるときは、その組入金の額((i)の財産が複数あるときは、それぞれの財産に係る組入金に相当する額)
(vii)<2>の規定による協議の内容及びその経過
<4> 申立書には、<1>に規定する任意売却に係る売買契約の内容(ア<1>(i)の売買契約の締結及び履行のために要する費用であって破産財団から現に支出し、又は将来支出すべき額のうち相手方が負担するものを含む。)を記載した書面を添付しなければならないものとする。
<5> <1>の許可の申立てがあった場合には、申立書及び<4>の書面を、当該申立書に記載された<3>(iv)の担保権を有する者(以下「担保権者」という。)に送達しなければならないものとする。この場合においては 代用公告の規定は、適用しないものとする。

イ 担保権の実行の申立て(対抗手段1)
<1> 担保権者は ア<1>の許可の申立てに異議があるときは、すべての担保権者が申立書及びア<4>の書面の送達を受けた日から1月以内に、裁判所に担保権の実行の申立てを証する書面を提出することができるものとする。
<2> 破産管財人と担保権者との間で、売得金及び組入金の額(ア<1>(ii)に掲げる場合にあっては 売得金の額)について合意がある場合には、当該担保権者は 担保権の実行を申し立てることができないものとする。
<3> 裁判所は、担保権者につきやむを得ない事由がある場合に限り、当該担保権者の申立てにより、<1>の期間を伸長することができるものとする。
<4> <1>の書面が提出された後に、<1>の担保権の実行の申立てが取り下げられ、又は却下された場合には、当該書面は提出されなかったものとみなすものとする。民事執行法第188条において準用する同法第63条の規定又は同法第192条において準用する同法第129条の規定により担保権の実行の手続が取り消された場合についても、同様とするものとする。
<5> ア<1>の許可の申立てについての不評可の決定が確定した後に、<1>の担保権の実行の申立てが取り下げられ、又は却下された場合において、破産管財人がア<1>の許可の申立てをしたときは、<1>にかかわらず、当該担保権の実行の申立てをした担保権者は、<1>の書面を提出することができないものとする。

ウ 担保権者の買受けの申出(対抗手段2)
<1> 担保権者は、ア<1>の許可の申立てに異議があるときは イ<1>の期間(イ<3>により伸長されたときは当該期間。以下同じ。)内に、破産管財人に対し、当該担保権者その他の者(以下「買受希望者」という。)がア<1>の財産を買い受ける旨の申出(以下「買受けの申出」という。)をすることができるものとする。
<2> 買受けの申出は、買受希望者がア<1>の財産を買い受けることにより破産管財入に取得させるこどになる金銭の額(売買契約の締結及び履行のために要する費用であって破産財団から現に支出し、又は将来支出すべき額のうち買受希望者が負担するものの額を除く。以下「買受けの申出の額」という。)を記載した書面でしなければならないものとする。
<3> イ<2>の規定は、買受けの申出について準用するものとする。
<4> 買受けの申出の額は、申立書に記載されたア<3>(ii)の売得金の額にその10分の1の額に相当する額を加えた額以上でなければならないものとする。
<5> <1>の場合において、ア<1>の財産が複数あるときは、それぞれの財産の買受けの申出の額に相当する額を<2>の書面に記載しなければならないものとする。この場合において、その額はア<3>(ii)のそれぞれの財産の売得金に相当する額を下回ることはできないものとする。
<6> 買受けの申出があったときは、買受希望者は、最高裁判所規則で定める額(買受けの申出の額の10分の2)及び方法による買受けの申出に係る保証金を破産管財人に交付しなければならないものとする。
<7> 買受けの申出をした者又は買受希望者は、<1>の期間内は、当該買受けの申出を撤回することができるものとする。
<8> 破産管財人は、買受けの申出があったときは、<1>の期間が経過した後、裁判所に対し、ア<1>の財産を買受希望者(買受けの申出が複数あった場合にあっては 最高の買受けの申出の額に係る買受希望者)に売却する旨の届出をしなければならないものとする。この場合においては、<1>の期間内にされた買受けの申出に係る<2>の書面を提出しなければならないものとする。

エ 許可の決定
<1> 裁判所は、担保権者がイ<1>の期間内にイ<1>の書面を提出したときを除き、ア<1>の許可の決定をすることができるものとする。
<2> ウ<8>の場合において、<1>の許可の決定があったときは、破産管財人とウ<8>に規定する買受希望者(以下「買受人」という。)との間で、ア<4>の書面の記載内容と同一の内容(売却の相手方を除く。)の売買契約が締結されたものとみなすものとする。この場合においては、買受けの申出の額を売買契約の売得金の額とみなすものとする。
<3> ア<1>の許可の申立てについての裁判があったときは、買受希望者(買受人を除く。)は、当該申出を撤回することができるものとする。
<4> 担保権者は、イ<1>の期間が経過した後は、オ<6>により<1>の許可の決定が取り消され、又は不許可の決定が確定するまでの間、担保権の実行の申立てをすることができないものとする。
<5> 破産管財人は、ア<1>の許可の申立てを取り下げるには、買受希望者(<1>の許可の決定が確定した後にあっては、買受人)の同意を得なければならないものとする。

オ 価額に相当する金銭の納付
<1> エ<1>の許可の決定が確定した場合には、当該決定に係る売却の相手方は、次の(i)又は(ii)に掲げる区分に応じてそれぞれに定める額に相当する金銭を裁判所の定める期限までに裁判所に納付しなければならないものとする。
(i)当該決定に係る売却の相手方がア<3>(iii)の売却の相手方である場合 ア<1>(i)又は(ii)に掲げる区分に応じてそれぞれに定める額
(ii)当該決定に係る売却の相手方が買受人である場合 売得金の額(ウ<6>の保証金に相当する額を除く。)
<2> <1>(ii)による金銭の納付があったときは、ウ<6>の保証金は、売得金に充てるものとする。
<3> <2>の場合には 破産管財人は、ウ<6>の保証金に相当する額の金銭を直ちに裁判所に納付しなければならないものとする。
<4> 担保権者の有する担保権は、<1>及び<3>による金銭の納付があった時に消滅するものとする。
<5> <1>及び<3>による金銭の納付があったときは、裁判所書記官は、消滅した担保権に係る登記又は登録の抹消を嘱託しなければならないものとする。
<6> <1>による金銭の納付がなかったときは、裁判所は、エ<1>の許可の決定を取り消さなければならないものとする。
<7> <6>の場合には、買受人は、当該保証金の返還を求めることができないものとする。

力 配当等の実施等
裁判所は、オ<1>及び<3>の規定による金銭の納付があった場合には、配当表に基づいて、担保権者に対する弁済金の交付又は配当を実施しなければならないものとする。

(注)
許可の申立てについての裁判に対する即時抗告、送達、配当手続等について、所要の規定を整備するものとする。

(後注)
1 第28回会議の審議では、破産管財人は、例えば、不動産上の占有者の排除等に関して、費用を負担する場合もあるので、買受けの申出により破産管財人と買受人との間で売買契約が成立するものとみなされたときであっても、このような負担を考慮して、破産管財人が売得金のうち一定割合を破産財団に組み入れることができるものとすべきであるとの意見等が述べられた。
しかし、上記のような費用の負担が生ずるかどうかは、売買ごとの個別の事情によって異なり、また、このような費用が生ずるとしてもそれが相手方ひいては買受人が負担すべきものとして売買代金に織り込まれるかどうかは、契約条件によって定められるものである。
また、同様に、(後注)2の「売買契約の締結及び履行のために要する費用」の負担を考慮して、破産管財人と買受人との間で売買契約が成立するものとみなされた場合であっても、破産管財人が売得金のうち一定割合を破産財団に組み入れることができるものとすべきであるとの考え方もあり得るが、その額等は、やはり個別の事情によって異なるものである。
したがって、売却によって破産管財人において取得される金銭の中から上記のような費用に相応する部分を法律上一律に一定割合として定めることは困難ではないかと考えられる。
以上の点を踏まえ、買受けの申出により破産管財人と買受人との間で売買契約が成立するものとみなされた場合には 法律上一定割合(例えば、2パーセントないし3パーセント)は当然に組み入れることができるとする考え方について、どのように考えるか。

2 もっとも、仲介手数料や印紙代等、売買契約の締結及び履行のために要する費用(以下「売買契約に要する費用」という。)については 第31回会議の審議では 買受けの申出「がされた場合に、それについても破産財団が負担することになると、破産管財人が許可の申立てをするインセンティブを失わせることになるのではないかとの懸念が示された。
この点については、買受けの申出により破産管財人と買受人との間で売買契約が成立するものとみなされたとしても、このような売買契約に要する費用についてまで、担保権者に配当されることになるとするのは相当でないと考えられる。また、この事情は、当初の売却においても同様であると考えられる。そこで、本文では、対象となる財産の任意の売却によって相手方から取得することができる金銭及び買受けの申出の額から、「売買契約に要する費用であって破産財団から現に支出し、又は将来支出すべき額のうち相手方が負担する額に相当する金銭」を除くものとして(ア<1>(i)、ウ<2>参照)、これに該当する売買契約に要する費用については手続外で取り扱うものとすることを明らかにしている。
すなわち、売買契約に要する費用については、当初の任意売却における売買契約の内容として、売買契約に要する費用についての合意の内容をも申立書の添付書面に記載させるものとし(ア<4>)、許可の決定があった時に、破産管財人と買受人との間で成立したとみなされる売買契約の内容に含まれるものとしている(エ<2>)。
なお、このように売得金に該当せず、配当原資から除外される費用は、相手方が負担する額に相当するもののうち、破産財団から現に支出し、又は将来支出すべき額に限定しており(ア<1>(i、ウ<2>参照)、このような費用を売買契約の締結費用及び履行費用に限定し、かつ、相手方(買受人)の負担として相手方(買受人)から支払われるもの(実質的な償還)に限るとともに、その額についてもいわゆる実費分(「破産財団から現に支出し、又は将来支出すべき額」)としている。
また、消費税等、売買契約に伴って生ずる公租は、売買契約に要する費用とはいい難いと考えられるが、同様に担保権者に配当することは相当ではないと考えられるので、これにごついても売得金及び買受けの申出の額から除外すべきであると考えられる。
以上の考え方につき、どのように考えるか。

3 倒産法部会資料41では、買受けの申出の額は、売得金よりも10パーセント以上高額であることを要件とするとの考え方を示した(第12・2(3)ア(注)3(3)参照)。これについては、第31回会議の審議では、10パーセントは担保権者にとって高額に過ぎ、買受けの障害になるとの指摘がされたほか、担保権者による買受けの申出の条件を定めるには、買受けの申出があったときに組入れを認めるか否かという前記(後注)1及び2の問題をも考慮する必要があるとの指摘がされた。
しかし、破産管財人の組入れにより弁済額に影響を受ける担保権者自身が買受けの申出をする場合を想定すると、売得金よりも一定割合以上高額で申出をしなければならないものとしても、この増加分の金額は、当該担保権者に配当されることになるし、破産管財人が算定した組入額についても、法定の組入れを認めない限り、当該担保権者に配当されることになるものであり、その効果からみると、担保権者にとって過重な負担となるとはいえないと考えられる。
また、2の仕組みは、売買契約の締結費用及び履行費用について、相手方(買受人)がそのような費用として破産管財人に支払うことが合意されている場合に、前記のいわゆる実費分は配当すべき金銭とはしないとするものであり、それとは別に法律上当然に組入れを認める制度は採用しないとする場合には、破産管財人と担保権者の衡平の観点からは買受けの申出の額についても、従前どおり、売得金よりも10パーセント以上高額であることを要件とするのが相当であると考えられるが、どうか。

4 イ<4>は、担保権の実行の申立てが、専ら担保権消滅の許可がされることを妨害するなど濫用的に行われることを防止するための規定であるが、このような規定を設けた場合であっても、不許可決定が確定した後に、担保権者が担保権の実行の申立てを取り下げたときは、当該決定を取り消すことができないので、担保権者による濫用の防止の実効性は乏しいと考えられる。そこで、イ<5>では、担保権者が不許可決定が確定した後に担保権の実行の申立てを取り下げた場合等には 破産管財人が改めて許可の申立てをしたときは、当該担保権者は、担保権の実行の申立てを証する書面を提出することができないものとしている。
もっとも、剰余を生ずる見込みがないことから取り消された場合(イ<4>後段)には、担保権者は、現況調査や評価に関する手続費用を負担していることを考慮すると、濫用的に申立て行われたとみることは適当ではないと考えられるので、イ<5>では、書面を提出することができないのは、担保権の実行の申立てが取り下げられた場合又は却下された場合に限るものとしている。

目次

○トップページ

■第一次案

第1部 破産手続

第2部 個人の破産手続の特則及び免責手続等

第3部 倒産実体法

第4部 その他

■第二次案

第1部 破産手続

第2部 個人の破産手続の特則及び免責手続等

第3部 倒産実体法

第4部 その他

■第三次案

第1部 破産手続

第2部 個人の破産手続の特則及び免責手続等

第3部 倒産実体法

第4部 その他

■残された課題

第1部 破産手続

第2部 個人の破産手続の特則及び免責手続等

第3部 倒産実体法