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【第一次案】第2部 個人の破産手続の特則及び免責手続等: 第2 免責手続

1 免責の申立て
(1)申立ての時期等
<1> 債務者は、破産の申立てのあった時以後破産宣告が確定した日から1月を経過する日までに、破産裁判所に対し、免責の申立てをすることができるものとする。

<2> 債務者が破産の申立てをした場合には、同時に<1>の免責の申立てがあったものとみなすものとする。ただし、債務者が、破産の申立ての際に反対の意思を表示しているときは、この限りでないものとする。

<3> 債務者は、その責めに帰することができない事由により、<1>の期間内に免責の申立てをすることができなかった場合には、その事由が消滅した後1月以内に限り、免責の申立ての追完をすることができるものとする。
(注)
1 意見照会においては、上記<1>の考え方に対し、多数の賛成意見が寄せられたが、免 責の申立てができる終期について、破産者の中には、債権届出状況、管財人による財団収集状況、配当見込みの有無、債権者の動向等の状況により、免責申立てをするか否かを決める者もいると考えられるから、破産管財人が選任された場合は、「破産宜告が確定した日から1月を経過する日又は破産解止(終結、廃止)決定の前日のうち、いずれか遅い日まで」とすべきであるとの指摘があった。しかし、今回の改正においは、破産手続全体の迅速化を図っているにもかかわらず、免責申立てができる終期を遅らせることは、手続全体の遅延を招来しかねないこと、また、そのような者の意思は、一旦免責の申立て期した上で、免責の申立ての取下げを行うことによっても実現することができると考えられることから、中間試案の考え方(「破産宣告が確定した日から1月を経過する曰」を免責申立ての終期とする。)を維持することで、どうか。

2 中間試案においては、上記<2>のただし書として「債務者が破産の申立てと同時に免責を求めない旨の申述をしたときは、この限りでないものとし、当該申述をした債務者は、免責の申立権の放棄をしたとみて、<1>の免責の申立てをすることができないものとしていた(中間試案第2部第2の1(1)<3>)。しかし、意見照会においては、中間試案の<2>ただし書について、債務者の無知を奇貨として債権者による誤導や強制により免責を求めない旨の申述をした場合に取返しがつかないことから、これを削除すべきであるとの指摘があり、また、本人申立事案を想定して、免責を求めない旨の申述の撤回又は<1>の期間中は免責の申立てができるとすべきであるとの指摘もあった。そこで、手続を熟知していない本人申立事案が相当数あることを考慮して、中間試案の<2>のただし書を削除すると共に、免責を受けることを潔しとしない者や免責不許可事由があることが明らかである者のように、免責を望まない債務者の意思を尊重する観点から、債務者が破産の申立てと同時に免責の申立てがあったとみなされないことを望む意思を表示しているときは、この限りでないものとする(上記<2>ただし書)が、<2>ただし書の意思表示については、申立権の放棄の効果(中間試案<3>)までは認めないものとし、当該意思表示をした者は、<1>によって、破産宣告が確定した曰から1月を経過する曰までは、免責の申立てができるものとすることで、どうか。

3 意見照会においては、<3>の考え方について、意見照会において多数の賛成意見が寄せられたことから、中間試案の考え方を維持している。

(2) 申立ての方法
破産申立時の債権者一覧表(破産法第138条参照)と免責手続における債権者名簿(同法第366条ノ3参照)の記載事項は、同一のものとし、債務者が破産の申立てをする場合には、免責手続における債権者名簿の提出を要しないものとする。
(注)
意見照会においては、実務との取扱いに資するとして、債権者一覧表及び免責手続における債権者名簿の記載事項を最高裁判所規則で定めることを含めて、賛成する意見がほとんどであったことから、最高裁判所規則で定めるものとする。

2 免責についての審理
(1)調査
ア 調査の方法
免責の調査は相当な方法によってすることとし、期日における審尋(破産法第 366条ノ4第1項参照)によることを要しないものとする。
(注)
中間試案においては、期日を必要的なものといしない場合に、任意的な期日への不出頭をどのように取り扱うのか(第366条ノ10参照)については、なお検討する(中間試案第2部第2の2(1)ア(注))ものとしていた。意見照会においては、<1>現行法と同様に、申立ての却下事由とする意見、<2>手続における義務違反として免責不許可事由(第366条ノ9第5号参照)とする意見、<3>期日の懈怠が直ちに申立却下事由、免責不許可事由となるのではなく、それが説明義務違反となる場合には、そのことが免責不許可事由となるとの意見、<4>二回不出頭で申立て取下げとみなすべきであるとの意見が寄せられた。期日における審尋を任意的なものとする以上は、その懈怠のみによって申立ての却下又は免責不許可という破産者に不利益な効果を与えることは、期日が指定された破産者とそうでない者との間に不平等を生じ、妥当でないと考えられる。したがって、任意的な期日への不出頭等と免責申立て又は免責不許可という効果とを直接関連づけることはしないものとするが、免責不許可事由の検討(破産者に裁判所の免責の調査に対する協力義務を認め、その義務違反を免責不許可事由とするなど)と並行して、なお検討するものとする。また、破産申立てについての審尋を含め、審尋において由立人が虚偽の陳述をした場合の制裁等についても検討する必要がある。

イ 破産管財人による調査及び報告
裁判所は、破産管財人に免責不許可事由(破産法第366条ノ9参照)の有無又は破産宣告に至った経緯その他裁量免責の判断に必要な事情につき調査をさせ、その結果について書面で報告させることができるものとする。
(注)
1  意見照会においては、上記イの考え方に対して、多数の賛成意見が寄せられたが、 実務上、破産管財人の調査報告は、免貰審尋期日における口頭での報告で済ませることも行われており、破産管財人の負担軽減の観点から、口頭での報告も認めるべきであるとの指摘があった。しかし、今回の改正においては、期日における審尋(第366条ノ4第1項参照)を必要的なものとしない(前記ア参照)ので、常に口頭による報告が可能であるとは限らないこと、また、実務上は書面で報告することとされているとの意見もあり、口頭による報告が全国的に運用としご定着しているとまではいえないこと、書面による報告とした場合であっても、書面の記載事項の工夫により管財人の負担の軽減を図ることは十分に可能であることから、口頭による報告を認めることは適当でないと考えられる。もっとも、将来的には、Eメール等のIT技術を用いた報告方法も想定されることから、このような方法にも対処し得るように「書面その他の最高裁判所規則で定める方法」によるとすることも考えられるが、どうか。

2 中間試案においては、裁量免責(後記4(i)参照)の当否について、裁判所が破産管財人の意見を聴くことができるものとするかどうかについては、なお検討するものとされていた(中間試案第2部、第2の2(1)イ(注))が、意見照会においては、これに賛成する意見が多数寄せられたので、裁量免責の当否をも調査の対象とすることとしている。もっとも、破産管財人の具体的な調査の対象は、裁判所が裁量免責の判断において考慮すべき破産宣告に至った経緯その他の事情であると考えられることから、これを調査の対象事項として追加している。なお、裁量免責の当否については、破産管財人からの意見聴取を義務化すべきであるとの指摘もあった。しかし、免責事件の内容は様々であり、免責不許可事由には該当するものの、それが軽微であって、明らかに裁量免責が妥当であるという事案も相当数存在すると考えられることから、一律に破産管財人による意見聴取を義務付けることは適当でないと考えられるが、どうか。

3 中間試案においては、破産管財人による調査及び報告を<1>の異議申立期間[意見申述期間]前に行うものとするかどうかについては、なお検討するものとされていた(中間試案第2部、第2の2(2)ア(注1))。意見照会においては、破産管財人による調査及び報告は、債権者からの異議を踏まえて行った方が効率的であること、異議申立期間〔意見申述期間〕経過までに破産管財人が調査及び報告を終了させることは困難であることから、異議申立期間〔意見申述期間〕経過後に破産管財人の調査及び報告を行うべきであるとの意見が多数寄せられた。また、異議申立期間〔意見申述期間〕の早期の段階で債権者から異議が申し立てられた場合には、管財人が直ちに調査に着手した方が手続の迅速化に資すると考えられる。そこで、破産管財人の調査及び報告について、時期的な制限を設けないとすることで、どうか。

(2)異議申立て〔意見申述〕
ア 債権者の異議申立て〔意見申述〕の期間
<1> 裁判所は、免責の申立てがあったときは、破産宣告のあった時以後、免責についての異議申立期間〔意見申述期間〕を定めなければならないものとする。

<2> <1>の異議申立期間〔意見申述期間〕を定める決定は、公告をするとともに、検察官、破産管財人及び免責の効力を受けるべき知れている破産債権者に通知しなければならないものとする。

<3> <1>の異議申立期間〔意見申述期間]は、<2>の公告が効力を生じた日から起算して(3週間)[1月]以上としなければならないものとする。

(注)
1 免責手続における「異議申立て」という用語については、なお検討するものとする。
2 意見照会においては、上記<1>から<3>までの考え方に対して、賛成意見が多数寄せられた、もっとも、<3>の異議申立期間〔意見申述期間〕にごついては、1月以上とすることに賛成する意見も相当数寄せられ、さらには、債権者側の立場からは、今後の事件増に伴う債権者の事務負担の増加を考慮して、2月とすべきであるとの意見も寄せられたところである。そこで、これらの意見を踏まえ、あらためて具体的な異議申立期間〔意見申述期間〕について、どのように考えるか。
3 中間試案においては、最高裁判所規則において、異議申立て〔意見申述〕は免責不許可の事由を具体的に明らかにしてしなければならない旨を定めるものとする(民事再生規則第39条参照)考え方を示していた(中間試案第2部、第2の2(2)ア(注2))。意見照会においては、これにご賛成する意見のみが寄せられたことから、最高裁判所規則において、その旨を定めるものとする。
4 検察官に通知を要するものとするかどうかについては、検察官の異議申立権〔意見申述権〕を認めるかどうか(後記(異議申立権て関係後注)参照)と併せて、なお検討するものとする。

イ 異議申立人〔意見申述人〕等の意見聴取
裁判所による破産者及び異議申立人〔意見申述人〕の意見聴取は、免責の調査の一環として適宜行うものとする(破産法第366条ノ8の規定は削除するものとする。)。

(注)
1 意見照会においては、1上記イの考え方に対して、多数の賛成意見が寄せられたが、手続保障の観点から、これに反対する意見もあった。裁判所は、自ら職権で調査をすることができ(第366条ノ20において準用する第110条第2項)、破産者又は異議申立人の意見を聴くことが必要な事案については、当然に意見聴取が行われると考えられることから、全ての事件について必要的に意見聴取を行うまでの必要性は乏しいと考えられるが。この点について、どのように考えるか。

2 中間試案にておいては、復権についての異議申立てて[意見申述]があった場合の意見聴取に関する破産法第371条の規定も、同権に削除するものとする考え方を示していた(中間試案第2部、第2の2(2)イ(注))が、これに反対する意見は寄せられなかった.そこで、復権についての異議申立て〔意見申述〕があった場合の意見聴取に関する破産法第371条の規定も、削除するものとする。また、同様の趣旨に基づくと考えられる免責取消前の意見聴取(第866条ノ16)についても、削除するものとすることで、どうか。

(異議申立て[意見申述]関係後注)
中間試案においては、検察官の異議申立て〔意見申述〕の制度(第366条ノ7参照)を廃止するものとするかどうかについては、免責不許可事由と罰則との関係をも踏まえてなお検討するものとしていた(中間試案第2部、第2の2(後注))。意見照会においては、この制度を廃止すべきであるとの意見が多数寄せられたが、他方で、罰則事項に関し検察官の役割が想定される以上は、検察官の異議申立て〔意見申述]の制度を廃止すべきでないとの意見や、犯罪として起訴した場合は、公益の見地から免責について反対意見を述べることはそれなりの意味があるので、犯罪として起訴された公訴事実が免責不許可事由に該当する場合は、検察官に異議申立[意見申述〕権と免責許可に対する即時抗告権を認めるのが相当であるが、そうでない場合はこれらを認めないとするのが相当であるとして慎重な検討を求める意見も寄せられたところである。この問題は、罰則規定を免責不許可事由(第366条ノ9第1号)として存続させるか (後記4(2)(注2)参照)、また、免責不許可事由の内容をどのように規定するかという事項とも関係することから、これらの事項の検討と並行して、なお検討するものとする.

3 免責手続中の個別執行禁止効
<1> 免責の申立てがあり、かつ、破産終結決定又は破産廃止決定があったときは、免責の申立てに関する裁判が確定するまでの間、破産者の財産に対する破産債権に基づく強制執行、仮差押え、仮処分又は一般の先取特権若しくは留置権(商法の規定によるものを除く。)による競売(以下<1>において「強制執行等」という。)の手続はすることができず、破産者の財産に対して破産宣告前に既にされている強制執行等の手続は中止するものとする。

<2> 免責の決定が確定したときは、<1>により中止した手続は、その効力を失うものとする。
(注)
1 意見照会においては、上記<1>及び<2>の考え方に対して、多数の賛成意見が寄せられた。
2 中間試案においては、個別執行禁止の対象には非免責債権(破産法第366条ノ12参照)をも含めるものとするが、扶養料等(後記5(ii)参照)の要保護性の特に高いと考えられる債権に限って個別執行禁止効を解除する制度を設けるものとする考え方の当否については、なお検討するものとしていた(中間試案第2部、第2の3(注))。意見照会においては、解除の制度を設けるべきであるとの意見が少数寄せられたものの、不要とする意見の方が多く、また、免責手続中の解除の制度を設けるとすると、それとの均衡上、破産手続においても同様の制度を設けなけれいばならなくなるが、そのような合理性及び必要性までは認められないと考えられることから、解除の制度は設けないことで、どうか。

3 意見照会においては、破産者の給与債権が差し押えられている場合等は、破産者保護の観点から、中止された強制執行等の手続の取消しを認める方向で検討すべきであるとの意見が相当数寄せられた。しかし、取消しまで認めるとすると、免責が不許可になった場合に差押債権者に与える不利益が大きいこと、免責申立てに対する裁判所の判断がされる前に強制執行等の取消しを認めることは免責許可の判断を先取りしているに等しいといえること、給与の4分の3に相当する部分(その額が標準的な世帯の必要生計費を勘案して政令で定める額を超えるときは、政令で定める額に相当する部分)は破産者の手元に入ることとなり(民事執行法第152条第1項第2号)、本来それによって破産者の生活保障は図られていることから、取消しの効果までは認める合理性及び必要性は乏しいと考えられるが、どうか。

4 上記<1>において、禁止及び中止の対象となる手続として、民事留置権による競売の手続を掲げることの是非(中間試案第2部、第2の3補足説明参照)については、意見照会において、特段の意見は寄せられなかった。破産宣告によって民事留置権は破産財団に対してその効力のを失う(第93条第2項)ものの、破産廃止の場合には効力をなお持続すると考えられている(相対的無効)ことから、目的物が留置権者の占有下にある場合には なお個別執行を想定しうると考えられる。そして、民事留置権に基づく個別執行(形式競売。民事執行法第196条)が行われた場合の他の債権者による配当要求の可否については争いがあるものの、これを肯定したとしても、留置権者は破産者に対する換価金の交付義務と破産債権とを相殺でき、これにより債権の満足を受けることができることとなる。このように民事留置権者だけが満足を受けることは債権者間の公平を害することから、民事留置権による競売の手続を禁止及び中止の対象となる手続に加えることで、どうか。

5 免責手続中、雇用主である会社側が破産終結後に発生した退職金支払債務と破産債権 とを相殺したり、共済組合等が破産終結後に代理受領によって得た退職金の返還債務と破産債権とを相殺するなどして、破産債権の満足を得ている事案があることから、破産債権を自働債権とする免責手続中の相殺についても、それができないことを明らかにすべきであるとの指摘がある。このような指摘に係る相殺については、(i)破産手続中、破産債権を自働債権とし自由財産に属する債権を受働債権とする相殺が一般に禁止されると解されていること、(ii)破産手続中は認められなかった相殺が破産終結後に可能となり、免責手続中に破産債権の実現を図ることができることとなるのは相当でないと考えられることから、破産債権に基づく強制執行等と同じく、認められるべきではないと考えられる。もっとも、相殺は債権者側からの一方的な破産債権の実現行為である点で強制執行等と共通するとみることができるから、この限りにおいては、相殺について別途明文を置くまでもなく、解釈によって対応が可能であるとも考えられる。この点につき規定を設ける必要性については、どのように考えるか。規定を設けるものとすると、相殺の場合には、破産手続中、破産債権を自働債権とする相殺が一定の範囲で認められるため、禁止される相殺の範囲が問題となる。例えば、同時破産廃止決定がされたときは、仮に破産手続が遂行されていたならば相殺が可能であった財産(受働債権となるべき債権)を想定することができ、そのように破産手続において可能であったはずの相殺は、免責手続中の相殺禁止の対象から除外されるべきではないかとも考えられる。この点については、(8)破産手続において保障された相殺権が奪われる結果となるのは不当であり、破産手続において認められない相殺(破産財団に属しない債権を受働債権とするもの。第104条に該当するもの、破産管財人の催告を通じて相殺権を放棄したとみなされる場合(中間試案第3部・第6、1参照)等)のみを禁止の対象とするとの考え方(破産財団に属する財産がすべて換価・処分されたときは、受働債権とすべき財産が破産者の手元に残らないと解されるので、この考え方による場合も、相殺権の行使が認められるのは、同時廃止や異時廃止の場合に限定されることになろう。)、(b)相殺権の行使による破産債権の実現は、第16条の例外として破産手続において認められたものであり、破産手続における相殺の機会が与えられることで破産法上の相殺権の保護は十分であって、破産終結後免責手続中の相殺まで確保するまでのものではないとして、そのような相殺権行使の機会の与えられなかった同時廃止の場合のみ、禁止の対象から除外するとの考え方、(c)相殺権の行使による破産債権の実現は、第16条の例外として破産手続において認められるものである以上、同時廃止であれ、破産終結後免責手続中は相殺による破産債権の特別の実現方法は認められないとして、およそ全面的に免責手続中の相殺を禁止するものとするとの考え方等があり得る。免責手続中の相殺禁止の範囲については、どのように考えるか。

4 免責の裁判
(1) 裁量免責
<1> 裁判所は、免責不許可事由(破産法第366条ノ9及び後記(2)参照)がある場合を除き。免責を許可するものとする。

<2> 裁判所は、免責不許可事由がある場合であっても、破産宣告に至った経緯その他一切の事情を考慮して免責を相当とするときは、免責を許可することができるものとする。

(2) 免責不許可事由
破産法第366条ノ9第4号については、破産者について次の(i)から(iii)までに掲げる事由のいずれかがある場合において、それぞれ(i)から(iii)までに定める日から7年以内に免責の申立てがされたことをもって、免責不許可事由とするものとする。
( i) 免責の決定が確定したこと 当該決定の確定の曰
(ii) 給与所得者等再生における再生計画が遂行されたこと 当該再生計画認可の決定の確定の曰
(iii) 民事再生法第235条第1項(同法第244条において準用する場合を含む。)に規定する免責の決定が確定したこと 当該免責の決定に係る再生計画認可の決定の確定の日

(注)
1 意見照会においては、上記(i)の考え方に対しては、多数の賛成意見が寄せられたことから、中間試案の考え方を維持している。

2 上記(ii)及び(iii)の考え方に対しては、かつて再生計画の全部又は4分の3を誠実に遂行した者と、単に破産宣告を受けただけの者とを同に取り扱うのは均衡を失するとして、(ii)及び(iii)を免責不許可事由とすべきではないとの意見が相当数寄せられた。しかし、給与所得者等再生による再生計画を遂行をした者及びハードシップ免責を受けた者と破産者は いずれも債権者の多数の同意なしに免責を受けるという点では共通であり、これを無制限に認めるとモラル・ハザードを招来するおそれがあることから、給与所得者等再生の適格要件を制限したという経緯があり、このことは破産免責の場面でも同様であると考えられる。そこで、(ii)及び(iii)の事項を免責不許可事由とすることで、どうか。

3 また、制限期間については、(i)から(iii)までのいずれについても、3年から5年とすべきである、5年とすべきであるとの意見も寄せられた。しかし、制限期間を5年以下とした場合には、給与所得者等再生及びハードシップ免責については、再生計画の変更が行われたときは、実質的に免責不許可事由として機能しなくなることから、相当でないと考えられるが、どうか。

4 給与所得者等再生において、過去に破産免責等を受けた者につき、給与所得者等再生の利用を制限している民事再生法第289条第5項第2号イ、ロ及びハの規定についても。同様に制限期間を7年とするものとする(中間試案第2部、第2の4(2)(注1)参照)との考え方に対しては、意見照会において、多数の賛成意見が寄せられたことから、中間試案の考え方を維持している。

5 中間試案においては、第366条ノ9第1号の見直しについては、なお検討するものとしていた(中間試案第2部、第2の4(2)(注2))。意見照会においては、免責不許可事由を罰則規定と関連させることは適当でないとの意見が多数寄せられたことから、免責不許可事由と罰則規定とを切り離し、罰則規定の実質的内容を免責不許可事由において別個に規定する方向で検討することで、どうか。また、「浪費又ハ賭博其ノ他ノ射倖行為」(第375条第1号)については、免責不許可事由から削除すべきであるとの意見が相当数寄せられたものの、モラル・ハザード防止の観点からなお免責不許可事由として維持すべきとの意見が多数であった。もっとも、免責不許可事由として維持するとしても要件の明確化を図るべさであるとの指摘が相当数寄せられている。「浪費又ハ賭博其ノ他ノ射倖行為」について、これに代わる適切な要件があるか。この点について、どのように考えるか。

(3) 免責の決定の確定
免責の決定が確定した場合の公告の制度(破産法第366条ノ14参照)は廃止するものとする。

5 非免責債権
次の( i)及び(ii)に掲げる債権を非免責債権(破産法第366条ノ12参照)に加えるものとする。
(i) 破産者による人の生命又は身体を侵害する不法行為で故意又は重大な過失によるものに基づく損害賠償請求権(破産法第366条ノ12第2号に該当するものを除く。)
(ii)破産者が養育者又は扶養義務者として負担すべき費用に関する債権
(注)
1 委見照会においては、上記5の考え方に対して、多数の賛成意見が寄せられた。
2 意見照会にておいては、上記5(i)及び(ii)に掲げる債権の金額が多額であると、多重債務者の生活の再建等を阻害するので、過去1年分程度に制限すべきであるとの意見が寄せられた。しかし。上記5(i)及び(ii)に掲げる債権を非免責債権とした趣旨は、不法行為の被害者又は扶養を受ける者の保護を強化することにあることからすれば、過去1年分程度に制限したのでは、その趣旨に沿わないものと考えられる。そこで、そのような制限はしないこととしている。

3 中間試案においては、給与所得者等再生における免責及びハードシップ免責の場合の非免責債権の範囲の見直しについては、なお検討するものとしていた(中間試案第2部、第2の5(注))。意見照会においては、<1>非免責債権を認める必要がないとの意見と、<2>上記5(i)及び(ii)に掲げる債権については非免責債権とすべきであるとの意見が寄せられた。<1>の意見は、(a)給与所得者等再生における免責及びハードシップ免責の場合は債務者の相当程度の出損があってはじめて免責を得ることができるのであるから、破産の場合と非免責債権の範囲を同一とする必要がないこと、(b)非免責債権を認めると、その債権をカットすることなく他の債権を弁済する再生計画を立てることができず、個人再生手続を利用できる事案が減少することなどを理由とし、他方、<2>の意見は、(a)過去に「給与所得者等再生による再生計画を遂行をしたこと及びハードシップ免責を受けたことを免責不許可事由とする(前記(2)(ii)(iii)参照)こととの均衡から、給与所得者等再生における免責及びハードシップ免責の場合の非免責債権の範囲を同様に考えるのが理論上整合的であること、(b)同 の債権について、清算型手続である破産手続においては非免責債権とされているのに、より多くの弁済が保障されている再建型手続である再生手続において免責されるとすることは均衡を失することを理由とするものと考えられる。以上を踏まえて、この点について、どのように考えるか。また、仮に上記5(i)及び(ii)に掲げる債権を非免責債権とした場合の取扱いについてには(ア)再生計画によって変更されず、即時に全額弁済を受けられるものとする(手続外債権とする。)考え方や(イ)再生計画によって弁済期の繰延べがされ、計画に従って弁済を受けるが、免責の効果は受けず、計画遂行後に残額につい、て弁済を受けるものとする考え方などがあり得るが、この点について、どのように考えるか。

(免責手続関係後注1) 中間試案においては、裁判所は、免責不許可事由(破産者が破産手続上の義務を怠り、手続の進行を妨害する行為類型のものを除く。)については、債権者の異議がない限り、無審査で免責を許可するものとする考え方の当否については、なお検討するものとしていた。意見照会においては、上記の考え方に賛成する意見が多かったものの、これに反対する意見も相当数寄せられた。この点については、<1>破産財団に属する財産の隠匿(第374条第1号)のように、債権者がこれを認識して異議を申し立てることが困難と考えられる事由については、債権者の異議がないことをもって無審査とすることは適当とはいい難いこと、<2>免責の許可の判断は裁判所の職権調査事項とされていること(第366条ノ20において準用する第110条第2項)がいらすれば、免責不許可事由に関する情報を必ずしも十分に持ち得ない債権者の異議がなかったからといって、そのことのみを根拠として、裁判所が一切調査を行わすに免責を認めることを理論的に説明することは困難であると考えられることから、この制度は設けないことで、どうか。

(免責手続関係後注2)中間試案においては、第366条ノ9第2号を免責不許可事由から除外して。詐術に係る債権を非免責債権とするものとする考え方の当否については、なお検討するものとしていた。意見照会においては、上記の考え方に対しては、賛成、反対、それぞれ相当数の意見がが寄せられ、さらには、免責不許可事由から除外した上で、非免責債権にもしないとの意見も寄せられた。不誠実な破産者については免責不許可事由が定められ、一定の債権が非免責債権とされるなど、その範囲について合理的制限が設けられていることが免責制度の合憲性の根拠とされている(最決昭和36年12月13日参照)ことからすると、詐術による信用取引をしたことを免責不許可事由とせず、かつ、非免責債権にもしないという考え方は、免責制度の合憲性の基礎を失わせるおそれもあり、採用することができないと考えられるが、どうか。また、詐術による信用取引1といってもその態様は様々であり、悪質性の軽微なものについては、なお裁量により免責を許可することが相当な場合もあり得ること、逆に悪質性の強いものについては、悪意による不法行為に基づく損害賠償請求権(第366条ノ12第2号)として非免責債権となり得ることから、第366条ノ9第2号を免責不許可事由から除外しないものとすることで、どうか。

(免責手続関係後注3) 中間試案においては、同時廃止となる場合についても、(a)免責の申立てがあるときは、同時廃止決定に代えて、破産宣告をした上で、管財人を選任せずに、免責の申立てについての裁判と同時に破産廃止の決定をする(確定時期も同一とする。)ものとする考え方、(b)財産の調査権を有し、免責不許可事由の有無の調査を行う機関を置くことができるものとする考え方の当否については、なお検討するものとしていた。意見照会においては、上記の考え方に対して、多数の反対意見が寄せられたものの、賛成意見も相当数あった。今回の改正によって、免責手続中も個別執行禁止効が認められることとなれば、破産手続の基本構造を変更してまで(a)の考え方を採用する必要性は乏しいこと、破産管財人とは別に(b)の財産管理権を有せずに調査権のみを有する機関のみを置いても、調査の結果、隠匿財産や偏頗行為が明らかになった場合に取りうる手段がなく実効性がないこと、費用負担や給源の確保について困難な問題があることから、(a)及び(b)の考え方は採用しないことで、どうか。

(全体関係後注) 個人債務者の自己破産事件の急増と関連して、破産に至らずに個人債務者の経済生活を再建することができる途を更に拡げる観点から、個人再生手続の基本構造を保ちつつ、小規模個人再生及び給与所得者等再生の特則の適格要件である再生債権の総額の上限(民事再生法第221条第1頃)を引き上げる(例えば、5000万円~6000万円程度)べきであるとの考え方があるが、どのように考えるか。また、この場合には、最低弁済額(同法第231条第2項第3号)をも引き上げる必要があるか。

目次

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■第一次案

第1部 破産手続

第2部 個人の破産手続の特則及び免責手続等

第3部 倒産実体法

第4部 その他

■第二次案

第1部 破産手続

第2部 個人の破産手続の特則及び免責手続等

第3部 倒産実体法

第4部 その他

■第三次案

第1部 破産手続

第2部 個人の破産手続の特則及び免責手続等

第3部 倒産実体法

第4部 その他

■残された課題

第1部 破産手続

第2部 個人の破産手続の特則及び免責手続等

第3部 倒産実体法