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【残された課題】第3部 倒産実体法: 第1 否認権

1 対価的均衡を欠く代物弁済等の否認
破産者がした債務の消滅に関する行為であって、債権者が受けた給付の価額が当該行為によって消滅した債務の額より過大であるものは、消滅した債務の額に相当する部分を超える部分について否認することができるものとする。

(注) この点については 要綱案では 「詐害行為(狭義)に関する否認の要件」の中に記載するものとする。

2 詐害行為の否認の効果
(1) A案【否認の相手方に現物返還か差額賠償かの選択権を認める考え方】
<1> 詐害行為が否認されたときは相手方は、次の(i)又は(ii)に掲げる区分に応じ、それぞれ(i)又は(ii)に定める権利を行使することができるものとする。
(i) 破産者の受けた反対給付が破産財団中に現存する場合 当該反対給付の返還を請求する権利
(ii) 破産者の受けた反対給付が破産財団中に現存しない場合 財団債権者として反対給付の価額の償還を請求する権利
<2> <1>(ii)にかかわらず、詐害行為が否認された場合において、破産者が、当該行為の当時、対価として取得した財産について隠匿等の処分をする意思を有し、かつ、相手方が、当該行為の当時、破産者がその意思を有していたことを知っていたときは 相手方は、次の(i)又は(ii)に掲げる区分に応じ、それぞれ(i)又は(ii)に定める権利を行使することができるものとする。
(i) 破産者の受けた反対給付によって生じた利益が破産財団に現存する場合 財団債権者としてその現存利益の返還を請求する権利
(ii) 破産者の受けた反対給付によって生じた利益が破産財団に現存しない場合 破産債権者として反対給付の価額の償還を請求する権利
<3> 詐害行為が否認されたことによって相手方が破産財団に属する財産を返還する義務を負担する場合には、相手方は、当該財産の価額から<1>又は<2>によって財団債権となる額(<1>(i)の場合にあっては、破産者の受けた反対給付の価額)を控除した額を破産管財人に弁償して当該財産の返還を免れることができるものとする。
<4> <3>に規定する場合において、相手方が<3>の規定により破産財団に属する財産の返還を免れるためには、否認訴訟又は否認の請求の手続において、<3>の規定による弁償をする旨の主張をしなければならないものとする。
<5> 相手方が<4>の主張をした場合には否認訴訟又は否認の請求の手続が係属する裁判所はその判決又は決定において、<3>の弁償をすべき額及び期間を定めなければならないものとする。
[<6> 再建型の手続においては、<3>から<5>までの制度は設けないものとする。]

(注)
1 A案は、倒産法部会資料42の考え方と同様、<3>から<5>までの制度(以下「売渡請求権の制度」という。)の趣旨を、主として、否認の対象財産の保持を可能にする手段を否認の相手方に与えることによる否認のリスクの軽減に求め、詐害行為(狭義)が否認された場合に現物の返還をするか、これに代えて差額賠償をするかの選択権を否認の相手方に認める考え方である。すなわち、「適正価格」であるか否かの判断は、行為時には必ずしも容易でないにもかかわらず、譲り受けた財産を最終的に保持することができない可能性があることが本来許されるべき経済活動に萎縮的効果を与えているとの指摘がされていることを踏まえ、売買契約等が否認された場合でも、当該財産の保持を可能にする手段を付与することにより、このような萎縮的効果の除去を意図したものである。

2 第32回会議では、再建型の手続について否認の相手方に選択権を認めるのは相当でないとする意見が多数を占めたことを踏まえると、売渡請求権の制度は、これを認めても破産管財人の事務に支障を来さない(むしろ、管財事務の迅速化に資すると考えられる)破産手続においてのみ設けることが考えられる。もっとも、否認の対象となった行為の当時に、その後どのような倒産処理手続が開始されることになるかを予測することは通常は困難であるから、売渡請求権の制度を破産手続においてのみ設けることとすると、1に記載したこの制度の趣旨を相当程度没却することになると考えられる。

(2) B案【破産管財人等に現物返還か差額賠償かの選択権を認める考え方】
<1> 詐害行為が否認されたときは相手方は、次の(i)又は(ii)に掲げる区分に応じ、それぞれ(i)又は(ii)に定める権利を行使することができるものとする。
(i) 破産者の受けた反対給付が破産財団中に現存する場合 当該反対給付の返還を請求する権利
(ii) 破産者の受けた反対給付が破産財団中に現存しない場合 財団債権者として反対給付の価額の償還を請求する権利
<2> <1>(ii)にかかわらず、詐害行為が否認された場合において、破産者が、当該行為の当時、対価として取得した財産について隠匿等の処分をする意思を有し、かつ、相手方が、当該行為の当時、破産者がその意思を有していたことを知っていたときは、相手方は 次の(i)又は(ii)に掲げる区分に応じ、それぞれ(i)又は(ii)に定める権利を行使することができるものとする。
(i) 破産者の受けた反対給付によって生じた利益が破産財団に現存する場合 財団債権者としてその現存利益の返還を請求する権利
(ii) 破産者の受けた反対給付によって生じた利益が破産財団に現存しない場合 破産債権者として反対給付の価額の償還を請求する権利
<3> 破産管財人は、詐害行為の否認によって破産財団に復帰すべき財産の返還に代えて、相手方に対し、当該財産の価額から<1>又は<2>によって財団債権となる額(<1>(i)の場合にあっては 破産者の受けた反対給付の価額)を控除した額の償還を求めることができるものとする。

(注)
1(1) B案は、<3>の制度(以下「差額賠償の制度」という。)の趣旨を、主として、破産管財人等の事務の円滑化・合理化に求め、現物返還か差額賠償かの選択権を破産管財人等に認める考え方である。
(2)この考え方によると、破産管財人等が差額賠償を選択した場合には、売却の否認の相手方は、事実上適正価格による買受けを強制されることになることから、この点が否認の相手方に不当な不利益を課すものといえないかどうかが問題となる。
この点については 危機時期にある債務者の財産を安価に買い受けた者としては、通常はその価格であるからこそ買い受けたのであって、適正価格であれば売買契約は締結しなかったという場合も多いものと考えられる。そうであるにもかかわらず、その者の意思に関わらず差額賠償を認めるとすると、否認の相手方は、当該否認の対象となった売買契約等を締結する前の状態より不利な立場に置かれることになって、相当でないとも考えられる。
そして、この点の結論が不当であると考えるのであれば、再建型の手続を含め、破産管財人等に現物返還か差額賠償かの選択権を認めることは相当でないということになると考えられる。
(3) これに対して、破産管財人に差額賠償をするか否かの選択権を認めたとしても、否認の相手方に不当な不利益を課すものではないと考えるのであれば、破産手続の場合を含め、破産管財人に選択権を認めることも可能であると考えられる。
この考え方をとる場合には 上記の問題点については、次のような説明をすることが考えられる。
(a) 差額賠償の制度は、売買代金額の上積みを要求するものではなく、否認対象財産の一部を金銭的に評価した上で取り戻すに過ぎない。
(b) 現行法の下でも、現物の返還ができない場合には、否認の相手方は、目的物全体の価額賠償義務を負担するのであって、その場合に破産管財人等が価額賠償請求権と相手方の取得する財団債権とを相殺すれば、結果的に差額賠償を認めたのと同じ結果となるのであるから、全ての場合につき差額賠償をするか否かの選択権を認めることが否認の相手方に不当な不利益を課すことにはならないと考えられる。
(c) この制度によれば、適正価格からかけ離れた価格で買い受けをした者ほど不利益を受けることとなり、適正価格に近い価格で買い受けた者は通常は差額賠償を希望することが多いと考えられるから、その意味では 不利益を受ける否認の相手方の利益を考慮する必要性に乏しい。
(4) 民法の詐害行為取消権における議論では、債権者は、現物返還が可能な場合には、金銭賠償を求めることはできないと一般に解されていることから、 B案をとる場合には、詐害行為取消権との間の整合性についても検討する必要があると考えられる。
この点については 詐害行為取消権は、一債権者が将来の強制執行の準備として行使するものであり、取消の対象となった財産を公平に分配するための制度が設けられていないことから、取消債権者からの価額賠償を認めると、結果的に当該取消債権者が事実上の優先弁済を受けることとなるのに対して、否認権の場合には、公正・中立な立場にある破産管財人等が金銭を受領し、これを債権者に対する弁済原資とするか、債権者の共同の利益に用いることが当然に予定されているのであるから、否認権においてB案のような制度を設けたとしても、必ずしも詐害行為取消権との間で整合性を欠くことにはならないと考えられるが、どうか。
2 差額賠償の制度趣旨を上記のように考えると、破産手続では、全ての財産を換価するのであるから、破産管財人に選択権を認める必要がなく、差額賠償のみを認めることで足りるのではないかとも考えられるが、例えば、否認の対象となった財産と他の財産との一括売却等によって破産財団が増殖するといった場合も考えられ、その場合には現物返還を認める意味があるから、破産手続においても選択権を認めることとしている。

目次

○トップページ

■第一次案

第1部 破産手続

第2部 個人の破産手続の特則及び免責手続等

第3部 倒産実体法

第4部 その他

■第二次案

第1部 破産手続

第2部 個人の破産手続の特則及び免責手続等

第3部 倒産実体法

第4部 その他

■第三次案

第1部 破産手続

第2部 個人の破産手続の特則及び免責手続等

第3部 倒産実体法

第4部 その他

■残された課題

第1部 破産手続

第2部 個人の破産手続の特則及び免責手続等

第3部 倒産実体法