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【第一次案】第3部 倒産実体法: 第2 各種債権の優先順位

1 租税債権
(1)破産宣告前の原因に基づいて生じた租税債権
<1> 破産宣告前の原因に基づいて生じた国税徴収法又は国税徴収の例により徴収することのできる請求権(以下、「租税債権」という。)であって、破産宣告の日以後又はその前の「一定期間」内に納期限が到来するものは、財団債権とするものとする。

<2> <1>以外のものについては、優先的破産債権とするものとする。

(注)
1 <1>の「一定期間」については、意見照会においても、(a)3月、(b)6月、(c)1年、(d)2年と様々な意見が寄せられた。また、「一定期間」を決めるに当たって考慮すべき要素についても、「破産宣告前の原因に基づいて生じた租税債権は、本来的には優先的破産債権となるべきものであるから、この期間はできるだけ短期間とすべきである。」といった意見が複数寄せられたが、他方、「この期間を短期間とすると、徴税当局が租税債権に基づく滞納処分を早期に行うことにより、倒産を早期化させるおそれがある。」といった指摘も複数寄せられている。また、「破産宣告前の「一定期間」より前に具体的納期限が到来した租税債権を一律に優先的破産債権とするとすれば、徴収職員は、基本的には具体的納期限から「一定期間」内に滞納事案を処理せざるを得なくなることを考慮すると、この「一定の期間」については、限られた徴収職員で大量反復的に発生する滞納事案を効率的に処理することを前提に、一般的に滞納整理に要する期間を考慮して定める必要がある。」との指摘もされている。これらの点についてどのように考えるか。

2 <1>の「納期限」は、いわゆる具体的納期限(国税通則法第35条第2項等参照)を意味するものである。これは、例えば、申告納税方式をとる租税の場合には、法定納期限の経過後に期限後申告書や修正申告書が提出され、又は更正処分等がされることによって納付すべき税額が確定する場合が考えられるが、これらの場合には、徴税当局は、法定納期限の時点では納付すべき税額を把握することができず、租税債権を優先的破産債権として取り扱う根拠(破産法分科会資料8第2・1(1)(理由)1参照)に欠けると考えられる点等を考慮したものである。特に破産者に申告漏れがあったような場合には、徴税当局が申告漏れの事実を把握した時点では既に法定納期限から「一定期間」を徒過しているといった事態が生じ得ることになるが、このような場合に申告漏れに係る租税を優先的破産債権とするのは相当でないと考えられる。もっとも、意見照会においては、具体的納期限を基準とすると、本来であれば、より早期に納税の告知(国税通則法第36条等参照)等を行い、具体的納期限を定めるべき事実であったにもかかわらず、徴税当局が業務を懈怠し、破産宣告の直前になって納税の告知等期したというような場合にも、当該租税債権が財団債権とされることになって不都合であるとの問題点が指摘されているが、どのように考えるか。この点については、租税債権については自力執行力が付されており、ことさらに納税告知を遅らせることは想定しにくいと考えられること、新会社更生法第129条についても類似の問題が生じ得るが、判例(最判昭和49年7月22日民集28巻第5号1008頁)は、その理由中において「納税告知の遅延が徴税当局の恣恣意によるような場合には、信義則等により共益債権としての請求を制限することも考慮できないわけではな」いと判示しており、仮に上記のような事態が生じた場合には、同様の解釈をすることによりその不都合を解消することが可能であること等から、特段の問題は生じないとの指摘もあるが、どのように考えるか。

(2)(1)の租税債権の破産宣告後に生ずる附帯税
(1)により財団債権となる租税債権につき破産宣告後に生ずる延滞税、利子税又は延滞金は財団債権とし、(1)により優先的破産債権となる租税債権につき破産宣告後に生ずる延滞税、利子税又は延滞金は劣後的破産債権とするものとする。

(注)
中間試案では、「破産宣告後に生ずる附帯税」としていたが、(2)では、「附帯税」の内容を具体的に示している。このうち、「延滞税」は、国税の全部又は一部を法定納期限内に納付しない場合に、未納税額を課税標準として課される附帯税で(通則法60条1項)、私法上の遅延利息に相当するものであり、「利子税」は、所得税、法人税、相続税及び贈与税について延納又は納税申告書の提出期限の延長が認められた場合に、それが認められた期間の約定利息の性質を持つものである。また、「延滞金」は、地方税や各種の社会保険料において生ずるものであり、国税における「延滞税」に相当するものである(なお、地方税や各種の社会保険料においては、国税の「利子税」に相当するものはない。)。私債権については、財団債権につき破産宣告後に生ずる利息及び遅延損害金は財団債権とされ(破産法第47条第4号参照)、破産債権につき破産宣告後に生ずる利息及び遅延損害金は劣後的破産債権とされている(破産法第46条第1号及び第2号)ことからすると、租税債権についても、これと同様の取扱いをすることが相当であると考えられるので。「附帯税」のうち、「延滞税、利子税及び延滞金」については、中間試案を維持するものとすることで、どうか。附帯税」には、ここに掲げた「延滞税、利子説又は延滞金」のほか、各種加算税(過少申告加算税、無申告加算税、不納付加算税又は重加算税)がある(国税通則法第2条第4号参照)。各種加算税は、申告納税制度及び源泉徴収による納付制度の定着と発展を図るため、申告義務又は源泉徴収による税の納付義務が週更に履行されない場合に課される附帯税であるが、この取扱いについて検討する必要がある。この点については、(i)各種加算税は、私法上の違約金(破産法第46条第2号参照)に相当するものとして延滞税等と同様の取扱いをする考え方のほか、(ii)加算税が制裁金としての性格を有する こと(最判昭和33年4月30日民集12巻6号938頁参照)にかんがみ、罰金等と同様に、その発生時期に関わりなく劣後的破産債権とする考え方(破産法第46条第4号参照。なお、破産宣告後、破産管財人が申告義務又は徴収納付義務を負担する場合において、その不履行があった場合には、財団債権になる(破産法第47条第4号)と考えられる。)等があり得るが、この点についてどのように考えるか。

(3)破産財団に関して破産宣告後の原因に基づいて生ずる租税債権
<1> 破産財団に関して破産宣告後の原因に基づいて生ずる租税債権は、破産財団の管理、換価及び配当に関する費用の請求権(破産法第47条第3号参照)に該当すると認められるものに限り、財団債権とするものとする。

<2> <1>以外のものについては、劣後的破産債権とするものとする。
(注)
意見照会においては、「破産財団の管理、換価及び配当に関する費用の請求権」の範囲を明確化すべきであるとの意見が寄せられたが、その具体的内容を規定上明示するのは著しく困難であると考えられるから、この点は解釈に委ねることでどうか(同様の問題は民事再生法等にもあると考えられる。)。

2 労働債権
(1) 破産宣告前の未払の給料債権
破産宣告前の一定期間内に生じた給料債権は、財団債権とするものとする。

(2)破産宣告前の退職手当の請求権
(ア)甲案
<1> 〔破産宣告前の原因に基づいて生じた〕退職手当の請求権は、退職前(破産宣告時に退職していない場合にあっては、破産宣告前)の一定期間の給料の総額に相当する額又はその退職手当の額の一定割合に相当する額のいずれか多い額を財団債権とするものとする。

<2> 破産者の使用人が破産宣告の時に退職していない場合には、<1>の退職手当の額は、破産宣告の時における評価額とするものとする。

<3> <1>の退職手当の請求権が定期金債権であるときは、<1>の退職手当の額は、次の(a)又は(b)に定める額とするものとする。(a)定期金の金額及び存続期間が確定しているもの 各期における定期金の合計額から、各期における定期金の中間利息に相当する部分(破 産法第46条第7号参照)の合計額を控除した額(b)定期金の金額又は存続期間が不確定であるもの 破産宣告の時における評価額

(イ)乙案
<1> [破産宣告前の原因に基づいて生じた〕退職手当の請求権には退職前(破産宣告時に退職していない場合にあっては、破産宣告前)の一定期間の給料の総額に相当する額を財団債権とするものとする。

<2>(ア)<2>及び<3>に同じ。
(注)
1 上記の考え方のほか、意見照会においては、給料債権及び退職手当の請求権の合計額のうち、破産宣告前の一定期間の給料の総額に相当する額を財団債権とするとの考え方に賛成する意見もあったが、給料債権と退職手当の請求権とでは財団債権とする根拠が異なるとも考えられることから、その範囲についてもそれぞれ個別に定めるものとする案を提示している。

2 退職手当の請求権について割合要件(「退職手当の額の一定割合に相当する額」)を設けることの当否について中間試案では、甲案の考え方を掲げたが、これは、新会社更生法第130条第2項と同様、在職期間が長期にわたり退職手当の請求権が高額になる労働者の保護を図ることを考慮したものである。しかしながら、この点については、意見照会においても、破産手続の場合は、再建型の手続である更生手続とは異なり、基本的に全ての労働者が退職するから、退職手当の請求権を財団債権とすると破産財団を圧迫に、破産廃止の事案が増加することを懸念する意見が相当数寄せられたところである。乙案は、このような意見照会の結果も踏まえ、退職手当の請求権について、財団債権の額が特に高額になるおそれの高い割合要件を設けないこととしたものである。上記の点について、どのように考えるか。

3 現行法の下で破産宣告後に退職した場合の退職手当の請求権がどのように取り扱われるべきかという点については、(ア)全額財団債権となるとする説、(イ)全額破産債権となるとする説、(ウ)賃金の後払的性格を有する退職金のうち、破産宣告前の労働の対価とみられる部分を破産債権とし、破産宣告後の労働の対価とみられる部分を財団債権とする説等があるが、上記の見直しをする場合には、これらの各説との関係を整理する必要がある。この点については、(i)基本的に(ウ)の考え方をとった上で、本来的には破産債権となる退職手当の請求権の一部を財団債権として取り扱うこととするとの考え方(この考え方によると、退職手当の請求権のうち、(a)(2)によるものと、(b)破産宣告後の労働の対価とみられる部分とが財団債権になることになる)や、(ii)更生手続の場合と同様に、上記のいずれの説をとるかにかかわらず、退職手当の請求権が財団債権となるのは、(2)の額に限定されるとの考え方(新会社更生法では、上記のいずれの説をとるかにかかわらず、退職手当の請求権が共益債権となるのは、同法第130条第2項の額に限定されるものと一般に解されている。)があり得るが、どのように考えるか。また、仮にこ(ii)の考え方をとる場合には、甲案の<2>及び<3>(乙案をとる場合も同様の問題がある、)の 「破産宣告時における評価額」を算定する必然性は乏しいと考えられることから、この基準時を「破産宣告の時」としている点を改め、退職時を基準時とすることが考えられる(<2>に相当するものは不要となり、<3>の基準時は退職時となる。)が、どうか。もっとも、このような考え方によると、破産宣告後に給料が下がった場合には、財団債権となる退職手当の請求権の額が破産宣告時を基準時とする考え方をとる場合よりも減少するので、破産宣告後に退職した場合において、退職前の「一定期間の給料の総額」が破産宣告前の「一定期間の給料の総額」より少ないときは、後者を基準とすること等が考えられる。

4 破産債権となる労働債権(退職手当の請求権)の債権調査の対象労働債権のうち給料の請求権については、中間試案の考え方は、当該請求権の発生時期によってその振分けをするものであるから、財団債権の額が決まらなくても、優先的破産債権である給料の請求権の額を算定することが可能であり、債権調査の対象も当該「一定期間」より前に発生した債権の内容及び原因等ということになるものと考えられる。これに対して、退職手当の請求権の場合には、財団債権を超える部分が優先的破産債権となるという関係にあるので、優先的破産債権の額を算定するにはその前提として、財団債権の額を算定する必要があることになる。そこで、退職手当の請求権については、何を破産債権の調査の対象とすべきかという点が問題となる。この点については、(a)退職手当の総額から財団債権分を控除した部分(破産債権となる部分)が調査の対象となるとする考え方(この考え方によると、結果的に財団債権の額についても調査の対象となることになる。)と、(b)退職手当の総額のみを調査の対象とする考え方等があり得ると考えられる。このうち、(a)の考え方をとると、財団債権に関する訴訟と破産債権の確定に関する訴訟とで財団債権の額についての判断権者が異なることから、退職金の総額=財団債権の額+優先的破産債権の額という関係が保障されない場合があり得ることとなり、その意味で労働債権者又は他の破産債権者が不当に不利益を受けるおそれがあることになる。このような不利益が処分権主義に基因するものであれば、異なる判断がされる事態が生じ得るのもやむを得ないと考えられるが、この場合には、法律上訴訟物の分断を強制する結果このような事態が生じる点が問題であるように思われる。また、破産債権者は、そもそも財団債権の額については争えないものとされていること等を考慮すると、退職手当の請求権についても財団債権の額を債権調査の対象とする必要はないとも考えられる。以上のような点を考慮すると、(b)の考え方をとるのが相当ではないかと考えられるが、この点についてどのように考えるか。もっとも、(b)の考え方をとる場合には、退職手当の総額の調査、確定手続が終了している場合であっても、財団債権となる退職手当の請求権の額に争いがあれば、結果的に配当額算定の基準となる破産債権の額が決まらないことから、当該退職手当の請求権を有する者に、「中間配当をすることができなくなる点が問題となる(財団債権の額に争いがある場合には、いずれにしても最後配当をすることはできない。)。この点については当該退職手当の請求権を有する者は、その総額につき、少なくとも優先的破産債権として権利行使をすることができる立場にあり、その後財団債権の額が訴訟等で確定すれば、より高い優先順位で弁済を受け得ることになるに過ぎない。そうすると、中間配当の時点で財団債権となる退職手当の請求権の額が未確定であっても、そのために当該退職手当の請求権を有する者に配当をしないのは相当でなく、とりあえず、退職手当の請求権の総額が優先的破産債権であるものとして配当を行い、財団債権の額が確定した後の配当において一種の配当調整を行うことが考えられる(後記(参考)<4>参照)。この点について、どのように考えるか。

(参考) 上記の(b)の考え方をとった場合のイメージ
<1> 破産者の使用人は、退職手当の請求権については、当該請求権の額から上記(2)により財団債権となる額を控除した額についてのみ、破産債権者として、その権利を行うことができるものとする。

<2> 破産債権である退職手当の請求権を有する者が破産手続に参加しようとする場合には、当該破産債権者は、債権届出期間内に退職手当の請求権(上記(2)により財団債権となる部分を含む。)の内容及び原因、議決権の額その他最高裁判所規則で定める事項を裁判所に届け出なければならないものとする。

<3> 破産債権である退職手当の請求権の調査は、退職手当の請求権(上記(2)により財団債権となる部分を含む。)の内容及び原因、優先的破産債権であること並びに議決権の額について行うものとする。

<4> 財団債権となる退職手当の請求権の内容に争いがある場合には、破産管財人は、退職手当の請求権(上記(2)により財団債権となる部分を含む。)の全額が優先的破産債権であるものとして配当(最後配当を除く。)をしなければならないものとする。この場合において、当該配当の後財団債権となる退職手当の請求権の額が確定したときは、当該配当における配当額は、確定した財団債権の額を限度として財団債権の弁済に充てられたものとみなすものとする。

5 財団債権となる労働債権につき査定の裁判の制度を設けることの当否財団債権となる労働債権の額について債権者と破産管財人との間で争いがあり、訴訟等になった場合には、破産債権者に配当すべき財団の範囲が確定せず、手続が遅延するおそれがあることから、財団債権である労働債権についても、破産債権の査定の裁判の制度と同様の制度を設ける必要があるとの指摘があるが、この点についてどのように考えるか。もっとも、財団債権は、財団不足が明らかである場合を除き、全額について随時弁済を受けられるものであることから、基本的には割合的弁済を受け得るに過ぎない破産債権の場合とは異なり、決定手続によって債権額が確定する場合は必ずしも多くないとも考えられる。また、この点を考慮すると、仮に、査定の裁判の制度を設けるとする場合であっても、役員の責任に基づく損害賠償請求権の査定の裁判と同様に、財団債権の内容に争い、がある場合も原則として査定の裁判の前置を強制するということはせず、訴訟をするか、査定の裁判をするかの選択を当事者に委ねるのが相当であると考えられるが、どのように考えるか。

(3)労働債権に対する弁済の許可
<1> 優先的破産債権となる給料債権又は退職手当の請求権(以下 「給料債権等」という。)について届出をした破産債権者が、その破産債権の弁済を受けなければ、その生活の維持を図るのに困難を生ずるおそれがあるときは、裁判所は、最初の配当の許可があった日までの間、破産管財人の申立てにより又は職権で、その弁済をすることを許可することができるものとする。ただし、その弁済により財団債権を有する者及び先順位又は同順位の他の優先的破産債権を有する者の利益を害するおそれがないときに限るものとする。

<2> 破産管財人は、<1>の給料債権等を有する破産債権者から<1>の申立てをすべきことを求められたときは、直ちにその旨を裁判所に報告しなければならないものとする。この場合において、破産管財人は、その申立てをしないこととしたときは、遅滞なく、その事情を裁判所に報告しなけれいばならないものとする。

<3> <1>により弁済を受けた破産債権者は、同順位の他の優先的破産債権者が自己の受けた弁済と同一の割合の配当を受けるまでは、破産手続により配当を受けることができないものとする。

(注)
1 中間試案では、弁済許可の要件の1つとして「生活の維持を図るのに箸しい困難を生ずるおそれがあるとき」を要求していたが、<1>では、この要件を緩和している。これは、意見照会の結果を踏まえるとともに、上記の制度は、許可の範囲を配当が確実に見込まれる額に限定しており、上記の要件を緩和しても他の債権者の利益を害するおそれは少ないとと等を考慮したものである。

2 中間試案では 弁済許可をすることができる終期を「最初の配当期日」としていたが、ここでは、終期を「最初の配当の許可があった日」とする考え方を掲げている。これは、最初の配当における配当表の作成の後にこの制度に基づく弁済を行うと、配当表の更正が必要になること、最初の配当の許可がされてから最初の配当期日までの間に弁済を認める必要性は乏しいこと等を考慮したものであるが、どのように考えるか。

3 破産債権の届出をしていない破産債権者に弁済の許可をするのは相当でないことから、<1>では、弁済許可の要件として破産債権の届出が必要となる点を明確化している。

4 この制度によって弁済がされると、議決権の額も弁済を受けた限度で減少することになると考えられる。

5 意見照会においては、更生手続については、一定の範囲の労働債権が共益債権とされており(新会社更生法第130条)、弁済許可の制度を設ける必要性が少ないこと、更生会社の再建のためには手元流動資金を可及的に確保すべき要請が高いこと等を理由として、弁済許可の制度を設ける必要はないとの意見が大勢を占めたことから、上記の制度は破産手続においてのみ設けることで、どうか。

3 その他の各種債権
(1) 無利息債権の期限までの中間利息分
破産宣告後に期限が到来すべき確定期限付債権で無利息のものについては、破産宣告の時から期限に至るまでの期間の年数(その期間に1年に満たない端数があるときは、これを切り捨てるものとする。)に応じた債権に対する法定利息の額に相当する部分を劣後的破産債権とするものとする。

(2)合意による劣後債権(劣後ローン)
ア 破産手続
<1> 債権者と債務者との間において、破産手続における配当の順位につき破産法第46条各号に掲げる債権(劣後的破産債権)に後れる旨の合意がされた債権は、同条各号に掲げる債権に後れるものとする。

<2> 破産債権者は、<1>の合意がされた債権については、議決権を有しないものとする。

(注)
約定劣後債権を除く破産債権のうち、一定の要件を満たす債権についてのみ劣後する旨の約定がされた場合には、<1>の要件には該当しないことになるが、このような特約の効力まで認めるものとすると、配当の循環が生じ、配当額が決められない場合が生じ得ること、このような特約がされた債権は自己資本性がないと考えられ、この点についてまで手当てをする必要性は少ないと考えられることから、上記のような約定に関する規定は設けないものとすることで、どうか。

イ 再生手続
<1>ア<1>の合意がされた債権(以下「約定劣後債権」という。)について、届出がされ、又は認否書(民事再生法第101条第3項参照)に記載がされた場合には再生計画においては、ア<1>の合意における権利の順位を考慮して、再生計画の条件に公正、衡平な差等を設けなければならないものとする(新会社更生法第168条第3項参照)。

<2> <1>に規定する場合には、再生計画案の決議は、<3>の場合を除き、再生債権(約定劣後債権を除く。)を有する者と約定劣後債権を有する者とに分かれて行うものとする(新会社更生法第196条第1項参照)。

<3> 再生債務者が再生手続開始の時においてその財産をもって約定劣後債権に優先する債権を完済することができない状態にあるときは、約定劣後債権を有する者は、議決権を有しないものとする(新会社更生法第166条第2項参照)。

<4> <2>の場合において、約定劣後債権につき再生計画案の可決の要件を満たす同意を得られなかったため、再生計画案が可決されなかった場合においても、裁判所は、再生計画案を変更し、約定劣後債権を有する者のために次に掲げる方法のいずれかにより約定劣後債権を保護する条項を定めて、再生計画認可の決定をすることができるものとする(新会社更生法第200条第1項参照)。

(a)約定劣後債権を有する者に対して破産の場合に配当を受けることが見込まれる額又は裁判所の定める約定劣後債権の公正な取引価額を支払うこと。
(b)その他前号に準じて公正かつ衡平に約定劣後債権を有する者を保護すること。

<5> 再生計画案について、約定劣後債権につき再生計画案の可決の要件を満たす同意を得られないことが明らかであるときは、裁判所は、再生計画案の作成者の申立てにより、あらかじめ、約定劣後債権を有する者のために<4>(a)又は(b)の方法のいずれかにより当該権利を保護する条項を定めて、再生計画案を作成することを許可することができるものとする(新会社更生法第200条第2項参照)。

<6> <5>の申立てがあったときは、裁判所は、申立人及び約定劣後債権を有する者のうち一人以上の意見を聴かなければならないものとする(新会社更生法第200条第3項参照)。

<7> 再生債務者等が届出がされていない約定劣後債権があることを知りながら、これを認否書に記載をしなかった場合において、他に届出がされ、又は認否書に記載がされた約定劣後債権が存しないときは、再生債務者は、当該約定劣後債権について、その責任を免れるものとする(民事再生法第181条第1項及び第2項参照)。

(注)
1 約定劣後債権を有する者の議決権について、中間試案では、再生手続においては議決権の行使につき組分けをする必要のない制度設計がされていること等を考慮して、これを認めない考え方を示したところである。意見照会においては、これに賛成する意見も相当数寄せられたが、他方、(a)再生手続においては、債務者が手続開始時における総財産をもって約定劣後債権に優先する債権(以下「上位債権」という。)の全額を弁済することができる場合も考えられ、その場合に約定劣後債権を有する者の議決権を否定するのは相当でないこと、(b)債務者の総財産をもって上位債権の全額を弁済することができる場合は稀であり、その場合に組分けをすることとしても実務上の障害にてなることはほとんどないと考えられること等を理由として、これに反対する意見も相当数寄せられたところである。また、株主の権利との比較においても、株主の権利は、再生手続においては手続外の権利とされ、再生計画の決議につき議決権を有しないものの、債務超過でない限り、再生計画による権利変更を受けることはないものとされている(民事再生法第166条第2項)。これに対して、約定劣後債権については、総財産をもって上位債権を完済することができる場合であっても、約定劣後債権を有する者の多数意思によることなく権利変更をされることになるのは均衡を失するとの指摘もあり得るところである。この点を合理的に説明するためには、約定劣後債権を有する者の合理的意思を問題とせざるを得ないと考えられるが、劣後ローンの合意にそこまでの意思を擬制することは困難であるとも考えられる。以上のような点を考慮すると、約定劣後債権について、届出がされ、又は認否書に記載がされた場合には、総財産をもって上位債権を完済することができない場合を除き、議決権を認め、一般の再生債権と約定劣後債権との間で組分けをするものとすることが相当ではないかと考えられるが、この点についてどのように考えるか。

2 約定劣後債権が資本代替的な性質を持っているとしても、あくまでも「債権」であることにかんがみると、約定劣後債権を有する者が議決権を有する場合に組分けを強制することはせず、一般の再生債権と約定劣後債権を同一の組にすることができるものとすることで、どうか(新会社更生法第196条第2項本文参照)。

3 再生計画案が可決されなかった場合の権利保護条項に関する規定は、約定劣後債権の組につき同意が得られなかった場合についてのみ設けることで、どうか。

ウ 更生手続
<1> 更生計画においては、次に掲げる権利の順位を考慮して、更生計画の内容に公正、衡平な差等を設けなければならないものとする(新会社更生法第168条第3項参照)。
(i)更生担保権
(ii)一般の先取特権その他一般の優先権がある更生債権
(iii)(ii)及び(iv)に掲げるもの以外の更生債権
(iv)約定劣後債権
(v)残余財産の分配に関し優先的内容を有する種類の株式
(vi)前号に掲げるもの以外の株式

<2> 更生計画案の決議は、原則として、<1>(i)から(vi)までに掲げる種類の権利を有する者に分かれて行うものとする(新会社更生法第196条第1項参照)。

<3> 更生会社が更生手続開始の時においてその財産をもって約定劣後債権に優先する債権を完済することができない状態にあるときは、約定劣後債権を有する者は、議決権を有しないものとする(新会社更生法第166条第2項参照)。

(約定劣後債権全体の注)
1 再建型の手続における条件の差等について
この点について、意見照会においては、BIS規制との関係で疑義が生ずることを回避するため、再生計画又は更生計画の条項の内容として、約定劣後債権を他の債権に絶対的に劣後させる旨を規定上明確化すべきであるとの意見が寄せられたところである。この点を規定と明確化しようとすると、再生計画又は更生計画の条項に関して、「再生計画又は更生計画において、約定劣後債権に優先する債権を減額又は免除する旨の条項を定めたときは、約定劣後債権の全額を免除する旨の条項を定めなければならない。ただし、手続開始時における財産をもって約定劣後債権に優先する債権を完済することができる場合はこの限りでない。」という規定を設けること等が考えられる。もっとも、このような規定を設ける場合には、株式についても、再生計画又は更生計画において再生債権又は更生債権等を減額又は免除する旨の条項を定めたときは、これを失権させることにしないと均衡を失するものと考えられるが、再生手続においては、債務超過の場合であっても1 0 0パーセント減資をしなければならないものとはされておらず、更生手続においても、債務超過の場合に株主に権利を与えることが必ずしも「公正、衡平」に反するとは解されていないようである。このように、再建型の手続において、債権と株式につき絶対的な優先・劣後の関係を認めることが必ずしも相当でないとすると、約定劣後債権の場合についても上記のような規定を設けることは相当でないと考えられるが、この点についてどのように考えるか。仮に、 BIS規制上、約定劣後債権と他の債権との間で絶対的な優先、劣後の関係を保障することが不可欠であるとすると、現行の実務で行われている停止条件構成(破産等の事由が生じた場合には、約定劣後債権の支払請求権がいったん停止し、上位債権者が全額の支払を受けることを条件に約定劣後債権の支払請求権が発生するとの取扱い)の方がこれになじむとも考えられることから、再建型については、むしろ規定を設けない方が適当であるとの指摘もあるが、どのように考えるか。

2 既存の契約の取扱い
破産手続との関係では、現行の劣後特約は、上位債権の破産宣告後の利息及び遅延損害金にも劣後する前提で約定がされており、結果的にそれと同順位の劣後的破産債権全てに劣後することが予定されているから、既存の契約に基づく劣後ローンも「破産法第46条各号に掲げる債権(劣後的破産債権)に後れる旨の合意がされた債権」に該当すると考えられる。また、破産手続においては、優先順位に差がある債権間においては絶対的な優先・劣後の関係が保障されるから、実際上の取扱いにおいても、寄託が不要となる等手続的な点を除くと、改正の前後で特段の変更が生じないと考えられる。これに対して、再建型の手続では、本文に掲げた見直しを行った後も、上位債権と約定劣後債権間の絶対的な優先・劣後の関係を保障する等の観点から、現在行われている停止条件構成の取扱いを認めることにするか否かについて検討する必要がある。仮に 停止条件構成の取扱いも認めることとすると、この類型のものについては、これまでどおり停止条件付債権として一般の再生債権又は更生債権の組に属することとなり、新法が適用される契約類型については、約定劣後債権の組に属することになるが、このような2類型の併存を認める必要性及び相当性については、疑問があるところである。このような2類型の併存を認めないこととし、この点について疑義が生じないようにするためには、それぞれの手続ごとに約定劣後債権の定義を変える必要がある(例えば、民事再生法では、約定劣後債権の定義を「一般の再生債権に後れる旨の合意がされた債権」とする。)とも考えられるが、この点についてどのように考えるか。 他方、上記の2類型の併存を認めないこととした場合には現行の取扱いと本文に掲げた見直しがされた後の取扱いとで次のような差異が生じるものと考えられる。まず、議決権に関しては、現行の取扱いでは、倒産処理手続開始時における評価額で議決権の行使が認められることとなるが、評価額が0円でない場合には、一般の再生債権又は更生債権の組において議決権を行使することになる。これに対し、本文に掲げた見直しがされれば、劣後ローン債権者は、約定劣後債権の組において議決権を行使することになる。また、現行の約定においては、約定劣後債権を除外すれば債務超過とはならない場合であっても、上位債権者の同意の下に上位債権につき債権カットがされれば、約定劣後債権もその影響を受け、再生計画又は更生計画において弁済を受けられないものとされているが、本文に掲げた見直しがされれば、この場合には、劣後ローン債権者も弁済を受け得ることになる。上記のように、本文に掲げた見直しがされた後の取扱いが現行の取扱いと異なることになるとすると、劣後債に対する投資家の信頼に影響を与えるおそれがあり得るとの指摘もされており、再建型の手続における手当ての要否を検討するに当たっては、上記の点をも考慮する必要があると考えられる。

(3)財団不足になった場合における財団債権の取扱い
<1> 破産財団が財団債権の総額を弁済するのに不足することが明らかにてなったときは、財団債権については、法令に定める優先権にかかわらず、まだ弁済していない債権額の割合に応じて弁済するものとする。ただし、財団債権について存在する留置権、特別の先取特権、質権及び抵当権の効力は、妨げないものとする。

<2> <1>本文の場合には、破産債権者の共同の利益のためにする裁判上の費用の請求権(破産法第47条第1号参照)並びに破産財団の管理、換価及び配当に関する費用の請求権(同条第3号参照)は、他の財団債権に先立って弁済するものとする。

(4)財団債権に基づく強制執行等の禁止等
<1> 破産宣告があったときは、破産財団に属する財産に対する財団債権に基づく強制執行、仮差押え若しくは仮処分、企業担保権の実行、一般の先取特権による競売又は国税徴収法若しくは国税徴収の例による滞納処分の手続は、することができないものとする。

<2> 破産財団に属する財産に対して既にされている財団債権に基づく強制執行、仮差押え若しくは仮処分、企業担保権の実行又は一般の先取特権による競売の手続は、破産財団に対してはその効力を失うものとする。ただし、破産管財人において破産財団のために強制執行又は一般の先取特権による競売の手続を続行することを妨げないものとする(破産法第70条第1項参照)。

(注)
1 上記の考え方は、(i)破産手続においては、財団債権の全額を支払えない事態は希有なこととはいえないこと、(ii)財団債権には、全破産債権者の共益的な費用としての性質を有するものだけでなく、政策的に財団債権とされているものも含まれており、財団債権者間の平等を図り、破産手続を円滑に進行させるためには、財団債権に基づく強制執行等を否定する必要性が高いこと等を考慮したものである。このような観点からすると、禁止の対象となる行為としては、強制執行、仮差押え又は仮処分だけでなく、一般の先取特権による競売も含める必要がある。そして、-般の先取特権による競売を禁止する場合には、一般の先取特権に劣後する企業担保権(企業担保法第7条第1項参照。なお、企業担保権の被担保債権である社債が財団債権となる場合としては、再建型の手続の開始後に発行した社債が共益債権に該当する場合において、その後牽連破産になったとき等が考えられる。)の実行手続をも禁止の対象とする必要があると考えられる。これに対して、財団債権について存在する留置権、特別の先取特権、質権及び抵当権による競売は、禁止されないものとする(破産法第51条第1項ただし書参照)。

2 破産財団に属する財産に対して国税徴収法又は国税徴収の例による滞納処分が既にされている場合には、破産宣告は、、その処分の続行を妨げないものとする(破産法第71 条第1項。その理由については、破産法分科会資料8第2・1(1)(理由)2参照)。

(各種債権の優先順位関係後注1)
財団債権の弁済を受けようとする者は、破産管財人がその存在を認識しているものを除き、遅滞なく、破産管財人に財団債権の内容及び原因を通知し'なければならないものとする考え方があるが、どのように考えるか。この点については、現行法の下でも、配当率又は配当額の通知を発する前に破産管財人に知れていない財団債権者には 当該配当における原資に対する優先権を失うものとされており(破産法第286条参照)、一定の手当てがされていることからすると、このような規定を置く意味は、期限末到来の財団債権等を含め、遅滞なく、その内容及び原因を通知させることによって、破産管財人が就任後早期に財団債権の総額についての見込みを立てることを可能にする点にあると考えられる。もっとも、このような考え方をとる場合でも、財団債権については破産管財人に対して通知をしなかったことをもって何らかの法的効果を付与することは相当でないと考えられる(この点から、仮に規定を設ける場合であっても規則事項になるものと考えられる。)ことからすると、実効性は確保しにくいとの指摘もあり得るが、どのように考えるか。また、仮に、このような制度を設ける場合であっても、破産管財人に対する通知を要する債権をその必要性が大きいもの(例えば、再建型の手続からの移行がされた場合における当該手続の共益債権)に限定することが考えられるが。どうか

(各種債権の優先順位関係後注2) 破産法第60条第2項の見直しの当否については、見直しに賛成する意見が裁判所、弁護士会を中心に多数寄せられており、見直しの内容としては、<1>解除によって双方に原状回復義務が生ずる場合に限ってこれを財団債権とすべきであるとの考え方や、<2>双方未履行の双務契約の処理の仕方を根本的に見直し、ドイツ倒産法等と同様、破産管財人の解除権に代えて履行拒絶権を付与することとすべきであるとの考え方を支持する意見が寄せられたところである。 他方、経済団体を中心として、現行法の規律は合理性を有しており、これを見直す必要はないとの意見も複数寄せられている。この点については、現行法の規律、<1>及び<2>の考え方のいずれについても、一定の合理性を有していると考えられ、このいずれを採用するかは政策的な判断を多分に含んでいると考えられる。また、現行法の規律に対してには当事者の一方のみが契約の一部の履行をしている場合には、その部分について与信をしているのであるから、その場合の原状回復請求権を財団債権とするのは相当でないとの批判がされているが、<1>の考え方についても、当事者の双方が契約の一部を履行しているという場合であっても、履行の程度には様々な場合が考えられ、相手方が履行した内容が破産者の履行した内容を大きく上回っている場合には、相手方は破産者に対して一定の信用を供与していることになると考えられるところ、この場合と相手方のみが一部の履行をしている場合とで取扱いを大きく変えることに合理性があるかという問題があるように思われる。他方、<2>の考え方については、そのような不均衡は生じないと考えられいるものの、双方未履行の双務契約一般についての規律を根本的に見直すものであり、その影響は大きいと考えられる。現行法の規律によると不当な結果が生ずる場合としては、主に建築請負等の場合において、注文者が請負代金の一部を前払をしていた場合が挙げられるが、<2>のような見直しを行った場合には、売買その他の双務契約一般の取扱いについても多大な影響が生じ、ひいてはそれぞれの契約における取引慣行にも影響を及ぼすことになるものと考えられる。見直しの当否及びその内容について意見照会においても意見が分かれていることに加え、以上のような点等を考慮すると、そのいずれの考え方についても決め手に欠け、現時点では、見直しの方向についての結論を得ることは困難ではないかと考えられる。したがって、今回の改正では、破産法第60条第2項については、見直しをしないものとすることで、どうか。

目次

○トップページ

■第一次案

第1部 破産手続

第2部 個人の破産手続の特則及び免責手続等

第3部 倒産実体法

第4部 その他

■第二次案

第1部 破産手続

第2部 個人の破産手続の特則及び免責手続等

第3部 倒産実体法

第4部 その他

■第三次案

第1部 破産手続

第2部 個人の破産手続の特則及び免責手続等

第3部 倒産実体法

第4部 その他

■残された課題

第1部 破産手続

第2部 個人の破産手続の特則及び免責手続等

第3部 倒産実体法