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【第三次案】第1部 破産手続: 第12 破産財団

1 破産財団の管理
(1)帳簿の閉鎖
裁判所書記官は、破産管財人の申立てにより、必要があると認めるときは、破産者の財産に関する帳簿を閉鎖することができるものとする。

(2) 財産の価額の評定
<1> 破産管財人は、破産手続開始の決定後遅滞なく、破産財団に属する一切の財産につき当該決定の時における価額を評定しなければならないものとする。
<2>破産管財人は、<1>による評定を完了したときは、直ちに破産手続開始の決定の時における財産目録及び貸借対照表を作成し、これらを裁判所に提出しなければならないものとする。
<3><2>にかかわらず、破産財団に属する財産の総額が最高裁判所規則で定める金額に満たない場合には、破産管財人は、裁判所の許可を得て、<2>の貸借対照表の作成及び提出をしないことができるものとする。

(注)
1 <1>は、裁判所書記官、執行官又は公証人の立会いの制度(破産法第186条前段参照)を廃止するものである。また、<1>及び<2>では、民事再生法にならって財産の評定の基準時並びに財産目録及び貸借対照表の作成の基準時を示すこととしている。
2 <3>は、簡易破産の特則(部会資料32第14・2(1)(2)参照)とされていた部分を<2>の例外として規定するものである。なお、金額については、最高裁判所規則において1000万円と定めるものとすることで、どうか。
3 破産者の立会いの制度(破産法第188条後段)については、破産者の利益の保護のためであるとされているが、これを任意的な制度とする(<1>の後段において、「この場合において、破産管財人は、破産者を立ち会わせることができる」旨の規定を設けるものとする。なお、この場合には、破産者の利益の保護とともに、破産者からの情報提供の機会の確保を制度の趣旨とみることになると考えられる。)ものとすることで、どうか。

(9)財団に属する財産の引渡し
<1>裁判所は、破産管財人の申立てにより、決定で、破産者に対し、破産財団に属する財産を破産管財人に引き渡すべき旨を命ずることができるものとする。
<2> 裁判所は、<1>の決定をする場合には、破産者を審尋しなければならないものとする。
<3><1>の申立てについての決定に対しては、即時抗告をすることができるものとする。
<4> <1>の決定は、確定しなければその効力を生じないものとする。(民事執行法第83条参照)

(注)
破産者が法人である場合であっても、例えば、法人の代表者の財産と法人の財産との区別が困難な場合があり得ること等を考慮すると、必要的な審尋(<2>)を破産者が個人である場合に限定するまでの必要はないのではないかと考えられるが、どうか。

(4)裁判所の許可を要する事項
<1> 破産管財人が次に掲げる行為をするには、裁判所の許可を得なければならないものとする。(i)~(xiv)(破産法第197条第1号から第14号までと同じ。)
(xv)その他裁判所の指定する行為
<2> <1>の規定にかかわらず、<1>(vi)から(xiv)までの行為(破産法第197条第7号から第14号までの行為)については、次の各号に掲げる場合には、<1>の許可を要しないものとする。
ア 最高裁判所規則で定める金額に満たない価額を有するものに関するとき。
イ アの金額以上の価額を有するものに関する場合であって、裁判所が、<1>の許可を要しないものとしたとき。

(注)
1 各号の内容については、第2号につき商標権の任意売却を追加する等所要の整備をするものとする。
2 最高裁判所規則において、<2>アの金額を100万円と定めるものとする。
3 <2>イは、部会資料37・第4(注)(b)(ii)の考え方を採用するものである。
4 監査委員の制度の廃止(前記第6参照)に伴い、破産法第198条及び第200条の規定は、削除するものとする。

(5)損害賠償請求権の査定
ア 損害賠償請求権の査定の裁判
裁判所は、法人である債務者について破産手続開始の決定があった場合において、必要があると認めるときは、破産管財人の申立てにより又は職権で、破産者の理事 取締役、執行役、監事、監査役、清算人又はこれらに準ずる者の責任に基づく損害賠償請求権の査定の裁判をすることができるものとする。
イ 損害賠償請求権の査定の裁判に対する異議の訴え

<1> ア<1>の査定の裁判に不服がある者は、その送達を受けた日から一月の不変期間内に異議の訴えを提起することができるものとする。
<2> <1>の訴えについての判決においては、訴えを不適法として却下する場合を除き、査定の裁判を認可し、変更し、又は取り消すものとする。
<3> 査定の裁判を認可し、又は変更した判決は、強制執行に関しては、給付を命ずる判決と同一の効力を有するものとする。
<4> <3>の判決については、裁判所は、必要があると認めるときは、破産管財人の申立てにより又は職権で、担保を立てて、又は立てないで、仮執行をすることができることを宣言することができるものとする。(民事再生法第143条及び第145条等、会社更生法第100条及び102条等参照)

(注)
1 損害賠償請求権の査定に関する裁判、査定の裁判に対する異議の訴え及び査定の裁判の効力については、会社更生法と同様の規定を設けるものとする。
2 民事再生法及び会社更生法の規定による保全処分と同様の制度を設けるものとする(民事再生法第142条、会社更生法第40条及び第99条参照)。
3 イ<4>は、役員の責任に基づく損害賠償請求権の査定の裁判に対する異議訴訟において、損害賠償請求権が存在する旨の判断をした場合には、裁判所は、一定の要件の下で当該損害賠償請求権に係る給付について仮執行宣言を付することができるとするものである。当該訴訟の判決は、「財産上の請求に関する判決」(民事訴訟法第259条第1項)に当たると考えられ、また、上記の判決には「給付を命ずる判決と同一の効カ」が認められている(イ<3>)のであるから、イ<4>がなくても、民事訴訟法の包括準用により、損害賠償請求権に係る給付について仮執行宣言期付することができるものと考えられるが、当該訴訟の判決は形成判決であり。これに狭義の執行力(強制執行によって給付内容を実現する効力)に関する仮執行宣言を付することができるか否かについては、なお疑義が生ずるおそれがある ことを考慮して、この点を確認的に規定することとしたものである。
4 イ<4>については、民事再生法及び会社更生法においても同様の手当てを行うものとする。また、否認の請求を認容する決定に対する異議訴訟の判決についても同様の手当てを行う方向で検討する。

2 破産財団の換価
(1)換価の時期
破産管財人は、一般調査期間の満了前又は一般調査期日の終了前においても、破産財団に属する財産を換価することができるものとする(破産法第196条の規定は削除するものとする。)。

(2)別除権の目的財産の任意売却
破産管財人が別除権の目的である財産を任意売却した場合において、当該担保権が存続するときは、当該担保権を有する者は、その権利の行使によって弁済を受けることができない債権の部分についてのみ、破産債権者として、その権利を行うことができるものとする。(破産法第96条及び第97条参照)

(注)
破産管財人には別除権の目的である財産を任意売却する場合において、当該担保権が存続するときは、当該担保権を有する者にこ対して、任意売却をする旨及びその相手方等を通知しなければならない旨の規定を最高裁判所規則で設けるものとする、財団からの放棄をする場合についても通知の対象とすべきであるとの考え方があるが、どうか。

(3)破産管財人による任意売却と担保権の消滅【次回検討】

(4)民事執行手続による換価
民事執行法第63条及び同法第129条の規定(その他強制執行の手続に関する法令において準用する場合を含む。)は、破産法第203条第1項に規定する財産の換価には、適用しないものとする。

(5)商事留置権の消滅請求
破産手続開始当時破産財団に属する財産につき[商法の規定による]留置権があり、かつ、その[留置権によって担保された]債権額が留置権の目的である財産の価額を超える場合において、当該財産が[継続された]事業に必要なものであるときは、破産管財人には 裁判所の許可を得て、当該留置権者に対し、その財産の価額に相当する金銭を支払って、留置権の消滅を請求することができるものとする。

(注)
1 第231回会議の審議においては、破産管財人による任意売却と担保権の消滅に制度とは別に商事留置権の消滅請求制度を設けることについて特段の異論はみられなかったが、商事留置権の消滅請求制度の要件については、なお検討が必要であるとされた。すなわち、部会資料30(第12・2(5)参照)では、これを「破産債権者一般の利益に適合するとき」として、破産管財人による任意売却と担保権の消滅制度と同様の要件とすることを示していた。これについては、担保権実行時期選択権の保障(の必要性が破産手続においてはないこと)、不可分性の観点(不可分性を破ることを正当化する要件化の必要性)、更生手続及び再生手続における担保権消滅許可制度等の要件との整合性の観点から、そのような要件の必要性及び内容について、再検討すべきであるとされた。

2 商事留置権の消滅請求制度の要件は、同制度の存在意義及び適用場面をどこに求めるかに関わる。この点、任意売却に際して担保権を消滅させる制度に加えて商事留置権の消滅請求制度を要する事情については、「破産手続においても例外的に営業が継続される場合があり、このような場合には、財産を直ちに任意売却する場合以外にも、当該財産を自ら加工した上で売却することにより、破産財団の増殖に寄与する場合も十分に考えられる」との指摘がされており(部会資料30第12・2(5)(注)1参照)、この指摘からすると、任意売却に際しての担保権消滅制度とは別に商事留置権の消滅請求制度が必要とされる最も中核的な場面は、破産者の事業が継続され、その事業の通常の過程において、留置権の目的財産を破産管財人のもとに回復する(それにより、売却等の前段階としての加エ等を行う、あるいは、営業譲渡のための財産等の一体性を確保する等の)場面であると考えられる。また、そのような事業にとっての必要性が、不可分性との関係でも、(特別の先取特権とみなされる)商事留置権を消滅させることを基礎付ける事由となるものと考えられる。そこで、上記の案では、事業が継続される場面を想定し、留置権の目的財産がその「事業に必要なものであるとき」を、その消滅請求の要件としている(会社更生法第104条第1項参照)。これに対し、売却等の前段階としての加工等や営業譲渡の前提としての財産等の一体性の確保は、実質的に事業(の総統)の性質を有するのではないかと考えられるものの、「[継続された]事業に必要なものであるとき」を要件とすると、これらのすべてをとらえることができず、企図する以上に場面を限定することにならないかが懸念される。そこで、(継続された)事業への必要性という形ではなく、むしろ、 「当該財産の回復が財団の価値の増加に資するとき」という形で、上記の場面を要件化することも考えられる。本制度の適用場面及びその要件について、どのように考えるか。

3 留置権の目的である財産の価額について争いがある場合については、担保権消滅制度の場合と異なり、1人の留置権者との関係で価額を決定すれば足りることから、別途、財産の価額の決定手続(民事再生法第149条から151条まで、会社更生法第105条から107条まで参照)を設けるまでの必要はないと考えられる。そこで、この点については、会社更生法第29条の仕組みと同様、通常訴訟によって対応するものとするほか、留置権の消滅時期等についても、基本的に、会社更生法第29条と同様の仕組みとするものとすることで、どうか。

4 裁判所の許可の決定に対する留置権者の即時抗告の可否については、(a)商事留置権は、特別の先取特権とみなされるとはいえ本来は優先弁済効のない担保権であること、(b)商事留置権者の利害にとって実質的に重要な事項である目的財産の価額の決定については通常訴訟により争う途が用意されていること、(c)即時抗告を認めるとすると、その場合に判断の対象となるべき事項には事業にとっての必要性の有無であると解されるが、商事留置権の目的財産の場合、この点は通常明白であり、即時抗告を認めるまでのことはないと考えられることからすると、商事留置権の消滅請求制度においては、即時抗告を認めないものとすることで、どうか。

目次

○トップページ

■第一次案

第1部 破産手続

第2部 個人の破産手続の特則及び免責手続等

第3部 倒産実体法

第4部 その他

■第二次案

第1部 破産手続

第2部 個人の破産手続の特則及び免責手続等

第3部 倒産実体法

第4部 その他

■第三次案

第1部 破産手続

第2部 個人の破産手続の特則及び免責手続等

第3部 倒産実体法

第4部 その他

■残された課題

第1部 破産手続

第2部 個人の破産手続の特則及び免責手続等

第3部 倒産実体法