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【第三次案】第4部 その他: 第1 倒産犯罪等

1 破産財団を構成する財産の価値を侵害する行為及びその収集を困難にする行為の処罰
(1) 詐欺破産行為の処罰
詐欺破産行為の処罰については、次のとおりとすることで、どうか。
<1> 債務者が破産手続開始の決定を受けるべき状態にあること又は当該決定を受けたことを認識しながら、債権者を害する目的で、以下の行為をした者は処罰し、情を知って(iv)に規定する行為の相手方となった者も処罰するものとする。
(i)債務者の財産を隠匿し、又は損壊する行為
(ii)債務者の財産の譲渡又は債務者における債務の負担を仮装する行為
(iii)債務者の財産の現状を改変して、その価格を減損する行為
(iv)債務者の財産を債権者の不利益に処分し、又は債権者に不利益な債務を債務者が負担する行為
<2> 債権者を害する目的で、<1>に規定する行為により債務者が破産手続開始の決定を受けるべき状態を生じさせた者は処罰するものとする。
<3> <1>に規定するもののほか、債務者が破産手続開始の決定又は保全管理命令を受けたことを認識しながら、債権者を害する目的で、破産管財人の承諾その他の正当な理由がなく、債務者の財産を取得し、又は取得させた者は処罰するものとする。

(注)
1 第30回会議においては、[倒産法部会資料39・1]において提示された第二次案のうち、詐欺破産行為の処罰について、「債務者に危機的状況が発生した後において」との行為の時期的要件及び「其ノ宣告確定シタルトキ」(破産法第374条)との客観的処罰条件を不要とする点を中心に議論が進められた。
上記の案は、このうち時期的要件について、「債務者が破産宣告の確定に至るべきことを予知ないし認識しながら」(最決昭和44年10月31日・刑集23巻10号1465頁)や「詐欺破産罪が成立するためには、行為当時に現実に破産宣告を受けるおそれのある客観的な状態にあることが必要であり、行為者によるその旨の認識も必要である」(東京地判平成8年10月29日・判時1597号153頁)等の判例における現行法の解釈をそのまま明文の要件としたものであるが、どのように考えるか。

2 客観的処罰条件を不要とする点については、<1>現行法がこれを必要としているのは、破産宣告の後においては、債務者が債権者から(不正に)保護を受けることになるからであり、この客観的処罰条件を懲戒主義の残滓と見るのは相当ではない、<2>客観的処罰条件を不要とすると、個別執行を妨害する行為に対する罰則との関係があいまいになる、<3>詐欺破産行為とされる行為は、本来は自己の財産に係る処分権の行使に属するものであり、これが禁止される時期を画する上で、客観的処罰条件の機能は重大である、<4>客観的処罰条件を不要とすると、適正価格売買に係る否認権行使の対象になるような行為が処罰の対象になるものと思われるし、債務者の再建に向けての努力が困難になる、等が理論上の問題点として指摘されたが、<1>第三者の詐欺破産罪が規定されていることなどからしても、詐欺破産罪を、債務者が不正な保護を得たことに係る罪と見るのは相当でなく、判例等においても、詐欺破産罪は総債権者の財産上の利益を害する罪とされているところであって、客観的処罰条件が懲戒主義の残滓であることは否定できない、<2>現行法でも、詐欺破産罪として処罰される行為が、強制執行妨害罪(刑法第96条の2)等にもあたるということは考えられるところであり、詐欺破産罪が前記のような財産犯的性格に重きを置く罪であるのに対し、強制執行妨害罪等は公務妨害罪的性格に重きを置く罪であって、そのような性格付けの相違から、処罰される行為の類型にも相違があるところであって、客観的処罰条件を不要とすることがこのような両者の関係に変化をもたらすものではない、<3>現行の詐欺破産罪においても、破産宣告後の行為のみが処罰の対象になるわけではなく、本来は債務者の財産処分権の行使に属する行為が処罰の対象になるのは、危機的状況の発生により、債務者の財産を保全すべき信義則上の義務が、その不履行に対して刑罰をもって対処すべきほどの強度のものになるからと理解すべきである、<4>適正価格売買に係る否認権行使の対象になるような行為が詐欺破産行為のどの類型にあたるか疑問であるし、詐欺破産罪により処罰されるためには、(図利)加害目的が要求されることろであって、再建に向けた行為が処罰の対象になることはないし、客観的処罰条件を不要にすることが再建に向けての努力を損なうとのこれまでの客観的処罰条件についての根拠付けも現実問題としては支持し難いなどと考えられるところであって、理論的には、客観的処罰条件を不要とするのが相当と考えられる。
一方、第30回会議では、このように処罰範囲を拡張しなければならないような実際上の必要性があるのかとの意見も主張された。これに対しては、客観的処罰条件を必要とした場合には、債務者がすべての財産を隠匿するなどすることにより、債権者に破産手続開始の申立てをする動機付けをも失わせてしまうという最も悪質な事案が処罰できなくなるなどの実際上の問題が生じるとの意見もあったところであるが、どのように考えるか。

3 同様に、詐欺破産行為として、「債権者に不利益な債務を債務者が負担する行為」を加える点についても、第30回会議では、そのような実際上の必要性があるのかとの意見が主張された。この点は、総債権者の利益を害する罪としての詐欺破産罪において、現行法では債務者の積極財産を外見上減少させる行為としての財産の仮装譲渡(「隠匿」に含まれるものと理解されている。)及び実際に(不正に)減少させる行為としての不利益処分とが処罰されるものとされている一方、債務者の消極財産を増加させる行為については、外見上これを増加させる行為としての虚偽の破産債権の行使が処罰されるにとどまり、実際にこれを(不正に)増加させる行為を処罰する規定が存在しないという不整合を解消しようとするものであるが、どのように考えるか。

(2)破産管財人等の任務違反行為の処罰
破産管財人等が、自己若しくは第三者の利益を図り又は債権者に損害を加える目的で、その任務に違反して、債権者に財産上の損害を加えたときは、処罰するものとする。

(3)義務に属しない偏頗行為の処罰
債務者が、支払不能になった後又は破産の申立てがあった後に、特定の債権者に対する債務について、他の債権者を害する目的で、担保を供与し、又は債務を消滅させる行為であって、債務者の義務に属せず、又はその方法若しくは時期において債務者の義務に属しないものをしたときは、処罰するものとし、情を知って、その相手方となった者が、面会を強請し又は強談若しくは威迫の行為をして、債務者の行為を要求したときも処罰するものとする。

(注)
第32回会議においては、偏頗行為の相手方を処罰する要件が「情を知って、その相手方となった」のみとされていた[倒産法部会資料42・第4・後注2]点について、その要件のみでは広きに失し、通常の経済取引にも萎縮的効果を生じさせるとの意見が述べられた。この偏頗行為の行為者及びその相手方の処罰規定は、(1)と同様に、債権者の利益を侵害する抽象的危険犯であるが、目的要件の相違からも明らかなように、その利益を侵害される債権者は、(1)においては総債権者であるのに対し、本規定においては偏頗行為の相手方である債権者以外の債権者であって、債権者間の公平を害する行為であるという点では、後記5の処罰規定と共通する性格を有するものと考えられる。実際、後記5の処罰規定が設けられた場合には、破産債権者となるべき債権者が当該規定による処罰を免れようとして、破産宣告前の段階で、威迫等を用いて債務者に偏頗行為を要求した結果として、債権者間に不公平を生じるということも懸念される。上記の案は、このような観点から、偏頗行為の相手方の処罰要件について、後記5にならって絞りをかけたものであるが、どのように考えるか。
また、第32回会議においては、この処罰規定は否認権の規定と密接な関係にあるが、否認権は破産宣告の効果として、遡及的に破産宣告前の法律行為の効力を否定するものであるから、少なくとも本処罰規定については、破産宣告の確定を客観的処罰条件とすべきではないかとの意見も述べられた。しかし、債権者間の公平に対する抽象的危険犯との理解に立つ以上、客観的処罰条件の取扱いについて、本処罰規定と、総債権者の利益に対するものではあるものの、同じ抽象的危険犯である(1)とを区別する合理性は乏しいと思われるが、どのように考えるか。

2 破産者の財産等に関する情報の収集を妨害する行為の処罰
(1) 重要財産に関する破産者の説明義務違反行為の処罰
破産者が、破産手続開始の決定後遅滞なく、破産者が所有する不動産、現金、有価証券、預貯金その他裁判所が指定する重要な財産の内容を記載した書面を裁判所に提出する義務に違反して、その提出を拒み、又は虚偽の書面を裁判所に提出したときは処罰するものとする。

(2) 破産管財人等への説明義務違反行為の処罰
説明義務を負う破産者等が、破産管財人、債権者集会又は債権者委員会の請求により、破産に関して必要な説明を求められた際に、その説明を拒み、又は虚偽の説明をしたときは、処罰するものとする。

(注)
破産管財人等への説明義務を負担させるための要件として裁判所の許可を要する者については、上記の処罰についても同様に裁判所の許可の存在が要件となる。

(3) 破産者の業務及び財産の状況に関する物件の隠滅行為の処罰
<1> 債務者が破産手続開始決定を受けるべき状態にあること又は当該決定を受けたことを認識しながら、債権者を害する目的で、債務者の業務及び財産の状況に関する帳簿、書類その他の物件を隠滅し、偽造し、若しくは変造した者は処罰するものとする。
<2> 裁判所書記官が閉鎖した破産者の財産に関する帳簿を隠滅し、偽造し、若しくは変造した者は処罰するものとする。

(注) <1>に規定する帳簿、書類その他の物件又は<2>に規定する帳簿に相当する電磁的記録に係る隠滅行為も処罰の対象にするものとする。

(4) 破産手続開始又は免責に関する審尋における陳述拒絶・虚偽陳述の処罰
債務者が、破産手続開始[(債務者以外の者がその申立てをした場合を除く。)]又は免責に関する審尋において、陳述を拒み又は虚偽の陳述をしたときは、処罰するものとする。

(注)
1 上記の罰則においては、自然人たる債務者自身のほか、当該審尋において、債務者を代表するなどの地位において、陳述をする立場にある者を処罰する旨の規定を置くこととする[倒産法部会資料39・2(1)注1参照]。
2 この罰則は、実質的には、債務者が同時廃止決定を得ることによって、重要財産に関する説明義務を不正に免れること(破産手続開始に関する審尋の場合)や、不正に免責を得ること(免責に関する審尋の場合)を防止しようとするものであるが、前者の審尋の段階では、後者の審尋の段階や、債務者が重要財産に関する説明義務を負う場合と異なり、債務者に破産原因が存することについての裁判所の判断を経ているわけではなく、破産手続開始の申立てがなされているに過ぎず、特に当該申立てが債務者以外の者(通常は債権者であると思われる。)による場合は。自らの意思によらずに敵対的手続における当事者的立場に置かれた債務者について、その陳述拒否や虚偽陳述(特に陳述拒否)を処罰するのは行き過ぎではないかとの意見も存するところであるが、どのように考えるか。

3 破産管財人等の職務執行に対する妨害行為の処罰
偽計又は威力を用いて、破産管財人等の職務を妨害した者は処罰するものとする。

(注) 破産管財人の職務について、一定のもののみを保護するものとする合理性は乏しく、特に重要と思われるものを例示することも困難と思われるが、どのように考えるか。

4 破産管財人等に係る贈収賄行為の処罰
(1) 破産管財人等の収賄行為の処罰
<1> 破産管財人等が、収賄行為をしたときは処罰するものとする。
<2> 破産管財人等が、不正の請託を受けて、収賄行為をしたときは加重処罰するものとする。

(2) 破産債権者等の収賄行為の処罰
破産債権者等が、不正の請託を受けて、収賄行為をしたときは処罰するものとする。

(注)
今回の改正においては、(破産)債権者集会の権限が縮小されることから、破産手続との関係では、「破産債権者等」の収賄規定が実質的な重要性を持つのは、主として債権者委員会の委員等についてであるものと考えられるものの、再生手続や更生手続との関係では、債権者集会の権限の中に、重要なものが多く存在することから、法的倒産処理手続に係る罰則の在り方の基本形として、上記においては「破産債権者等」として記載してある。

(3) 破産管財人等への贈賄行為の処罰
(1)<1><2>、(2)の各場合において、贈賄行為をした者は 収賄行為をした者と同等に処罰するものとする。

5 不正な手段により破産手続外で破産債権の充足を図る行為の処罰
破産者又はその親族等に破産債権を弁済させ、又は破産者の親族等に破産債権に係る保証をさせる目的で、面会を強請し又は強談若しくは威迫の行為をした者は処罰するものとする。

6 その他
その他倒産犯罪に係る罰則について、所要の整備をするものとする。

目次

○トップページ

■第一次案

第1部 破産手続

第2部 個人の破産手続の特則及び免責手続等

第3部 倒産実体法

第4部 その他

■第二次案

第1部 破産手続

第2部 個人の破産手続の特則及び免責手続等

第3部 倒産実体法

第4部 その他

■第三次案

第1部 破産手続

第2部 個人の破産手続の特則及び免責手続等

第3部 倒産実体法

第4部 その他

■残された課題

第1部 破産手続

第2部 個人の破産手続の特則及び免責手続等

第3部 倒産実体法