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【第三次案】第3部 倒産実体法: 第2 各種債権の優先順位

1 租税債権
(1)破産手続開始前の原因に基づいて生じた租税債権
<1> 破産手続開始前の原因に基づいて生じた租税債権(国税徴収法又は国税徴収の例により徴収することのできる請求権をいう。)であって、破産手続開始の決定の日以後又はその前1年以内に納期限が到来するものは、財団債権とするものとすることで、どうか。
<2> <1>以外のものについては、優先的破産債権とするものとする。

(注)
<1>の要件に該当しない租税債権を優先的破産債権とすることとする場合には、破産手続上の配当において、租税債権間の優先順位を定めた差押先着手主義(国税徴収法第12条)及び交付要求先着手主義(同法第13条)の適用の可否について検討する必要が生ずる。
このうち、差押先着手主義については、(a)破産手続開始決定後は滞納処分による差押えを禁止するものとし、(b)破産手続開始前に滞納処分による差押えがされている場合には、その手続の続行を許すものとしているから、そもそもこの規律を適用すべき場面が存在しないのではないかと考えられる。
これに対して、交付要求先ち着手主義については、破産手続も「強制換価手続」に該当するものと解し、優先的破産債権の届出を交付要求の方式で行うこととすると、特段の手当てをしない限り、届出が早い租税債権が他の租税債権に優先することになるものと考えられる。
交付要求先着手主義は、徴税に熱意を有する租税債権者を優先させ、按分弁済をしないことによる計算の簡易化を図ったものであるとされているが、破産者の全財産を換価して配当する破産手続において、届出が早い租税債権者に換価代金の全額につき優先的な地位を付与することが相当かという問題があり、また破産手続において交付要求先着手主義をとることが手続の迅速化に資するといえるかどうかについても疑問が残るところである。
上記のような点を考慮して、破産手続における配当においては、交付要求先着手主義は適用しないものとすることで、どうか。

(2)(1)の租税債権の破産手続開始後に生ずる附帯税
(1)により財団債権となる租税債権につき破産手続開始後に生ずる延滞税、利子税又は延滞金は財団債権とし、(1)により優先的破産債権となる租税債権につき破産手続開始後に生ずる延滞税、利子税又は延滞金は劣後的破産債権とするものとする。

(注)
附帯税のうち、各種の加算税については、罰金等と同様に、その発生時期に関わりなく劣後的破産債権とするものとすることで、どうか。

(3)破産財団に関して破産手続開始後の原因に基づいて生ずる租税債権
<1> 破産財団に関して破産手続開始後の原因に基づいて生ずる租税債権は、破産財団の管理、換価及び配当に関する費用の請求権(破産法第47条第3号参照)に該当すると認められるものに限り、財団債権とするものとする。
<2> <1>以外のものについては、劣後的破産債権とするものとする。

2 労働債権
(1)破産手続開始前の未払の給料債権及び退職手当の請求権
破産手続開始前の未払の給料債権及び退職手当の請求権については、次のとおりとすることで、どうか。
<1> 破産手続開始前3月間に生じた給料債権は、財団債権とするものとする。
<2> 破産手続の終了前に退職した破産者の使用人の退職手当の請求権は、退職前3月間の給料の総額に相当する額を財団債権とするものとする。ただし、破産者の使用人が破産手続開始後に退職した場合において、退職前3月間の給料の総額が破産手続開始前3月間の給料の総額より少ないときは、破産手続開始前3月間の給料の総額に相当する額を財団債権とするものとする。
<3> <2>の退職手当の請求権が定期会債権であるときは、<2>の退職手当の請求権は、次の(a)又は(b)に定める額とするものとする。
(a)定期金の金額及び存続期間が確定しているもの 各期における定期金の合計額から、各期における定期金のうち劣後的破産債権となる部分(破産法第46条第7号参照)を控除した額
(b)定期金の金額又は存続期間が不確定であるもの 退職時における評価額

(3)労働債権に対する弁済の許可
<1> 優先的破産債権となる給料債権又は退職手当の請求権(以下「給料債権等」という。)について届出をした破産債権者が、その破産債権の弁済を受けなければ、その生活の維持を図るのに困難を生ずるおそれがあるときは、裁判所は、最初の配当の許可があった日までの間、破産管財人の申立てにより又は職権で、その弁済をすることを許可することができるものとする。
ただし、その弁済により財団債権を有する者及び先順位又は同順位の他の優先的破産債権を有する者の利益を害するおそれがないときに限るものとする。
<2> 破産管財人は、<1>の給料債権等を有する破産債権者から<1>の申立てをすべきことを求められたときは、直ちにその旨を裁判所に報告しなければならないものとする。この場合において、破産管財人は、その申立てをしないこととしたときは、遅滞なく、その事情を裁判所に報告しなけれいばならないものとする。
<3> <1>により弁済を受けた破産債権者は、同順位の他の優先的破産債権者が自己の受けた弁済と同一の割合の配当を受けるまでは、破産手続により配当を受けることができないものとする。

3 その他の各種債権
(1)無利息債権の期限までの中間利息分
破産手続開始後に期限が到来すべき確定期限付債権で無利息のものについては、破産手続開始の時から期限に至るまでの期間の年数(その期間に1年に満たない端数があるときは、これを切り捨てるものとする。)に応じた債権に対する法定利息の額に相当する部分を劣後的破産債権とするものとする。

(2)合意による劣後債権(劣後ローン)
ア 破産手続
<1>債権者と債務者との間において、破産手続における配当の順位につき破産法第46条各号に掲げる債権(劣後的破産債権)に後れる旨の合意がされた債権は、同条各号に掲げる債権に後れるものとする。
<2> 破産債権者は、<1>の合意がされた債権については、議決権を有しないものとする。

イ 再生手続
<1> ア<1>の合意がされた債権(以下「約定劣後債権」という。)について、届出がされ、又は認否書に記載がされた場合には、再生計画においては、ア<1>の合意における権利の順位を考慮して、再生計画の条件に公正かつ衡平な差を設けなければならないものとする。
<2> <1>に規定する場合には、再生計画案の決議は、<3>の場合を除き、再生債権(約定劣後債権を除く。)を有する者と約定劣後債権を有する者とに分かれて行うものとする。
<3> 再生債務者が再生手続開始の時においてその財産をもって約定劣後債権に優先する債権を完済することができない状態にあるときは、約定劣後債権を有する者は、議決権を有しないものとする。

(注)
更生手続と同様に権利保護条項(会社更生法第200条参照)を設ける等、再生手続においても、原則として一般の再生債権と約定劣後債権とを組分けすることに伴う所要の整備をするものとする。

ウ 更生手続
<1> 更生計画においては、次に掲げる権利の順位を考慮して、更生計画の内容に公正かつ衡平な差を設けなければならないものとする(会社更生法第168条第3項参照)。
(i)更生担保権
(ii)一般の先取特権その他一般の優先権がある更生債権
(iii)(ii)及び(iv)に掲げるもの以外の更生債権
(iv)約定劣後債権
(v) 残余財産の分配に関し優先的内容を有する種類の株式
(vi)前号に掲げるもの以外の株式
<2>更生計画案の決議は、原則として、<1>(i)から(vi)までに掲げる種類の権利を有する者に分かれて行うものとする(会社更生法第196条第1項参照)。
<3> 更生会社が更生手続開始の時においてその財産をもって約定劣後債権に優先する債権を完済することができない状態にあるときは、約定劣後債権を有する者は、議決権を有しないものとする(会社更生法第166条第2項参照)。

(約定劣後債権全体の注)
1 BIS規制との関係
意見照会においては、BIS規制との関係で疑義が生ずることを回避するため、再生計画又は更生計画の条項の内容として、約定劣後債権を他の債権に絶対的に劣後させる旨を規定上明確化すべきであるとの意見が寄せられたところであるが、会社更生法においては、債権と株式との間ですら絶対的な優先、劣後の関係を保障する規定ぶりとはなっておらず、この点を明確化することは困難であることからすると、一般の債権と約定劣後債権との間についてのみ、この点を明らかにすることはできないと考えられる。
もっとも、ここに掲げた考え方は、約定劣後債権について株式と同様の規律を設けているのであるから、絶対的な優先・劣後の関係を保障していないことがBIS規制上問題になるとは考えにくく、仮にこの点が問題であるというのであれば、株式についても同様の問題が存するはずであって、少なくとも、約定劣後債権固有の問題ではないと考えられる。
また、既存の劣後ローン契約では、絶対的劣後に反する支払は無効であり、支払を受けた債権者は、直ちに債務者に受領金を返還しなければならないものとされているが、このような特約の効力が否定されるいわれはないから、仮に、再生手続又は更生手続において、上位債権をカットするにも関わらず、約定劣後債権にも弁済することを内容とする計画が認可されたとしても、債権者は、再生債務者又は更生会社に対して弁済金の返還義務を負うことになり、結果的に、絶対的な優先・劣後の関係が保たれることになると考えられる。
したがって、上記のような特約がされていれば、手続上では絶対的な優先・劣後の関係が保障されないとしても、少なくとも、手続外では絶対的な優先・劣後の関係が保障されることになると考えられる。

2 既存の契約に関する問題点
ア 既存の契約が 「約定劣後債権」に該当するか。
現行の劣後特約は、一般の破産債権の破産手続開始後の利息及び遅延損害金にも劣後する前提で約定がされており、結果的にそれと同順位の劣後的破産債権全てに労後することが予定されているから、既存の契約に基づく劣後ローンも「破産法第46余各号に掲げる債権(劣後的破産債権)に後れる旨の合意がされた債権」に該当すると考えられる。

イ 破産手続において劣後的な取扱いをする旨の約定がされていれば、再建型の手続においても劣後的に取扱うものとすることに問題がないか。既存の契約では、破産手続と更生手続に関する取扱いのみを約定し、再生手続に関する取扱いについて触れていないものが相当数存在するが、ここに褐げた考え方によると、破産手続に関して劣後的な取扱いをする旨の約定がされていれば 再建型の倒産処理手続においても劣後的な取扱いをすることになる点が問題となる。
しかし、 B I S規制上資本として算入するためには、再建型を含む全ての倒産処理手続において劣後的な取扱いがされることが不可欠であり、当該契約における劣後化の趣旨がBIS規制における資本としての算入にあることは契約当事者のいずれも認識しているはずである。そうだとすると、再生手続に関する約定がされていない契約についても、契約の当事者の合理的意思解釈としては、再生手続が開始された場合には、当該債権につき劣後的な取扱いがされるという点については合意ができていると解するのが相当であると考えられる。
このような理解を前提にすれば、既存の契約のうち、再生手続に関する約定がないものにつき約定劣後債権としての取扱いをすることが契約の不利益変更に当たるということはないものと考えられるが、この点についてどのように考えるか。

ウ 既存の契約を前提とした現行の取扱いからの変更点につき問題となる点はないか。
ここに掲げた見直しをすることとした場合には、主として次の点で現行の取扱いを変更することになると考えられる。

(1)議決権の取扱い
現行の取扱いでは、倒産処理手続開始時における評価額で議決権の行使が認められることとなるが、評価額が0円でない場合には、一般の再生債権又は更生債権の組において議決権を行使することになる。これに対し、ここに掲げた見直しをした場合には、約定劣後債権者は、約定劣後債権の組において、当該債権額で議決権を行使することになる。

(2)再生計画又は更生計画における取扱い
既存の契約を文言どおりに解釈すると、約定劣後債権に優先する債権(以下「上位債権」という。)のみを基準とすれば債務超過ではない場合であっても上位債権者の同意の下に上位債権につき債権カットがされれば、約定劣後債権もその影響を受け、再生計画又は更生計画において弁済を受けられないことになるが、約定劣後債権に関する法律上の取扱いにおいては、この場合には、劣後ローン債権者は弁済を受け得ることになる。

(3)検討
ア 部会資料34では、既存の契約における停止条件付構成の取扱いを認めることとすると、既存の契約に基づく約定劣後債権については、これまでどおり、停止条件付債権として一般の再生債権又は更生債権の組に属することになる点の問題点を掲げていたが、既存の契約には、一般の債権と同じ組で取り扱うという点の合意までは含まれていないと考えられるし、仮にその点の合意がされた契約があったとしても、組分けに関する約定は効力を有しないものと考えられるから、この点は特段問題とならないと考えられる。
このような理解を前提とすると、今回の見直しにより、約定劣後債権については、一般の債権より下位の組で議決権を行使することになるわけであるが、現行法の下でも、裁判所の判断で約定劣後債権を一般の債権より下位の組とすることは可能であるから、結局、原則をどちらにするかという点を変更したに過ぎず、この点の取扱いの変更は問題がないと考えられる。
イ 次に「再生計画又は更生計画における取扱い」については、既存の契約における停止条件構成の約定がここに掲げた考え方よりも強い劣後性を認めたものであるとすると、この部分の約定を今回の見直しで無効にすることは困難であると考えるれる。そうすると、今回の見直しによっても、既存の契約に基づく劣後ローンについては、約定劣後債権に関する法律上の取扱いよりも不利に取り扱われることになる。
もっとも、既存の契約が真にここに掲げた考え方よりも強い劣後性を認めたものであるか否かについては検討の余地があるように思われる。
すなわち、既存の契約の文言解釈からすると、上位債権が確定債権額の全額の弁済を受けたことを停止条件としているのであるから、上位債権者の一人が計画において債権カットに同意した場合は停止条件が成就しないことになるが、この点に関する約定は、上位債権が計画によって強制的に債権カットされた場合には停止条件が成就しない旨を定めたに過ぎないのであって、上位債権者が自ら債権カットに同意したという場合については、いわば上位債権者が債権放棄をしたのと同視することができると考えられる。そうすると、上位債権者の同意に基づく債権カットは停止条件の成就を否定する事由にならないと解する余地も十分にあり得るように思われる。
そして、このような解釈がが可能であるとすると、既存の契約と約定劣後債権に関する法律上の取扱いとの間に甑饒は存しないことになると考えられる。ただ、いずれにせよ、この点は既存の契約の解釈問題として処理するほかはなく、仮に、既存の契約の当事者がここに掲げた考え方より強い劣後性を認めるものとして約定をしたものと解釈される場合には、他の約定劣後債権より不利益な取扱いを受けてもやむを得ないと考えられる。
以上の点について、どのように考えるか。

(3) 財団不足になった場合における財団債権の取扱い
<1> 破産財団が財団債権の総額を弁済するのに不足することが明らかになったときは、財団債権については、法令に定める優先権にかかわらず、まだ弁済していない債権額の割合に応じて弁済するものとする。ただし、財団債権について存在する留置権、特別の先取特権、質権及び抵当権の効力は、妨げないものとする。
<2> <1>本文の場合には、破産債権者の共同の利益のためにする裁判上の費用の請求権(破産法第47条第1号参照)並びに破産財団の管理、換価及び配当に関する費用の請求権(同条第3号参照)は、他の財団債権に先立って弁済するものとする。

(4)財団債権に基づく強制執行等の禁止等
<1> 破産手続開始の決定があったときは、破産財団に属する財産に対する財団債権に基づく強制執行、仮差押え若しくは仮処分、企業担保権の実行、一般の先取特権による競売又は国税徴収法若しくは国税徴収の例による滞納処分(交付要求を除く。)の手続は、することができないものとする。
<2> 破産財団に属する財産に対して既にされている財団債権に基づく強制執行、仮差押え若しくは仮処分、企業担保権の実行又は一般の先取特権による競売の手続は、破産財団に対してはその効力を失うものとする。ただし、破産管財人において破産財団のために強制執行又は一般の先取特権による競売の手続を続行することを妨げないものとする(破産法第70条第1項参照)。

(注)
破産手続開始前に国税徴収法又は国税徴収の例による滞納処分(交付要求を除く。)ががされている場合には、現行法と同様、その処分の続行を妨げないものとする。

目次

○トップページ

■第一次案

第1部 破産手続

第2部 個人の破産手続の特則及び免責手続等

第3部 倒産実体法

第4部 その他

■第二次案

第1部 破産手続

第2部 個人の破産手続の特則及び免責手続等

第3部 倒産実体法

第4部 その他

■第三次案

第1部 破産手続

第2部 個人の破産手続の特則及び免責手続等

第3部 倒産実体法

第4部 その他

■残された課題

第1部 破産手続

第2部 個人の破産手続の特則及び免責手続等

第3部 倒産実体法