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【第一次案】第3部 倒産実体法: 第6 相殺権

1 破産管財人の催告権
<1> 破産管財人は、[債権届出期間が満了した後は][債権調査期間の末日又は一般の債権調査期日が経過した後は、]破産法第98条又は第99条の規定により相殺をすることができる破産債権者に対し、1月以上の期間を定め、その期間内に当該破産債権について相殺をするか否かを確答すべき旨を催告することができるものとする。ただし、破産債権者の負担する債務が弁済期にあるときに限るものとする。

<2> <1>の催告があった場合において、破産債権者が<1>で定めた期間内に相殺をしないときは、破産債権者は、当該破産債権にてついての相殺をもって他の破産債権者に対抗することができないものとする。

(注)
1 意見照会においては、例えば、割引手形の買戻請求権を自働債権とする相殺については、期日未到来の手形のうちどれが決済されるか不明であり、破産宣告後間もない時期に破産管財人から催告がされると、自働債権とする買戻請求権を適切に選択することができなくなること等を理由として、破産管財人が催告をすることができる時期につき制限を設けるべきであるとの意見が複数寄せられた。中間試案の考え方は、破産手続の場合には、再建型の倒産処理手続の場合と比較して、相殺権の行使を時期的に限定すべき必要性が高くないこと等を考慮して、一律に相殺権行使の時期的制限を設けることとはせず、破産手続の円滑な進行を図る観点から相殺権を有する破産債権者に対する催告・失権の制度を設けることとしたものである。このような制度趣旨からすると、破産管財人が破産宣告後間もない時期に催告をすることによって、結果的に再建型の手続の場合以上に相殺権の行使が制限されることになるのは相当でないと考えられるから、破産管財人が催告をすることができる時期を限定するのが相当であると考えられるが、どうか。仮に、破産管財人の催告の時期に制限を設けるとする場合には、(a)債権届出期間満了後に限る考え方や、(b)債権調査期日又は債権調査期間の末日の経過後に限る考え方等があり得ると考えられるが、この点についてどのように考えるか。

2 同時処分において債権調査期間等を定めないこととした場合の取扱いについては、なお検討する(倒産法部会資料30・第10・2(2)注2参照)。

2 破産管財人による相殺
破産管財人は、破産財団に属する債権をもって破産債権と相殺することが破産債権者の一般の利益に適合するときは、裁判所の許可を得て、相殺をすることができるものとする。(注)
1 意見照会においては、寄せられた意見のほとんどが中間試案の考え方に賛成するものであった。

2 再生手続及び更生手続についても、同様の手当てを行うものとする。

3 相殺禁止の範囲の見直し
相殺禁止の範囲については、次のとおりとするとの考え方があるが、どのように考えるか。
(1) A案
次に掲げる場合には、相殺をすることができないものとする。
<1> 破産債権者が破産宣告後に破産者に対して債務を負担したとき。
<2> 破産債権者が、支払不能になった後又は破産の申立てがあった後に破産者に対して債務を負担したとき。ただし、破産債権者が、その当時、
(i) 当該債務の負担が支払不能になった後のものである場合にあっては、支払の停止があったこと又は他の破産債権者との平等を害する事実
(ii) 当該債務の負担が破産の申立てがあった後のものである場合にあっては、破産の申立てがあった事実をそれぞれ知っていたときに限るものとする。
<3> 破産者に対して債務を負担する者が破産宣告後に他人の破産債権を取得したとき。
<4> 破産者に対して債務を負担する者が、支払不能になった後又は破産の申立てがあった後破産債権を取得したとき。ただし、破産者に対して債務を負担する者が、その当時、(i) 当該破産債権の取得が支払不能になった後のものである場合にあっては、支払の停止があったこと又は他の破産債権者との平等を害する事実
(ii)当該破産債権の取得が破産の申立てがあった後のものである場合にあってには 破産の申立てがあった事実をそれぞれ知っていたときに限るものとする。
<5> 破産債権者の債務の負担又は破産者に対して債務を負担する者の破産債権の取得が支払の停止(破産の申立て前1年間のものに限るものとする。)の後にされた場合には、その当時支払不能であったものと推定するものとする。
<6> <2>又は<4>は、破産債権者の債務の負担又は破産者に対して債務を負担する者の破産債権の取得が次に掲げる原因に基づくときは、適用しないものとする。

(i) 法定の原因
(ii) 破産債権者又は破産者に対して債務を負担する者が支払の停止若しくは破産の申立てがあったこと又は他の破産債権者との平等を害する事実を知った時より前に生じた原因
(ii) 破産の申立てがあった時より1年以上前に生じた原因

(注)
1 A案は、中間試案に注記した考え方を具体化したものである。この考え方は、相殺の前提となる債権・債務の対立関係の発生はその時点における担保の供与と同視すべきものであり、相殺の禁止規定は危機否認(偏頗行為の否認)の規定とその趣旨を同じくするものであるところ、担保の供与等の偏頗行為について支払不能で危機時期を画するのが債権者間の平等の観点から適切であるとすると、相殺の禁止についても同様に考えるのが適切であること等をその根拠とするものである。

2 意見照会においては、相殺の禁止の場合についても危機時期を支払不能で画することについては、賛成意見と反対意見とが拮抗していた。このうち、反対意見は、新たな取引による債務負担や債権取得行為に対して萎縮的効果が生ずるおそれがあるという点等を理由とするものである。

(2) B案
破産法第104条第2号又は第4号の場合のほか、次に掲げる場合にも、相殺をすることができないものとする。

<1> 破産債権者が、支払不能になった後破産者との間で破産者の財産の処分を内容とする契約により債務を負担し、又は破産者の債務者の債務を引き受けた場合であって、その当時、他の破産債権者との平等を害する事実を知っていたとき。

<2> 破産者に対して債務を負担する者が、支払不能になった後他人の破産債権を取得した場合であって、その当時、他の破産債権者との平等を害する事実を知っていたとき。

<3> <1>又は<2>に規定する破産債権者の債務の負担又は破産者に対して債務を負担する者の破産債権の取得が次に掲げる原因に基づくときは、適用しないものとする。
(a) 法定の原因
(b)破産債権者又は破産者に対して債務を負担する者が他の破産債権者との平等を害する事実を知った時より前に生じた原因
(c)破産の申立てがあった時より1年以上前に生じた原因

(注)
1 B案は、相殺の禁止の場合には、支払不能によって危機時期を画することによる萎縮的効果が偏頗行為の否認の場合に比して大きいことを考慮して、支払不能によって危機時期を画する場面を、特に相殺を制限する必要性が高く、かつ、萎縮的効果が生ずるおそれが少ないと考えられる類型に限定する考え方である。
ア 第104条第2号に規定する場合
同号に規定する場合については、(a)破産者と破産債権者との間の新たな取引等によって債務が発生し、又は破産債権者が破産者の債務者の債務を引き受けた場合等、破産債権者の積極的作為による債務負担の場合と、(b)破産債権者の積極的作為によらずに 破産債権者が債務を負担する場合等が考えられ、それぞれ問題状況が異なると考えられるので、以下場合を分けて検討する。
(1)(a)の場合
このうち、破産者と破産債権者との間の新たな取引等によって債務が発生した場合については、破産者が債権の取得の対価(売買の目的物等)によって代物弁済に供したのと同視すべき場合が多いと考えられるので、支払不能後の代物弁済を否認の対象とするのであれば、この場合の相殺も禁止することとしないと均衡を失するものと考えられる。また、破産債権者が破産者の債務を引き受けた場合についても、これによって既に実価の低下していた既存の破産債権が全額の満足を受けることになるが、この場合はいわば、後述するイ(b)(破産者の債務者が他人の破産債権を譲り受けた場合)と表裏の関係にあるから、この場合と同様に支払不能によって危機時期を画する必要性が高い場面であるといえる。そこで、 B案では、この類型については、基本的に支払不能によって危機時期を画するものとしている。
(2)(b)の場合
この場合の典型例は、銀行が、破産者に対する債権と破産者の取引先が破産者の銀行口座に振込みをしたことによって生じた債務とを相殺する場合であり、この場合も支払不能によって危機時期を画することとすると、これまでの融資慣行を変更せざるを得なくなることから、倒産を早期化させるおそれがあるとの指摘がされている。仮に、支払不能によって危機時期を画することとした場合であっても、「前に生じたる原因」に該当するのであれば、相殺は禁止されないことになるが、現行法における「前に生じたる原因」は、具体的な相殺期待を生じさせる程度に直接的なものに限られ、第2号の場合についていえば、当座預金契約等に基づき開設された破産者の銀行預金口座に第三者が振込みをしたというだけでは、これに該当しないものと一般に解されている(最判昭和60年2月26日金融法務事情1094号38頁等)。この点に関しては、現在の取引実務においては、キャッシュフローを重視した信用供与が行われているといわれており、特に多数の取引が継続的に行われているような場合には、キャッシュフローの分析によって、債権の取得又は債務の負担について特定性がない場合であっても、相殺に対する合理的期待を認めるべき場合(いつ、誰から銀行口座に振込みがあるかは具体的に特定できないが、一定額の振込みがあることが確実であると認められる場合等)があり得るようにも思われる。このような点を考慮すると、相殺の禁止についての危機時期を支払不能によって画することとする場合には、上記のような問題点がより深刻なものとして顕在化することになるが、萎縮的効果が生じない程度にまで「前にこ生じたる原因」の内容を明確化することは困難であると考えられる。そこで、 B案では、以上の点を考慮して、この類型については、支払不能によって危機時期を画することとはせずに、これによって不当な結論が生ずる場合については権利濫用等の一般条項によって対応することとしたものであるが、この点についてどのように考えるか。

イ 第104条第4号に規定する場合
同号に規定する場合についても、(a)破産者の債務者と破産者との間で新たに債権が発生した場合(他人の破産債権の譲受けではない場合)と(b)破産者の債務者が他人の破産債権を譲り受けた場合とではそれぞれ問題状況が異なるので、以下場合を分けて検討する。 (1)(a)の場合
この場合は、既に存する破産者に対する債務をいわば担保として、新たに債権を取得したものと評価することができる場合が多く、少なくとも、当該債権者は一度も一般債権者としての地位には立っていないということができる。したがって、偏頗行為の否認の対象から同時交換的行為を除外するのが相当であるとの結論をとるのであれば、この場合についても支払不能によって危機時期を画するのは必ずしも相当でないと考えられる。そこで、 B案では、この類型については支払不能によって危機時期を画することとはしていない。
(2)(b)の場合
この場合には、破産者の債務者が既に発生している破産債権を譲り受け、これを相殺に供することによって既に実価の低下していた既存の破産債権が全額の満足を受けることになる。この場合の相殺を禁止しないと、破産者の債務者が破産債権を安価に譲り受けること等によって自己の債務を免れることが可能となるので、偏頗行為の否認と同様の要件で相殺を禁止するのが相当であると考えられ、また、この場合の相殺を禁止したとしても、相殺の担保的機能に対する信頼が害されるおそれは少ないのではないかとも考えられる。そこで、 B案では、この類型については支払不能によって危機時期を画することとしている。

(相殺禁止の範囲の見直し全体の注)
1 相殺の担保的機能に対する信頼に与える影響
A案及びB案の考え方については、後記のとおりの問題点があることから、相殺の禁止の危機時期については現行法のとおりにするものとし、それによって債権者間の平等が不当に害されるような事例については権利濫用等の一般条項によって対応するとの考え方があるが、どのように考えるか。現行の破産法第104条では、危機否認の場合とは異なり、危機時期に債権・債務の対立関係が生じた場合であっても、当該債務の負担又は債権の取得が「前に生じたる原因」(第104条第2号ただし書、第4号ただし書)に基づくものであるとき、すなわち相殺の合理的期待があると認められる場合には、相殺禁止の例外とされている。このように、相殺の禁止についてはその例外事由が規定上明示されているが、これは、相殺の禁止の場合には、否認の場合とは異なり、裁判所が事後的に相殺の有効性を判断するという構造をとっていないことに基因するものであると考えられる。このような相殺の禁止と否認の判断構造の差異にかんがみると、相殺の禁止の例外事由については、より明確性が要求されると考えられるが、「前に生じたる原因」については、判例の集積もさほど多くなく、合理的期待がある相殺か否かを分ける基準としてやや明確性に欠けるきらいがあるようにも思われる。このような要件の下でも、現行の実務において相殺の担保的機能に対する取引関係者の信頼がさほど害されていないと考えられるのは、判例が相殺の否認を否定し、「支払の停止等止という明確な基準で危機時期を画している点が大きいものと考えられる。すなわち、明確な基準で危機時期を画していることが相殺の禁止の除外事由の抽象性を補っているものとも考えられる。そうだとすると、相殺の禁止における危機時期を前倒しし、支払不能によってこれを画することとする場合には、取引に対する萎縮的効果を除去するために相殺に対する合理的期待があると認められる場合とそうでない場合とをより具体的かつ明確な基準で画することが必要になると考えられるが、このような要件を設定することは困難であると考えられる。また、相殺の禁止における危機時期を支払不能によって画することとする場合には、融資を行う金融機関等とすれば、結局その前の段階で担保を要求することになると考えられるが、そうなると担保に供すべき財産がない者が融資を受ける機会を奪うことになるおそれもある。

2 再建型の手統から破産手続への移行があった場合における相殺禁止の要件については、「相殺権」の章ないし節ではなく、手続相互の移行に関する条文の中に規定するものとする(倒産法部会資料27第6参照)。

3  相殺禁止の例外について定めた破産法第104条第2号ただし書及び第4号ただし書では、「1年」の基準時を「破産宣告時」としているが、ここではこの基準時を「破産の申立て」とする考え方を掲げている。これは、破産の申立てから破産宣告までの審理期間の長短によって相殺禁止の範囲が異なることとなるのは相当でないことを考 慮したもの(破産法第84条の見直し(第4・2)参照)であるが、どのように考えるか。

目次

○トップページ

■第一次案

第1部 破産手続

第2部 個人の破産手続の特則及び免責手続等

第3部 倒産実体法

第4部 その他

■第二次案

第1部 破産手続

第2部 個人の破産手続の特則及び免責手続等

第3部 倒産実体法

第4部 その他

■第三次案

第1部 破産手続

第2部 個人の破産手続の特則及び免責手続等

第3部 倒産実体法

第4部 その他

■残された課題

第1部 破産手続

第2部 個人の破産手続の特則及び免責手続等

第3部 倒産実体法