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【第三次案】第3部 倒産実体法: 第1 法律行為に関する倒産手続の効力

1 賃貸借契約等
(1)賃借人の破産
賃貸人の解約の申入れ等を定めた民法第621条の規定は、削除するものとする。

(2)地上権者又は永小作権者の破産
民法第276条(同法第266条において準用する場合を含む)の規定中、永小作権者(地上権者)が破産手続開始の決定を受けた場合の消滅請求に関する部分(「又ハ破産ノ宣告ヲ受ケ」)を削除するものとする。

(3)賃貸人の破産
ア 破産管財人の解除権
<1> 破産法第59条の規定は、賃借権その他の使用及び収益を目的とする権利を設定する契約についてには、相手方が当該権利について登記、登録その他の第三者に対抗することができる要件を備えているときは、適用しないものとする。
<2> <1>の場合において相手方が有する請求権には、財団債権とするものとする(破産法第47条第7号参照)。

(注)
1 再生手続及び更生手続においても、同様の手当てを行うものとする。
2 <1>及び<2>の考え方は、特許権についての通常実施権(特許法第99条参照)、商標権についての通常使用権(商標法第31条第4項参照)等第三者に対抗することができる権利を目的とするライセンス契約におけるライセンサーの破産についても適用されることになる。

イ 賃料債権の処分及び賃料の前払の取扱い
賃料債権の譲渡等の破産手続における効力の制約を定めた破産法第63条(会社更生法第68条及び民事再生法第51条において準用する場合を含む。)の規定は、削除するものとする。

ウ 賃料債権を受働債権とする相殺の取扱い
(1)破産手続
賃料債権を受働債権とする相殺の制限を定めた破産法第103条の規定は、削除するものとする。

(2)更生手続及び再生手続
更生手続における賃料債権を受働債権とする相殺の取扱い(会社更生法第48条第2項参照)については、次のとおりとし、再生手続(民事再生法第92条第2項参照)においても同様の手当てをするものとすることで、どうか。

【A案】
<1> 更生債権者等が更生会社に対して負担する債務が賃料債務であるときは、更生債権者等は、更生債権等の届出期間の満了後にその弁済期が到来すべき賃料債務について、相殺することができないものとする。ただし、敷金があるときは、更生債権等の届出期間の満了後にその弁済期の到来すべき賃料債務についても、敷金の額に相当する額[(債権届出期間満了までに相殺に適することとなる更生債権等の額から更生手続開始後更生債権等の届出期間満了までの間に弁済期の到来すべき賃料債務の額を控除した額を超えない額に限る。)]に限り、相殺することができるものとする。
<2> 更生債権者等が、更生手続開始後、更生債権等の届出期間満了までの間に弁済期の到来すべき賃料債務をその弁済期に現に弁済したときは、更生債権者等が有する敷金返還請求権は、その弁済額の限度において、共益債権とするものとする。

【B案】
<1> 更生債権者等が更生会社に対して負担する債務が賃料債務であるときは、更生債権者等は、更生手続開始後にその弁済期が到来すべき賃料債務については、更生手続開始から6月間の賃料[債務]に相当するものに限り、相殺することができるものとする。
<2> 更生債権者等が、更生手続開始後にその弁済期が到来すべき賃料債務について、更生手続開始から6月間の賃料[債務]に相当する賃料債務をその弁済期に現に弁済したときは、更生債権者等が有する敷金返還請求権は、その弁済額の限度において、共益債権とするものとする。

(注)
1 第29回会議の審議では、債権届出期間の満了までの間の弁済期の到来によって受働債権となる賃料債務の範囲を画し、かつ、敷金がある場合にはその範囲を拡張するとする部会資料38の<1>の考え方については、おおむね賛意がが示された。もっとも、敷金がある場合の相殺範囲の拡張については、実体法上敷金返還請求権に優先権が与えられていない中で、このような敷金の存在を契機とする相殺範囲の拡張を再建型手続において行うことが十分に根拠付けられるかという疑問も呈された。さらに、一定の範囲で敷金返還請求権の共益債権化を図る部会資料38<2>の考え方に対しては、共益債権化の根拠付け、趣旨の不分明さ、事業等の再生への支障の懸念等の疑問が投げかけられた。他方、敷金返還請求権に実体法上優先権が与えられていないとはいえ、その性質に照らし、特に倒産の局面においてその保護の必要性が高いことも強調された。そこで、【A案】では、このような敷金返還請求権に対する保護の要請が強いことを重視し、また、敷金の当然充当の法理を通じ、質料債務の不履行によって敷金返還請求権の実質的な回収を図るという行動が見受けられる中、このように現実の支払を共益債権化の要件とすることは賃料債務の履行のインセンティブを作出し、再建の実務にとっても、キャッシュ・フローを確保できるという効用があって、プラスとなる面があり、共益債権とする契機を見出し得ることをも加味して、部会資料38<1>の考え方に加え、同<2>の考え方をも採用する考え方を示しているが、どうか。

2 もっとも、【A案】のような考え方に対しては、第29回会議の審議において、敷金がある場合に受働債権となる賃料債務の範囲を拡張し、かつ、一定範囲で現に賃料債務を弁済したときはその弁済額の範囲で敷金返還請求権の共益債権化を認めると、敷金を契機とする「二重の保護」が生じ、問題ではないかとの指摘がされた。弁済期に現に弁済をした場合の敷金返還請求権の共益債権化を認めると、自働債権を有する賃借人は、ある貸料債務について、受働債権として相殺に供するか、現に弁済をして敷金返還請求権の共益債権化を図るかの選択肢を有することになる。ある賃料債務について相殺に供し、かつ、敷金返還請求権の共益債権化を図るということはできず、その意味で、「二重に保護」を受けることはできない。しかし、敷金返還請求権の共益債権化が、同じく敷金を差し入れていながら、(ア)本来的に相殺に供せる受働債権に相応する分を超えて自働債権を有する賃借人は、<1>ただし書による受働債権の範囲の拡張という「利益」を受けることができるのに対し、(イ)自働債権を有しない賃借人や、ただし書による拡張と相応する自励債権を有しない賃借人は、なんら敷金差入れに伴う 「利益」を受けることができないことの不公平を問題にし、(イ)の賃借人にてついて、本来的に相殺に供せる受働債権の範囲において保護を図る趣旨に出るものであるとすると、これにより、(ア)のうちただし書による拡張の全部に相応するには至らない自働債権を有する賃借人が自働債権の範囲を超えて、また、(イ)のうち自働債権を有する賃借人が「本来的に相殺に供せる受働債権の範囲」を超えて、「利益」を受けることが可能となるという問題がある。
例えば、債権届出期間中に弁済期の到来する賃料債務が、3月分、敷金相当額が1 0月分という賃借人甲、乙、丙、丁があり、甲は弁済期の到来している債権(自働債権)を有していないが、乙は賃料の1月分に相当する(自働)債権を、丙は賃料の8月分に相当する(自働)債権を、丁は賃料の 1.4月分に相当する(自働)債権を、それぞれ有しているという場合、相殺だけであれば、最大限 (すなわち、相殺一般のルールによれば、債権届出期間満了後に弁済期の到来する賃料債務について相殺が可能であるとの解釈をとる限り)、甲は0、乙は1月分、丙は8月分、丁は13月分について、賃料債務を相殺し、その分について現に弁済せずに賃貸目的財産を使用収益できる。これに対し、一定範囲の賃料債務を現に弁済したときの敷金返還請求権の共益債権化をもちこむと、賃借人は、相殺に供するか現に弁済することを選ぶことができ、したがって、例えば、乙は、債権届出期間に弁済期の到来する賃料債務については全額現に弁済期に支払うこととし、敷金がある場合の拡張を利用して、債権届出期間満了後に弁済期の到来する1月分を相殺に供し、共益債権化とあわせて、結局、4月分の「利益」を得ることができる。同様に、丙は11月分(=3月分の共益債権化+8月分の相殺)の「利益」を得ることができる。この例の丙のように自働債権の範囲を超えて「利益」を受ける、あるいは、乙のように、「本来的に相殺に供し得る受働債権の範囲」を超えて、「利益」を受けるという、賃借人の敷金の存在による「二重の恩恵」がここでの問題の本質であると考えられる。
このような「二重の恩恵」を認めるべきではない、とすると、その対策としては(a)相殺との間の選択を認めず、相殺の可能性がない場合にのみ、共益債権化を認める、(b)選択は認めるが、<1>ただし書により受働債権の範囲が拡張される場合、相殺しかたかったときに相殺に供すことのできるはずだった受働債権の範囲を超えることはできないこととする、等の方策が考えられる。しかし、ある賃料債務について相殺の受働債権とせずに、現に弁済をしてその分の敷金返還請求権の共益債権化を図ることは、更生会社等にとっても上記のメリットがあり、賃借人がそれを選択する余地をおよそ否定すべき理由に乏しいと考えられる。そこで、<1>でには(b)の考え方をとり、敷金がある場合に、敷金相当額の範囲で受働債権となる賃料債務の範囲が拡張されるとしても、それは、「債権届出期間満了までに相殺に適することとなる当該更生債権等の額(=自働債権の額)から更生手続開始後更生債権等の届出期間満了までの間に弁済期の到来すべき賃料債務の額を控除した額を超えない額」に限られることとし、これにより、敷金相当額の拡張において、もともと相殺に用いることのできた受働債権の範囲を広げることはできないこととしている。
もっとも、敷会返還請求権の共益債権化は、自働債権が全く又は十分にないために、敷金がある場合の受働債権の範囲の拡張の利益を受けることができない賃借人に、一定範囲の敷金の保護をもたらすという趣旨に出るものであるとすると、それ以外の賃借人が追加的な保護を受けることを否定するまでのことはなく、したがって、このような「二重の恩恵」を封じる方策を設ける必要はないとも考えられる。【A案】の考え方による場合、この「二重の恩恵」の点について、どのように考えるか。

<敷金がある場合の受働債権の範囲の拡張と共益債権化との関係での調整>
設例:
債権届出期間中に弁済期の到来する賃料債務が3月分、敷金相当額が10月分自働債権となるべき債権が、 甲:0、乙:1月分、丙:8月分、丁:14月分現行法上敷金相当額までの賃料債務の相殺が可能であるとの解釈を前提とする。

 


本来的な範囲で相殺できる受働債権の範囲(ア) 敷金がある場合の拡張の範囲で相殺できる受働債権の範囲(イ) 相殺できる受働債権の範囲(ア)+(イ) 共益債権化できる範囲(()内は相殺と選択可能な範囲)(ウ) 共益債権化のために本来的な範囲の賃料債務を弁済したときに拡張範囲で相殺できる受働債権の範囲(エ) 共益債権化と相殺とに供すことのできる賃料債務の範囲(ウ)+(エ)
0
0
0
0
3(0)
0
3
1
1
0
1
3(1)
1
4
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3
5
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3(3)
8
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3
10
13
3(3)
10
13

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3(1) [A案]及び部会資料38の<1>本文の考え方をとると、現行法ほどではないものの、債権届出期間の定め方及び賃料債務の支払に関する約定により、相殺可能な受勘債権の範囲が左右される。例えば賃料月払のときは、債権届出期間の長短により、相殺可能な賃料債務の範囲はゼロ、1か月分、2か月分、3か月分、4か月分のいずれかとになる。他方、賃料年払のときは、約定の弁済期が債権届出期間内かどうかにより、相殺可能な賃料債務の範囲はゼロか12か月分かのいずれかとなる。さらには、敷金返還請求権の共益債権化を認めることとする場合、【A案】ではこの範囲を<1>本文により相殺可能な範囲によって画しているので、共益債権化が可能な範囲もまた、これにより左右されることとなる。)
このような法律関係の差は、相殺一般が債権届出期間によって画されていること、及び、月払‐年払という賃料支払方法及び各弁済期は契約の定めに由来するものであることから、やむを得ないと考えることもできる。しかし、この点については、第29回会議の審議において、「当期及び次期」による範囲画定をしないとことに関し、契約当事者間の合意に左右されないような記述、一律の取扱い、「一定の制約」ではなく「一定の調整」、利害関係人の間になるべく不公平が生じないような考え方といった点が述べられており、一律の範囲画定を行うべきではないかとも考えられる。

(2)また、敷金がある場合に相殺の受働債権の範囲を敷金相当額の範囲分拡張するという【A案】<1>ただし書の考え方は、会社更生法第48条第2項及び民事再生法第92条第2項で準用される現行破産法第103条第1項後段の規律を維持するものであるが、 同項後段に対しては、敷金返還請求権の法的性質等の理解の変遷とあいまって、現在では、その制度趣旨が必ずしも明らかではなく、その相殺拡張の根拠について明快な説明をするのは困難ではないかとの指摘もされている。
すなわち、まず、その制度趣旨に関しては、敷金の保護(敷金返還請求権を有する賃借人の保護)であるとすると、自働債権の有無という偶然的な事情に依拠して、自働債権を一定範囲以上有している賃借人のみの保護を図るのは、かえって、等しく敷金返還請求権を有する賃借人間の公平・平等を害するとの指摘がある。また、その制度趣旨は相殺の期待の保護であるととらえることもできるが、それが、相殺を通じて更生計画によらない優先的な満足を図る点で、自働債権についての相殺の期待の保護であるとすれば、自働債権と敷金との間には必然的な結びつきがなく、敷金自体は別途返還請求権が認められるにもかかわらず、そのような自働債権にこついての相殺の期待が、敷金があることによって保護されることをいかに説明するかという問題がある。相殺の期待の保護は、自働債権ではなく、受働債権の賃料債務の方にあるとすれば、敷金と賃料債務との結びつきの点から、敷金があることによる相殺の期待の保護(の回復)を根拠付けることが考えられるが、それは、結局のところ、敷金の保護(敷金返還請求権を有する賃借人の保護)に帰着するのではないかとも考えられる。
また、規律の内容に関しても、現行法の下でその帰結が必ずしも明らかではないとの指摘もされている。(a)この点【A案】では、本来の相殺可能な範囲に加えて敷金相当額の範囲を上限として相殺の受働債権とすることが可能であることを明示し、より明確化を図っている。もっとも【A案】の下でも、敷金相当額は敷金返還請求権の評価額を意味すると解されるが、敷金返還請求権は、判例の理解に即する限り、その具体的な発生時期もまたその額も不確定であって、さらにその額は将来の賃借人の行動によっても左右されるため、敷金相当額の具体的な金額を一律に確定することには相当の困難が予想され、結局、相殺可能な受働債権の範囲を明確に決めることはできないのではないかとの批判がある。(b)また、賃料債務の法的性質や再建型手続において条件付債務等につき条件不成就の利益ないし機会等を放棄して相殺することができるかは、現行法上明瞭ではなく、解釈の余地があることとの関係でも、敷金がある場合に受働債権として認められる範囲がどこまでかがはっきりしない点がある。すなわち、一般に、現行法は、賃料債務に相殺範囲の制約がされる中、敷金がある場合にはこの制約をその範囲ではずすものと説明されており、この説明からすると、敷金がある場合の相殺範囲の拡張は、相殺の一般ルールによるならば相殺が可能となる範囲を上限とすることになる。この結果、賃料債務が条件付債務ないし将来の請求権に関する債務であり、かつ、条件付債務等につき条件不成就の利益ないし機会等を放棄して相殺することは再建型手続においてはできないとすると、敷金がある場合の相殺の範囲は、債権届出期間満了までに弁済期の到来する賃料債務の範囲に限られることになる。このような理解にたっても、「当期及び次期」により受働債権となる賃料債務の範囲を画している現行法においては、債権届出期間が3か月以上にわたるような場合には、次々期以後の賃料債務で債権届出期間満了までに弁済期が到来し、したがって、その範囲で敷金がある場合の受働債権の範囲の拡張を受ける場面が存在し得る。これに対し、【A案】のように、債権届出期間満了後にて弁済期の到来する賃料債務についてのみ敷金がある場合の相殺範囲の拡張が働くという規律にした場合には、上記のように、賃料債務が条件付債務ないし将来の請求権に関する債務であり、かつ、条件付債務等につき条件不威就の利益ないし機会等を放棄して相殺することは再建型手続においてはできないとされるときは、敷金があることによる相殺範囲の拡張は一切働かないということになりかねない。したがって、【A案】の考え方をとる場合は、このようなときを含めて、相殺一般のルールによって認められ得る範囲を超えて相殺を認める規律であると解することになるのではないかと考えられるが、そうすると、規定の趣旨は敷金の保護に求めることとなり、保護のあり方の適否が改めて問われる余地もある。

(3)そこで、以上の(1)及び(2)の【A案】についての指摘及び倒産の局面において、敷金返還請求権を一定範囲で保護すべきであるとの政策判断を踏まえ、【B案】では、(i)約定の定め方や債権届出期間に左右されることなく、画一的に、一定月数によって、相殺可能な範囲を画することとし、(ii)敷金がある場合の受働債権の範囲の拡張という現行法の規律に代えて、敷金返還請求権を有する賃借人の、敷金との直接の関連性に基礎を置いた形で、かつ、自働債権の有無により保護の範囲にそれほど差の生じないような形での保護として。(i)の範囲の賃料債務を、現に弁済したときは、その弁済額の範囲で敷金返還請求権の共益債権化を図るという考え方を、示している。約定の定め方や債権届出期間に左右されることなく一定範囲で相殺を認めるとの考え方に出る以上【B案】でにはこの一定月数の範囲では、相殺を認めることとし、したがって、債権届出期間満了後の将来分の賃料債務についても相殺が認められ、相殺一般の規律の理解いかんでは、それによるよりも相殺の受働債権の範囲が拡大する可能性もあることとなる(「一定の調整」という考え方)。

(4) 【B案】による場合には、相殺可能な受働債権の範囲かつ敷金返還請求権の共益債権化が可能な範囲をいかに画するかが問題となる。【B案】は、敷金がある場合の受働債権の範囲の拡張という現行法の規律には疑問もあるとの指摘を踏まえて、これを敷金返還請求権の直接的な保護を図る規定によって代えるという考え方をとるものであるが、現行法の規律を廃止することにより、自働債権を有していた賃借人の保護が、現行法より後退する可能性も生じ得る。そこで、この点に配慮をする必要があり、具体的には、時期の画し方の点で、現行法上保護を受け得る可能性のあった賃借人が不当に不利益を被ることのないように、一定範囲を画する必要がある。(a)賃料は一般に月払と考えられ、現行法の「当期及び次期」によれば、2か月となること。(b)債権届出期間は最大4月であり、これにより画するならば4か月が最大となること、(c)現行法上、相殺の一般ルールの解釈いかんという面はあるものの、敷金がある場合の受働債権の範囲の拡張を通じて4か月を超えて相殺が認められる可能性もあること、さらに(d)営業用の賃貸借においては、多額の敷金が差し入れられる例も少なくないこと等を考慮し、他方で(e)事業の再建への支障についての懸念を勘案すると、一定範囲としては、6か月程度が適切ではないかと考えられる。

(5)範囲の画し方については、また(7)賃料月払の場合に、更生手続開始後6か月分に相当する賃料債務により範囲を画するとすると、約定との対応でこの6か月分を認める(手続開始時を含む当月分に加えそれに続く5か月分とする。)のか、それとも、約定との対応とは切り離して6か月分を計算するのかの問題がある。(イ)【B案】は、更生手続開始後一定期間分の賃料債務によって範囲を画する考え方を示している。この考え方によれば、例えば、当該賃料に相当する債務がすでに手続開始前に弁済されているような場合(弁済期前に支払われている場合や、対応する使用収益との関係で前払の約定になっておりそれに従って更生手続開始時の期の分の賃料がすでに支払われている場合などがある。)には、その分は相殺に供することはできず、共益債権化も図ることができないことになり、賃料支払の状況により、一定期間分が相殺等との関係で常に確保されることまで保障されるわけではない。これに対し、一定期間分は、相殺可能な額の計算基準を示すものとし、更生手続開始後に弁済期が到来すべき賃料債務で、未払の賃料債務については、それがどの時点の使用収益に対応するものかを問うことなく、一定期間分の資料債務相当額の範囲で相殺等を認めることとする(どの期間の使用収益に対応するかは、弁済充当の問題となる。)との考え方もあり得る。

(6)このほか、債権届出期間や約定の定めにかかわらず、手続開始後一定期間に相当する賃料債務については、相殺に供することができ、また、その分は、手続開始後に現に弁済することにより、その弁済額において、敷金返還請求権の共益債権化を図ることができるものとする場合(【B案】)には、その一定期間分の賃料債務の弁済期が債権届出期間の満了後に到来することとなるときの取扱いが問題となる。この点、一定期間分を、更生手続開始後6か月程度とする限りは、賃料が月払の場合には、債権届出期間満了後に弁済期が到来するものも、せいぜいのところ債権届出期間満了後2、3か月程度であろうし、敷金返還請求権は上限が決まっており、また共益債権となる上限も決まっている以上、共益債権となる額、ひいては更生債権となるべき額が、具体的に定まるまでにこの程度の期間の経過を要することとなっても、更生計画の策定にさして支障とはならないと考えられる。したがって、相殺については債権届出期間満了までの意思表示を要するとしても、敷金返還請求権の共益債権化に関しては、債権届出期間満了までに弁済することを要求するまでの必要はなく、弁済期に現に弁済すれば足りるものと考えられる。
もっとも、賃料が年払で、かつ年未払(対応する使用収益との関係で後払)であるような場合には、本来の弁済期まで待つとするとかなりの期間を要し、更生計画の策定に支障が生ずるおそれがある。そこで、このような場合には、弁済期前の一部弁済を認めることとし、現に弁済をしたときは、敷金返還請求権の共益債権化を認めるものとすることが考えられる。

4 【A案】及び【B案】のほか、特に上記3(1)の問題を重視して、【A案】をベースとしつつ、約定の定め方や債権届出期間に左右されることなく、画一的に、更生手続開始後の一定月数の賃料債務にこよって、相殺可能な基本的範囲及び敷金返還請求権の共益債権化が可能な範囲を画するという考え方もあり得る(【A案】の修正版)。この場合、敷金がある場合の受働債権の範囲の拡張という規律を維持する以上、一定期間については、【B案】と異なり、例えば4か月又は2か月とすることが考えられる。また、これは、約定の定め方や債権届出期間に左右されることなく一定範囲で相殺を認めるとの考え方に出るものであるから、この一定範囲の賃料債務の中に債権届出期間満了後に弁済期の到来する賃料債務がある場合、それについても相殺が認められ、相殺一般の規律の理解いかんでは、相殺一般の規律によるよりも相殺の受働債権の範囲が拡大する可能性もあることとなる。また。この考え方によれば、敷金返還請求権の共益債権化の要件となる弁済が、債権届出期間満了後に弁済期の到来する賃料債務について行われる可能性があり、この場合に、弁済の時期等をめぐって、【B案】と同様の問題が生じ得るので、この点についての規律を検討する必要がある(上記3(6)参照)。

5 以上を踏まえ、更生手続及び再生手続における賃料債権を受働債権とする相殺の規律が敷金返還請求権を一定範囲で共益債権とする考え方及びその具体的な内容(要件)について、どのように考えるか。

2 請負契約
(1)注文者の破産
民法第642条第1項の規定により破産管財人が契約の解除をしたときは、請負人は、同条第2項に規定する損害の賠償につき破産債権者としてその権利を行うことができるものとする。

(2)請負人の破産
請負人の仕事完成義務に関する破産管財人の権限等を定めた破産法第64条の規定は、削除するものとする。

3 相場がある商品の取引(一括清算ネッティング条項)
破産法第61条については、次のとおりとするものとする。
<1> 取引に所の相場その他の市場の相場[又はこれに準ずる市場の相場]がある商品の取引に係る契約であって、その取引の性質上一定の日時又は一定の期間内に履行をしなければ契約をした目的を達することができないものについて、その時期が破産手続開始後に到来すべきときは、当該契約は、解除されたものとみなすものとする。
<2> <1>の場合において、損害賠償の額は、履行地又はその地の相場の標準となるべき地における同種の取引であって同一の時期に履行すべきものの相場と当該契約における商品の価格との差額によって定めるものとする。
<3> 破産法第60条第1項の規定は、<2>の損害賠償について準用するものとする。
<4> <1>又は<2>に定める事項につき、当該取引所又は市場における別段の定めがあるときは、その定めに従うものとする。
<5> <1>の取引を継続して行うためにその当事者間で締結された基本契約において、その基本契約に基づいて行われるすべての<1>の取引に係る契約につき生ずる<2>の損害賠償債権又は債務を差引計算して決済する定めをしたときは、請求することができる損害賠償の額の算定については、その定めに従うものとする。

(注)
1 再生手続及び更生手続においても、<1>から<5>までと同様の手当てを行うものとする。

2 <1>の「取引所の相場その他の市場の相場がある商品の取引に係る契約」についてには特に、通常の商品取引や、不動産取引、中古車取引なども含まれ得ることになって、適切な範囲画定ではないのではないかとの疑問が呈されている。
この点、破産法第61条は、定期行為である売買・確定期売買のうち、特に「取引所の相場がある商品の売買」について、破産手続開始による当然の解除(擬制)と差額決済を定めるものであり、このような特則は、「取引所の相場がある商品の売買」であるという性質に由来する。また、定期行為性の要件も、「取引所の相場がある商品の売買」であれば、ほぼ自動的に要件をみたすと一般的に説明されており、この点でも、61条の中核的要件は「取引所の相場がある商品の売買」という取引の性質であり、また、定期行為性の要件も、当事者の個別具体的な事情を基礎とする定期行為性ではなく、「取引所の相場がある商品の売買」であるという取引の性質から定期行為性が認められるようなものを指すと考えられる。
そして、「取引所の相場がある商品の売買」の特徴は(a)激しい価格変動にさらされる可能性があること、(b)その中にあって、需給を統合し客観的かつ公正に価格を形成する「場」が存在すること、(c)(b)の「場」を通じて代替取引が可能であることにあると考えられる。そして、現在の取引状況においては、このような特徴を有する取引の場は、その開設につき免許等を受けた法人である「取引所」が開設する有価証券等の市場にとどまらず、店頭有価証券市場等へと拡大している。<1>は、このような取引の拡大にかんがみ、「取引所の相場」(がある商品の売買)を代表例として、それと同様に上記(a)~(c)の特徴を有する取引を抽出する概念として【取引所の相場その他の市場の相場」(がある商品の取引)を用いている。
通常の商品取引、不動産取引、中古車取引が、<1>の対象となり得るかは、それらの取引が、上記(a)~(c)の特徴を備えているか次第であり、一般論としては、仮に、これらの取引がこれらの特徴を備えるのであれば、排除すべき理由はないと考えられる。もっとも、これらの取引の場合、ネット・オークションのような形で需給の統合が図られ、それが価格に反映され、客観的かつ公正な価格形成機能の発現が認められるとしても、その一方で、不動産の単純な売買のような場合(個別具体的な当事者の事情によるのではなく、取引の性質上)定期行為性の要件をみたすかは疑問であり、この要件の点から上記<1>の対象とはならない可能性が高いと考えられる。
以上のように、不動産取引等が含まれ得ることになり適切ではないのではないかとの疑問に対しては、第1に、 「取引所の相場その他の市場の相場がある商品の取引に係る契約」の趣旨は、「取引所の相場」に代表される、価格の変動が激しい中、客観的かつ公正に価格の形成されるし「商品」の取引である点にあること、第2に、定期行為性の要件もそのような取引の性質上定期行為性が認められる必要があると考えられることの2点において、対応されるものと考えられる。そして、この趣旨をより明確にするために、 一方で(ア)「取引所の相場又はこれに準ずる市場の相場~」とする(イ)中核は公正な・価格形成であることから、「取引所の相場又はこれに準ずる公正な市場の相場~」「取引「所の相場その他公正な市場の相場~」とする(ウ)「有価証券の売買その他の取引」として有価証券の売買を取引の例示とする、「有価証券その他の商品~」として有価証券を商品の例示とするなどが、他方で、定期行為性の要件に関し、「その取引の性質上」としてその内容を明確化することなどが考えられる。
もっとも(ア)に対しては、平成6年の商法改正において、店頭登録様式の店頭売買取引を想定して「(取引所ノ相場)二準ズル相場アル株式」「(取引所二於テスル取引)二準ズル取引」が規定されており(商法旧第210条ノ2第8項)(ア)の表現を用いた場合には、店頭登録株式等の店頭売買取引等に限定されるとの解釈がされるのではないかとの懸念がなくはない。また(イ)に対しては、「相場」が客観的かつ公正な価格形成の発現であるという概念整理をする以上、公正さは「相場」概念(「取引所の相場」を代表例とする「市場の相場」概念)に含まれており、「公正な」という限定は、かえって、公正でない、市場の相場があることを前提とすることになって、適切ではないと考えられる。また、(ウ)に対しては、もともと「商品」には金融商品も含まれるという想定であるが、このような例示によって、有価証券指数等先物取引などの指数変動等に基づいて金銭の授受を約する取引等が排除されることにならないかが懸念される。

3 上記2のように、上記(a)~(c)の特徴を有する取引を抽出する概念として、「取引所の相場その他の市場の相場がある商品の取引に係る契約」という要件を設定するのだとすると、デリバティブ取引の場合には、標準規格品的なものばかりではなく、テイラーメイドでの取引も少なくなく、このようなものについて、(b)のような「場」が存在するか、(c)のように代替取引の可能性が存在するかが問題となる。まず(b)については、力点は、客観的かつ公正な価格形成機能の発現としての「相場」の存在にあり、「場」はそのような客観的かつ公正な価格形成を保障するものと考えられるから、例えば「高い信用を有し、同一都市に事務所のあるディーラー4社に損害額を算定してもらい、、たとえば4社以上の算定が出れば最高値と最低値を切り捨てたその平均値を損害額とする」といった算定の方法が一般的に当該取引界で採用されている場合、それが、客観的かつ公正な価格形成機能を営むのであれば(b)の特徴を備えるものと考えられる。次に、(c)についても、客観的かつ公正な「再構築価格」が算出できるということは、その限りで「再構築」の可能性が存在することを示しており、そのように(b)の特徴を備える形で、再構築価格を算出できるものであれば、代替取引性の点で問題視されないと言ってよいのではないかと考えられる。

4 継続的給付を目的とする双務契約
継続的給付を目的とする双務契約において、給付を受ける者が破産した場合の取扱いについてには 次のとおりとするものとする(会社更生法第62条、民事再生法第50条参照)。
<1> 破産者に対して継続的給付の義務を負う双務契約の相手方は、破産手続開始の申立て前の給付に係る請求権について弁済がないことを理由としては、破産手続開始後は、その義務の履行を拒むことができないものとする。
<2> <1>の双務契約の相手方が破産手続開始の申立て後破産手続開始前にした給付に係る請求権(一定期間ごとに債権額を算定すべき継続的給付については、申立ての日の属する期間内の給付に係る請求権を含むものとする。)は、財団債権とするものとする。
<3> <1>及び<2>は、労働契約には、適用しないものとする。

目次

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■第一次案

第1部 破産手続

第2部 個人の破産手続の特則及び免責手続等

第3部 倒産実体法

第4部 その他

■第二次案

第1部 破産手続

第2部 個人の破産手続の特則及び免責手続等

第3部 倒産実体法

第4部 その他

■第三次案

第1部 破産手続

第2部 個人の破産手続の特則及び免責手続等

第3部 倒産実体法

第4部 その他

■残された課題

第1部 破産手続

第2部 個人の破産手続の特則及び免責手続等

第3部 倒産実体法