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【第二次案】第3部 倒産実体法: 第5 相殺権

相殺禁止の範囲の見直し
相殺禁止の範囲については、次のとおりとするとの考え方があるが、どのように考えるか。

(1) A案
次に掲げる場合には、相殺をすることができないものとする。
<1> 破産債権者が破産手続開始後に破産者に対して債務を負担したとき。
<2> 破産債権者が、支払不能になった後又は破産の申立てがあった後に破産者に対して債務を負担した場合であって、その当時、次の(i)又は(ii)に掲げる事実を知っていたとき。
(i) 当該債務の負担が支払不能になった後のものである場合にあっては 支払の停止があったこと又は他の破産債権者との平等を害する事実
(ii)当該債務の負担が破産の申立てがあった後のものである場合にあっては、破産の申立てがあったこと

<3> 破産者に対して債務を負担する者が破産手続開始後に他人の破産債権を取得したとき。
<4> 破産に対して債務を負担する者が、支払不能になった後又は破産の申立てがあった後に破産債権を取得した場合であって、その当時、次の(i)又は(ii)に掲げる事実を知っていたとき。
(i)当該破産債権の取得が支払不能になった後のものである場合にあっては、支払の停止があったこと又は他の破産債権者との平等を害する事実
(ii)当該破産債権の取得が破産の申立てがあった後のものである場合にあっては、破産の申立てがあったこと

<5><2>の債務の負担又は<4>の破産債権の取得が支払の停止(破産の申立て前1年間のものに限るものとする。)の後にされた場合には、その当時支払不能であったものと推定するものとする。

<6> <2>又は<4>は、<2>の債務の負担又は<4>の破産債権の取得が次に掲げる原因に基づくときは、適用しないものとする。

(i)法定の原因
(ii)破産債権者又は破産者に対して債務を負担する者が支払の停止若しくは破産の申立てがあったこと又は他の破産債権者との平等を害する事実を知った時より前に生じた原因(iii)破産の申立てがあった時より1年以上前に生じた原因

(注)
A案をとる場合においても、後記B案と同様、何時交換的行為と評価できる場合を相殺禁止の対象から除外することが考えられる(後記(2)(注)2参照)。

(2) B案
次に掲げる場合には、相殺をすることができないものとする。
<1> 破産債権者が破産手続開始後に破産者に対して債務を負担したとき。

<2> 破産債権者が、支払不能になった後又は破産の申立てがあった後に破産者に対して債務を負担した場合であって、その当時、次の(i)又は(ii)に掲げる事実を知っていたとき、ただし、当該債務の負担が支払の停止又は破産の申立ての前のものである場合には、当該債務の負担が、破産債権者が支払不能になった後にした契約に基づくものであるときに限るものとする。
(i)当該債務の負担が支払不能になった後のものである場合にあっては、支払の停止があったこと又は他の破産債権者との平等を害する事実
(ii)当該債務の負担が破産の申立てがあった後のものである場合にあっては、破産の申立てがあったこと

<3> 破産者に対して債務を負担する者が破産手続開始後に他人の破産債権を取得したとき。

<4> 破産者に対して債務を負担する者が、支払不能になった後又は破産の申立てがあった後に破産債権を取得した場合であって、その当時、次の(i)又は(ii)に掲げる事実を知っていたとき。ただし、当該破産債権の取得が破産者との契約に基づくものであるときほどの限りでないものとする。(i)当該破産債権の取得が支払不能になった後のものである場合にあっては、支払の停止があったこと又は他の破産債権者との平等を害する事実

(ii)当該破産債権の取得が破産の申立てがあった後のものである場合にあっては、破産の申立てがあったこと<5> <2>の債務の負担又は<4>の破産債権の取得が支払の停止(破産の申立て前1年間のものに限るものとする。)があった後にされた場合には、その当時、支払不能であったものと推定するものとする。

<6> <2>又は<4>は、<2>の債務の負担又は<4>の破産債権の取得が次に掲げる原因に基づくときは、適用しないものとする。
(i) 法定の原因
(ii)破産債権者又は破産者に対して債務を負担する者が支払の停止若しくは破産の申立てがあったこと又は他の破産債権者との平等を害する事実を知った時より前に生じた原因
(iii)破産の申立てがあった時より1年以上前に生じた原因
(注)
1 <2>について
<2>に相当する部分について、倒産法部会質料35では、(i)破産債権者が破産者との間で破産者の財産の処分を内容とする契約により債務を負担した場合と、(ii)破産債権者が破産者の債務者の債務を引き受けた場合について支払不能で危機時期を画する考え方を掲げていた。このうち、(i)については、破産者の財産の処分を内容とする契約によって負担した債務と破産債権との相殺は、代物弁済と同視できる場合が多いと考えられること、破産者の財産の減少をもたらすことなく破産債権者が債務を負担した場合には相殺を禁止する必要性が少ないこと等を考慮したものである。しかしながら、この考え方の基本的発想は、支払不能から支払の停止等までの間については、破産債権者の積極的作為によって債権・債務の対立関係が作出された場合に限り、相殺を禁止するというものであるから、この点を考慮すれば、破産債権者のした契約の内容及び相手方を問題とする必要性は少なく、むしろ契約がされた時期のみが問題になると考えられる。また、(ii)にについては、前回の部会資料から具体的内容の変更はないが、破産債権者が債務引受をする場合には、免責的債務引受及び重畳的債務引受のいずれの場合においても、破産債権者は契約の当事者になると考えられる。そこで、今回の資料では、(i)と(ii)とを統合して、「破産債権者が、支払不能になった後にした契約により破産者に対して債務を負担した場合」とし、契約の内容や相手方を限定しないこととしたものであるが、この点についてどのように考えるか。

2 <4>について
(1)<4>に相当する部分について、倒産法部会資料35では、破産者の債務者が「他人の破産債権を取得した場合」に限り支払不能基準を用いる考え方を示していたが、これは、(i)この場合の相殺を許すと破産者の債務者が第三者の有する破産債権を安価に譲り受けることによって自己の債務を免れることが可能になること、(ii)破産者とその債務者との間で新たに債権が発生した場合についてはいわゆる同時交換的行為(担保権設定契約が融資に関する契約と同時又はこれに先行してされている場合)と同様に考えることができる場合が多いことを考慮したものである。しかしながら、倒産法部会資料35に掲げた考え方に対しては、「他人の破産債権を取得した場合」以外の場合が全て同時交換的行為といえるわけではなく、これを理由とする相殺禁止の例外は、担保の設定を条件とする信用供与と評価できる場合に限定すべきであるとの批判があり得ると考えられる.また、否認権との対比の観点からは、逆に、真に同時交換的行為と評価できる場合については、支払の停止等の後であっても相殺権の行使が認められてしかるべきであるとの批判も考えられる。そこで、今回の資料では、債権・債務の対立関係が生じた時期にかかわらず、 同時交換的行為と評価できる場合については相殺禁止の対象から除外することとしている。このような考え方をとることとする場合には、同時交換的行為と評価できる場合をいかに画するかが問題となる。ここに掲げた考え方は、「他人の破産債権を取得した場合」以外の場合のうち、破産者の債務者が破産者との間の契約によって破産債権を取得した場合については、同時交換的行為と評価できる場合に含まれるというものである。これは、(i)破産者の債務者が破産者との間で契約を締結し、新たに債権を取得するという場合に、反対債権との相殺を念頭に置いていない場合というのは通常想定し難いこと、(ii)仮にそのような場合があり得るとしても、破産者の債務者と破産者との間でされた契約について、破産者の債務者が相殺による回収を期待して契約を締結した場合とそうでない場合とを区別することは著しく困難であると考えられること等を考慮したものである。また、同時交換的行為を偶頗行為の否認の対象から除外する理由の一つとして、経済的危機に瀕した債務者に取引の機会を確保するという点が挙げられるが、このような政策的観点にかんがみても、破産者との間でされた契約一般について同時交換的行為としての取扱いを認めることには合理性があるものと考えられる。
これに対して、「他人の破産債権を取得した場合」に当たらない場合であっても、例えば、破産者の債務者が破産債権について第三者弁済をすることによって求償権を取得したという場合については、これを既存の担保を利用した信用供与とみることはできず、上記の政策的観点からもこれを同時交換的行為として取り扱う必要性に乏しいと考えられることからすると、このような場合を同時交換的行為として取り扱うのは相当でないと考えられる。そこで、今回の資料では、破産者の債務者が支払不能であることを知って破産債権につき第三者弁済をしたというような場合については、相殺を禁止することとしている。なお、破産者の債務者が破産債権につき第三者弁済をしたという場合であっても、第三者弁済をすることについて「正当ノ利益ヲ有スル」場合(民法第500条)であって、正当の利益を有するに至った時期が支払不能の前である場合(例えば、支払不能前に破産者の債務について物上保証をしていた場合等)については「′前二生ジタル原因」に該当し、弁済をした時期が破産手続開始前である限り、相殺が禁止されることはないと考えられる。

(2)<4>では、破産者の債務者が破産者との間の契約に基づいて破産債権を取得した場合を一律に相殺禁止の対象から除外しているが、当該契約締結の時点では、破産債権と破産者の債務者の負担する債務とが「同種の目的」(民法第505条第1項)を有するものでなく、民法上は相殺することができないものである場合には、その後破産手錠が開始されるか、又は債務不履行に基づく損害賠償請求権が生ずる等の事情がない限り、当該破産債権者は相殺をすることができないのであるから、この場合を既存の担保を利用した信用供与とみることは相当でないとも考えられる。そこで、このような場合は同時交換的行為と評価できる場合から除外することも考えられるが、この点についてどのように考えるか。

(3)同時交換的行為と評価できる場合を相殺禁止の対象から除外することとする場合には、破産者が当該契約に基づいて受けた給付について費消・隠匿等の意図を有していた場合の取扱いを検討する必要があると考えられる。この点については、破産者の有する債権の処分が適正価格による場合であっても否認の対象となり得るかという問題と密接に関連するが、否認権の要件においてこの点を解釈に委ねることとするのであれば、この場面でも同様に解さざるを得ないと考えられる。また、相殺の場合には、否認権の場合とは異なり、破産者の債務者が期限前弁済等債務の履行として金銭等の給付をしたのと同様の経済的実質を有する場合が想定され、このような場合には金銭等の使途を問題とすべきではないとの価値判断もあり得るのではないかと考えられる。以上の点を考慮すると、この点については解釈に委ねる(仮に、この場合の相殺を禁止するという解釈をとる場合には、不動産等の適正価格による売却等の否認の規定を類推適用することになると考えられる。)ことで、どうか。

3 <5>について
<5>は、 A案と同様、<2>又は<4>の適用に関して支払の停止による支払不能の推定規定を置いたものである。これにより、支払の停止の後に債権・債務の対立関係が生じた場合であっても、破産債権者がその当時支払不能でなかったことを証明した場合には、相殺権の行使が認められることとなる。(相殺禁止の範囲の見直し関係後注)
1 現在の金融実務等は、相殺の担保的機能に対する信頼に依拠しているところが大きく、相殺禁止の範囲を支払不能によって画することとした場合の影響は、偏頗行為の否認の範囲を支払不能によって画する場合のそれとは比較にならないとの指摘があること等を考慮して、相殺禁止の範囲については、現行法どおり支払の停止等によって危機時期を画することとする考え方についても、なお検討するものとする。
2 A案又はB案を採用する場合には、民法第398条ノ3第2項における危機時期の見直しの要否について検討する必要がある。

目次

○トップページ

■第一次案

第1部 破産手続

第2部 個人の破産手続の特則及び免責手続等

第3部 倒産実体法

第4部 その他

■第二次案

第1部 破産手続

第2部 個人の破産手続の特則及び免責手続等

第3部 倒産実体法

第4部 その他

■第三次案

第1部 破産手続

第2部 個人の破産手続の特則及び免責手続等

第3部 倒産実体法

第4部 その他

■残された課題

第1部 破産手続

第2部 個人の破産手続の特則及び免責手続等

第3部 倒産実体法