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【第二次案】第1部 破産手続: 第1 破産者等の説明義務等

1 破産者等の説明義務
<1> 破産者、破産者の代理人並びに破産者の理事、取締役、執行役、監事、監査役、清算人及びこれらに準ずる者は、破産管財人、債権者集会又は債権者委員会の請求により、破産に関して必要な説明をしなければならないものとする。
<2> <1>は、前に<1>に規定する資格を有していた者について準用するものとする。
(注)
1 罰則については、なお検討するものとする。
2 現行法において説明義務を負う者は、破産者、その代理人並びに理事及びこれに準ずべき者とされている(破産法第153条)。これに対し、再生手続にあっては、個人である再生債務者若しくはその法定代理人又は法人である再生債務者の理事、取締役、執行役、監事、監査役、清算人若しくはこれらに準ずる者(民事再生法第59条)、更生手続にあっては、更生会社の取締役、執行役、監査役、清算人及び支配人その他の使用人とされており(会社更生法第77条第1項)、それぞれ説明義務を負う者又は報告を求められる者の範囲が異なっている。
( i) 再生手続及び更生手続においては、監事及び監査役についても明文で説明義務が認められているところであり、破産者の説明義務に関する規定を整備するという観点から、破産手続においても、監事及び監査役について説明義務を負うことを条文上明記するものとすることで、どうか。
(ii)更生手続では、更生会社の取締役、執行役・監査役・清算人及び支配人その他の使用人が報告義務の主体とされている(会社更生法第77条第1項)が、代理権のない使用人がこれに含まれるか否かについては解釈上争いがあり得るところである。これを肯定するとしても、再建型の倒産処理手続である更生手続にあっては、事業が継続され、代理権のない使用人でも、当該事業に継続的に関与していると考えられることから、当該使用人につき説明を求める必要性は高いと解することができる。これに対して、(a)清算型の倒産処理手続である破産手続にあっては、破産手続開始の決定と同時に原則事業は廃止されるのであり、破産財団に属する財産を清算するために代理権のない使用人についてまで広く説明義務を課す必要性は乏しいとの考え方と、(b)説明義務を強化するという観点から、会社更生法の解釈如何にかかわらず、破産手続において、使用人一般に説明義務を課すとの考え方があり得る。との点について、どのように考えるか。
(iii)現行法においては、破産者の代理人も説明義務を負うとされているが、破産者の引致等の規定が準用される者は、そのうち法定代理人及び支配人に限定されている(破産法第152条)。この点については、代理人のうち引致等の規定を準用する者の範囲を破産者の財産を実質的に管理する立場にある法定代理人及び支配人に限定することには合理性があると考えられる。なお、上記(i)のとおり、監事及び監査役を説明義務の主体として明記した場合であっても、これらの者は法人等の財産の状況又は理事、取締役等の職務の執行を監査することを職務とするものであり、引致等の対象とするまでの必要はないと考えられるが、どうか。
(iv)<2>は、過去に資格を有していた者についても、説明義務を負う(破産法第153条第2項)とするものである。再生手続及び更生手続ではこれに相当する規定がないが、過去に資格を有していた者であっても、財産状況につき詳しい者がいることもしばしばあると指摘されており、このような指摘によると、<2>のような規定を設ける必要性は破産手続と同様に存すると認められ、この点につき破産手続と取扱いを区別する理由に乏しいと考えられるが、どうか。過去に資格を有していた者が説明義務を負うものとする場合に、その範囲を限定する(例えば、理事、取締役等に限る。)必要があるか。

3 債権者委員会は、破産債権者の意思を破産手続に反映させるために設けるものとされている(部会資料30第8参照)ところ、その活動を促すためには債権者委員会の情報収集機能を高める必要性が高いことから、債権者委員会にも債権者集会と同様に、説明についての請求を認めるものとしている。

4 相続財産の破産においては、(a)説明義務を負う主体として、相続人、その代理人、相続財産の管理人及び遺言執行者(破産法第153条第1項参照)のほか、被相続人の代理人であった者を加えることとし、(b)居住制限、引致の対象となる主体としては、現行法(破産法第152条後段参照)と同様、相続人並びにその法定代理人及び支配人とすることで、どうか。相続財産の破産に至る状況、相続財産を構成する財産の状況について、最も熟知していたのは、被相続人であり、また、被相続人の代理人(であった者)であると考えられることから、説明義務の主体については、被相続人の代理人であった者を加えるのが適切ではないかと考えられる(部会資料26・第2・2・1・第1部・第2・2(4)(注)2参照)。これに対し、居住制限、引致の対象については、(i)むしろ、過去にその任・地位にあった者の方が説明義務の主体としてふさわしい場合があるという事情が存在する(例えば、株式会社において破産申立ての直前に経営陣が交替したときの旧取締役など)にもかかわらず、現行法は、過去に一定の任・地位にあった者を対象としておらず、(ii)居住制限、引致は、説明義務の実効性確保のためにとどまらず、より広い破産者等の破産手続への協力義務の実効性確保のための制度であり、(iii)居住制限、引政は、破産謂続開始の法定時における破産財団の所有者ないし管理者を対象とするものと解されることから、被相続人の法定代理人であった者等を加えることなく、現行法どおりとするのが適切であると考えられる。

2 破産者の重要財産開示義務
<1> 破産者は、破産手続開始の決定後遅滞なく、破産者が所有する不動産、現金 有価証券、預貯金その他重要な財産の内容を記載した書面を裁判所に提出しなければならないものとする。

<2> <1>に規定する義務に違反したときは、免責不許可の決定をすることができるものとする(破産法第366条ノ9第5号参照)。

注)
1 <1>の考え方は、破産者の説明義務を強化するための方策の一環として、破産者の財産状況の開示を義務付けるという観点から、破産者等は、破産手続開始の決定後遅滞なく、破産者の重要な財産の内容を記載した書面を裁判所に提出しなければならないものとするものであり、これにより、破産債権者等は、この書面を閲覧することができることとなる。このような義務は、破産管財人等の請求がなくても当然に破産手続開始の決定により発生するものであり、このような意味において、請求により発生する1の説明義務の特則として位置付けられる。
2 開示の対象となる財産については、その範囲を明確にするために、不動産、現金、有価証券、預貯金を具体的に掲げることとしている。さらに、これらの財産のほかに開示の対象として必要なものがある場合には、「重要な財産」に含まれるものとすることで足一りると考えられるが、この点につきどのように考えるか。
3 意見照会においては、<1>の規定により開示すべき財産の範囲につき、否認権の行使を容易にする観点から、破産者が過去の一定期間中に所持した財産についても開示の対象とすべきであるとの意見が複数寄せられ、第21回会議の審議においても、現在所有している財産に限定すると、その前に財産を処分すれば当該財産の開示を容易に免れることは適当ではないとして、同様の指摘がされた。しかし、例えば、現金等につき過去一年分の財産の状況についての開示をすることは実際上困難であると考えられるところ、個別の事実を考慮して、必要がある場合には破産管財人等の請求により<1>による説明を求めることは可能であることからすると、破産手続開始の決定によって当然に発生する開示義務の対象となる財産の範囲としては、現在所有するもので足りると考えられるが、この点につきどのように考えるか。
4 <1>の義務を負う者の範囲については、部会資料28では、一般的・類型的に破産の事情に最も詳しい者を対象とするものとして、民事執行における財産開示手続と同様の定め方とする((i)破産者が個人の場合には、本人が<1>の書面を提出するものとし、法定代理人がいるときは当該法定代理人、(ii)破産者が法人の場合には、代表権のある者を義務の主体として明記する。)ことが考えられる旨注記していたが、これに対しては、第21回会議の審議において、例えば、法人の場合には、代表権がない者でも実質的に会社を支配するなどして代表者より財産状況に詳しいこともあるとの理由から、義務を負う者を代表権のある者に限定することにつぎ疑問を呈する意見も出された。民事執行における財産開示手続は、制度上、出頭した者の陳述をその内容とすることから、具体的な義務の主体を定める必要があるが、重要財産開示義務は、破産法上の当然の義務であり、財産開示手続と同様の考え方をとる必然性は乏しいと考えられる。むしろ、条文上義務の主体については「破産者」とのみ規定し、具体的には「破産者」の解釈に委ねることが考えられるが、どうか。
5 破産者が、<1>の義務に違反した場合には、<2>のように、これを免責不許可事由(破産法第366条ノ9第5号参照)とするほかに、破産者等の財産の開示義務の重要性にかんがみ、所要の罰則を設ける必要があると考えられるが、この点については、他の倒産犯罪等の検討結果を踏まえて、なお検討するものとする。
6 相続財産の場合、財産開示義務を負う「破産者」に相当する主体として考えられるの要は、「相続人、相続財産の管理人及び遺言執行者」であり、これらの者に財産開示義務を課すことが考えられる。もっとも、相続財産の場合、破産の申立ては、基本的に、相続の開始後3か月以内又は相続財産が相続人の固有財産と混合しない間にされるものであり(破産法第131条参照)、相続財産の破産手続が開始された場合に、相続人が相続財産の財産状況を十分に把握しているとは期待できない状祝にある。このような中にあって、説明義務のように破産管財人等の請求により、それに応ずる形で、義務を尽くすという類型の義務であれば別段、 「破産手続開始の決定後遅滞なく、裁判所に、一定の財産の内容を記載した書面を提出する」ことを内容とする財産開示義務を課すことは、上記の相続人の置かれた状況に照らすと、過大な負担を課すことにならないかが懸念される。そこで、相続人については、その範囲を限定し、財産目録調製義務のある限定承認者(国法第924条参照)の場合に限り、財産開示義務を課すことも考えられる。なお、相続財産の管理人及び遺言執行者は、その職責上、財産目録の調製が義務付けられている(民法第918条第3項、第27条第1項、第1011条等参照)。相続財産の破産における財産開示義務について、その義務の要否、義務を課すとする場合の主体の範囲、民法上の財産目録調製義務との関係について、どのように考えるか。

【参考】
「担保物権及び民事執行制度の改善のための民法等の一部を改正する法律案」第3条(民事執行法第198条関係)第198条を次のよるに改める。(期日指定及び期日の呼出し) 第198条 執行裁判所は、前条第1項又は第2項の決定が確定したときは、財産開示期日を指定しなければならない。

2 財産開示期日には、次に掲げる者を呼び出さなければならない。
一 申立人
二 債務者(債務者に法定代理人がある場合にあっては当該法定代理人、債務者が法人である場合にあってはその代表者)

3 物件検査権等
<1> 破産管財人は、破産者の帳簿、書類その他の物件を検査することができるものとする(民事再生法第78条において準用する同法第59条、会社更生法第77条第1項参照)。
<2> 破産管財人は、その職務を行うため必要があるときは、破産者の子会社又は連結子会社に対してその業務及び財産の状況につき報告を求め、又はその帳簿、書類その他の物件を検査することができるものとする(会社更生法第77条第2項参照)。
<3> <2>の子会社又は連結子会社は、正当な理由がない限り、<2>による報告又は検査を拒むことができないものとする(会社更生法第77条第3項参照)。
注)
<1>から<3>までにつき、刑事罰則の当否を含め、罰則についてはなお検討するものとする。

目次

○トップページ

■第一次案

第1部 破産手続

第2部 個人の破産手続の特則及び免責手続等

第3部 倒産実体法

第4部 その他

■第二次案

第1部 破産手続

第2部 個人の破産手続の特則及び免責手続等

第3部 倒産実体法

第4部 その他

■第三次案

第1部 破産手続

第2部 個人の破産手続の特則及び免責手続等

第3部 倒産実体法

第4部 その他

■残された課題

第1部 破産手続

第2部 個人の破産手続の特則及び免責手続等

第3部 倒産実体法