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【第一次案】第2部 個人の破産手続の特則及び免責手続等: 第1 個人の破産手続に関する特則

1 自由財産
(1)自由財産の範囲
ア 民事執行法第131条第4号及び第5号の動産も、自由財産とするものとする。
イ 自由財産のうち、金銭(民事執行法第131条第3号参照)については、金額を引き上げるものとする。

<1> 破産者は、破産宣告が確定した日から一定期間(例えば、1週間)を経過する日までに、破産管財人に対して、イの金銭の額から破産宣告時に有する金銭の額を控除した額(<2>において「不定額」という。)の金銭の支払を請求することができるものとする。
<2> <1>の請求を受けた破産管財人は、破産者に対して、不足額を支払わなければならないものとする。

(注)
1 意見照会においては、上記アの考え方に対して、賛成する意見がほとんどであったことから、中間試案の考え方を維持している。

2 意見照会においては、上記イの考え方に対して、多数の賛成意見が寄せられたが、その具体的な金額の定め方及び額については 次のような様々な意見が寄せられた。
a 標準的な世帯の必要生計費(民事執行法第131条第2号参照)を基準として、その2月'3月'5月とする意見
b 具体的な金額を基準として、20万円、24万5000円程度、30万円、最低限を30万円から35万円程度、42万円、60万円、63万円、 84万円、126万円とする意見
c 定額によることは好ましくなく、給与所得者等再生における可処分所得の計算に用いる基準によるべきであるとする意見この問題の検討にあたっては、破産法独自の観点から自由財産の範囲を個別執行における差押禁止財産よりも拡大するかどうか(中間試案第2部第1の1(1)(注)参照)という点をも考慮しなければならない。この点について意見照会においては、破産の場合には、債務者の債務超過又は支払不能を前提に、その経済的再生を目的とする以上、個別執行における差押禁止財産の金額よりも拡大すべきであるとの意見が多数寄られたが、他方、個別執行では、給与差押え等継続的な差押えが可能な場合は、差押えの効果が継続し、毎月の生活必要費の確保が問題となるのに対し、破産の場合は、破産宣告後の給与等の収入は、すべて新得財産となって、破産財団に組み込まれないことから、破産の場合をより優遇する必要はなく、民事執行法に定める差押禁止財産の金額と同一であるべきであるとの意見、金額の引上げ額については、自由財産の範囲の拡張の裁判(後記(2)参照)で対応すべきであるとの意見等も相当数寄せられたところである。担保、執行法制部会における個別執行の差押禁止財産の範囲の見直しにおいては、民事執行法第131条第3号(差押禁止金銭)及び同法第152条第1項(差押禁止債権)に基づき民事執行法施行令が規定する「政令で定める額」を引き上げ(具体的には、25~30万円の範囲の額とすることが予定されている。)、差押禁止金銭の範囲について、「標準的な世帯の一月間の必要生計費を勘案して政令で定める額の金銭」(同法第131条第3号)とされているのを、「標準的な世帯の二月間の必要生計費を勘案して政令で定める額の金銭」に拡大することとされている(「担保・執行法制の見直しに関する要綱」第二の三2。なお、差押禁止食料及び燃料の範囲については、債務者等の生活に必要な二月間の食料及び燃料」(同条第2号)とされているのを、「債務者等の生活に必要な一月間の食料及び燃料」に縮小するものとしている。)。このような担保・執行法制における見直しを前提として、現行法と同様に、破産手続における自由財産の範囲を民事執行法における差押禁止財産と基本的に一致させるものとした場合には50~60万円の金銭が自由財産となることを踏まえて、自由財産となる金額の定め方及び額について、どのように考えるか。

3 中間試案においては、上記イの金銭に代えて、破産者は、預金債権等の金銭債権を自由財産とすることを選択することができるものとするとの考え方を掲げ(中間試案第2部、第1の1(1)<2>(ii))、金銭債権を選択する場合の具体的な手続等については、なお検討するものとしていた(同(注2))。意見照会においては、具体的な手続について、破産者の申立てにより裁判所が破産宣告の効果を解除する決定をするとの意見、管財人の許可に係らせるとの意見等が寄せられたが、いずれにしても、第三債務者への通知が必要となり、煩雑な手続とならざるを得ず、実用的でないとの懸念がある。そもそも、破産者に自由財産となる金銭に代えて、金銭債権を自由財産とすることができるとする中間試案の考え方には 破産者は一般に金銭を現金として保管している場合は少なく、銀行等に預金をしておく場合が多いことを考慮して、破産者にご選択権を認めて自由財産の確保を図ったものである。このような目的を達成するためには、端的に、破産者に'破産管財人に対しで自由財産となる金銭の額から破産宣告時に有する金銭の額を控除した額の請求権を認めることで足りると考えられる。すなわち、自由財産として認められた金銭については 破産者は特定の金銭そのものについてではなく、金銭相当額の価値を把握しているものと考えられ、破産者は破産宣告時に所有する財産のうち、自由財産として認められた金銭の範囲の価値においては管理処分権を有しており、不足額については当該管理処分権に基づいて、破産管財人に対して取戻権類似の権利を有すると考えられる。そこで、破産者は、自由財産となる金銭の不足額の支払を破産管財人に請求することができ(上記ウ<1>)が当該請求を受けた破産管財人は、破産財団の中からこれを支払わなければならない(上記ウ<2>)ものとする考え方を提案している。この考え方によると、破産管財人は、財団財産を換価して破産者に不足額を支払うことになるが、自動車や動産、生命保険契約や賃貸借契約上の地位等を金銭に評価した上で、これらを破産者に代物弁済することも可能であると考えられる。また、破産者の請求権は、自由財産の-種の取戻し(本来、破産財団を構成していない)であるから、当該請求権が財団債権に優先するものと考えられる。以上のように、中間試案の考え方を再構成することで、どうか、

(2)自由財産の範囲の拡張の裁判
<1> 裁判所は、破産宣告が確定した日から 1月を経過する日までの間[、破産者の申立て又は職権により]、決定で、破産者の生活の状況〔'破産者が収入を得る見込み〕その他の事情を考慮して、自由財産となるべき財産の範囲を拡張することができるものとする。〔<2> <1>の申立てについての決定に対しては、即時抗告をすることができるものとする。〕
(注)
1 意見照会においては、上記<1>の考え方に対して、多数の賛成意見が寄せられたことから、中間試案の考え方を維持している。具体的には、前記(1)イの自由財産となる金銭の額の引上げが行われることが多いと考えられるが、自動車等のように、自由財産とされていなかったもの(民事執行法第132条、第153条及び第167条参照)を直接自由財産とすることも可能であると考えられる。

2 自由財産の範囲の拡張は主として破産宣告時に問題となり、破産手続全般を通じて自由財産の拡張を認める合理性が乏しいことから、自由財産の範囲を拡張する裁判につい て、破産宣告が確定した日から1月を経過する日までの間という時期的な制限を設ける ことでしとどうか。

3 中間試案においては、職権により<1>の決定をすることができるものとする考え方の当否については、なお検討する(中間試案第1の1(2)(注1))ものとしていた。この点について、意見照会では、申立代理人を付さすに破産申立て期した事案の中には、破産者が適切に自由財産の拡張の申立てを行なうことができない事案も想定されることから、裁判所が職権で拡張の決定をし得る余地を残しておく必要があるとの意見が寄せられた。また、現在の実務の運用においても裁判所の判断で実質的に自由財産の範囲の拡張が行われている実情にあることから、職権によって<1>の決定をすることができるとすることで、どうか(なお、破産者の申立権を認めないものとする考え方については後記(注 5)参照)。

4 中間試案においては、具体的にどのような事案において自由財産の範囲の拡張が必要と考えるべきか、さらにどのような要件を設けるべきかについては、なお検討する(中間試案第1の1(2)(注2))ものとしていた。意見照会では、自由財産の範囲の拡張を想定すべき事案として、扶養家族が多い場合、医療費がかかる場合、生活保護・年金を受給している場合、個別の職業や身体的な理由によって業務上、生活上不可欠な物がある場合、無職の場合(当分の間就業見込みのない場合)、高齢、障害、疾病のため労働ができない場合などが具体例として寄せられた。また、、その要件については、「破産者の生活の状況その他の事情」(民事執行法第132条第1項と同様の要件)、「収入、必要な生活費、生活状況等を考慮して相当と認めるとぎ」との意見が寄せられたほかは、具体的な提案はなかった。自由財産の範囲の拡張が必要となる具体例として、上記の場合が適当であるとすれば、「破産者の生活の状況、破産者が収入を得る見込みその他の事情」との要件で十分であると考えられるが、どうか。

5 意見照会においては、<2>の考え方に対して、多数の賛成委見が寄せられた。しかし、個別執行とは異なり多数の債権者が存する破産手続においては、個々の債権者から即時抗告が提起される事態が予想され 破産手続の円滑な進行を妨げることにもなりかねない。そこで、即時抗告権者を、総破産債権者の利益を実現する地位にある破産管財人に限定することが考えられるが、どうか。また、破産者の申立てが認められなかった場合についても、破産者からの即時抗告が頻発し、破産手続の円滑な進行を妨げるおそれがある。そこで、破産者の申立権を認めるのではなく、職権発動を促す申出を認めることとし、破産者には即時抗告権を認めないとすることが考えられるが、どうか。

2 破産者に対する監守
破産者(これに準ずる者(破産法第152条参照)を含む。)に対する監守の制度は、廃止するものとする(破産法第149条から第151条までの規定を削除するものとする。)。

3 扶助料の給与
破産者及びこれに扶養される者に対する扶助料の給与の制度(破産法第192条第1項及び第194条参照)は、廃止するものとする。

目次

○トップページ

■第一次案

第1部 破産手続

第2部 個人の破産手続の特則及び免責手続等

第3部 倒産実体法

第4部 その他

■第二次案

第1部 破産手続

第2部 個人の破産手続の特則及び免責手続等

第3部 倒産実体法

第4部 その他

■第三次案

第1部 破産手続

第2部 個人の破産手続の特則及び免責手続等

第3部 倒産実体法

第4部 その他

■残された課題

第1部 破産手続

第2部 個人の破産手続の特則及び免責手続等

第3部 倒産実体法