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【第二次案】第3部 倒産実体法: 第4 民事留置権の取扱い

破産手続における民事留置権の取扱いについては、次のような考え方があるが、どのように考えるか。

(ア)破産財団に対しては特別の先取特権とみなすものとし、商事留置権と同じ取扱いとするとの考え方

(イ)特別の先取特権とみなすことはせず、民事留置権を破産法第92条の別除権に加えるものとするとの考え方

(ウ)民事留置権を別除権に加えることはせず、留置権としての効力の存続を図るものとするとの考え方

(注)
1 民事留置権の倒産処理手続における処遇の問題が審議された第26回会議の審議においては、破産財団に対する失効を定める現行法(第93条第2項)の取扱いは、担保物権としての民事留置権の効力を不当に弱めるものであり、民事留置権の効力を強化する方向で、その見直しを検討するべきであるとの意見が大勢を占めた。そのような方向での見直しのあり方としてには(ア)商事留置権と同様に、特別の先取特権とみなすものとするとの考え方、(イ)民事留置権を別除権とするとの考え方、(ウ)別除権とはせずに、民法、民事執行法等において認められる民事留置権の効力を、基本的に、そのまま認めるものとするとの考え方があり得る。

2 (ア)の考え方
(ア)は、破産手続における商事留置権の処遇とあわせ、特別の先取特権とみなし、優先弁済効等を認める形で、破産手続における民事留置権の担保としての実効性を確保しようとするものである、これにより、破産手続においては、民事留置権は別除権として扱われ、中止命令、免責手続中の個別執行禁止効(前記第1・1参照)、任意売却と担保権の消滅等の関係では、他の担保権と同様の、また、(商事)留置権の消滅請求の関係では、商事留置権の場合と同様の、取扱いがそれぞれされることになるものと考えられる。
(ア)の考え方をとる場合には、当該特別の先取特権の順位及びその効力の及ぶ範囲が問題となる。このうち順位に関しては、(i)他の特別の先取特権との関係、特に、商事留置権との間で優先劣後関係を設けるか、(ii)特別の先取特権以外の担保物権との間の順位をどうするかの問題がある、(i)については、現行法上、優先弁済効の認められない商事留置権に優先弁済効を認めることとのバランスから最劣後の特別の先取特権とされていること、商事留置権と民事留置権の要保護性に関する政策判断として、その歴史及び実態に照らして商事留置権の方が民事留置権よりも本来的な担保権として保護に値するとの考え方と被担保債権と目的物との間に牽連関係の要求される民事留置権の方が要保護性が高いとの考え方の両様があることを考慮すると、民事留置権についても、他の特別の先取特権に後れるものとし、商事留置権との間では同順位とすることが適切ではないかと考えられる。(ii)については。現行法上、商事留置権についても解釈に委ねられている点であり、(i)につき商事留置権と民事留置権を同順位とする限り、商事留置権に関する解釈がそのまま民事留置権に妥当することになると考えられる。特別の先取特権の効力の及ぶ範囲に関しては、留置的効力及びその範囲を、特別の先取特権及びその優先弁済効の範囲として、どのように変換・評価するかの問題がある。民事留置権の留置的効力に関しては、留置的効力の実効性(債務の弁済を促す効果)という観点から、被担保債権と牽連関係のある目的物の従物や附合物のほか「目的物の留置に必要不可欠な、あるいは、目的物との結合が被担保債権発生の前提となっている他の物に及ぶ(ただし、債務者がその物について所有権あるいは利用権を有していることが前提となる)と解される」と論じられている。例えば 判例・学説上議論があるものの、建物につき留置権が成立している場合の敷地(建物買取請求がされた場合につき、大判昭和14年 8月24日民集18巻877頁等参照)が挙げられる。このように、あるいは留置権の成否を決する牽連関係の問題として、あるいは成立した留置権の物的範囲の問題として、建物の留置に必要不可欠な他の物として敷地の留置が認められる場合に、なかでも、その必要不可欠な範囲は1筆の土地の一部にとどまり、当該部分(+建物)の評価額は被担保債権額を下回るというとき、「特別の先取特権とみなされ、それにより優先弁済効が認められる」範囲をとう画するかが問題となる。選択肢として、(a)特別の先取特権は土地全体に及び被 担保債権の額を上限として優先弁済効が認められる、(b)特別の先取特権は土地全体に及ぶが、優先弁済効は、 「必要不可欠な範囲」に相当する部分の評価額と被担保債権額のいずれか小さい方を上限とする、(c)特別の先取特権は土地には及ばない、等の考え方があり得るが、留置的効力の及ぶ範囲の「変換」について、どう考えるべきか。解釈に委ねるものとすることで、よいか。(なお、この問題は、更生手続において、更生担保権とする場合 その評価という形でも、問題となる(会社更生法第153条、第154条参照)と考えられる。)

3(イ)の考え方
上記2のように、民事留置権の場合には、特に、牽連関係が要求されることとの関係で、留置的効力の及ぶ範囲と特別の先取特権として優先弁済効を認めるべき範囲とは、必ずしも一致しない可能性があり、また、そうであるとすると、特別の先取特権とみなし優先弁済効を認めるべき範囲を正確に画定することは困難ではないかと考えられる。このような民事留置権の性質を勘案すると、破産手続におけるその処遇としては、商事留置権と異なり、特別の先取特権とみなすのではなく、留置権のまま別除権とすることが考えられる(民事再生法第53条参照)、(イ)はそのような考え方を採用するものである。別除権とされることにより、破産手続によらずに被担保債権の権利行使すなわち、破産手続における配当以外での被担保債権の満足(例えば、別除権の目的の受戻しによる被担保債権の満足等)が可能となる。
(イ)の考え方による場合、担保権や別除権についての他の制度の適用が問題となる。

(i)中止命令については、(イ)は、民事留置権に別除権としての効力を認める考え方であり、この基本姿勢からすれば、破産手続が開始した後も、民事留置権者の(形式)競売申立権は認められるとするのが素直な取扱いであり、また、破産手続開始後も民事留置権者に競売申立権が認められるとすると、民事留置権を基礎とする競売は中止命令の対象から除外されることになるのではないかとも考えられる。しかし、形式競売を通じて民事留置権者の受領する換価金については、その破産管財人への引渡債務(支払債務)について相殺禁止が働き、事実上の優先弁済はこの場面では働かないと解されることからすると、民事留置権に基づく競売は、純粋な換価手続であり、その帰趨は破産管財人の判断に委ねるべきであるから、中止命令の対象とすべきであり、ひいては、破産手続開始後、民事留置権者の競売申立権は認められないとの考え方も成り立ち得る。

(ii)免責手続中の個別執行禁止効(前記第1・1参照)についても、同様に両論があり得ると考えられる。

(iii)任意売却と担保権の消滅、(商事)留置権の消滅請求については、民事留置権も別除権たる担保権として、その効力が破産手続において認められる以上、いずれの制度の対象にもなるとも考えることができる。他方、担保権の実行としての競売の認められない民事留置権については、「担保権の実行の申立て」を通じての選択という構成にそぐわず、任意売却と担保権消滅の制度については、その対象とはならないとも考えられる。

(iv)(イ)による民事留置権の別除権化は、破産手続における配当以外の方法によって被担保債権の満足を受けることを妨げられないという地位を保障するにすぎず、本来的な担保権としての特質(特に優先弁済効)を付与するものではないので、別除権に関する現行法の規律のうち、優先弁済効を基礎とすると解される不足額責任主義や除斥の制度等の規定(破産法第228条第2項、第229条第 1項第4号、第262条、第277条)の適用に際し、民事留置権をどう取り扱うかも問題となる。この点については、(a)優先弁済効がない担保権である以上、これらの規定の適用はない、((a1)明文で適用除外を定める、(a2)全額が不足額となることが解釈により導かれる)、(b)留置権の目的である不動産が競売され買受人に留置権が引き受けられたとき等事実上とはいえ優先的地位が認められる担保権である以上、不足額責任主義の考え方を及ぼすべきであり、したがって別除権として、これらの規律がそのまま適用され、最終的には、民事留置権者は、留置権放棄の意思表示をするか、形式競売を通じて不足額(が全額となること)を証明するかの主体的行動を求められる(破産法第277条参照)ことになる(この考え方をとるときには、留置権者に競売申立権を認めることになる。)、等の考え方があり得る。民事留置権を、留置権のままで別除権とする場合、担保権ないし別除権に関する他の規定の適用について、どのように考えるべきか。

4(ウ)の考え方
優先弁済効のない留置権については、優先弁済効のある担保を想定した別除権の規律は必ずしも妥当しないと考えられ、そうであるならば、民事留置権につしいては、別除権とすることなく、留置権としての効力の存続を一定の範囲で認めることとするとの考え方もあり得る。(ウ)はこのような考え方をとり、民法及び民事執行法等における留置権としての効力が認められる障害となり得る点について手当てを図るものである。具体的には、民事留置権の被担保債権について、破産債権に対する配当以外の方法で、留置権といる担保権ゆえに認められる優先的な弁済を可能とすることが必要になるが、その点は、担保目的物の受戻し(被担保債権が目的物価額を下回る場合)及び留置権の消滅請求(被担保債権が目的物価額を上回る場合)の対象に民事留置権を加えることで対処ができるものと考えられる。なお、留置権の目的物上の担保権の実行に伴い認められる事実上の優先弁済については、動産であれば他の担保権者からの、不動産であれば買受人からの弁済によるものであり、第三者弁済としてそれ自体は破産法第16条の規定により妨げられることはないと解されるので、これらの場面については、特段の手当てをする必要はないものと考えられる。このほか、競売申立権については、上記3に記載したのと同様に、そもそもこれを認めるべきかをめぐって両論があり得るところである。仮に、破産手続において民事留置権に基づく競売申立椎を認めるべきであるとする場合、(ウ)の考え方で、特段の手当てを要するかどうかは、当該競売申立てが、破産法第16条の破産債権の行使に該当するか、また、総管財人の専権である破産財団に属する財産の管理及び処分に抵蝕するかの判断次第であるが、疑義があるとすれば、明確化する趣旨で、明文を置くことも考えられる。

(ウ)の考え方をとる場合、手当てをすべき事項としてどのようなものが考えられるか。

5 再生手続及び更生手続における取扱い
再生手続及び更生手続における取扱いについては、それぞれ次のとおりとなるものと考えられる。まず、(ア)の場合、(ア)の考え方は、民事留置権の処遇を商事留置権と同様のものとすることを基本とするので、したがって、(ア)の考え方による場合、再生手続及び更生手続における民事留置権の処遇も、商事留置権と同様とするのが、この基本姿勢にかなうものと考えられる(なお、その位置付けをより明確にするために、(商事)留置権について、再生手続及び更生手続においても、特別の先取特権とみなすとの考え方もあり得る。)、次に、(イ)の場合、再生手続及び更生手続においても、「別除権たる留置権」「更生担保権たる留置権」として民事留置権を処遇することになるものと考えられる。このような処遇は、現行法の再生手続及び更生手続における商事留置権の処遇と基本的に同様であることから、結局、(イ)の考え方をとる場合にも、現行法の商事留置権の取扱いを維持することを前提とする限り、再生手続及び更生手続においては、民事留置権の取扱いは商事留置権と同様とすることになると考えられる。最後に(ウ)の場合、再生手続及び更生手続における処遇は、多分に政策判断であるが、再生手続において、担保権消滅制度の対象とすること(又は民事留置権の消滅請求制度を設けること)、更生手続において、担保権消滅制度及び(商事)留置権の消滅請求制度の対象とすること(さらには更生担保権とすること)などが考えられる。

6 以上を踏まえ、民事留置権の破産手続における処遇について、どのように考えるべきか。

目次

○トップページ

■第一次案

第1部 破産手続

第2部 個人の破産手続の特則及び免責手続等

第3部 倒産実体法

第4部 その他

■第二次案

第1部 破産手続

第2部 個人の破産手続の特則及び免責手続等

第3部 倒産実体法

第4部 その他

■第三次案

第1部 破産手続

第2部 個人の破産手続の特則及び免責手続等

第3部 倒産実体法

第4部 その他

■残された課題

第1部 破産手続

第2部 個人の破産手続の特則及び免責手続等

第3部 倒産実体法