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【第三次案】第2部 個人の破産手続の特則及び免責手続等: 第2 免責手続

1 免責の申立て
(1)申立ての時期等
<1> 債務者は、破産手続開始の申立てのあった日以後破産手続開始の決定が確定した日から1月を経過する日までの間に、破産裁判所に対し、免責の申立てをすることができるものとする。
<2> 債務者が破産手続開始の申立てをした場合には、当該申立てと同時に<1>の免責の申立てがあったものとみなすものとする。ただし、債務者が、破産手続開始の申立ての際に反対の意思を表示しているときは、この限りでないものとする。
<3> 債務者は、その責めに帰することができない事由により、<1>の期間内に免責の申立てをすることができなかった場合には、その事由が消滅した後1月以内に限り、免責の申立てをすることができるものとする。

(2)申立ての方法
破産手続開始の申立時の債権者一覧表(破産法第138条参照)と免責手続における債権者名簿(同法第366条ノ3参照)の記載事項は、同一のものとし、債務者が破産手続開始の申立てをする場合には、免責手続における債権者名簿の提出を要しないものとする。

(注)
最高裁判所規則において、債権者一覧表及び債権者名簿の記載事項を定めるものとする。

2 免責についての審理
(1)調査
ア 調査の方法
免責の調査は相当な方法によってすることとし、期日における審尋(破産法第366条ノ4第1項参照)によることを要しないものとする。

イ 破産管財人による調査及び報告
裁判所は、破産管財人に免責不許可事由(破産法第366条ノ9参照)の有無又は破産手続開始に至った経緯その他裁量免責の判断に必要な事情につき調査をさせ、その結果について書面で報告をさせることができるものとする。

ウ 裁判所等による免責の調査に対する協力義務
破産者(免責の申立てをした者に限る。)は、裁判所又は破産管財人が行う当該破産者に対する免責の調査に協力しなければならないものとする。

(注)
1 裁判所又は破産管財人(前記イ参照)による免責不許可事由の有無等の調査を有効かつ効率的に行うためには、破産者の協力が不可欠であると考えられる。また、破産者に、このような協力義務を課したとしても、自ら免責の申立てをしている以上は、酷とはいえないと考えられる。そこで、免責の申立てをした破産者に裁判所等の行う免責の調査に対する協力義務を認めることで、どうか。具体的な義務の内容としては、例えば 審尋期日が定められた場合には、これに出頭し、かつ、虚偽の陳述をしてはならないこと、財産状祝の開示を求められた場合にはこれに応じなければならないこと等が考えられる。
2 「破産者(免責の申立てをした者に限る。)」には、前記1(1)<2>によって、免責の申立てがあったものとみなされる者を含むものとする。
3 破産者が免責の調査に対する協力義務に違反したこともって、免責不許可事由とするものとする(後記4(2)イ参照)。

(2)意見聴取[意見申述]
ア 意見聴取[意見申述]期間
<1> 裁判所は、免責の申立てがあったときは、破産手続開始の決定があった時以後、免責についての意見聴取[意見申述]期間を定めなければならないものとする。
<2> <1>の意見聴取[意見申述]期間を定める決定は、公告をするとともに[、検察官]、破産管財人及び免責の効力を受けるべき知れている破産債権者に通知しなければならないものとする。
<3> <1>の意見聴取[意見申述]期間は、<2>の公告が効力を生じた日から起算して1月[3週間]以上としなければならないものとする。

(注)
1 免責手続における「異議申立て」の実質的内容は、破産者に免責不許可事由に該当する具体的事実が存在すること等の債権者の主張であり、給与所得者等再生において再生計画案の不認可事由に該当する具体的事実が存在しすることを債権者が主張する「意見聴取」(民事再生法第240条)と同質のものであることから、「異議申立て」の用語を「意見聴取」等に改めることが考えられる(給与所得者等再生では裁判所が債権者から意見を聴く制度であるのに対し、免責手続では債権者が主体的に裁判所に対して意見を述べる制度であることを考慮して、「意見申述」とすることも考えられる。)。
2 <3>の意見聴取[意見申述]期間については、今後の事件増に伴う債権者の事務負担の増加を考慮して1月以上とすべきであるとの考え方と、免責手続の迅速化を重視して3週間以上とすべきであるとの考え方とがあるが、どのように考えるか。
3 債権者が意見を述べる際には、免責不許可事由に該当する事実を具体的に明らかにしてしなければならない旨を最高裁判所規則別において定めるものとする。
4 検察官に意見聴取[意見申述]期間の通知を要するものとするかどうかについては、検察官に意見を述べる権利を認めるかどうか(後記(意見聴取[意見申述]関係後注)参照)と併せて、なお検討するものとする。

イ 意見を述べた破産債権者等からの意見聴取
前記アの期間中に意見を述べた破産債権者及び破産者からの必要的な意見聴取の制度(破産法第366条ノ8)は、廃止するものとする。

(注)
免責取消前の意見聴取の制度(第366条ノ16)及び復権についての異議申立てがあった場合の意見聴取の制度(第371条)も、廃止するものとする。

(意見聴取[意見申述]関係後注)
検察官の異議申立ての制度(第366条ノ7参照)については、免責不許可事由の内容をどのように規定するかという事項と関係することから、これと並行して、なお検討するものとする。

3 免責手続中の個別執行禁止効
<1> 免責の申立てがあり、かつ、破産手続終結の決定又は破産手続廃止の決定があったときは、免責の申立てについての裁判が確定するまでの間は、破産者の財産に対する破産債権に基づく強制執行、仮差押え、仮処分又は一般の先取特権[若しくは留置権(商法の規定によるものを除く。)]による競売(以下<1>及び<3>において「強制執行等」という。)の手続及び国税滞納処分(交付要求を除く。)はすることができず、破産者の財産に対して破産手続開始の決定前に既にされている強制執行等の手続は中止するものとする。
<2> 免責許可の決定が確定したときは、<1>により中止した手続は、その効力を失うものとする。
<3> <2>の場合には、破産法第366条ノ12各号及び後記5(1)(i)及び(ii)に掲げる破産債権(<1>により強制執行等又は国税滞納処分が禁止されているものに限る。<4>において同じ。)については、当該決定が確定した日の翌日から2月を経過する日までの間は、時効は、完成しないものとする。
<4> 免責の申立てについての裁判が確定した場合(<3>の場合を除く。)には、破産債権については、当該裁判が確定した日の翌日から2月を経過する日までの間は、時効は、完成しないものとする。

4 免責の裁判
(1) 裁量免責
<1> 裁判所は、免責不許可事由(破産法第366条ノ9及び後記<2>参照)がある場合を除き、免責を許可するものとする。
<2> 裁判所は、免責不許可事由がある場合であっても、破産手続開始に至った経緯その他一切の事情を考慮して免責を相当とするときは、免責を許可することができるものとする。

(2)免責不許可事由
ア 詐術を用いた信用取引による財産取得行為
破産法第366条ノ9第2号については、破産者が、破産手続開始の申立てがあった日の1年前の日から破産手続開始の決定の日までの間に、破産の原因となる事実があることを知りながら、当該事実がないことを信じさせるため、詐術を用いて信用取引によって財産を取得したことをもって、免責不許可事由とするものとすることで、どうか。

(注)
現行法は、破産宣告前1年内の詐術を用いた信用取引による財産取得行為を免責不許可事由としているが、破産手続開始の決定(破産宣告)がいつされるかは、諸事情によって左右されるものであり確定的できないから、このような流動的なものによって免責不許可事由の対象となる行為を画することは合理性に乏しいと考えられる。そこで、破産者自身の行為である破産手続開始の申立てを基準とし、その1年前から破産手続開始の決定までの間における詐術を用いた信用取引による財産取得行為を免責不許可事由とすることで、どうか。

イ 過去に免責許可の決定を受けたこと等
破産法第366条ノ9第4号については、破産者について次の(i)から(iii)までに掲げる事由のいずれかがある場合において、それぞれ(i)から(iii)までに定める日から7年以内に免責の申立てがされたことをもって、免責不許可事由とするものとする。
(i)免責許可の決定が確定したこと・当該決定の確定の日
(ii)給与所得者等再生における再生計画が遂行されたこと 当該再生計画認可の決定の確定の日
(iii)民事再生法第235条第1項(同法第244条において準用する場合を含む。)に規定する免責許可の決定が確定したこと 当該免責許可の決定に係る再生計画認可の決定の確定の日

(注)
民事再生法第239条第5頃第2号イ、ロ及び八の規定についても、同様に制限期間を7年とするものとする。

ウ 免責の調査に対する協力義務違反
破産者が裁判所又は破産管財人の行う免責不許可事由の有無等に関する調査に対する協力義務に違反したことをもって、免責不許可事由とするものとする。

(注)
破産者の免責調査に対する協力を実効あらしめるため、当該義務に違反したことを免責不許可事由とすることで、どうか。なお、ここで要求される義務の程度は、現行破産法で予定されているものと同程度であり、破産者の行為の態様等から破産者の不誠実性が認められた場合に義務違反になるものと考えられる。

(免責不許可事由関係後注)
免責不許可事由と罰則規定とは切り離して規定するものとする。なお、「浪費又ハ賭博共ノ他ノ射倖行為」(第 375条第1号、第366条ノ9第1号参照)及び「詐術」(第366条ノ9第2号)については、現行法の内容を変更することなく、これをより明確化する適切な要件があるか、引き続き検討するものとするが、表現ぶりについては事務当局に御一任いただくことで、どうか。

(3)免責許可の決定の確定
免責許可の決定が確定した場合の公告の制度(破産法第366条ノ14参照)は、廃止するものとする。

(注)
免責許可の取消しの決定が確定した場合の公告の制度(第366条ノ19参照)及び復権の決定が確定した場合の公告の制度(第372条参照)も、廃止するものとする。

5 非免責債権
(1)破産手続における非免責債権
次の(i)及び(ii)に掲げる債権を非免責債権(破産法第366条ノ12参照)に加えるものとする。
(i)破産者による人の生命又は身体を侵害する不法行為で故意又は重大な過失によるものに基づく損害賠償請求権(破産法第366条ノ2第2号に該当するものを除く。)
(ii)破産者が養育者又は扶養義務者として負担すべき費用に関する債権

(2)再建型倒産処理手続における非免責債権
個人再生(小規模個人再生及び給与所得者等再生)手続においては、次の(i)及び(ii) に掲げる債権を非免責債権とするものとし、当該債権に係る債務は、再生計画に基づいて期限を猶予することはできるものの、減免をすることはできず、計画完遂時に残額について履行期が到来するものとする。
(i)前記(1)(i)及び(ii)に掲げる債権
(ii)債務者が悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権(第366条ノ12第2号)


(第1・第2関係後注)
1 個人再生(小規模個人再生及び給与所得者等再生)手続の適格要件である再生債権の総額の上限(民事再生法第221条第1項、第239条第1項)を引き上げ、再生債権の総額が5000万円[6000万円]を超えない者は、個人再生手続を行うことを求めることができるものとすることで、どうか。
2 個人再生手続の適格要件である再生債権の総額の上限を引き上げる場合には、最低弁済額要件(同法第231条第2項第3号、第241条第2項第5号)については、次のようにすることで、どうか(下記イメージ図参照)。
(1)基準債権の総額が3000万円以下の場合においては、基準債権に対する再生計画に基づく弁済の総額(以下「計画弁済総額」という。)が基準債権の総額の5分の1又は100万円のいずれか多い額(基準債権の総額が100万円を下回っているときは基準債権の総額、基準債権の総額の5分の1が300万円を超えるときは300万円)を下回っているとき。
(2)基準債権の総額が3000万円を超え、5000万円[6000万円]以下の場合においては、計画弁済総額が基準債権の総額の10分の1を下回っているとき。には、再生計画不認可の決定をするものとする。なお、個人再生手続の適格要件である再生債権の総額の上限を引き上げた場合には、引き上げられた範囲に属する事件(再生債権の総額が3000万円を超え、5000万円[6000万円〕以下のもの)は、従前の事件に比べて規模が大きくなり、再生債権者により重大な影響を与えることになること等から、手続の適正さを確保する趣旨で、当該事件については個人再生委員の選任を必要的とするとの考え方があるが、どのように考えるか。

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目次

○トップページ

■第一次案

第1部 破産手続

第2部 個人の破産手続の特則及び免責手続等

第3部 倒産実体法

第4部 その他

■第二次案

第1部 破産手続

第2部 個人の破産手続の特則及び免責手続等

第3部 倒産実体法

第4部 その他

■第三次案

第1部 破産手続

第2部 個人の破産手続の特則及び免責手続等

第3部 倒産実体法

第4部 その他

■残された課題

第1部 破産手続

第2部 個人の破産手続の特則及び免責手続等

第3部 倒産実体法